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まだ見ぬ未来へ駆け抜けて!【改稿版】  作者: 小林汐希
3章 帰るよ、約束をした街へ。
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12話 彼女を守るためには時間が必要




 6歳も離れていると、それを目撃されてもあまり話題に上がることもない。


 年の離れた妹か親戚の子といるのだろうという程度の認識だ。


 俺の方はそんな感じで済んでいたけれど、二人の時間が始まって何年か経った時のこと、すぐ近くに俺がいるのを知らない男子連中が、学校帰りに彼女の父親がいないことをからかう場面を見てしまった。


 きっと他人で全てを知っているのは俺だけだ。普段は素直で笑った顔が可愛い彼女が、どんな言葉をかけられてもぐっと堪えている。


「……変なとこ見せてごめんなさい」


 俺に見られていたと気づいたあと、気まずそうに目を伏せた花菜ちゃんをもっと自分の手で守りたいと思い始めるまで時間はかからなかった。


 でも、どのようにしたら彼女を守ることができるのだろう。


 やはり年齢が離れていることがネックなのだ。高校生の自分とまだ小学生の彼女とが真剣に交際をするということが、いくら彼女のような娘が欲しいと言っていた自分の両親にでさえ、すんなり理解して受け入れてもらえるとは言いがたい。


 そもそも、花菜ちゃんにそのことを話したところで真剣な話として受け取ってくれるだろうか。


 頭のいい彼女のことだ。逆説的に受け取って「自立しなければ」と俺の元から離れてしまうことだって十分に考えられる。


 もう彼女も小学4年生だ。


 年齢的には、母親が帰宅するまで自宅で過ごすことになっても不思議ではない。


 我が家で家事や料理も色々と教えてきた。


 全てに一生懸命な彼女は、返ってきたテストを見る限り、学校の成績だって決して悪いとは思えない。


 同時に、こうして同じ時間を過ごし、外見と同様に自分の意識の中でも少しずつ成長していく花菜ちゃんを一人の女の子として見ていることに間違いはなかった。


 ただ……、今の関係のままでは隣にいたとしても本当の意味で彼女を守ることができない。自分のように中学生、高校生にもなれば交際相手がいても不思議ではないだろう。


 でもそれが許されるのは同級生、少なくとも同じ年代という範囲だ。


 自分たちのように年齢が離れていると、いくら本気と言ったところで笑われるか心配されるだけで、想いが成就することは難しいだろう。


 寂しいけれど、きっと花菜ちゃんも成長していくにつれて、いつかは彼女のことを大切にしてくれる男が現れる。その時に自分から離れていくのだと思っていた。それまで見守ってあげることが関の山だろうとも。



 ただ……、その時に俺自身が納得できるだろうか。


 それならば、花菜ちゃんから別れを告げられる前に自分から離れた方がいいのかも知れない……。


 だから大学受験では、わざと家から通えないところを選んだ。


 しかし現実は違っていた。


 大学に合格をして、それを彼女に告げたとき、その判断が間違っていたことを初めて知った。



「お兄ちゃんがいなくなったら、寂しいよ。私にも相談して欲しかった……。心の準備が間に合わないよ……」



 ぽろぽろ涙をこぼしながら抗議をしてきた花菜ちゃん。休みは帰ってくるからとなだめるのが精いっぱいだった。



 それに輪をかけるように、翌年には父親の転勤でこの街に来ることがなくなって……。それでも彼女のことが頭から離れることはなかった。



 そう。実家の引っ越しも終わり、この街を離れる最後のタイミングで、俺ははっきりと、中学1年生になっていた花菜ちゃんに告げていたんだ。



 「必ず迎えに来るから、待っていてくれ」と。



 駅のホームで泣き止んで不安そうな顔を、それでも必死に笑顔を作って、「それまで待ってるから。約束だよ?」と言って指切りまでしてくれた彼女のことを、ついぞ忘れることはできなかったのだから。



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