第一章 第一話
「残念ですが、あなたは死んでしまいました。」
真っ白な何もない空間。目を覚ますと俺はそこに居て、目の前の女性が悲しそうな顔で俺に言う。
さらになぜか横に白い子犬が寝ている。
状況がさっぱりわからん。
「俺は何故死んだんですか?」
「覚えていないのですか?あなたは車に轢かれてしまったのです。」
そう言われて俺は思い出す。
俺は斎藤真守。
高校2年生だ。
学校からの帰り道に、トラックに轢かれそうな子犬を助けようとして轢かれたのだ。
昔から動物が好きだったため、身体が勝手に動いのだが、どうやら子犬を助けることはできなかったようだ。
なんていったって、今横に居るのがその子犬だから。
「残念ながら子犬を助けることはできませんでしたが、その子に自分のせいであなたが死んだのだから何とかしてほしいと懇願されましてね。本来はこんなことはしないんですが、神の気まぐれってやつですね。」
この子が・・・。俺はしゃがんで子犬を撫でる。
すると目が覚めたらしく、動き出して俺の手をぺろぺろ舐める。
かわいい・・・。
「それでどうなるんです?」
子犬をひとしきり堪能した後、女神様に聞いてみる。
「そうですね。申し訳ございませんが、規則で元の世界で蘇生するわけにはいかず、異世界ということになってしまいます。あと、特別に赤ん坊からではなく、元と同じ年齢にします。代わりにその子も連れて行ってあげてください。もちろんあちらの世界の言語もわかるようにしますし、モンスターも存在する世界なので、モンスターと戦えるようにもしましょう。その子をしっかり守ってあげてくださいね。」
なかなか、大盤振る舞いだな。でも一つ気になることがある。
「モンスターですか・・・居ない世界はないのですか?」
剣と魔法の世界には憧れるけど、さすがにモンスターと戦うのは怖い。
「ないことはないのですが、ほとんどありませんね。人間の文明が発展した上でとなると0です。地球が非常に珍しいのですよ。」
うーむ。それなら仕方ないか。そこで子犬が急に吠え出す。
「ん?なんですか?ふんふん・・・。え?あなたも?」
俺にはわんわん吠えているようにしか聞こえないのだが、どうやら女神様は子犬が話していることがわかるようだ。
少し子犬と話した後、こちらに向き直った女神様が俺に言う。
「ふふっ。あなたのことがよっぽど気に入ったみたいですね。本当に大事にしてあげてくださいね。」
一体どんなことを言ったのか気になるんだが。
「あと多少のアイテムと当面の生活費を差し上げます。」
女神様が袋を渡してきて、中を見ると真っ暗だ。
「取り出したいものを思い浮かべながら、手を入れて頂くと取り出すことができます。」
恐る恐る手を突っ込んでみると、何故か何が入っているのかがわかった。
お金も入ってるし、他にも体力回復ポーションや魔力回復ポーションなどが入っている。
「ありがとうございます!」
お礼を言うと、女神様がほほ笑む。
「それでは異世界へ送ります。大変なこともあるとは思いますが、頑張ってくださいね。」
目の前がまばゆい光で真っ白に染まっていく。
そうして、僕と一匹は異世界へ行くことになった。
光が収まり、目を開けてみるとそこは草原だった。
横にはちゃんと子犬が・・・あれ?
横を見るとそこには髪は白色でワイルドな感じに伸ばされていて、さらに同じく真っ白な犬耳と尻尾がついた女の子がいた。
身長は170cmの俺より少し低い程度だから160cmぐらいかな。
白い簡素なワンピースを着ている。
「君・・・誰?」
もしかして、これがファンタジーの世界でよくある獣人というやつだろうか。
「わーい!ご主人様ー!」
うわっ!
その獣人の女の子がいきなり飛びかかって来て、押し倒され、さらに顔をぺろぺろ舐めてくる。
ご主人様・・・?
もしかして・・・。
「お前、さっきの子犬か!?」
「そうです!ご主人様にご奉仕できるように女神様に頼んだのです!でも、私は犬じゃなくて狼なのです!」
えへへーと笑う女の子・・・かわいい。
頭を撫でてあげると、さらにふにゃーとした笑顔になった。
尻尾もまるでメトロノームのように左右にブンブン振っている。
「あと、四足歩行もあったほうが良いだろうって狼にもなれるようにもしてくれたのです。」
そういって彼女はちょっと離れてピカっと光ったら真っ白な狼になっていた。
撫でてみると毛がふさふさで気持ち良い・・・。
モフモフしてる・・・モフモフ・・・モフモフ・・・。
ハッ!
いつの間にか抱き着いてモフモフしてしまったが、こんなことをしている場合ではない。
離れると、少し寂しそうな顔をされたが、仕方ない。
「とりあえず、街を目指そうか。暗くなったら困るし。」
「わかりました!」