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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
3章 帰るよ、約束をした街へ。
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14話 見覚えのある散歩道だから




「駅は変わってないな……」


 橋上駅の改札口を抜け、駅から歩いて10分ほどで、これからお世話になる高校に着く。


 母校ではないけれど、もともと暮らしていた街の地図は頭の中に入っているから迷うこともない。




 受付で名乗るとすぐに校長室に通された。


「これからよろしくお願いいたします」


「そんなに固くならないで大丈夫ですよ」


 改めて説明を聞いてみると、本当は1年目は副担任を予定していたのだけれど、その先生が急に家庭の都合で辞められることになり、現国の主担当となること、そして2年生の担任を受け持つことに変わったという。


「2年生ですから受験まで少し時間もありますし、生徒の方が長谷川先生より学校にも慣れてますからね。クラスの中に何人か助けてくれそうな子を入れておきますよ」


 そんな校長室での挨拶を終えたあとは、教頭先生に同行してもらい、校内をひととおり見せてもらう。


「ここが先生が担任として入られる予定の2年5組の教室になりますよ」


「ここですか。中に入っても大丈夫ですか?」


「どうぞどうぞ。長谷川先生の教室ですから」


 誰もいない教室に入って教壇に立ってみる。


 春休み中は部活動の生徒がいても、彼らが教室に入ってくることはない。


 学年が変わることから、生徒たちは私物をすべて持ち帰っていることもあり、個性のない教室は余計にガランとして見えてしまう。


 新人の自分が学校慣れした2年生とはいえ、1年間を乗り越えられるかは、正直なところやってみなければ分からない。


 さっき校長室でも言われていた、核になる生徒たちの力を借りるしかないときもあるだろう。




 次に顔を出すまでに、担当するクラスの生徒情報をまとめておくというので、この日は職員室の机に最低限の荷物を置かせてもらって、まだ日の高い時間に表に出た。



 校舎の前に流れる川に沿った道を駅まで進むことにした。



「そう言えば、昔よく花見に行ったよな……」



 八部咲きになっている桜の枝を見上げては、数年前のことを思い出す。



 最後に会った中学1年生の彼女。もう子どもじゃないと強がりつつも、まだあどけなさの残る顔だった。ただ、その顔を知っているのは自分だけだったのかも知れない。



 今ごろ彼女はどこで何をしているのだろう……。


 住所が変わっているかも分からない。


 時間が出来たら、そのうちに懐かしい住所に行ってみようと思いつつ、その日は新しい生活を始めるアパートへ戻ることにした。


 昨日の遅くに荷物が届いたばかりで、部屋の中はまだ手つかずのままダンボールが積み上がっている。仕方なく昨夜はビジネスホテルの厄介になったくらいなのだから。


「とりあえずは最低限だな……」


 学生のアパートからいろいろ持ってきてよかった。


 男の一人暮らしであっても、照明器具はもちろん、電子レンジと冷蔵庫は必須アイテムだ。洗濯機は持っていない。学生時代にアパートの隣にコインランドリーがあったことが大きい。今回の物件探しも同じ条件で絞った。かご1つ分溜まったら持って行く。今の機械は便利で洗いから乾燥まで1台の機械でやってくれるし、終わる10分前には携帯に連絡してくれる機能もついていた。男一人暮らしならそれで十分だ。


 「お給料もらうのだから、洗濯機くらい買えばいいのに」と実家の親には呆れられたけれど、あれこそ住居や家族構成が変わったときに買い替えが必要になる。


 夕方になり、やはり同じ徒歩圏内にあるスーパーに買い出しをする。


 指定のゴミ袋やら、細々とした日用品と、今日は自炊をする気にはなれないから、惣菜とレトルト食品のごはんパックを買って部屋に戻る。


「こんなの、花菜ちゃんに見られたら怒られるよなぁ」


 あの当時から家事スキルの高かった彼女だ。このくらいのことはさっさとやってしまうだろう。


「あー、ダメダメ! これじゃまたヘタレに逆戻りじゃないか」


 懐かしい散歩道、そして場所に戻ってきたということなのだろう。どうも今日は普段よりも頭の中に彼女が登場する回数が多い気がする。


 仕方ないことかと苦笑する。当時俺の隣にはいつも6歳年下の女の子が並んで歩いていたのだから。


 これまでの頭の中がまだリセットされていない。社会人になるならそれは必須だと考えている。


 ただそれも新学期が始まるまでのことだろう。いざ授業が始まればそんなことを考えている暇はないくらい否応なく忙しくなる。生徒たちの前で新米教師がそんなヘタレキャラだと最初から晒すわけにもいかないし。


 それまでの時間は、最後の感傷に浸るのも悪くないだろう……。


 そう、その時はそう思っていたはずだった。



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