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プレイヤーが思っているより運営さんは忙しい  作者: 跡野 祭
1章.運営さんの華麗なる日常
5/11

アナザーワールド・オンライン.5

     ◇


 青い空。生い茂る木々。轟く爆音。そして、舞い降りるドラゴン。


「うおおおォォォォォ――――――ッ! 物理無効とか聞いてねぇぞォォ―――――ッ!」

「あのドラゴン。プレイヤーに対して殺意高すぎじゃないですかッ!?」


 空を覆うほどの巨躯に生物の頂を体現したような圧倒的な存在感。

 その頭部は三つの首を持ち、身体全体を漆黒に輝く鱗を纏っている。それぞれの口からは灼熱の炎を吐き出しており、その視線は全ての生物を射殺せんとばかりに鋭い。

 女性プレイヤーの言う通り殺意が高い。否、殺意しかないと言う方が正しかった。


 このドラゴンはアナザーワールド・オンラインにおいてユニークボスと呼ばれるモンスターだ。

 そんな超常の存在にたった二人で挑んでいるプレイヤーネーム『シンヤ』と『ユウカ』。彼らは目の前の存在に戦う姿勢を見せず、諦めを通り越して最早呆れすらみせていた。


「誰だよ……あんなチートモンスター造ったキチガイ……」

「これってあれですよね? エリアボス班が造っていたネタボス。プレイヤー絶対殺すマンの最強種アジ・ダハーカ」

「おま! それって絶対に勝てないように設定されてるやつじゃねーか。何であいつらそんなの野に解き放ってんだよッ! 脳みそエナジードリンクに漬け込みすぎて正常な判断できないようになったのか? っておいおいおい。あいつ光集めだしたぞ」

「あれはたしか一定範囲に存在するプレイヤーに完全即死ダメージを与えるドラゴンブレスですね。エリアボス班が嬉々としてプログラミングしていたのをよく覚えています」

「ちょ! ふざけんなよクソドラゴンッ! 俺が本気を出せばGM権限でお前なんて一撃――」


 そんな叫びと共に辺りは光に包まれた。


     ◆


 運営の仕事の一つに『アナザーワールド・オンライン内でのプレイヤー体験』というものがある。

 実際にプレイヤーの目線になってアナザーワールド・オンラインでの日常を送ることで、冒険者達の日常を目で見て肌で感じる。運営陣のクリエイティブ力を刺激することができるという大義名分を長々と並べた仕事なのだが――。


 簡潔に言うと運営さん達も羽を伸ばして遊びたいってことである。


     ◇


 チートモンスターであるキチガイドラゴンの無慈悲なる咆哮によって消滅した二人はリスポーン地点である始まりの街の中心地。噴水広場へと戻ってきていた。


「酷い目に遭いましたね」

「あんなもん修正だ修正。どんだけプレイヤーに殺意持ってんだよ。プレイヤーが知ったら炎上案件だぞ」

「エリアボス班に通達しておきますね」


 現在、冒険者衣装に身を包んでいるシンヤとユウカ。一見すると冒険者エンジョイ勢に見えるが、彼らは紛れもなく運営でありGM。【アナザーワールド・オンライン】を造った製作陣メンバーである。

 二人は名目上、仕事としてアナザーワールド・オンラインへとダイヴしているが、その実はただ遊んでいるだけだった。


 プレイヤーが制作した屋台料理を頬張りながら始まりの街を散策している二人。


「料理といえば、【料理スキル】を上げたプレイヤーがバフの付与に成功したみたいですね」

「割と重要だからな。料理スキルは」


 シンヤの視界の端に表示される火耐性の文字。

 先ほどの料理を食べたことによって付与されたものだ。


 アナザーワールド・オンラインにおいて、最近まで注目されていなかった料理スキル。しかし、バフ料理が発見されたことにより掲示板は一転。大々的な盛り上がりを見せた。


「これに伴って【農業スキル】や【畜産スキル】などが検証対象になっているみたいですね」

「どこの成り上がり小説だよ。と言いつつも、重要なのは変わらないか」

「私達は無駄なスキルなんて作りませんよ」


 農業スキルもレベルが上がると野菜の品質も上がる。畜産のスキルが上がれば健康な動物が育つ。そうすれば必然的にスキル効果もアップする。順調に攻略が進んでいるみたいだとシンヤは満足気な顔をした。


「嬉しそうな顔をしていますね」

「製作者として当然だろ。後は俺達の予想を超える出来事が起こらなければな」

「運営としては嬉しい誤算ってやつですよね」

「嬉しすぎて胃薬とお友達になってるよ」


 他愛ない会話をする二人。しかし、予想外とは予想の外から訪れるから予想外というのだろう。曲がり角を歩いていた二人の目の前に一人の少女が現れた。


「あ」

「あ」

「……?」


 少女はこてんと首を傾げた。それと同時に九本の尾がふわりと揺れる。シンヤ達にとってその少女はとても馴染み深い存在で。


 しかし、少女――ホノカは初めて出会った二人に何事かと声を掛けた。


「えっと、どうかしましたか?」

「あー……あはは。どうしましょう先輩」


 少女の質問にユウカは苦笑いをこぼす。

 そしてシンヤはというと。


「……」


 無言でキャラクターを操作していた。その画面にはPvPと表示されていて。

 その画面を見たユウカは慌ててシンヤの腕を引き留めた。


「え、ちょ!? 先輩!? 何しようとしてるんですか!?」

「なにって、PvPだが」

「え、なんで当たり前みたいにPvP仕掛けようとしているんですか!?」 

「逆になんで仕掛けないんだよ」

「普通は仕掛けませんよ!?」


 荒ぶるシンヤを宥めようとするユウカ。二人の奇異な行動に、ホノカはただただ立ち尽くすだけだった。


「放せユウカッ! 今がチャンスなんだッ!」

「何がですかッ!? 何のチャンスなんですかッ!?」

「大丈夫だ。ちょっとだけ! つまみ食いみたいなもんだッ!」

「落ち着きましょうッ! 落ち着きましょう先輩ッ! 取り合えずその画面を閉じてくださいッ!」


 目の前で繰り広げられる頭のおかしい大人達の会話に、幾分も年下であるホノカは目の前の大人よりも大人な対応を取り始めた。


 流れるような手つきでGMコール画面を開いたホノカ。


「待って! ホノカちゃん待って! それしたらお姉さん達怒られちゃうッ! 減給されちゃうッ!」


 ユウカの涙の説得あってか、渋々画面を閉じたシンヤは改めて目の前の少女を見る。

 防具店で購入したのだろう和服を身に纏っている九尾の少女。


「私に何か用ですか?」


 ホノカは危ない物を見るような目でシンヤを見ていた。だが、シンヤは気にした様子を見せずにホノカへ声を掛ける。


「あー、お嬢ちゃん。元気かい? よかったら俺達とお茶――」


 無言でGMコール画面を開いたホノカ。


 それはそうだろう。急に目の前に現れた頭のおかしい男性がナンパじみた事をすれば誰だって同じ行動をとる。ホノカの中でシンヤの評価は地面を抉り地下帝国を築き上げようとする勢いだった。


「まぁ待て、言いたいことは分かる。だからその画面を閉じようか。お兄さん職失っちゃうから。お願いします閉じてくださいッ!」


 土下座をしそうな勢いのシンヤ。

 奇しくも先程と同じ絵面にユウカは苦笑いをこぼした。


 原則、運営はプレイヤーに干渉してはいけない。それが決まりであり鉄則なのだが、運悪く二人はホノカと鉢合ってしまった。鉢合うどころか現在進行形で地の底まで関係が悪くなっていっているのだが。


 どうしようかと頭を悩ませるユウカ。冷静に状況を分析して、これ以上はホノカのゲーム環境に支障が起ると判断していた。

 それも全て上司であるシンヤのせいなのだが。


 そんな中、シンヤはあっけらん様子でホノカに話しかける。

 ユウカはその様子からこれから起こるであろう出来事を察したようで、諦めたようにため息を吐いた。


「まぁなんだ。お互い最悪の出会いみたいなものだが、自己紹介をしておくか。俺はこういうものだ」


 そういってシンヤは頭上の表示を緑色のプレイヤーから金色のGMに変更する。そしてキャラクターも徐々に現実世界の体に変わっていった。その姿はアナザーワールド・オンラインをプレイしている者なら誰でも知っている顔で。


 その姿を見たホノカは大きく大きく目を見開いていく。


「もしかしてアナザーワールド・オンラインの製作者の神崎さんですか!?」

「おぉ。知っていて安心したぞ。アナザーワールド・オンラインのプロデューサー、神崎慎也だ」


 二人の出会いに幸先の不安しか感じないユウカだったが、取り敢えずと自らの表示もGMへと変更するのだった。


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