第二章 第六話
「ご主人様!?ご主人様!?」
ここはまるで地獄だろうか。
血の池に沈むごマモルの身体を抱き上げ呼びかけるが、胸に穴が開いているマモルはピクリとも動かない。
片腕もすでに千切れてしまっている。
「なんで・・・?」
涙を流してギュッと抱きしめるが、そんなことをしたところで生き返るわけでもない。
最後にキスをして、ゆっくりとマモルの身体を横たえる。
一体誰が殺したのか・・・絶対に復讐してやるのです・・・。
「カミラちゃんはどこなのです・・・?」
カミラは既にほとんど魔力を使い切って動けないはずなのに、今ここに居ない。
カミラはここで何があったか知っているはずだ。
ウルファは匂いを嗅いで、カミラの後を追う。
少し匂いを辿ると、カミラが倒れていた。
「ううっ・・・。」
カミラが呻く。
意識は失っているようだが、まだ息があるようだ。
「あらー?もう追いついてきたのー?面倒ねー。」
そこには先ほどの女性冒険者が居た。
「お前がご主人様を殺したのですか!?」
ウルファは一応確認として聞いたが、こいつがマモルを殺したのはわかりきっていた。
その女性冒険者の顔とか服に返り血がべっとりとついているからだ。
「そうよー。簡単だったわー。」
クスクスと笑う女性冒険者に、ウルファは怒りを募らせる。
「あなたのことが気になったんでしょうねー。そっちをずっと見てるから、後ろからこのぶっといモノを刺しちゃったわー。」
そう言って血に染まった腕をペロリと舐める。
怒りで沸騰しそうだが、心の中の冷静な部分が警告を発しており、攻撃することを躊躇わせる。
まさかサキュバスに操られた冒険者だろうかとウルファは考える。
だが、それは少しおかしい。
操られた冒険者は精神状態がおかしくなっているためまともに会話ができないのに、目の前の女性冒険者との会話は成り立っている。
つまり、この女性冒険者は操られていないということだ。
「私は操られてないわよー。」
女性冒険者がクスクスと笑いながら、鎧や服を脱ぐ。
「だって、私がサキュバスだからねー。」
服の下には下着のような露出の多い格好で、その背中には黒い羽と尻尾が生えていた。
「もしかしたらバレるかなーと思ったんだけど、案外大丈夫だったわねー。最初から私はあなたたち冒険者の中に紛れ込んでいたのよー。そもそも、気づかない方がおかしいのよー。だって私が冒険者を操るためには、その人と目を合わせないといけないのよー?」
目を合わせるためには、近くにいないといけない。
考えればすぐわかることだったが、全員操られた冒険者たちをどう助けるかばかりを考えていたため、気づかなかった。
「目的はカミラちゃん?」
ご主人様は殺されたのにカミラはまだ生きていて、わざわざ連れてきたということは間違いなくそうだろう。
「あらバレちゃったわー。ある人の命令でねー。この子を攫ってこいって言われて、仕方なくねー。」
「ある人って?」
「ふふっ。私に勝ったら教えてあげるわー。」
サキュバスが濃密な殺意を纏う。
ウルファは心の中で舌打ちする。
これ以上、時間稼ぎはできないらしい。
一人では勝てないってのはわかるから、誰か来ないかと思ったが、冒険者たちはいまだ反対の方向でサキュバスを探しているのだろう。
確実に勝てないが、引くわけにはいかない。
自分は間違いなく死ぬだろうと思いながら、ウルファは腰に差したダガーを両手に構える。