第二章 第八話
ウルファは驚愕の表情でマモルを見る。
さっきのは偽物だったとか、似た人だったとかだろうか?
いや、見た目だけならまだしも匂いまで同じなのはありえない。
そもそもマモルの服は胸の部分はちゃんと穴が開いているし、左腕がないのもさっきと同じだ。
一体どういうことなのだろうか?
マモルを見た瞬間、サキュバスがウルファの上から飛びのく。
「あらー?あなたはさっき殺したはずだけどー?」
それはサキュバスも同じく理解できなかったらしく、サキュバスの顔と声音には恐怖が混じっている。
「あいにくだけど、地獄がいっぱいで送り返されてしまったよ。」
マモルが肩をすくめる。
「ご主人様!ご主人様!」
サキュバスの拘束から解放されたウルファは、感極まってマモルに抱き着く。
理由はわからなくても、ウルファには本物のご主人様だということがわかる。
「こらこら。サキュバスがいるんだぞ。」
マモルがウルファに注意するが、そんなことはお構いなしにウルファはギュッとマモルを泣きながらギュッと抱きしめる。
そんなウルファを見て、マモルは苦笑しながらも抱きしめ、背中をポンポンと叩く。
「お熱いのを見せつけてくれるわねー。」
明らかに隙だらけな二人だが、サキュバスは攻撃することができない。
別にお幸せにーと祝福しているわけではない。
ただ、マモルが生きている理由がわからない以上、うかつに攻めることができないのだ。
頭を軽くなでた後、マモルがウルファから離れる。
ウルファは少し名残惜しそうな顔をしたが、サキュバスのこともあるので仕方なく離れた。
「カミラも返してもらうぞ。」
マモルがそう言った瞬間、マモルの身体から感じた禍々しさにサキュバスが一瞬で距離を取る。
ウルファはその禍々しさが自分に向いてないから逃げるまではいかなかったが、全身に鳥肌が立つのを感じる。
マモルが突撃する。
その速度は【アクセラレーション】がかかったウルファよりも速い。
一体どういうことなのか・・・?
一気に距離を詰めたマモルがサキュバスに剣を振り下ろす。
かなり速い動きにも関わらず、さすが魔族と言うことだろう。
サキュバスがその攻撃に反応して回避行動をとる。
だが、その両手で振り下ろした剣の速度は、サキュバスにも想定外だったのか、サキュバスの左腕が切り落とされる。
あれ?左腕が・・・ある?
その左腕は真っ黒で、マモルから感じる禍々しさの大半はその左腕から感じられる。
「その左腕は何なの!?あなたは一体何なの!?」
今までの間延びした感じがなくなり、傷を抑えながらサキュバスがヒステリックに叫ぶ。
その後は一方的な戦いだった。
魔族であるサキュバスの身体能力を圧倒的に超えているようで、なんとか回避しているがサキュバスの身体にどんどんと傷が増えていく。
マモルは追いつめたサキュバスに馬乗りになって相手の動きを封じる。
「馬乗りになられるなんて、サキュバスの名折れだわー。」
観念したのか、もはや抵抗の意志を見せない。
「何故カミラを攫おうとしたのか。教えてもらおうか。」
「あらー?なんのことかしらー?」
マモルが質問をするが、サキュバスはとぼけて質問に答えようとしない。
ザシュッ!
そんなサキュバスの顔のすぐ横に剣が突き立てられる。
「答える気がないんだな?」
その禍々しい左腕をそっとサキュバスの首に添える。
「ひいいいいいっ!言います、言います!だから命だけは!」
サキュバスはマモルの脅迫に一瞬で屈した。