41話 朝から何やってるんですか!?
月曜日、私は紙袋を持って職員室の上の階にある国語準備室に向かった。
夏休み中なので校舎内はどこもしんと静まりかえっている。
部屋の中に人の気配がしたのでドアをノックした。
「長谷川先生、松本です」
「どうぞ、鍵は開いてますよ」
「失礼します」
中からの声を聞いてドアを開けると、驚いたことに部屋の中では先生がジャージ姿で大量の書類を片付けていた。
「おはようございます先生」
「おはようございます。松本さん一人ですか?」
「はい」
念のため振り返って、他に誰もいないことを確認して用心。
別に何か悪いことをするわけじゃないけれど、変な噂が立って私たちがお互いに後ろ指を指されないようにするためには仕方ないことだし。
扉を閉めると、ようやく手を止めて椅子にどっかと座った。
「朝から一体何を始めたんですか?」
この国語準備室、先日までは積み上がった書棚の間に置いてある机の上を整理していたくらいだったのに。今日は足の踏み場がないという表現がぴったりというくらいに、床まで荷物が散乱しているのだから。
「見れば分かるだろう。この部屋の大掃除だ。鈴木先生に聞いたらこの部屋はずいぶん誰も使っていないって言うんでな。使う予定も無いというので俺が使わせて貰うことにした。ここなら採点とか試験問題作るのにも邪魔が入らない。空いたスペースに余っている机と椅子を何セットか入れれば、個人面談や補習の場所としても使えるようになる」
私が一人だと分かって、先生の口調が教室と二人きりの真ん中くらいに切り替わっている。
「そうなんですね」
「面談だけなら進路指導室でもいいが、あそこも2学期からは3年生で取り合いだからな。それになんだ……、職員室では周りの目もあるから、松本の悩みとかも本音でじっくり聞いてやれないだろ」
「えっ?」
私の反応に手を休めた先生は、片付け途中の部屋の椅子に座った。
「あれからも、いろいろ我慢してきたんだろ。聞いたぞ。中学から文芸部に入った理由……。きっとその表向きの話だけじゃないはずだ。これは俺の勘だけどな」
私を見上げて頷いた。
何も言えなくなった私の無言を肯定と受け取ってくれたのだろう。
「そんな大切なこと、もう一人だけで決めるな。当時は誰にも相談できる相手がいなかったんだろう。俺もその原因の一人ではあるんだろうけど……」
「大丈夫です。私は、ちゃんと自分に区切りはつけましたから」
「そうであってもさ、みんな驚いたみたいだよな。正反対の分野だし。運動系部活の中にはオファーを出したところもあったみたいだが、それも全部断ったという逸話を3年生から聞いたぞ」
「もう、先輩たちも変なことを覚えているんですから」
そうだよね。小学校まで体を動かすことで周りからの片親であることの嘲笑を跳ね飛ばす原動力でもあった私が、正反対の文芸部に入部したし、勉強も頑張ってみた。
それが中学時代だけでなく、高校に進学しても変わらなかった理由は、ただ興味本位で外面を変えたのではないということくらい、昔の私を知っている先生ならピンと来てしまうだろうね。




