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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
6章 忘れられない名前
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23話 あの子はいまどこで何を…




 この峰浜高校は自分の母校ではない。ただし全く関係がないわけではない。


 あの校長は自分の高校時代の恩師でもある。


 教員採用試験に合格したことを報告しに行くと、「それなら退職する先生もいるのでちょうどいい。うちに来てもらえるように働きかけてみよう」と満足気に話していた。


 その時は現実になるとは思っていなかったけれど、いざ配属校が発表されたときにはその話が生きていたのだと分かってホッとしたのを覚えている。


 そんな縁もあって、学校を卒業したばかりの新米にして担任を持たせてもらうなんてのもプレッシャーだが、そこはやれることをやってみるだけだ。



 教壇に立ってみて、空っぽの教室を見回した。


 机の数は全部で40。校長室で話した時に、2年生なので変に力まずに生徒たちの力を借りればいいという話もあった。


 確かに自分が高校2年生だった時を思い出してみても、勉強もしたけれど、高校時代で一番のびのびとしていたかもしれない。


 もちろん全体の成績を見ながらではあるけれど、俺自身は勉強とうるさく言いたくなかった。


 それは人気を取りたいからではなく、その方が伸びると言うことを経験で知っているからだ。


 遊ぶときは思い切り遊んで、その分は時間を区切ってしっかり取り組んだ方がメリハリもついて成績も上がる。それは自分自身と、当時花菜ちゃんを教えていた経験からも実証できている。


 彼女は特別な学習塾などには通っていなかった。だけど、小学校の通知表ではいつも好成績を収めていたし、中1の定期テストでも上位5位以内が彼女の定位置だった。


 頑張るときはしっかり頑張って、遊ぶときは無邪気な顔を見せて甘えてくる可愛い子だった。


「花菜ちゃんか……。今ごろ何をしているんだろう」


 正直、高校2年生を担当すると聞いたとき、ドキリとしたのは嘘じゃない。




 彼女とは中学1年生末の春先を最後に顔を見ていない。


 自分の実家が転居するなんてことは予想していなかったけれど、そこに文句をいう理由にはならないことも、言ったところで話が覆るものでもないと、お互いに分かっていた。


 あれから普通に進級していれば、今年高校2年生になっているはずだ。


 元気でいてくれればいいと。


 自分がこの街に帰ってくることになった。彼女もまだ同じところに住んでいるのだろうか。俺たちに縁があれば再会することもできるだろう……。


 その時に、どういう顔をすればいいのか……。


 廊下の窓から空を眺めると、春霞がかかった水色の空が広がっていた。


 この空の色を見ると思い出すことがある。


『どうして空って青いのかな?』


 まだ一緒の時間を過ごし始めたはじめの頃。河川敷に並んで腰を下ろしていたときのことだ。


「花菜は泣き虫だから、これからも涙いっぱい流しちゃって、空はどんどん濃い青になっていくのかな……」


 そんな質問に気が利いた答えをかけてあげられなかった自分がもどかしかった。


 父親を亡くし、母親が自分のために働いていてくれることを彼女は幼くして理解している。


 だから泣きたくても泣けない。心配させるわけには行かないのだと我慢している。泣きたいなら、俺の前で良ければ思いっきり号泣されたって構わない。


 でも、それすら彼女は我慢している。


「じゃぁ、この水色で止まるように、一緒に笑えるようになっていこうよ」


 もっと気の利いたセリフをかけてあげられればと思っていた。


 もし、今も彼女が一人で泣いているなら、今度はどんな手を使ってでも笑顔を取り戻してやりたい。


 この時期の空を見上げるたびに、いつも思い出すシーンだった。


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