34話 私たちの学生ともう一つの顔
「岡本さんと松本さん、出版社の方がおみえですが、部室の方でいいですか?」
「あ、はい。こちらにお願いできますか?」
「分かりました。それではお通ししますね」
始まったばかりの夏休み。私は夏紀先輩と二人で部室で打ち合わせのために登校した。
そこに長谷川先生が声をかけてきて、私たちの反応を確かめて頷くと、すぐに出ていった。
「どう? 花菜ちゃんは自信ある?」
「そうですね……。前回よりもちょっとキャラクター年齢を上げて書いているので、それをどう取っていただいているか」
そう。文芸部員のメンバーの中では珍しい部類に入るクリエイターチームの私たち。夏紀先輩と私は裏にこんな顔を持っている。
先輩はティーンズ向けの小説作家、私は児童書や絵本作家としての一面だ。
もともと文学コンクールに出した物が出版されたというきっかけだった。
今でもコンクールがあれば作品を練って出したりもする。
出版会社さんとの専属契約は結んでいないけれど、その時の縁で新作が出来ると、担当さんに送って見てもらうことになっている。
その中で書籍出版や、今ではオンライン書籍などという形で表に出ることもある。
もっとも、絵本という紙媒体が中心の私の方がその壁は高くて、企画から出版まで至ったのは数少ない。
「岡本先生、大原先生。お元気そうでなによりです」
私たちを担当してくれている出版社の古村さん。同じような学生作家を他にも何人か担当しているせいか、私たちにも無理を言わずに学業優先と言ってくれている。締め切りなどはなく、いい作品があったら一番近い枠で出しましょうと提案してくれる珍しいタイプの編集者さんだ。
「えーと、今回のお二人の作品ですが、岡本先生の夏休み企画は、印刷で時期を逃すよりオンライン書籍ですぐに連載した方がいいだろうと。また大原先生のは秋のお話なので大人向け絵本の枠で出させていただく予定となりました。続編希望のリクエストが多かったので助かりましたよ」
「本当ですか!?」
そうだ、今回のお話は時間がかかった。処女作のヒロイン「千歳」を少し成長させたお話だったから。
絵本と言っても今回は文章量も多い。それが挑戦でもあり不安でもあった。そんな難しい作品を子どもだけでなく大人にも手にとってもらえるように装丁も調整してくれる古村さんは本当に頼りになる。
「細かい調整と校正についてはまたご連絡させていただきます。大原先生の方はフォントや色見本などが出来てきましたらまたお持ちしますね」
先輩と私は打合せが終わった古村さんを玄関で見送った。
「やっぱり、花菜ちゃんは強いなぁ」
「本当は自信がなかったんです。分野が違うのに続き物って難しいですし。新しく見ていただける方も多いですから」
その打ち合わせの後、先輩は秋の演劇部の公演に向けた演題の打合せに、私は他にすることもなく部室に残ることになった。




