第一章 第三話
朝起きてると俺はウルファを抱き枕にして寝ていた。
といっても、狼状態だが。
結局ウルファは説得に応じず、同じベッドで寝たままになってしまった。
二つ目のベッドや床にも移動してみたが、ウルファはついてくる。
別のベッドで寝るように何回言っても、ウルファは涙目でプルプルしながらこっちを見てくるだけで、最終的には俺が折れたのだ。
というかそれは反則だと思うんだ・・・。
さすがに人の姿だと俺の理性がやばいので、狼の姿で寝るということで妥協した。
だが、モフモフは良い・・・モフモフは・・・。
ナデナデしていると、ウルファも起きたようだ。
「おはようございます、ご主人様!」
「うん、おはよう。」
今日もウルファは元気だ。
ひとしきりナデナデして、満足したところで朝ご飯を食べに行くことにする。
よく考えたら女の子の身体を撫でまわすって完全にセクハラだが、ウルファも撫でられてる間、非常にうれしそうだからセーフということで。
食堂に行くと、おばちゃんが料理をしていた。
「すみません。朝ご飯お願いします。」
「おや、初めて見る顔だね。用意するからちょっと待ってな!」
少し待つと料理が運ばれてきた。
「ほら、オークのステーキとサラダとスープだ!」
朝からステーキだと?
というかオークって食えるのか。
食べてみると・・・硬い。
そりゃモンスターの肉だから当然と言えば当然なのかもしれないが。
ウルファは全く気にせず、硬い肉を簡単に噛みちぎっていた。
正直おいしいかと言われると微妙・・・。
だが、安いんだから仕方ない。
「あんたら冒険者かい?」
食べ終わったころ、おばちゃんが話しかけてくる。
「いえ、昨日この街に来たばかりでして、何か良い仕事ってないですか?」
「お客さんら旅人だろ?ここに定住している人間じゃなければ、冒険者しかないね。」
むぅ・・・。
危険だから、できれば普通の仕事が良かったんだが・・・。
「あんたら旅人ならモンスターとの戦闘はお手の物だろ?それならどっちにしろ冒険者が良いんじゃないかい?」
「いや、実は俺らはまだ、モンスターと戦ったことがなくて・・・。」
「ふぅん・・・。まぁ、旅人なんて訳アリが多いから、とやかくは聞かないが。まぁ、私はアリステラ。一応、元冒険者だ。困ったことがあったら何でも聞いとくれ。」
そういって、アリステラさんは調理に戻って行った。
もしかしたら、アリステラさんがこの宿を作った冒険者なのだろうか?
他に仕事がない以上、冒険者になるしかない。
「ウルファは宿で待っていても良いんだよ?」
できればモンスターと戦うなんて危険な行為にあまり連れて行きたくない。
「ご主人様だけに戦わせるなんてできないのです。私も絶対について行くのです!」
結局ウルファは、絶対に自分も戦うと言うので、諦めた。
もし、連れて行ってくれないなら、勝手に冒険者になって勝手について行くのです!と言われてしまったので、むしろ下手に動かれるより、目が届く範囲に居た方が良いだろうという理由だ。
「ここが冒険者ギルドかー。」
冒険者ギルドに到着して中に入ると、そこには熱気が溢れていた。
冒険者たちはたくさんいて、今からモンスターの討伐に行くのだろう。
長机に座ってお酒を飲んでいる人たちや、冒険に行く準備をしている人など、たくさんいる。
行く前の集まりや、クエスト完了の祝いで飲み食いすることも多いので、お酒や軽い食事もできるらしい。
そして、街を歩いている時にもちらちら見ていたが、ギルド内はさらに亜人が多い。
獣人やエルフ、ドワーフなどを総称して亜人と言う。
亜人は身体能力が人間より高いので、冒険者になることが多いのだ。
俺はこれこそ異世界だよなーと感動する。
「おはようございます。私はレイカと申します。本日はどのようなご用件でしょうか?」
受付に行くと、受付嬢が話しかけてきた。
茶色の髪を肩まで伸ばし、カールをかけてふわっとさせてある。
服装は緑を基調としたギルドの制服で、その顔ににこやかな笑顔を浮かべている。
「おはようございます。冒険者として登録したいんですが。」
「わかりました。それではまず、冒険者ギルドについて説明しますね。冒険者ギルドでは、依頼人と冒険者の仲介を行います。依頼についてはあちらの掲示板に貼ってありますので、後ほどご確認ください。」
言われた方を見ると、少し離れたところの壁にコルクボードがあって、そこに何枚も紙が貼ってある。
おそらくあの紙に依頼が書いてあるのだろう。
「冒険者にはランクがあり、ランクは一番下がFでE、D、C、B、A、Sと上がっていきます。依頼にも同じくランクがあり、冒険者ランクと同じランクの依頼しか受注することができません。」
依頼のランクはギルドの職員がきちんと調査してから、決定する。
そうやってランクを付けることによって、冒険者が下手に命を落とすのを防ぐのだ。
「依頼を解決していただいたことが確認できた時点で報酬をお渡しします。攻略できないと判断した場合にも何故攻略できないのか報告をお願いします。」
悪質だと判断された場合、最悪罰則があるらしい。
「冒険者にはジョブというものがあります。戦士や魔法使い、他にも特殊な物だと踊り子とか吟遊詩人などがあります。ジョブによってステータスに補正がかかりますし、得意とする武器も変わってきます。自分に何があっているかや、何がしたいかなどを考えて、お選びください。」
そういってジョブ一覧を渡してきた。
「ウルファはどうする?」
とりあえず自分のが決まらないのでウルファに聞いてみる。
「私はこの盗賊にしようかと思うのです。これでご主人様のサポートをするのです!」
盗賊は他人から物を盗る・・・ではなく、モンスターの妨害が得意な職業とのこと。他にも罠を発見、解除なども得意らしい。
得意武器はダガーで、足が速い人が向いている。
狼の獣人は足が速いが、あまり力が弱く、魔法も苦手ならしい。
それなら、ウルファに盗賊は合ってそうだな。
俺は悩んだ末に、戦士にすることにした。
「決まったのですね。それではこちらにご記入をお願いします。」
紙と羽ペンとインクを受け取り、記入を始める。
初めて羽ペンを使ったが、紙にガリガリ引っ掛かって、結構書きづらいな・・・。
書くところは名前、年齢、希望ジョブ、それといくつかの規約が書いてあって、それをを守りますという項目にチェックするだけだった。
やけに少ないなと思ってレイカさんに聞いてみたら「どうせ、確認できませんし。」と返ってきた。
この世界では隣の町まで馬車で数日とかも当たり前なのだから仕方ないのだろう。
俺もウルファも書き終わったので、レイカさんに渡す。
「えーと、マモル・サイトー様が戦士で、ウルファ・サイトー様が盗賊ですね。あれ?ご夫婦ですか?」
「それは私がご主人様のものだからなのです!」
物凄い笑顔でウルファがとんでもないことを言う。
ちょ、おま!
ギギギと音がしそうな感じで首を動かして、俺はレイカさんの方を向いた。
その言葉を聞いてもレイカさんがにっこりと笑顔のままだった。
だ、大丈夫だったか・・・?
「ギルドは冒険者の過去と性癖には不介入なので、安心してください。」
おいいいいい!!!
俺の好感度が始まる前からがた落ちになってないか!?
俺はがっくりと肩を落とすのであった。