彼は青かった
どうもHkeutoと言います。こちらは『青』と言うテーマで初めて書いた短編です。
短編小説と言うものも、また純文学と言うものも、まだ完全に把握できているわけでは無いですが、美し光景を妄想して書いたこの短い文章の中には、確かに私が求めた美が込められていると思います。もしよければ、この作品を目にとめた方の心にも、私が感じた優しく温かい風が吹きますことを、切に願います。
『彼は青かった』
青かった。彼はとても青かった。
青く透き通り白の映える夏の青空の様に青く。
深く深く沈み込むような大海原の様に青かった。
彼は一人突き進む、青い空が溶け込んだ小さな湖を踏みしめて。彼は一人進む、青々と生い茂った小さな大草原を。彼は立ち止まった、青を振りかざし煌めく滴と共に振り返る。
私ははっとした。その青に、その純粋な瞳に。キラキラと輝く彼の瞳は一心に私を見詰め、私だけにその輝く笑みを見せつける。
私はその笑みにそっと自らの手を持ち上げる。しかしその笑みはまるで真夏の蜃気楼の様に私から逃げて行く。
彼は走る、青い空から降りそそぐ光に茹だされた固い砂利の道を。彼は只々足を回す、吸う度に喉を焼くような熱い空気を胸に。彼は青を揺らし振り返る、小さな土煙を上げて回り止まった。
今度こそ逃がさない、彼を捕まえるために私は大きく腕を広げた。しかし彼はすり抜ける、私を嘲笑う様に甲高い笑い声を上げてまた走る。
私は追いかけた、次第に早くなる彼の足取りに歩を合わせ。私は歩を緩めた、時折躓く彼の身を案じて。私は立ち止まった、立ち止まった彼に合わせて。
着いたのだ、青い彼は彼の求めた終着点へと。青く何処までも広がる空の青と、深く深く何処までも沈み込むような海の青が溶け込む水平線の見える防波堤の先端に。
「おっとたん!」
彼は笑う、どうしても見たかった初めて光景を手に。彼は目を細める、自らの力で手に入れた最高の瞬間を胸に。私は笑う、彼の願いを叶えるために無理をして良かったと。
青かった。とても青かった。青い空青い海、そのすべてを手に入れた彼のお尻は青かった。
私はこの日見た息子の、青い青い蒙古斑を忘れない。
いかがでしたでしょうか?
私の妄想は、皆様の心に届きましたでしょうか? もしよろしければ、その心に吹いた風をお聞かせ願えれば幸いです。
それではこの辺で、またどこかでお会いしましょう。さようなら