第一章 第十話
バトルベアーが強いのはその怪力だ。
今の安物の鎧程度では紙も同然、剛腕から繰り出される爪を喰らったら、一撃で死ぬ可能性すらある。
かなり皮も厚くて攻撃は通りづらく、多少の攻撃では全く揺るがないほどの耐久力も誇る。
まさにこの森の王者というやつだろう。
「グアアアアアア!」
再度雄たけびをあげながら、バトルベアーが攻撃してくる。
なんとか攻撃を回避しながら、振るわれたその腕を斬りつける。
「はっ!」
ウルファが俺を狙っている隙をついて、後ろに回りそのダガーを叩き込む。
そのナイフがバトルベアーの身体に深々と侵入するが、それすらもダメージはほとんど無いようで、全く動きが変わらない。
だが、さすがにそんなウルファを無視することはできなかったのだろう。
振り向いて、今度はウルファを襲い始める。
だが、ウルファはバトルベアーの攻撃をそのスピードで、簡単に回避していき、さらに投げナイフをバトルベアーの身体に突き立てていく。
俺も本格的な攻撃に転じる。
「【飛燕】!!」
【飛燕】とは、剣から斬撃を飛ばす技で、距離が離れれば離れるほど威力が落ちるので、遠距離には使えないが、中距離程度だと有用な戦士のスキルだ。
ウルファの対角線上に位置して、狙われている方は回避に専念し、ウルファは投げナイフ、俺は【飛燕】で少しずつバトルベアーの体力を削る。
少しずつバトルベアーの動きが遅くなっていく。
「グアッ!?」
何本目かの投げナイフで完全に動きが止まる。
盗賊のスキル【パラライズ】の効果だ。
【パラライズ】とは麻痺効果を武器に付与する魔法で、ウルファはその効果を投げナイフに発動していたのだ。
いつもならウルファに【バインド】で動きを封じてもらうのだが、バトルベアーのように力が強いモンスターは【バインド】ではあまり拘束できないので取得したスキルだ。
そんな効果が付与されたナイフを何本もその身体に受けたら、さすがのバトルベアーも抗うことはできない。
「ナイス!ウルファ!」
ウルファを褒めながら、俺はバトルベアーに近づく。
俺は剣を上段に構えて、力を貯める。
【剛撃】。
このスキルは全力で相手に攻撃を叩き込むスキルで、非常に強力だが貯めが必要なので、こうやって相手の動きを止めないと使うことができない。
「はああああああああ!」
俺の一撃がバトルベアーを真っ二つにする。
ふぅ・・・。
「さすがわたしの眷属だ。格好良かったぞ!」
カミラが抱き着いてくる。
「ぶぅー。」
カミラを見て、ウルファが頬を膨らませる。
それを見て、俺は苦笑いをして、ウルファを手招きする。
「よくやったぞ、ウルファ。」
近づいて来たウルファの頭をゆっくりと撫でる。
それだけで嬉しそうな顔をしたウルファが、またもやカミラと逆の腕に抱き着く。
お前ら良いけど、まだ今回の目的は終わっていないからな?
さらに進むと奥に明るい場所が見える。
行ってみると、そこに湖があった。
なるほど。
湖の周りには木がないので、上から日の光が差し込んでいるのか。
「ここが精霊がいる湖なのか?」
カミラが水に手を突っ込んでいる。
周りを見てみたが、それらしき存在は居ない。
ウルファも周囲を警戒しているが、反応はないようだ。
湖の中を見てみると底が見えないほど深い。
しかも、よく見ると魚が居ない。
これは飲まない方が良いだろうな。
「ようこそ、精霊の湖へ。」
そのひどく澄んだ声音に全員がビクッとする。
声がした方向・・・湖の真ん中を見ると、そこには水の上・・・明らかに立つところがないのにも関わらず、その女性は立っていた。
水色の髪は非常に長く、ウェーブがかかっているのに、膝あたりまで伸びている。
耳がヒレのようになっていて、上半身にはビキニ、下半身には布を巻いたようなスカートだ
表情には母性を感じさせる優しい笑みを浮かべている。
手を前に組み、姿勢よく水面に立つその姿は、非常に優雅である。
「人間が私に何の用ですか?」