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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
13章 夕立の思い出
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49話 初恋って、何を定義します?




 旅館に帰り着く頃には、どんどん黒い雲が広がって、強くなりつつある風にもさっきまでと違って冷たい空気が混じり始めている。


「これはもうすぐ来るぞ。早く中に入らないと」


 お部屋に戻って荷物を整理しているうちに、外は大粒の雨が降り始めた。


「危なかったですね」


「本当だ。でもこれで涼しくなる」


 軒先が長く取ってあるおかげで、この雨でも網戸にして窓を開けておけた。


「こういう雨を見ながらの景色も《《おつ》》なもんだ」


 微かに聞こえていた騒音も雨音でかき消されて静かになったことのほうが満足みたい。


「よし、それじゃ始めるか」


「はい。でも、ちょっといいですか?」


「ん?」


「この服ではもったいなくて。汚してもいいように着がえさせてください」


「あ、分かった。では外に出てるよ」


「すみません」


 そうか、二部屋だったらこういうこともなかったのに。どうにも貧乏癖がついている私の間抜けなところだと思う。


「ありがとうございます。もういいですよ」


「早いな……って、そういう事かよ」


 先生が入ってきて苦笑している。


 高校の体育で使っているTシャツとジャージのズボンだもの。


 大きな校章なども付いていないから、こういう時には便利なアイテムになる。


「これなら、夜もパジャマ代わりになりますし」


「温泉上がりにちゃんと浴衣が選べるよ。心配するな」


 外の雨音が窓から静かに聞こえてくるなか、先生と私は五十嵐くんの作品を読みつつ、それを劇の台本に直しやすいように少しずつ修正していった。


「1年生なのに凄いですね。すごくドキドキしちゃいます」


「たぶん、五十嵐は中学からいい恋愛できてたんだろうな。彼のプライベートを邪魔するわけにいかないから聞くことはしないが」


「えっ?」


「だって、周りに知られたくないと思っても、ちゃんと二人の心の動きを追えている。なかなか外から分からない互いの感情を表現するって、分かっていても難しい」


「そっか……。恋愛経験ありなんですね……」


「どうした?」


「私、みんなから言われます。高校になっても初恋もないなんて、遅すぎるって……」


「そうなのか?」


「はい……。それも私が学校で騒がれてしまう一因です。松本花菜を誰が最初に落とすんだって」


「そんな。松本はくじ引きの景品なんかじゃないんだぞ」


 先生としてはその言い方も気に食わないみたい。でも現実問題そうなんだ……。私の生活環境や、先生=お兄ちゃんとの約束を公表していない私が悪いのだけど、教室の中でも「初恋未経験の純情キャラ」扱いだし。


「でも、初恋が無いって、私に限ってはなんだか違う気がしているんです。もし、そういうドキドキの感情を初恋と呼ぶものだとしたら、私はとっくの昔に経験しているんじゃないかって……」


 突然「バリバリッ・ドーン!!」という大音量がすぐ近くに聞こえた。


「きゃっ……」


「雷だ。ずいぶん近くに落ちたな。……松本?」


 思わず隣に抱きついてしまった。でも、怖くて体に力が入らない。


「昔からダメで、この年になっても苦手なままなんです……」


「そうか、昔からだもんな。気にすることじゃない」


 先生はそんな私を笑うこともなく、背中にそっと温かい手を回してくれた。


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