現場
第二の殺人現場のフェンスの前で響子は、無言で佇んでいる
「…………やっぱり違う」
フェンスを見つめたまま小さく呟いた響子が表情を歪ませると、頭を抱えた。
頭を抱えたまま、周りを見渡すとある箇所を見つけて表情を変えた。
「そういうことか……」
何か思いついた様子でまた小さく呟いて、頭から手が離れるとフェンスの前に右手を差し出すと深い溜め息をついた。
その時、響子の目にはある映像が見えた。
(……お前、なんで)
(お前の目的はやっぱり……)
誰かに向かってフェンスにもたれ掛かった状態で必死に助けを乞う姿が見えた。
その直後、スタンガンで気絶させられ、胸部にナイフが刺さって苦しむ様が
響子も胸部を押さえて苦しみ始めてその場に座り込むとしばらくして息を切らしてゆっくり立ち上がる
「……分かりました。今回の犯人」
そして、もう一つの謎も……と呟くと小さく笑みを浮かべた。
あなたの未練晴らします。そうフェンスに向かって告げるとある場所に電話を掛けながら、ゆっくり歩き始めた響子は懐から被害者の部屋から持ち出した写真を手に取った。
「急に呼び出されたと思ったらまたここですか?」
呼び出された小林は、被害者の部屋のあるマンションの前で口を開く
あの部屋には何も証拠は出てこなかったじゃないですか。と言おうとした時、響子が小林の顔をまっすぐ見つめてゆっくり話し始める。
「……私の見解が正しければ、証拠はある」
向こうから現れてくれる。とだけ告げるとあなた以外にはこの事伝えてないから、と更に小林に言うとマンションの中に入っていった。
どう言うことですか?と聞き返そうとしたが、これからは私が良いと言うまで黙っていなさい。と言われてこれ以上何も言えず、ただ響子の後を追いかけた。
響子の後を追いかけた小林は、響子が立ち止まった先には聞き込みでも来た仲嶋の部屋のドアの前で響子は、躊躇いもなくインターホンを押した。
出るわけがないと心の中で思っていた小林の予想を反して、ドアノブが動きゆっくり開かれた。
驚きを隠せない小林を尻目に響子は警察手帳を見せながらある名前を告げた。
「仲嶋正明さん、ですよね?」
被害者である仲嶋浩明と瓜二つの顔に向かって、迷いなく名前を告げた響子の後ろで、小林が口を開く
「ちょっと待ってください。仲嶋正明ってたしか亡くなった仲嶋浩明の双子の弟で数年前に亡くなったって……」
「たしかに仲嶋正明って人は死んだ。でもそれが浩明の方だったとしたら?」
「それって…………」
「中に入っていただいても良いですか?」
小林の言葉を遮るように、正明と呼ばれた男が表情を変えずに中に促す
その言葉に、そうですね。と返して響子は中に入っていき小林は、まだ動揺したまま後を追いかけた。
中に入った響子は、部屋の中を見渡すと小さく……やっぱりかと呟くと促された場所に座った。
そして、響子と正明と呼ばれた男がお互いに見合わせると沈黙が流れた。小林は、それをただただ様子を伺うことしか出来なかった。
そんな沈黙を破ったのは、響子ではなく男の方からだった。