痕跡
現場を離れた響子は、とある場所に向かっていた。
仲嶋の死体を見た響子は違和感を覚えていた。
仲嶋のマンションに再び足を踏み出した。
管理人に説明して仲嶋の部屋の鍵を開けてもらった響子は、会釈をして中に入る
仕事場でもある家の中をゆっくり見渡す響子は、ある一点を見つめて、そこに向かって歩みを進める
そして、本棚に飾られていた写真立てを手に取る
その時、玄関の方から足音が近づいてくる
その足音の正体は、追いかけてきた小林で何やってるんですか、と響子に迫るが一切気にする様子を見せずに手に取った写真立ての中にある写真をただただ見つめる
響子が見つめる写真を覗き込んだ小林は、なぜか驚きの声を漏らした。
写真に写っていたのは、第二の被害者である仲嶋ともう一人瓜二つの男性
この人は………と小林が驚いたような表情を浮かべて、写真を見つめて小さく呟いていたが、響子は表情一つ変えることなく写真立てを本棚に戻すと何も語らずにさらに部屋の中を歩き始める。
だから待って下さい!と呼び止める小林に聞く耳を持つ気配もなく、周りを見渡す響子の姿にもう……と髪を掻き乱して溜め息を漏らすと響子の元へ
「…………正明」
「正明?」
「仲嶋 正明……被害者の仲嶋 浩明の双子の弟」
「その情報どこから……まさかまた」
勝手に調べたんですか!?と小林が焦ったようにバレたらどうするですか、と言うも響子は答えることなく部屋の捜索を始める。
しかし、おかしい程に証拠や情報になりそうな物は見つからない
あったのは、弟である正明の位牌らしき物だけ
それ以外は、生活感もなく閑散としていた。
響子は、表情を僅かに歪ませると頭を抱えるような仕草を見せると髪を乱す
「………………やっぱり違う」
頭を抱えたまま小さく呟くと小林の耳に届いたようでえっ?と声を漏らす
響子は、小林の声に罰の悪そうに小林を一瞬睨み付けると髪を掻き乱して、その場を立ち去ろうとした時響子が何かを発見した。
少し開いた引き出しを開けると引っ掛かったように挟まっていた一冊のノートが入っており、そのノートを手に取る
響子がなに食わぬ顔でパラパラとノートを捲り、その手があるページで止まった。
「…………あのさ」
ノートを見つめたまま小林に話し掛けた響子に驚きながらもはい、と答えると無表情で話を続ける
「何か気づかない?」
「何かって?」
小林は響子の問い掛けで周りを見渡してみたが、物が少ないなと思いますけど……と呟けば、響子は呆れたように溜め息を漏らす
「物が少ないんじゃない。少なすぎる。冷蔵庫はあるけど、他の調理機材はない。テレビはあるけど商売道具であろうパソコン等のデジタル機材が見当たらない。パソコンがない時点でおかしいと思わないの?」
本当に分からなすぎ、と一言最後に言い残すと眺めていたノートを閉じて、小林に無言で手渡した。
いきなりノートを手渡されて戸惑う小林に、それ係長に渡しといて、とだけ告げて写真立てに入っている写真を取り出して、それを懐に入れた。
そして呼び止める小林の声に応えることなく、部屋を無言のまま出ていった。
響子が出ていった部屋で一人周りをまた見渡す小林は、響子に言われた事を思い出していた。
思い起こせば、たしかに独身ではあるがそれにしても物が少ないと思う。なんて思った小林はなぜか悔しさを覚えた。
握り拳を力強く握ると響子の後を急いで追いかける
携帯で被害者の部屋で証拠になりそうなノートを見つけたことを係長に伝えながら……