第一章 第十一話
「やめて!」
俺をかばうために、俺とウンディーネの間に、カミラが両手を広げて入ってくる。
カミラの目の前で、槍がピタっと止まる。
「今更やめられると思うのですか?」
ウンディーネが冷ややかな声で言う。
「わかった・・・。それじゃあ、わたしが犠牲になるから、二人は助けてくれないか・・・?」
「カミラ!?」
ウンディーネが槍を下す。
「それで良いのですね?」
「うむ・・・。全部わたしが原因だ。だから、お願いだ。他の二人を助けてくれ!」
「わかりました。」
「けんぞく・・・ありがとうね。」
カミラが観念したかのように、ギュっと目を閉じて、自分の身体を槍が貫く時を待っている。
カミラを助けないと・・・。
その考えとは裏腹に、ガクガクと震えるだけで足が動かない。
今までの戦いは、死ぬ可能性がほとんどなかった・・・いや、むしろ死ぬわけがないと、どこか心の隅で思っていた。
今、死というものに直面して、その恐怖をはじめて理解したのだ。
「それでは・・・。」
ウンディーネが再度槍を構える。
「契約しましょうか。」
槍が水に戻り、ウンディーネがにっこりと笑顔で言う。
え?
俺たちはポカーンとする。
「どうしました?」
「いや、だって俺たち負けましたよ?」
「何を言っているんですか。」
ウンディーネが笑う。
「この場所は私の領域です。この場所で私に勝てるわけないじゃないですか。」
えぇー・・・。
「最初に言ったでしょう。あなたたちの力を見せてくださいと。この戦いはあなたたちの実力と人となりを見る為です。」
それを聞いてがっくりとうなだれる。
「さて、契約ですが、久しぶりですね。かれこれ数百年ぶりと言ったところです。」
さっきまでの厳かな雰囲気はどこへ行ったのか。
何故かウキウキとした表情でウンディーネが言う。
「いやね。精霊は、召喚士と契約しないとここから動くことができないんですよ。わかります?この何もない殺風景な場所で、別にやることもなく、ただずっと居るだけなんですよ?どれだけ暇だったか!召喚士って魔力の消費が大きすぎて、普通の人はなろうとも思わないですし。」
なるほど。
森の奥では特に何も起こることはない。
せいぜいモンスターが水を飲みに来る程度だろう。
カミラもこういう事情がなければ、召喚士になろうと思わなかった可能性が高いし。
「それならわたしと契約してくれるのだな?」
「むしろこっちからお願いしたいところです。よほどひどい人間であれば考えましたが、少なくともそこの男の子を守ろうとする優しさを持っているのなら、何も問題は無いでしょう。」
ウンディーネがカミラの手を握り、何やら呪文を唱えると、二人の身体がぽわっと光る。
「これで契約完了です。ギルドカードのスキル欄にウンディーネ召喚が追加されています。」
さっそくカミラがギルドカードを操作し、スキルを取得する。
「これで・・・わたしも戦えるんだな!」
今まで他の魔族・・・両親にすら蔑まれてきたわたしが・・・。
人間は血筋で魔族の階級は、戦闘の強さで決まる。
だから、まともに戦えないカミラは魔族から見ると最低の存在だった。
そのわたしがようやく戦えるようになった。
「眷属ぅ!お前のおかげだ!」
感極まって、わたしはマモルに抱き着く。
「良かったな。カミラ。」
カミラの頭を撫でる。
「えへへ・・・。」
さて、契約が完了したのなら、ここにいる必要はない。
俺たちはウルファを起こして、街に戻るのであった。