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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
20章 ふたりの先生
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75話 夜中に来てくれた結花先生




「どう? ここの生活にも慣れた?」


「はい。ほんと、みんな優しくて。泣いてる暇なんかなかったです」


「それはよかった」


 ここに来てちょうど一週間の日曜日。どこに行くあてもなかった私は調理室でおやつ作りの手伝いをしていた。


 その準備をしていたのが、あの結花先生だったから。


「みんな、ここにいる子は一度傷ついてる子ばかりだからね。花菜ちゃんの境遇も分かってくれるから、受け入れやすいんでしょう」


 そうか、だから入所するのが難しいというのはきっとそこなんだ。でも私はどうなるの?


「花菜ちゃんはお父様を亡くされているでしょ? そしてお母様も。そして高校2年生というリハビリ期間のこともあったって聞いた。それに……、私が花菜ちゃんと仲良くなりたいって思ったからかな。いつもあんなに頑張ってる子を泣かせちゃいけないって。直談判しちゃったよ」


 直談判って、私は結花先生と満足にお話しもできていなかったのに。もっと仲良くなってその辺りも聞けるようになろうってその時に思ったよ。


「結花先生は、いつからここにいるんですか?」


 気になっていた。歳はきっと20代半ば。それでこの園の先生も勤めながらご自分も子育てをしているという。すごい人だとは聞いていたけれど、どんな経歴を持った人なんだろうと。




 それは、私が珠実園で迎えた初めての夜のことだった。


 翌日から学校だというのに、いつまでたっても寝付けなかった私。


 消灯時間を過ぎてしまったから、もう団らん室に行くこともできない。一応、何かあったときのために宿直をしてくれている先生はいると聞いていたけれど、初日の夜からお世話になるのは気が引けてしまっていた。


 そんなとき、私の部屋のドアを小さくノックする音がした。


 まだこの部屋を訪れてくるような仲になった子はいない。宿直の先生が様子を見に来てくれたのだろうか……。


「花菜ちゃん、まだ起きてる?」


「結花先生!」


「やっぱり……。眠れていないんじゃないかと思ってね……」


 夕食前にお嬢さんとお家に帰るのを見送ったから、もう一度私のために出直してきてくれたのだと。


「入っても大丈夫?」


「はい……」


 結花先生は何も言わず、ベッドの上で私をぎゅっと抱きしめてくれて……。


 私はそんな結花先生に体重を預けてしまって。


 ……気がつけば目覚ましが鳴って朝になっていた。




 まさか、あれは夢だったのかと思えば、机の上には結花先生の手書きのメッセージが残されていた。


『花菜ちゃん、一緒に幸せになろうね 結花』と。


 そのうえ、本当はルール上知ってはいけないことになっている、結花先生の携帯番号が書かれていた。『不安なとき、泣きたいときはいつでも呼んでいいよ』って。


 夢なんかじゃなかった……。


 きっと、連絡すれば昨日の夜のように来てくれる。何度もお願いする訳にはいかないと思いつつ、気持ちの上では本当にありがたかった。


 やっぱり、結花先生はすごい人なんだ。




 その時に握りしめたメモは鍵のかかる私の私物入れに延ばして保管してある。


 そんな人が私を指名して担当させて欲しいと言ってくれたなんて。


 それまでの接点としたら、図書館で何回か見かけたことと、正式入所の前に面接には来たから、その時の情報くらいだと思う。


 どういう経緯があったのかは分からない。でも、その日から私の結花先生への信頼は他のどの先生よりも強くなった。


 結花先生のためなら、お手伝いも進んでやろう。


 夕方、お嬢さんの彩花ちゃんを保育室から連れてきて、ふたりが帰っていくのを見送るのが私の日課になっていたよ。




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