アナザーワールド・オンライン.4
◆
運営さん達の朝はお問合せメールの確認から始まる。
「プレイヤーネーム[卍 黒の剣士 卍]さん。最前線プレイヤーですね。現在は二刀流スキルを解放しようとして片手剣スキルを上げているようですね」
「片手剣スキルの派生で二刀流って解放されたっけ?」
「えーと、されませんね」
「それは何とも、ご愁傷様だな」
そう言いながら二人はメールアイコンをクリックする。
『死んでもいいゲームはぬる過ぎるぜ。いつになったらデスゲーム化するんだ?』
「元気よすぎだろ」
「販売前はデスゲームだと掲示板でも盛り上がっていましたからねー」
「あー、あれは炎上案件だったな。懐かしい」
パソコンの前でエナジードリンクを啜りながらメールの確認を行う慎也と優香。
意味不明なメールを前にしても大人の余裕を崩さないのは長年の器量からか。笑顔のまま仕事を続ける。
「無視でよくね?」
「そうですね。次にいきましょうか」
一切の躊躇無くメールをゴミ箱にドラッグする優香。何回もしてきたのであろう熟練の動きでマウスを操作する。
「次はプレイヤーネーム[くっ殺オーク]さん。この方はRP重視のプレイヤーさんですね。平原で女性騎士のプレイヤーを見ては度々PvPをしかけているようです」
「とんでもないプレイヤーだな」
「掲示板でも有名なプレイヤーのようですね。オーク様ワッショイとトレンドにも度々上がっているようです」
「この先このゲームの未来が心配になってくるな」
『初めまして。プレイヤーネーム[くッ殺オーク]です。いつもゲームを楽しませて頂いています。この度はゲーム内での私のRPについてメールをさせて頂きました』
「オークめっちゃビジネスメールだな」
「中の人は営業マンなんでしょうか」
『私は女性騎士に度々PvPを仕掛けるプレイヤーとして掲示板などで問題視されているようでして、やっぱりそういったRPは控えるべきなんでしょうか。長文失礼しました』
「こういったRP勢がいなくなるのは運営としても勿体ないな。PvP前に同意を得られたらいいんじゃないか?」
「そうですね。同意があったら大丈夫だと思います」
優香が解決案としたメールをプレイヤーへと送信しようとする。美しい指がキーボードを叩くその姿は一流のピアニストを連想させる。が、プレイヤーから送られてくる意味不明なメールを読み過ぎたのだろうか、優香が送ろうとしているメールもまた意味不明なモノとなっていた。
『女騎士プレイヤーの同意があれば大丈夫だと思います。合意を得たうえで「くっ……! 殺せ!」と言ってもらいましょう』
「完璧だな」
「ではこれで送っておきますね」
「え、ちょ! 神崎さんと立花さん!?」
やりきったとばかりにエナジードリンクを飲みほす優香と慎也。
慎也と優香の背後にいた社員の声は二人に届くことは無く、無残にも送信完了のメールだけがディスプレイに映っていた。
「次のメールは、プレイヤーネーム[教授]さんからです。彼はゲーム内では解析班なる組織に所属しているようですね」
「あー、あの白衣を着ているプレイヤーか。度々検証と言って街中を探索しているプレイヤーだったな」
「たしか、彼も先輩が作った"良い方〟の戦犯リストに入っていましたよね?」
「かなり要注意人物だな。ホノカちゃんと接触している辺りよからぬことが起こりそうな気がする」
二人は教授というプレイヤーについて話し合いながら彼からのメールをタッチした。
『先日解放された【精霊システム】について、私なりに考察したのだが是非、運営達の意見を聞きたいと思いメールをさせていただいた。アナザーワールド・オンラインの世界は神々と人間の争いを大精霊達が鎮めたというのが全ての始まりだとういう。神々と大精霊、そして人間の争いは長きに渡り続きその結果世界に魔力が満ちたというが、私の見解としてはこの神々が――』
教授の送って来たメールはメールというよりレポートといった方が正しかったようで、二人がメールを読み終えるのに15分近く経っていた。
読み終えた二人は新しく開けたエナジードリンクを飲んで一息。
「めっちゃぶっこんだ内容だったな」
「教授の中の人は一体何者なんですかね。是非会ってみたいものです」
「といっても、残念ながらこの考察は外れなんだよな。まぁ情報が少ないから仕方が無いが」
「そうですか? 私は今出ている情報でここまで考察できたのは凄いと思いますよ」
「そのメールは製作班にでも見せたら喜ぶんじゃないのか?」
「そうですね。自分達が作った作品を考察してくれるのは運営としても嬉しいものですからね」
「そうだな。こういったことはあいつらの担当だからな」
「任せておきましょうか」
製作班のサーバーに[教授]のレポートをコピーした優香は次なるメールを開封した。
「プレイヤーネーム[セイヤ]さん。彼は現在冒険者として最前線をソロで駆け抜ける凄腕プレイヤーですよ」
「ソロプレイヤーか。何か主人公みたいなやつだな」
「そういう小説だと、この後ハーレム展開が待っていそうですよねー」
笑いながらメールを読み進める二人。が、その内容は二人の予想の斜め上をいくもので。
『誰もパーティーを組んでくれません。どうしたらいいですか?』
「……すっごい深刻な悩みがきたぞ」
「何かあったのでしょうか?」
「この文章だけでは詳細な事までは分からないが――」
困っているなら全力で対応するのが運営の務めだろう。慎也はそう考えていた。
「『ソロプレイをしたい』と、『ソロプレイをせざるを得ない』では話が違うからな」
「今すぐ確認します」
二人は[セイヤ]のプレイヤーログを確認し始める。
行動ログ、会話ログ、掲示板といったものからプレイヤーの情報をかき集める。すると、一つの非公式掲示板で彼の動画がアップされていた。それは一見するとただのモンスターとの戦闘動画だがチャットを読み進めるうちに事の顛末が明らかとなっていく。
あまりの出来事に慎也は苛立ちの顔を露わにした。その様子を見ていた優香はただ事ではないと察知し顔を引き締める。
「くっそ、無断転載か」
無断転載――VRMMORPGにおいて本人の許可なく無断でチャットや掲示板に転載する行為だ。
今回の件においては、セイヤの知らない所で彼の動画が無断で掲示板に流れてしまった。彼に恨みか妬みを持っているプレイヤーの仕業だろう。チートやボッチプレイなど、あることないこと様々な事が記載されていた。
慎也はすぐさまエンジニア達に対処するように働きかけた。
「完全に油断していた。使われたのは外部ツールか?」
「今すぐ対処します。ツールを使用したプレイヤーはどういった処置をしますか?」
「それ相応の事をしてくれたんだ、停止処分は免れないだろうな。それよりもセイヤについてだが」
「補填と謝罪文を送っておきます。彼には申し訳ない事をしてしまいましたね」
「そうだな。本当に……はぁ」
相当ショックなのだろう。慎也は自らへの怒りや申し訳なさ、そういったものが入り混じった表情をしていた。
「これは先輩一人の責任じゃありません。それに、先輩の手によって心から楽しめている人達もいるんですよ」
優香は慎也にディスプレイを見せる。そこには一通のメールが表示されていた。送信者はプレイヤーネーム[ホノカ]。
『精霊さんは何を食べますか?』
「これはまた、予想を超える質問だな」
「そうですね。まさかこんなメールが届くとは思っていませんでした」
ホノカからのメールに二人は笑顔を浮かべていた。
「そうだな。こんなことでへこたれている場合じゃないな」
「はい! まだまだやらないといけない仕事は沢山あるんですから!」
そうして優香は懐から「眠眠破壊」と書かれた飲み物を取り出した。テーブルの上、足元には既に10本以上同じ物が転がっている。
「これから三徹目! 頑張りましょう!」
「俺、そろそろ限界なんだが」
それから慎也達が就寝に漕ぎつけたのは半日経ってからの事だった。