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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
12章 部活合宿…だよね?
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45話 せっかくなのに、制服でごめんね…




 もちろん予定よりも1時間以上早めたのには真っ当な理由があった。


 通勤ラッシュこそないだろうけれど、夏場の伊豆となれば観光のお客さんも多くいる。列車が混む前に電車に乗って先に進んでしまおうという考えからだって。


 私もそれには賛成。でも、先生はそれでも満足できなかったみたい。


「それでもなかなかの人出だな……。二人だけだ。グリーン車使うか」


「え?」


「もちろん予算外だから俺が出す。ちょっと待っててくれ」


 改札口横の券売機でグリーン車の券を買ってきて、改札口を抜けてホームに上がる。


「いいんですか?」


「きっと、伊豆方面の下りだから、横浜で座れなければ少し厳しい。それなら座れる方に賭けてみようじゃないか。満席で座れなければ後で払い戻しもできる」


「高校生の私たちだけでは思い浮かびませんね」


「同行が松本だけだからな」


 照れ隠しなのか、先生の顔が少し赤い。


 分からなくもないの。このご時世、座席を回転させることもできないから、予定どおりに四人だったら誰が隣になるか。男女別となるのは予想できる。


 一緒に座れないところに先生の自費で追加をするなんてことはしないだろうからね。


 そんな突然の思い付きのお陰で、横浜から熱海までは並んで二階の座席を確保することができた。


「無事に座れましたね」


「そうだな、よかった。ところで松本、今日は私服でもいいと言ってたよな?」


 並んで席に落ち着いたところで、隣から話しかけられた。


「はい……。帰ってからいろいろ見たんですけど、これが一番状態がよかったというか……、なんかしっくりしているというか……。お洒落とは昔から縁遠かったですからね。しみじみ思っちゃいました」


「そうか。申し訳ない。配慮に欠けていた」


 ううん、仕方ないよ。それは二人だけだったら普段着にしてもいいかなと思った。でも、それではいつも教室で言っているように、オンとオフの切り替えが曖昧になってしまいそう。


「仕方ありません。もう慣れてることですし」


「でも、松本も働いているよな?」


「お母さんが頑張ってくれていますけど、生活費でいっぱいですし、高校の学費も公立とはいえ軽くはありません。義務教育じゃないですから、学校の費用は自分で出すって約束をしたんです」


「そうか……」


「貧乏なら貧乏で楽しいんですよ? その分いろいろと自分で考えなくちゃならないですから」


 でもね、先生の中にも私と二人だけになった事態に何も感じなかったとは思えない。


「……ごめんなさい。私が制服だから、せっかくの二人だけなのに、一般の人から見れば引率の先生という構図から離れることができませんよね。やっぱり失敗したな……」


 起きるのが朝早かったから、ついうとうとして寄りかかって寝てしまっていた。ハッと体を起こすと隣で先生も寝息を立てている。


 ふと気がつくと、肘掛けの上で私の手に被せるように先生の手が置かれていた。これは起きるまでそのままにしておきたい……。


「あぁ、寝ちまった。寄りかかって悪かった」


「私も寝てしまいました。せっかくの時間がもったいなかったですね」


「本当だ。まぁ、帰るまでに話す時間はいくらでもある」


 線路の左側にはいつしか夏の海が見えていた。


 熱海で乗り換えをして、普通列車の旅は続く。


「この辺、春は河津桜が有名だよな」


「そうですね。見に来たことないんですけど」


 毎年、テレビのCMやニュースで流れていることは知っている。今はそんな色彩は無くて、緑色の並木が並んでいるだけだけど。


「来年の春、見に来るか?」


「えっ?」


「いいじゃないか。卒業生を送る旅行とか言って理由はいくらでも作れる。松本の創作だって、現物をいろいろ見て回った方がいい物が書けるだろう」


 お話作りにおいてリアリティは大切な要素。


 全てを頭の中で作るのではなく、インスピレーションを閃かせるためや、それこそロケハンということも含めれば、外出先を楽しむというのも重要な活動のひとつではあるのだけど。


「すごいこと考えるんですね」


「こういうものは経験がものをいうんだ。必要ならどこにでも合宿と称して行こう」


「でも、その頃って修学旅行の準備中じゃないですか?」


「あぁ、そうかぁ。うーん、なんとか来たいもんだなぁ」


 昔から私の行きたいところに連れて行ってくれていたよね。


「大丈夫ですよ。来年の春に絶対来なければならないというものではないですから」


「それもそうだな。松本とならそれもあるのか」


「はい。卒業して縁が切れるわけではないですよね」


 そう、私たちの場合は「卒業してから」が重要になってきそうなのだから。


「本当に今日は他の参加者がいなくてよかったな。こんな話できないだろう」


「本当です。この制服さえなければもっと踏み込んでも分からなかったのですけどね……。二人だって分かっていたのに……」


 仕方なかったとはいえ自分の服装を見てふぅとため息をついた。



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