アルコール
第17話
アルコール
親衛隊がいなくなり、ようやく教室に着いた。
「何だったんだろうね、さっきの人たち」
「蓮君は何かわかる?」
と、咲夜が聞いてくる。うん、僕にもわからない。怖いとは思わないんだろうけど、それは、すずちゃんと、恋雪ちゃんを含めれば別の話だ。あの2人、思いっきり、僕の背中に隠れてたもの。まあ、そうだよね。ただ、これだけは言っておこう。
「男には、色々あるんだよ」
と。
「・・・何も、されませんよね?」
「・・・多分」
「ふぇぇ・・・」
と、泣き出しそうになっている、すずちゃん。あいつらは・・・。
「大丈夫だよ、何かあったら、僕がみんなを守るからさ」
あいつら、何やらかすかわからないしね。ここは、男である僕が、みんなを守らなきゃいけない。
だが、それを言った途端、3人が顔を赤くする。
「どうしたの?」
「いやー・・・その」
「蓮君がそんなこと言うとは思わなかったのよ・・・」
「・・・ちょっと、恥ずかしいですぅ・・・」
「え!?僕が言った言葉って、そんなに恥ずかしい・・・?」
いや、たしかに、ちょっとキザっぽいけども。そういわれると、結構ショックだ・・・。
「い、いえ!そういうわけではないんです・・・ただ、なんといいますか・・・」
あ、やっぱり・・・変だと思われたのか・・・。そう考えて、自然と肩を落としてしまう。
「・・・蓮君、大丈夫?」
「・・・もうダメかもしれない・・・というか、立ち直れない・・・」
「蓮、諦めちゃだめだよ!」
「桜姫・・・」
「何かはよくわからないけど!」
「ごはぁ!」
その言葉、せめて、胸の内にしまっといてくれよ・・・。
この日の朝は散々だった・・・。
「やっと、昼か・・・」
なぜだろう、すごく長く感じたよ・・・。その原因といえば、例の親衛隊である。だってさ、あいつら休み時間のたびに来るんだよ?こっちとしては、たまったもんじゃないよ・・・。
にしても、まさか、親衛隊なんてものがあるとは思わなかったなぁ。ああいうのって、マジモンのアイドルとかにある奴なんじゃないのかな?・・・まあ、みんながアイドル顔負けの容姿を持っているから、変ではないと思うけどさ?にしたって、やりすぎだと思う。
「蓮、会長にお弁当届けに行かないの?」
と、考え事にふけっていると、桜姫が話しかけてくる。
「あー、そうだね・・・」
疲れた体に鞭打って、椅子から腰を上げる。
「それじゃ、ちょっと行ってくるよ・・・」
にしても、だるい・・・なんというか、いつもより体が重いんだよなぁ・・・。
同時刻——3-G
「む、しまった・・・お弁当を置いてきてしまったか・・・」
まいったな、昼を食べないと、午後の授業に支障が出てしまう・・・。さすがに、パンを買いに行こうにも、今から行ってもコッペパンぐらいしか買えないだろうからな・・・。ここの購買は、毎日が戦争だからな。チャイムと同時に行かないと、負けてしまう。最近、といっても、本当に最近だが、蓮がお弁当を作ってくれるから、購買にはいかなくなったが、よりにもよって、忘れてしまうとは・・・。
「どうしたものか・・・」
そう思ったところで、
「あ、いた。心ー!」
「む?」
「心、お弁当おいてきたでしょ?持ってきたよ」
本当は、こういうことは、人前では言いたくないんけど、この際仕方ない。むしろ、いきなり下級生が入って来て、それも、生徒会長のもとに行き、小声で話すほうが、とてもめんどくさい気がする。
「おお、ありがとう、蓮」
「いいよ。それよりも、早く行こう。みんな待ってるし」
「そうだな」
『・・・あいつか』
『ああ、そうだな・・・』
『どうする?今ヤるか?』
『・・・いや、どこかで仕入れた情報なんだが、あいつ、年上の男3人を倒しちまったらしい』
『なるほど、機会をうかがえってわけか・・・』
・・・なんか、凄く物騒な話をしてらっしゃる・・・。
どうしよう、凄く怖い・・・。
「大丈夫だ。私がそんなことをさせないから・・・」
と、耳元でささやいてくる。あ、気付いてたんだ、今の会話・・・。でもなぜだろう?すごく、心強いや。
「ちなみに、もしそうなったらどうするの?」
「・・・」
「うん。やっぱり、聞かないでおくよ」
無言なのは逆に怖い。しかも、若干うすら笑いを浮かべてますし。一番怒らせちゃいけない人なのかな?
「みんな、おまたせ」
「あ、おかえり、蓮。会長も」
中庭に来ると、すでにみんなが集まっていた。ちなみに、この学園にある中庭で、僕たちはいつもお昼を食べている。この季節は暖かいからね。外で食べる方が良いって、桜姫が言ってた。それ自体は賛成だけどね・・・それ自体は。
「はい、あーん」
これが1回目。
「はい、次は私ね。はい、あーん」
続いて2回目。
「つ、次はわたしです。その・・・あ、あーん」
3回目。
「その次は私です。あーんです」
4回目。
「最後は、私だな。ほら、あーん」
5回目。
そう、毎回お昼を食べるたびに、ここにいる5人に「あーん」をされている。一人一回ずつなのは、せめてもの救いだが、一回でもかなり恥ずかしい。漫画とかラノベの主人公を見ているときに、うらやましいなぁ、とは思ったことがあるが、実際それをやられてみると、結構恥ずかしい・・・。というか、ハードルが高い。でもさ、これ、みんなが作ったのなら、もう少しはドキドキするんだけど・・・僕が作ったやつだからなぁ。なんともいえない。
ま、この中庭は、穴場らしく、人が少ない。そう、少ない。ただ、全くいないというわけではないので、誰かしらいる。ただ、幸いなのは、いるのが女子しかいないことだ。ここに、男子生徒が居ようものなら、僕は殺されていたことだろう。
・・・今日は、隼と帰るか・・・。
「今日は先に帰っててくれ」
「あれ?蓮、何かあるの?」
「ちょっと、用事がね。だから、今日は悪いんだが、一緒に帰れないんだ。ほんと、ごめん」
「そっか、ならしょうがないね。わかった、みんなには私が伝えとくよ」
「ありがとう」
さすが幼馴染。考えを理解してくれてこっちとしても助かるよ。
「なあ、隼」
「なんだ?」
帰り道、隼と一緒に帰っていて、思っていることをこの際だから、話してしまおうと僕は思った。
「正直、疲れたよ・・・」
「どうしたんだ?急に疲れたって・・・しかも、こっちに帰ってきてから、2週間程度しか経ってないだろ?それなのに、一体何に疲れたんだ?」
「・・・あの5人に疲れた」
「あー・・・」
ハッキリ言って、すごく大変なんだよ。帰って来たばっかで、少ししか経っていないのに、急に6人で住むだよ?正気のざたじゃないよ・・・。
「でもさ、具体的に何に疲れているんだ?」
「・・・一緒に住んでるじゃん?」
「そうだな」
「当然、生活空間が同じなわけだ」
「まあ、一緒に住んでるしな」
「でね?家事を全部任されてるわけだ」
「そうなのか」
「当然、洗濯も含まれている。そうすると・・・」
「・・・あ、そういうことか・・・ようは、下着か」
どうやら、察してくれたみたいだった。
「その通りなんだよ・・・あれさ、全部僕の仕事なわけだから、洗わなきゃいけない。あれを見たとき、こう思ったんだ。『あの5人の、使用済みの下着・・・これで、〇〇〇〇したほうがいいのかな?』と」
「・・・お前、この7年何があったんだ?」
「・・・人間、7年あれば変わるのに十分な時間だと思うんだけど」
「いや、正直7年で、親友が変態に成り下がっているから、何とも言えないんだけど・・・」
うん、それは僕も認めよう。
「だってさ?僕は、7年の間で、家事を毎日していた。そうすると、ストレスがたまるじゃん?」
「そうなのか?」
「それでさ、たまりにたまったストレスが、ついには大噴火を起こし、最終的には——変態仮面になっていた」
「ちょっとまて、お前、変態仮面はないだろ・・・」
「仕方ないじゃんっ!僕だって、好きでこんなことをしてるんじゃないやい!でもさ?これを誰かに言うわけにもいかないじゃん?ましてや、こっちでの知り合いって、隼と母さんと優奈含めて、8人だよ?限りなく少ない上に、隼以外全員女じゃん!どうしろって言うんだよ!」
胸の内に秘めてい事が、自然と吐露していく。あー、やってしまった・・・。これで、僕が変態として広まっていくんだろうなぁ・・・。
「・・・ちょっといいか?」
「・・・なんだよ?」
「・・・酒飲んでる?というか、アルコールでも摂取した?」
「・・・まったく」
「でもお前、顔真っ赤だぞ?」
「・・・え?」
そう指摘され、自覚した瞬間、急に視界がぼやける。さらに、体の感覚がなくなり、やがて倒れこんでしまった。そして、そこで意識は暗転。この間に何があったのだろうか?目を覚ました時は、僕の部屋だった。
あとで聞いた話だけど、どうやら、心の弁当にのみ、アルコールが混じっていたらしい。なんで?
こんにちは、妖夢です。
今回、時間が空いたので、短めで終わらせられる、こちらを書きました。正直、ダンボールの方は、1話がやたら長くなってしまうので、どうしても時間がかかります。少なくとも、2、3日はかかる事でしょう。
何とか出せてよかったです。これからは、受験勉強も大事ですけど、時間が空いたら、ちょくちょく進めることにします。
では、また次回。