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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
13章 夕立の思い出
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50話 よし、そのアイディア使うぞ




 先生は音が小さくなるように窓を閉めてくれた。


「そうだったな。俺の知っている女の子も雷が嫌いだった。いつも夏は大変で、夕立の時は昼寝の時間になるようにしていたっけ」


「そうだったんですか?」


 プールで遊んできた帰りにおやつを出してくれて、その後はバスタオルをかけてもらって昼寝していた記憶がよみがえる。


 あれは、ちゃんと考えてくれていたんだ……。


「私、きっと初恋は恋だって気づかないうちに始まっていたんだと思います。だから、こんなになっちゃったのかな……」


「恋愛の形なんて決まりは無いんだ。だから松本が恋だと思ったなら、その気持ちを大事にしろ。誰にもそこに異論を挟む権利はない」


「はい……」


 それって、私たちのことだって先生も分かって言っているよね。もう、先生モードのはずなのに、頭を撫でてくるなんて、気持ちバレバレだよ。





 五十嵐くんの原稿のあとは、みんなからアイディアを出してもらった文化祭展示内容の検討だった。


「うーん、どれもイマイチだなぁ。毎回こんな感じか?」


「過去の議事録を読んでみたんですが、そうなんですよね……。単に部誌として本を出すとかでは芸も無くて……」


「確かにな……、普段創作しない奴に何かを書けと言っても、難しいところだろう? 宿題で嫌われる代表格の読書感想文と変わらない」


 そうなんだよね。幽霊部員の比率が多いということは、こういう時に困ってしまう。書くメンバーが多ければ別冊で短編集などを作ったりも出来るのだけど。


「そうなんです。せっかく顧問の先生も変わったので、新しいことをやってもいいと思うんですが」


「せっかく芸術系の部活なんだ。なんか面白くできないか……」


「面白くですか……。怪談でも使いますか?」


「そうか、それだっ!」


 何も考えずにつぶやいた私に、先生が手を叩いた。


「松本、短編でもいい。怪談話を書けるか?」


「ええっ?」


「あの学校にあるものでいい。勝手に七不思議を作っちまおう。そいつらを集めて暗幕の中に展示しちまえ」


「つまりお化け屋敷ですね?」


「俗に言えばそうなるな」


 先生が楽しそうに頷いた。


 音楽室のピアノと音楽家の写真、理科室にある人体標本、保健室の薬箱、トイレの鏡などなど、考えてみればネタになりそうなものはいくらでもある。


「こういう小話なら、普段は書かない人でも面白がって書けるんじゃないですか? アイディア出しだけでもしてもらえれば体裁は創作チームが整えられますし」


「確かに。じゃあ、提出しなきゃならないコンセプトとか、そこまでの流れを作ってしまおう。手伝ってくれるか?」


 もう、イタズラ好きなのも昔から変わらない。


 でも私はいつもそのイタズラで楽しませてもらっていた。先生と一緒に考えるんだもの。きっと大丈夫。




 途中で大広間での夕食が入って、それぞれ温泉に入ってきてからも私と先生の話は続いた。本当は四人で考えるはずが半分になっていたけれど、阿吽(あうん)の呼吸が分かる先生と二人だから、戦力不足とは思えないほどのスピードで決まっていく。


「よし、ここまでネタがあれば充分だ。予定よりも早く済んだから明日は終日オフにする。疲れただろう、先に休んでいてくれないか?」


「先生、お布団こんなに離す必要ないですよ?」


 最初は並べてあったお布団を、間に座卓をはさむように動かした先生。


「まぁ、男と女でもあるし、今は教師と生徒だからな……」


「そうでした。分かりました。おやすみなさい」


「あぁ、おやすみ」


 男女同室。本当なら緊張していてもいいはずなのに、この懐かしいような安心感はなんだろう。


 朝からの移動や昼間からの課題を片付けた疲れも重なって、私はすぐに眠ってしまっていた。



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