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プレイヤーが思っているより運営さんは忙しい  作者: 跡野 祭
1章.運営さんの華麗なる日常
10/11

アナザーワールド・オンライン.10

     ◇


 【アナザーワールド・オンライン】第一回イベント。

 開始までの残り時間が開発オフィスのスクリーンに表示されていた。

 

 本日。

 第一回目のイベント開催日を迎えた【アナザーワールド・オンライン】。冒険者達はいつも以上に活気づき、始まりの街は熱気に包まれていた。

 それは運営部屋でも同じことで、デバック作業を終えて、無事イベント開催まで漕ぎつけた製作人一同は徹夜明けテンションで盛り上がっていた。


 全ての準備を終えた製作スタッフ達はそれぞれの菓子や飲み物を片手にスクリーンの前に集まりイベント開始時間を迎えようとしていた。気分は映画館様様である。

 運営人にとって自分達が手掛けたイベントをこうして観客側として見られるという事は何よりの至福の時間であり、クリエイターとして楽しみの時間でもあった。


「こうしてイベントを迎えられてよかったですね! 先輩! 乾杯しましょう乾杯!」

「おう、そうだな。……って誰だアルコール持ち込んだやつッ! お前ら一応仕事中だぞッ! 上司にバレたら俺が怒られちゃうッ! また減給されちゃうッ! 隠せ! せめて隠せッ! おいそこ! 堂々と乾杯するなッ!」


 オフィスのあちこちからプシュッといった謎のアルコール飲料の音が聞こえる中、表示された時間が0を指し示しイベントが開催された。液晶の中ではプレイヤー達の怒号が轟き、現れたモンスター達に向かっていた。

 交差する武器に飛び交う魔法。ぶつかり合う鎧とリスポーンしていく冒険者達。プレイヤー達の楽しんでいる姿があった。


 そして、運営陣達はというと、


「ハ―ッハッハッハッ――ッ! さぁ征くのだッ! 我が下僕達――ッ! 目に物を見せてやるのだッ!」

「うおぉぉぉ―――ッ! いっけぇぇ――ッ! 私のトロールちゃん! プレイヤーをぶち殺せッ!」

「実はな、俺が作ったオーク女性プレイヤーしか狙わないようにプログラミングしたんだよッ! イケぇぇ――ッ! オーク――ッ!」

「違うそこじゃないッ! くっそッ! どうしてそうプレイヤーに弱点を晒すんだッ! 足だッ! 足を狙えッ! 違うッ! そこじゃないッ!」

「どのプレイヤーが一番killするか賭けようぜッ! 俺はセイヤに今月の給料を賭ける!」

「先輩! LIVE映像の視聴率高評価ですよ! リアルタイムで皆見てくれてるみたいです! 広告収入ウハウハですね! これで前回の減給分取り返せます!」

「……自由すぎだろ。お前ら」


 製作人一同もそれぞれ楽しんでいるようだが、プレイヤー達には決して見せられない光景が広がっていた。口を開けば罵詈雑言の嵐。人間の本性とは大変醜いものである。

 運営陣もイベントを楽しんでいるというのは何よりなのだが、やはりプレイヤー達に対して殺意が高いようで。自らの部下達の性格を疑う慎也。腕はいいのだ、腕は。


「それにしても、結局誰もイベントのギミックは解かなかったか。……まぁこればっかりはしょうがないか」

「そうですよ先輩。切り替えていきましょう。先輩はどのプレイヤーが一番モンスターを討伐すると思いますか?」

「それはもちろん……」


 壁一面に映し出されるプレイヤー達の姿を眺める慎也。剣を握る冒険者、サポートに徹する生産者達が映っている。が、慎也はそこに違和感を覚えた。

 自分の一押しのプレイヤーの姿が戦場にいないのだ。


「あれ?」

「どうしました?」

「ホノカは今回のイベントに参加していないのか?」

「ええと、確か生産者としてポーションの納品をしていましたけど」

「戦場のどこにもホノカの姿が見えないな」

「確認しますね」


 パソコンを操作してスクリーンの一部の画面を切り替える優香。次々と街中を映し出し、その一点で画面を止めた。

 そこには、街中を駆けるホノカの姿があった。

 運営である二人は画面の向こう側で駈ける九尾の少女が一体何をしているのかを察する。そして思わず立ち上がった。


「おいおい、まさか――ッ!」

「先輩ッ! これ!」


 優香の示す先。邪神族が仕掛けた魔方陣のマップにチェックが付けられていく。それが意味する答えは一つで。


 ――次々と街中に仕掛けられた魔方陣が解除されていってるのだ。


 錬金術を駆使し、街中の魔方陣を解除していくホノカ。

 その姿に運営室が歓声に包まれる。


「ホノカちゃんキタ―――ッ!」

「うおぉぉぉ―――ッ! ホノカちゃんすげぇぇぇ―――ッ!!!」

「待ってましたぁぁぁ―――ッ!! それにしても慎也さんのあの性格の悪いシステムをどうやって解いたんだ?」

「これだから運営はやめられねーな! 滾ってきたァァァ――ッ!」


 イベントの完全クリアはできないと踏んでいた製作人。だが、それは一人のプレイヤーによって覆された。

 九尾の少女が巻き起こすどんでん返しに運営一同も大盛り上がりを見せる。


「まったく。あいつ一人でイベントの答えにたどり着いたのか?」

「そういうことでしょう。それに彼女は錬金術を習得していますし、魔方陣を解除できるのも納得ですね」

「だといってもだな。さすがにヤバいだろ」

「いつもの事だと言えばそこまでですが、こればっかりは」


 現状の様子に興奮を隠せない慎也と優香。しかし、それ以上に彼女がどうやって真実にたどり着いたのか二人は気になっていた。

 ホノカの会話ログを確認する二人だが、これといってキーになる事はなにもない。なら考えられることは限られる。


「本当に住民達との会話と自らの頭だけでイベントの矛盾に気づいたんだな」

「すごいですね。この調子なら全ての魔方陣を解除できそうです」

「そうなると――」

「はい、無事にワールドストーリーを進行できそうですね」


 イベントの終了は目前へと迫っていた。

 街の防衛に励む冒険者達、そして街中の魔方陣を解除していくホノカ。

 一切住民たちに影響を出さず、順調にイベントを運んでいくプレイヤー達に製作人は野次を飛ばす。


「諦めるなッ! 私達が作ったモンスターなら始まりの街なんて滅ぼせるでしょ――ッ!」

「殺せッ! せめてハーレムしてるセイヤだけでも殺せッ!」

「最前線の奴らに良い恰好をさせるなッ! クソッ! こいつら無双主人公かよッ!」

「……お前ら悪役すぎだろ」


 どんでん返しが起こっても運営達の心中はブラックだった。今後、本当にこいつらと一緒に仕事をしていていいのかと悩む慎也。

 その様子に優香は苦笑いを見せるだけだった。


 しかし、プレイヤー達に呆れを見せているのは二人も同じで。


「あー、これは持っていかれたなー」

「そうですね。クリアされないと思うと残念な気持ちになりますが」

「こう完璧にクリアされるとそれはそれで運営としてはな」


 そうして画面の奥でイベントの終了が発表される。モンスター達の屍の上で冒険者達は歓声を上げていた。


「さーて、お前ら仕事だぞー」

「クッソ――ッ! 悔しい――ッ!」

「俺だって運営じゃなかったら画面の向こうで主人公してたのにッ!」

「お前ら絶対酔っぱらってるだろッ!」


 缶ビールを片手に涙を流す製作班。


 プレイヤー達に表示されるのは『イベント達成率100%』の文字。これには運営達も納得せざるおえない。完璧に攻略されたの一言だろう。

 そうして次々と表示されていくモンスター討伐率と順位表。そしてMVPに表示されていたのは――。


『えぇ――ッ!? 私ですか!?』


 目の前に表示されたウインドウを見て驚きの声を上げるホノカ。

 

「いや、当たり前だろ」

「そうですね。彼女がいなかったら今頃街は火の海でしたから」

「しかし、これだと批判の声が出そうですね」

「そうだな。なんていったってモンスター討伐が0体だからな」


 そう。彼女は平野で戦っていた冒険者達を抑えてMVPに躍り出ていたのだ。

 彼女達上位入賞者には報酬が送られることになる。それを知った者達にはどうしてだと疑問の声を上げる者いるだろう。

 VRMMORPGの難しいところである。皆楽しくを信条としている慎也達の永遠の悩みと言えるわけだ。


「一応LIVE映像を公表していいかメールを送っておいてくれるか?」

「わかりました。しかしよかったですね。無事にイベントを終えられて」

「そうだな。まったく、これからイベントを迎える度にこんな気持ちになると思うとな」

「それが運営というものですよ」


 そうして【アナザーワールド・オンライン】の第一回イベントは終わりを迎えたのだった。

 後日、慎也達運営陣に一通の通達が届くことになる。

 それを見た運営陣は悲鳴を上げることになるのだった。

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