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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
16章 今日だけはお兄ちゃん
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59話 そんな…当時知りたかった…




 花火の音をバックに、二人で本当にお腹いっぱいに食べた。おひつに入っていたご飯まで全部空っぽにしたのだから間違いない。


 味は言うまでもなかった。それ以上に、私には昨日の「先生」じゃなくて、数年ぶりに「お兄ちゃん」と一緒に食べられたという満足感が大きかった。


 こんな膨れたお腹を擦って「お腹いっぱい!」なんて姿は学校じゃ絶対に見せられない。五十嵐くんと夏紀先輩には申し訳ないけれど、これが私の《《素》》なんだもの。


「もう、終わっちゃいますね。明日はまた『先生』に戻っちゃうんですよね」


「帰りだからな。でも制服じゃなくていいからな?」


「はい。分かりました」


 花火が終わって静かになった空の下、人々がそれぞれの場所に帰っていく。


 私たちはその様子を明かりを消した部屋から見ていた。


「今日は月がきれいですね……」


「昨日、花菜ちゃんが寝てしまったあとに雲が晴れたんだ。見せられるか心配だったけど、ちゃんと見られたな。……それに、今のセリフはわざとだろ? さすが文芸部副部長だな」


 半分は本当にきれいな月夜の素直な感想と、もう半分は言われたとおり、言葉を選んでみた。それが今私が言える精一杯。


「お兄ちゃん……」


「ん?」


「分かってる。私、きっとお兄ちゃんが期待していた私じゃなくなっちゃったよね。あちこちボロボロだし、歩けなくなるかもしれないし、胸もないし可愛気もない……」


 そう、私はもうあの当時とは変わってしまっているんだもん。それが理由だと言われたら、私には返せる言葉はない。


「花菜ちゃん、こっちに来れる?」


「うん」


 お部屋の座椅子を窓際に持ってきて、海を見ながら並んで座る。


「もう昔の話だよ。俺が今の花菜ちゃんと同じくらいの頃のことだ。ある夢を見た。でも、俺はそこで自分が許せなくなったんだ」


「え……? どんな夢……?」


「先に謝っておくよ。引かれても仕方ない。……花菜ちゃんを抱いていたんだ。しかも妄想で勝手に服を脱がせて、まだ小学生の花菜ちゃんを抱いてしまった。目が一気に覚めて、恐くなった……。いつか本当に花菜ちゃんを無理矢理に傷つけてしまうかもしれない。だから俺は……、花菜ちゃんと離れなくちゃと勝手に決めてしまった……」


「そんな……、その時に教えてほしかったよ……」


 そんなことも知らずに、私は遠い学校に入学したお兄ちゃんを責めたんだ……。話してくれればよかったのに……。そんなことくらいでお兄ちゃんを嫌ったりなんか絶対にしなかったのに。話してくれたら、私たちのあの空白の時間もなかったかもしれない……。



「大学に行って、少ないけれど友達も出来たよ。その中には女子もいた。でもいつも花菜ちゃんが記憶の中で笑っていた。一人の部屋で花菜ちゃんと話すように独り言が多くなった。だから、花菜ちゃんにもう一回会って確かめなくちゃと思ったんだ」


「私、そんなにいい子じゃないよ?」


「久し振りに顔を見たら、予想どおりに美少女になっていたし。最初は外見が変わっていて驚きもした。でも中身は変わっていなかったから安心したよ。結局さ、花菜ちゃんのことでグズグズしていたのは俺の方だったんだ」



 ううん、それは違う。お兄ちゃんだけじゃない。私も同じだったから。



「じゃあ……、私も、言ってもいい? 絶対に学校じゃ二人きりでも言えないから」


「ああ」


「あのね……、私も同じ。中学にもなって、好きな人の話題になって、いつも思い出したのはお兄ちゃんのこと。私も同じだったよ。いつか『初めて』を経験するのもお兄ちゃんとだって、ずっと思ってた……。もし本当に小学生でいきなり抱かれたらびっくりしたかもしれないけど。でも、お兄ちゃんが高2だったら、私は小5だよ。その頃には、『初恋の芽』は出ていたよ。他の男の子とは違って見ていた」


「花菜ちゃん……」


「お兄ちゃんは、あの当時から私のことを一人の女の子として見てくれていたってことでしょ。引かないし、逆に嬉しいよ。今日のこと、お兄ちゃんと二人になったってちゃんとお母さんに話してきた。『啓太くんと花菜、二人の気持ちで決めなさい』って……」


 お母さんに隠し事はしたくない。二人だけだと正直に話してきた。「花菜のことだから一緒の部屋でも平気でしょ」という予想もしていた。


 それでもお母さんは、何も言わずに「行ってらっしゃい」と私の事を送り出してくれたのが何よりの答えだよね。


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