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世界の歯車が軋む音  作者: 黒白 オセロ
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05 フォレント村

 暁仁が民家の中に入るとリーシャと老人がテーブルを挟み座っていた。

 中は思ったより広く感じた。中央にテーブルそれを挟むよ様に椅子がおいて有り、壁際にはタンス収納や釜戸に水瓶、花や装飾品が飾ってある。ドアの類が見当たらないので部屋はこの一部屋だけのようだ。

 一通り確認していると老人が暁仁に声をかける。


「どうかなさいましたか?」

「え? ああいや、少々珍しい作りの部屋だと思ってな」

「ホッホッホ、そうでしょうな。なんせワタシの趣向でして、広々とした空間にしたかったのですじゃ。ささ、何のお構いも出来ませんが、どうぞお掛け下さい」


 老人に勧められ、暁仁はリーシャの隣に腰かける。何のお構いも出来ないと言っていたが、テーブルにはお茶が用意されていた。

 暁仁はそのお茶を警戒気味に睨む。しばらく睨み続けるとあっさり警戒解き、一口お茶を含んだ。麦茶のような味わいが口の中に広がる。


「改めて。ワタシはフォレント村の村長を務めております、フェルティオと申しますじゃ」


 フェルティオを名乗る老人。毛のない頭。対照的に顎髭と眉毛は長く、眉毛で目が隠れている。古いローブを着て、椅子の脇に杖が置いてある。どことなくRPGロールプレイングゲームの村長を連想させる風貌だ。

 暁仁も村長に簡単な自己紹介をした。


「さて、シンタニ殿はワタシどもの村の手助けをしてくれると聞きましたが……」

「ああ、俺に出来る事なら手伝おうじゃないか」

「ありがとうございますじゃ」


 暁仁の言葉に村長は深々と頭を下げる。確かに村の現状を見ると色々大変そうだ。働き手となる男性を見かけなかったし、人手が必要なのだろう。

 テーブルに肘をつけ口元で手を組み、暁仁は目を伏せる。


「その前に聞かせて貰おう。俺に何をさせたいのか、この村の現状とその経緯について」


 暁仁が言うと、村長は頷く。そしてゆっくりと話し始めた。


「……数週間前、村は盗賊に襲われたのですじゃ」

「盗賊?」

「はいですじゃ。盗賊は家を壊して回り、盗みを働いたのですじゃ。盗賊に立ち向かった者達の殆どは連れ去られてしまいました」

「それを警察には?」


 言ったのか? と暁仁は問う。すると村長は困ったように首を傾げた。

 

「ケイ、サツ……?」

「警察だ、警察。ポリスメン! 器物破損に窃盗、挙句誘拐とか国が黙っちゃいないだろ?」

「国、ですか? いえ、盗賊程度で国は動きませんよ」


 その言葉に暁仁は呆気に取られる。

 盗賊がいるのも驚きだったが、これだけ暴れられて動かない国があるのだろうか。いや、紛争地域ならそれもあり得るかもしれない。

 暁仁は考えを改め、話の続きを聞くことにした。


「……続きを頼む」

「村人は樹海に避難して、しばらくすると盗賊は去っていきました。残された村の者達で協力して何とか今日まで生きてきましたが、働き手がおりませんゆえ、そろそろ限界が来ていますじゃ」


 そう言って村長は項垂れる。

 状況はかなり深刻そうである。人手不足に物資不足、精神的なダメージも大きいだろう。

 先ほどからかった少年が脳裏に過ぎる。


(良心が痛むな、後で謝っておくか。フッ、俺もまだまだ甘い……)

「近々また盗賊がやってくるというのにこれでは……」

「はぁ!?」


 暁仁が心の中で誓うと同時に、村長がとんでもない発言をした。


「なぜだ!? 村の現状を見るにもう盗れるものなんかなにも無いのに!?」

「それは……」


 そこで何故か村長は言い淀む。その続きを答えたのは今まで黙っていたリーシャだ。


「盗賊の狙いは私よ」

「……どういう事だ?」

「盗賊が村を襲った時、私はずっと村にいたのよ」

「ずっと……? という事は」


 盗賊が村を襲った時、村人はファルリナ樹海に逃げていたと村長は言った。とするなら、その時村にいる理由は逃げ遅れたか、盗賊と戦っていたかのどちらかという事になる。

 確かにリーシャの持つ弓の技術なら野党集団にも遅れはとらないだろう。その上もし魔術が使えるなら確実に負けはない。


「なるほどな、でもなんでお前を狙ってまた来るってわかるんだ?」

「盗賊が逃げる時言ってたのよ。『マサ様にはお前のような人材が必要だ。次に来たとき必ずお前を献上する』って」

「なんだ、その捨て台詞は? フッ、センスの欠片も感じられないな」


 全くお笑いだ、と暁仁は言う。リーシャもそれに同意して笑みを浮かべた。が、内心不安なのか少々ぎこちない。

 一通り説明が終わり話は頼み事へと移行する。


「シンタニ殿、村の状況は理解してもらえたと思いますじゃ。それでシンタニ殿に依頼したいのは――」

「みなまで言うな、大体察した! つまり村が再度襲撃された時、この俺が村を守ればいいんだろう?」

「……いえ、違いますじゃ」

「え? 違うの?」 


 暁仁のドヤ顏の回答をあっさり否定する。


「……な、なら、俺が盗賊のアジトを突き止め強襲し――」

「そんなわけないでしょ」

「そんな危険な事、出会って間もない方にさせられませんですじゃ」


 またしてもあっさり、それも二人そろって否定された。

 流石に暁仁も意気消沈し、ガックリと項垂れる。


「なら何をさせるつもりだ?」

「先ほども話した通り、村は働き手が居らず生活が困難になっておりますじゃ。何分小さな村なので人数も少なく、何とかやりくり出来ていましたが、もう食べるものが底を尽いていますじゃ。そこで、シンタニ殿には食料を提供していただきたく思いますじゃ」


 そう言って、村長は再び頭を深く下げる。


「食料提供って、俺は食べ物なんてもってないぞ?」

「大丈夫、私が樹海に狩りをしに行くから、あなたはその手伝いをしてくれればいいわ」

「……それならいいが、俺はどのくらいの期間手伝えばいいのだ?」

「一週間ほどお願いしますじゃ。それまでには到着するはずですゆえ……」


 一体何が到着するのか、暁仁は疑問に思ったがそれを飲み込んだ。別に知らなければならない事ではない。無駄に首を突っ込めば今異常に巻き込まれるに決まってるのだ。

 暁仁はその条件で依頼を了承した。村長がまたしても深々と頭を下げる。

 必至に暁仁を捕まえ、逃げようとすれば弓で脅し、やけに深刻そうにしていたから何事かと思えば「狩りの手伝いをしてくれ」というお願い。確かに現状は悲惨で村からすれば死活問題だが、暁仁からすれば拍子抜けの内容だった。

 暁仁はようやく肩の荷を下ろし、お茶の入ったコップを手に取った。


「フッ、それにしても不可解な盗賊だ。確かにリーシャの弓の腕は群を抜いているが、それだけが欲しがる理由とは思えん。……リーシャはどう考える?」


 何気なく疑問をぶつけ、暁仁はお茶をあおる。

 実のところ暁仁はリーシャが魔術師ではないかと疑っている。それも異端の“はぐれ”ではないか、と。

 裏の世界にもルールはあり秩序がある。それは、魔術という表社会に存在しない技術を不用意に使用し、明るみに出すことを阻止する為にある。魔術を扱うものはその技術を悪用しないよう、公式の魔術組織に所属し管理される必要があるのだ。

 “はぐれ”とは、そんな魔術組織に所属しない魔術師の事を指す。これは即ち力の制限がない事を意味する。いつ、どこで、どんな魔術を行使したのか記録が残らない。その為、下手をすれば隠れて世界を滅ぼす、なんてことも出来る訳だ。まあ、そんな大魔術を行使するにはかなりの痕跡を残すので大体阻止されるのだが、それでも小さい事なら思うままに操作出来てしまう。それを許すほど裏の世界は甘くない。

 暁仁は探りを入れる意味でも聞いていた。


「それは私が魔法を使ったからだと思うわよ」


 口に含んだお茶を盛大に噴出し、テーブルに崩れ込んだ。それを見て村長は慌てて布を取りに取りに行っき、リーシャは何とも言えない表情を浮かべていた。

 暁仁の当然の反応と言える。リーシャは自分が魔術師であると暴露したのだ、それも何者かもわからない暁仁に堂々と言ってのけた。はぐれの狂人共でもそんな真似はしない。すれば忽ち足が付き即刻処分されるのは見るよりも明らかなのだから。

 奇跡を操る魔術師であれば例え裏のルールに疎い人間でもそんな馬鹿な真似はしない。するはずがない。


「こいつ、ことごとく俺のペースを乱して来やがる……」


 暁仁が忌々しげに呻くが当の本人には届いていない。


「何やってんのよ、全く。そんなに驚く事でもないでしょ? 実際にさっき見せたじゃない」

「いやいや、そう言う問題じゃない……。お前のそれは天然か?」

「何よ、私が魔法をつかえちゃいけないって言うの?」


 リーシャは心外そうに顔を顰める。暁仁は体を突っ伏したまま会話を続けた。


「違う違うそうじゃない。仮に使えるとして、いや使って盗賊を撃退したとしてなぜそれを簡単に喋るのかと……」

「何言ってるの? “冒険者”なら初級魔法くらい誰だって使えるわよ」


 リーシャが呆れたように言った。


「……ごめん、今なんて言った?」

「え? だから、初級魔法くらい誰だって使えるわよって」

「違う、その前」

「何言ってるの」

「ベタな事してんじゃねぇよ。そのあと」

「……冒険者なら?」

「冒険者ってなんだ! 探検家の間違えじゃないのか? 今時どこを冒険しようってんだ!?」


 バン! っとテーブルを叩き、血相を変えて暁仁がリーシャに詰め寄った。額に脂汗を浮かべ必至の形相にリーシャは腰を引く。村長も暁仁が吹いたお茶を片づける手を止め暁仁に注目していた。


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。一体どうしたの?」

「いいから答えろ! 冒険者とは何だ!? どういう連中だ!?」

「……ぼ、冒険者は、ギルドからの依頼で魔物討伐を主な生業とする実質何でも屋よ。特定の拠を構えず世界を転々として冒険するから冒険者って呼ぶようになった、と言われてるけど……?」


 困惑気味に答えるリーシャ。説明を聞き終えると暁仁はゆっくりと定位置に戻り、目を伏せ思考する。

 突然暁仁の様子が変わったのは、リーシャが“冒険者”という単語を口にしたとき、父親から聞いたとある話を思い出したからだ。

 暁仁の中で最強の魔術師たる父親に今まで一番苦労した任務は何か、と聞いた時の事だ。初めは父親も話すのを渋っていたが、暁仁があまりにもしつこく聞いたのでぽつりぽつりと話し始めた。

 何でも、とある危険思想の魔術教団が異世界の神の召喚を試みて失敗、異世界から神とは別の凶悪な何かを呼び出し街一つ滅ぼしかけたとか何とか。父親と他数名の腕利き魔術師によってその場は何とか抑えたが、生き残りは父親を入れて三人だった、とぼやいていたのを記憶していた。それを異世界の代名詞である冒険者の単語を聞き思い出したのだ。

 今の今まで忘れていたが、裏を返せば異世界は存在するという事になるなるのではないだろうか。それも別世界の神に接触しようとする程研究が進んでいると見ていい。

 暁仁はあの転移魔術について考える。


 あの魔術は相手を転移させるには少々使い勝手が悪い。あの場にあった扉を開けた瞬間、転移魔術が発動したように暁仁は感じた。つまり扉を開けなければ転移させられないのだ。扉を開けず術を解除すれば元の場所に出ることができただろう。そんな不確定な魔術があの場で使われるとは思えない。だが、あの魔術が暁仁を転移させるのが目的ではなかったとすれば……?


 転移された後について考える。


 見たことのない猿のような生き物。よくよく考えればあんな生き物が地球上に存在しただろうか? それにリーシャは日本という国を知らず、暁仁を異国人と言った。しかし、彼女らが喋っている言葉は紛れもない日本語に聞こえる。口の動きも不審な所はなく、暁人自身に自動翻訳するような魔術に掛かっている形跡はない。そして国の名前、魔術への認識、冒険者という職種、魔物の存在……。


「なるほど、俺は剣と魔法のファンタジーの世界に転移したというわけか……」


 真剣な表情で微動だにしなかった暁仁が呟くと同時に笑みがこぼれた。


「未知の魔術や秘術が俺の前に立ちふさがり、元の世界に帰れるかもわからぬ孤独な旅を強いられる。……フッ、これが神の試練か」


 暁仁が浮かべる不敵な笑みの意味をリーシャと村長の二人は知る由もない。

大分強引過ぎたかな?

物語りの導入って思った以上に難しい。

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