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プロローグ

※※

本作は「闇鳥のトビカタ」「闇鳥のウタイカタ」に続く三作目となっております。先に前二作をお読みいただくことをお奨めいたします。

「あなたは……今まで……何人の人間を……殺したことが……ある……の?」


 閉店間際の閑散としたレストラン。

 テーブルを挟んだ向かい側で、白いショートヘアーを揺らしている少女――ワイト=ホール――は、まるで世間話でもするかのように、何の前置きもなく、何の前触れもなく、何の予兆もなく、そんな唐突な質問を俺に投げかけてきた。

 どうしようもないほどに虚をつかれた形になった俺は、こんな危うい会話を他人に聞かれやしないかと周囲を気にしつつ、それと並行してなるたけ冷静に頭の中で文を構築しながら、

「何人? ――――って、いや、まあ、確かに俺は殺し屋もどきではあるが、実際のところ俺が俺の意思で俺の体をもって俺自身のために人を殺したことは、一応、今のところはないな。だが、間接的になら――――一度だけ。ほら、この前の、カザミドリ十三番隊壊滅作戦の時だ」

「そう――――直接……というなら……それは私も……同じ。……私自身が望んで……他者の命を奪ったことは……一度も……ない。……一度だって……ありはしない。……でも――」

 ワイトは、目の前のグラスに入ったジンジャーエールを一口だけ含み、

「――私の体は……今まで……数え切れないほどの人間を……殺して……きた。……命を奪って……きた」

「……『体は』? そりゃつまり、無理矢理やらされたってことか?」

「そう」

 ワイトはゆるやかに頷く。

「『ツバメ』の性能を……試すため……その攻撃を……無抵抗な人間に……加えて……きた。……斬って……突いて……刺して……裂いて……焼いて……燃やして……消して……できうるすべての苦痛を……他者に与えて……きた。……他者の存在を……消して……きた」

「……でもそれは、お前が望んだことじゃないんだろ? お前の意思じゃないんだろ? だったら、それはお前が気に病むことじゃないだろう。悪いのはカザミドリだ。お前じゃない。お前に非はない。お前の腕には不愉快な感触が残ってるだろうが、だからこそ、それを戒めとして――」

「違う」

 俺の発言をさえぎり、ワイトは首を横に振った。

「それは……私も……分かって……いる。……承知して……いる。……私が逡巡しているのは……そこじゃ……ない。……そこじゃなくて……その事象が原因で……私が……私自身が……私の存在が……他者によって――


 ――否定される……こと」


「……否定……される?」

 俺は、文脈から飛躍して登場した単語をそのまま聞き返した。

 ワイトはあごを縦に動かして、

「そう。……私は今まで……数え切れないほどの拒絶を……受けて……きた。……私の〈性能〉が……発動するたび……私は否定され続けて……きた。……たとえ……精神を閉ざしても……彼らの怨言は……どうしても……耳に……届く。……耳に……残る。……彼らの悲涙は……視界に……入る。……視界に……映る。……その度に……私の存在が間違いであることを……気付かされる。……思い……知らされる」

 ワイトはうつむき、右手でもって包帯が巻かれた左腕をぎゅっと握り締めながら、

「私は……買われる以前から……一度も……存在を……肯定されたことが……なかった。……そんな経験が……なかった。……そんな存在が……いなかった。……あなたや……ウェリィに……出会う……まで。……なのに……あの時の私には……自分を殺す自由がなくて……心を殺す術を知らなくて……ただ……ただ……恨まれて……きた……呪われて……きた……否定されて……きた……拒絶されて……きた。……あなたやウェリィに……出会ったことで……改めて……わかった……改めて……思った。……あの……殺戮の……時間……虚無な……時間……無為な……時間……苦痛の……時間――」

 その水面のような瞳を前髪で覆い隠して、


「――……もう……嫌だ」


 ワイトは怨嗟のように、ぽつりと、声にした。

 そして顔を上げ、俺の目を直視して、

「私は……命を懸けて……あなたを……守る。……あなたのために……すべてを……投げ出す。……できることは……すべて……やる。……あなたに何をされても……私は……そのすべてを……受け入れる。……抵抗せずに……黙認……する。……心も……体も……すべてを……差し出す。……あなたの好きに……して……いい。……自由に……して……いい。……だから……だからだから……あなたは……あなただけは……私を……否定しないで……拒否しないで……拒絶しないで――


 ――私のことを……見限らない……で」

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