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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
2章 絵本作者は目立たない文学少女
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6話 中学時代のイメージ変更




 中学校に進学したとき、私は文芸部に入部した。


 それまで小学校のクラブ活動ではバスケットボールを選択していただけに、驚きだけでなく、いろいろな憶測の声も飛び交った。


 何も言わない私に代わり、周りのみんながいろいろ理由を考えたみたいだけれど、実はものすごく単純な話だったよ。


 なんてことはない。一番の理由を単刀直入に言ってしまえば、部活動に必要なお金の問題だったのだから。



 運動系部活動にもなれば、ユニフォームや用具だけでなく、遠征試合の交通費などでどうしても余分な費用がかさんでしまいがち。


 お母さんはそれでも構わないとは言ってくれていたけど、中学生にもなって、私ひとりの我がままで家庭環境に迷惑をかけるわけにはいかなかった。



 本当はね……、それだけではなく、私が運動部に入ることはできなくなっていたんだけれど、それはもっと言うことができなかったよ……。




 文芸部の活動は制服だし、全く費用がかからないということではないけれど、ノートや原稿用紙などの文房具なら学用品。普段使いの汎用品なら選択肢も限られている。何より私のお小遣いで手が届く値段のものが多い。



 小学校の国語の時間にあった「地図を見て物語をつくる」課題で誉められたこともあったから、読書や文章を書くことの面白さは知っていたし、いきなり全く知らない世界に飛び込んだわけじゃない。




 お母さんに迷惑をかけたくなかったから、声に出して言うことはしなかったけれど、やっぱりお父さんがいないという事実は、いろいろなところに影響があったのは仕方なかった。



 これが離婚とかが原因だったら、話はまた別だったのかも知れないけれど、お母さんとお父さんは今でも夫婦でいる。その証拠は一人になっても死亡離縁して旧姓に戻していないことでも分かる。



 でもね、こういったことは経験者じゃなくちゃ分からない。そもそも小学生で理解してほしいという方が無理だと思う。




 だから周りから何と言われてもそれをお母さんに告げることはしなかった。中学校は二つの小学校が一緒の中学校に集約されるから、自分のことを知っている子が半分はいることになる。



 これからは()()()になろう……。


 まず最初にしたことは、小学校の頃のイメージを完全に封印することだった。


 これまでとは正反対。私生活だけじゃなく、学校生活も。


 勉強もそれまで以上に頑張った。


 お兄ちゃんから「少し早いし、もしかしたら変わっているかもだけど」と中学1年の教科書や参考書を見せてもらっていたことがあった。細かい部分を正確に言えば、少しは変わっていたけれど、基本的な項目は同じだったから、半年近くのアドバンテージを持つことができたし、中1で初めて受ける1学期の中間試験から目標は上位10位以内と決めていた。


 果たして最初の定期テストで学年順位で5位を取ったことで、周囲の私への見方が一気に変わった。


 お休みでお兄ちゃんが顔を出してくれたときには、遊びに行くのと同じくらいで、臨時の家庭教師を買ってでてくれたから、中学1年の学年末までその位置をキープし続けた。





 お兄ちゃんのお家が引っ越しをすることになって、私は駅で最後のお見送りをした。


 これまでのように定期的に会うことは出来ないし、次に顔を合わすのがいつどこでになるかは分からない。


 泣きながらも、電車を見送って家に帰る途中で私はすっかり覚悟を決めていた。


「迎えに来てくれるのを信じて待つ」と。



 それまで以上に、勉強だけだと思われたくもないから、学校では男女関係なく接するようにした。


 本当はね、その顔をするのは辛い時もあったよ。


 でも私は「その時」を待つと自分で決めた。だから、特定の人を作っちゃいけない。


 いろいろな男の子から何度も声をかけられたけれど、その声に応える訳にはいかないのだから。



 中学2年生からはお兄ちゃんというアシストがなくなって一人にはなってしまったけれど、私の友達が少なかった事を逆に捉えて、学校が終わって家にまっすぐ帰れば残りの時間は勉強に充てた。


 料理も家事もお母さんの代わりに練習だと思いながら覚えた。


 お母さんはもしかしたら、私とお兄ちゃんの約束を何処かで知ったのかもしれない。


 「花菜の花嫁修業だね」と笑いながら教えてくれた。


 そんな事情もあって、「体育はちょっと苦手だけど、勉強だけでなく家事……授業で言えば家庭科だよね……もほぼ完璧。だけど誰とも付き合わない松本花菜」という新しいイメージは中学生で完成したんだ。


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