43話 本の片付けなら任せてください!
昼休み、国語準備室に戻ると、テーブルセットの周りにスペースが空けてあった。
「松本、悪い。冷たい飲み物買ってきてくれるか? 松本の分も忘れずにな」
「分かりました」
お金を預かり、購買の自販機で先生のコーヒーと私にオレンジジュースを買い再び階段を上る。
「お待たせしました」
「悪かったなぁ。思ったより大物が多くて遅くなっちゃって」
朝に預けた袋の中から、お弁当をふたつ取り出す。
「ありきたりですみません」
「作ってもらって文句は言わないよ」
今日は和風メニューで、切り身の焼き鮭と出汁入り卵焼きに昨日の夜に作り置きした里芋の煮付け。彩りにほうれん草のごま和えをおかずにした。
「これ、今朝作ったのか?」
「お口に合うといいのですが……」
「高校生が朝に作ったんなら、大したもんだぞ?」
その言葉どおり、先生はあっという間に平らげてくれた。
それを見て、目の下にたまっていた疲れも消えてしまったように軽くなる。
「家庭科も完璧という噂は本当なんだな」
「教科というより、毎日が実践ですから」
「お世辞抜きに美味かった。大変じゃなかったか?」
「私とお母さんの分も一緒ですから、それほど手間にはなりません」
「そうか……」
「約束どおり、私が作れる日はお持ちします。毎日ではないかもしれませんけど。食べられないアレルギー食品とかありますか?」
「贅沢は言わないし、食べられないものもない。ただ夏休みが終わったら無理だろうな」
「ですね。その時は何か別の手を考えます」
授業もある普段の日に、頻繁に出入りするのを見られてしまったら、それこそ色々な噂が出回って迷惑をかけてしまいそう。
ゴミを片付けて戻ると、先生はまた荷物の山と睨めっこしている状態だった。
「先生、今日は私このあと時間もあるので、片付けお手伝いしましょうか?」
「いいのか?」
「本の片付けなら任せてください」
「そうか、こんな近くに本のプロがいたんだ」
部屋の中の山をまず大きく三種類に分別する。
図書室から借りたまま未返却の本、この部屋で保管するものと、古い資料で処分するもの。
図書室への移動とゴミ出しは私が台車を借りてきて黙々と運び出していく。返却処理は夏休み中に私が図書委員の仕事としてしれっと処理しておけばいい。
いつもの仕事と変わらないから、特に辛いとも思わなかったし。
空が夕焼けに変わりつつある頃、あらかたの作業は終わった。
「終わりましたねー」
机や棚を雑巾で拭き終わって、掃除機をかけていた先生に声をかけた。
「助かった。本当に松本のおかげだ。ありがとう。制服汚しちゃったな」
「先生も真っ白ですよ?」
「俺は構わないけど、お母さんになんて説明すればいいんだ?」
「大丈夫ですよ。先生のお手伝いなんですから。何も言われないし、見ないふりして帰ってきたなんて言ったら逆に怒られます」
お互いに簡単にホコリを落として、ようやく一息つく。
「……帰るか?」
「そうですね。部室から荷物を取ってきます」
「分かった。いつもの川辺の入口にいる」
「はい」
開けっ放しだった部室の戸締まりを済ませて、何事もなかったように鍵を職員室に返却。
気をつけていないと緩んでしまいそうな顔を堪えながら、薄暗い廊下を昇降口に向かって走る私がいた。




