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第十三話

「ちょ……ちょっと、ムツナ。……ど、どういうことですか……」

 そのムツナの予想外の行動に、ウェリィが口をぱくぱくさせながら疑問を口にする。

「……あなた、な、何でそちら側に行くんです? そんな、それじゃ、まるで――」

「うふふ。そうよ、ウェリィさん。スパイって呼び方は安っぽくてあんまり気に入らないし、できれば内通者とだけ呼んで欲しいんだけど。……うふふ。そうなのよ。私はね、実はカザミドリの人間――


 ――カザミドリ五番隊の副隊長なの」


 ムツナはしたり顔で言ってくる。

 その発言と同時に、ウェリィが膝からぺたんと崩れ落ちた。肩を落とし、目の焦点が宙を舞っている。

 その傍らに立っているギーンが、

「……ということは、僕達がここにたどり着いたのも、道に迷ったからではなく、あなたが誘導したから、ということですか?」

「うふふ。もちろんそうよ。私自身もこの建物に入るの初めてだったし、おまけに広いからね。危うく迷いそうになったけど、〈予定通り〉、ちゃんとここにたどり着けたわ」

 睨みつけながら言うギーンに、ムツナは依然笑顔のままで返してくる。

「……僕がその図面を見せてもらった時は、確かこの辺りはちゃんと研究施設になってたはず。つまり、その図面からしてフェイクだったと、そういうわけですか。……ということは、あなたにその見取り図を渡したヒマリさんも俄然怪しいですね。彼もカザミドリの人間だったと……。ふん、さらに言うなら、コロノ山の調査員の捜査の仕事の際、イヴァリーにあの場所を教えたのはあなた。そして、以前あなたが僕にチームを組もうと言ってきたのも、つまりは僕をカザミドリに誘う布石の一つだったってことですか」

「うふふふ。さすがギーン君。冷静ね。よくもまあ、こんな状況でも的確に推察できるものだわ。やっぱり私が見込んだ通りよ」

「……あなたに褒められても嬉しくありません」

 ムツナの賛辞に、ギーンは憮然と答える。

 ふと、ギーンが俺の隣にそろりと近づいてきて、

「……これは相手の人数が多すぎます。四人で全員を相手にするのは無理でしょう。ですから、一点突破を狙ってそこから逃げるのが最も生存確率が高いと思われます。逆に向こうの人数が多いことを逆手にとるんです。我々が固まっていれば、我々に攻撃できる人間は限られてくる。そして攻撃したくてもできない人間でこの場が混乱してくる。そこをうまくつけば、あるいは――」

「むははははは! 心配には及ばん! ここにいる奴らはただの壁だ。貴様らが逃げないための、な。貴様らの相手には、それなりの奴をちゃんと用意してやった。感謝しろ」

 イスにふんぞり返りながら高笑いするヒューミッド。ひとしきり笑い終えたところでパチンと指を鳴らすと、人だかりの中から三つの人影が現れた。

 そのうちの二人は、俺は知らない。見たこともない――――ただ、その体格、眼光から只者ではないことだけは分かる。ヒューミッドほどではないにしても、それだけの雰囲気を持った奴だった。

 ――しかし、問題はそれ以外のもう一人。

 そいつは、俺達とほとんど変わらないような身長。黒いニット帽から紫色の髪を覗かせ、Tシャツにハーフパンツ、サンダルを履き、首からチェーンを提げた――しかし、ケガが完治していないように、腕や足や顔の六割が包帯巻きになっている――少年。その見覚えのある服装は、まごうことなき――

「――……イヴァリィィィーッ!」

 そんな叫び声と共に、俺の横、ウェリィがロッドを握り締め前へ駆け出そうとする。

 俺は慌てて腕を伸ばし、それを制して、

「おい! 待て、ウェリィ!」

「うるさい! どきなさい! あいつは、あいつだけは――」

「だから待てって! 無闇に行くな!」

「待てません! あいつはロット様の仇――」

「下手に突っ込んだら、向こうの思う壺だ! 危険なだけだ! 死ぬだけだ!」

 俺の声を荒げた説得に、ウェリィはぎりっと唇を噛んだ。そしてふっと、俺の背中の『グレン』を眺め、

「……そうでしたわね。自分では勝てないからと、あなたに敵討ちを頼んだのはわたくしでしたね。………………取り乱しました。すいません」

 ようやくウェリィは平静を取り戻し、一歩下がった。

 俺は安堵で嘆息しつつ、顔を上げ再度ムツナの方を見る。

 ムツナは含み笑いで、

「うふふ。別に突っ込んで来ようが来まいが、結果は同じなのに。……で、どうするの? そちらにはもう打つ手はないでしょう? おとなしくしてるなら、それなりに扱ってあげないこともないけど?」

「バカ言うな」

 俺は答えながら、背中から大剣『グレン』を降ろした。

「……ったく、こりゃもう、重り以外の何物でもないな。ここまで運ぶのにどれだけ苦労したか……」

「……? それを降ろして、どうする気? まさかそれを使ってあなたが戦うの? それとも、戦うのに邪魔だとか?」

「……こうするんだ、よ!」

 言いながら、俺は『グレン』を前方に放り投げた。

 クルクルと回転しながら、宙で放物線を描く大剣。

 その行動の意味が分からないのだろう、ムツナも、ヒューミッドも、それ以外のカザミドリの人間も、そしてウェリィとルーも、皆が皆ポカンとその軌道を眺めている。

 その着地点であろう位置にいるのは、黒いニット帽と紫の髪の男。そいつは――――おもむろにニット帽を脱ぎ、その下の紫色のウィッグも外し、首にかかったチェーンも投げ捨て、顔を覆っていた包帯も捨て去った。その下から現れたのは――


 ――赤い短髪と、やたらに尊大な笑い顔!


 その様変わりに驚く周囲の人間の中、そいつは『グレン』の柄をぱしりと握ると、そのまま鞘から抜き去った。

 そしてその両隣で呆然としたままの二人のカザミドリ幹部を、各々一太刀ずつで切り伏せる。

 そしてそしてそして、停止する間もなくそいつは『グレン』を振りかぶり、一連の流れで、

「〈火炎斬鉄〉!」

 叫びながら『グレン』に炎を灯し、椅子の上のヒューミッドに向かってその斬撃を放った。

 反射的にヒューミッドは腰から剣を引き抜き、その攻撃を受け止める――――が、

「ぐうっ……」

 勢いを殺しきれず、そのまま後ろへ弾き飛ばされた。

 木製の棚に激突し、粉塵が舞う中、ヒューミッドはよろよろと立ち上がりながら、

「な、なんだ、貴様は? お前はイヴァリー=シャルでは……?」

 しかし、赤髪のそいつは相変わらずの尊大な笑顔のまま、メラメラと燃え盛る『グレン』の剣先をヒューミッドに向けて、


「あっははははははは! 我こそはアステルの赤き勇者、ロタード=レイム! ここで会ったが十年目! 覚悟せい! 我が宿敵、ヒューミッド!」

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