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世界の歯車が軋む音  作者: 黒白 オセロ
3/7

02 助けてください

第二話にして初戦闘!

果たして結果は!?


PS、一話の魔術の呪文を一部改変しました。

 これは、予想外だ。いや、予想しろという方が難しいだろう。

 深谷暁仁は不運な男である。いくら慎重に注意深くしていても厄介事に巻き込まれる。行動が裏目に出て人前で恥を晒すなどしょっちゅうだ。しかし今回は度合いが違う。

 正式な魔術師が壊滅させた魔術教団跡地で回収し損ねた魔導具をとってくるだけの簡単なお使い。下手をすれば一般人でもこなせる仕事なのだ。それが蓋を開ければどうだろう。やる事全てが裏目に出て無駄にダメージを負い、目的のものを回収したと思ったら猫の刺客に襲撃され、挙句の果てに高度数千メートルからスカイダイビング、気付いた時には天地がひっくり返っていた。

 今暁仁は足が木に引っ掛かりぶら下がっている状態だ。一体何がどうなってこんな状態になったのか分からないが、二つに分かれた太い枝にうまい具合に右足が挟まっている。


「ほっ! この! ぐぬぬ、だめだこりゃ……」


 どうにか足を外し地面に降りようと試みるが、枝ががっしり足を掴んで離さない。枝を折るには少々太く、切ろうにも道具がなく、それ系統の魔術も知らない。

 鞄があれば何か出来るかもしれないが、スカイダイブの時に落としたらしく辺りにそれらしき物はない。あったとしても中から物を取り出せたかは疑問だが。

 早々に諦めて力なくぶら下がる暁仁。


「くそ、一体どうしろってんだ……」


 辺りは見渡す限りの木。恐らく森の中に落ちたと思うが、上空から見た時かなりの広さだったと記憶している。もし深い場所に落ちたとすれば人が通りかかる可能性はほぼない。


「組織の助けを待つか? いや、俺程度が行方しれずになっても捜索するはずがないかぁ。でも親父なら……いやいや、仕事でそれどころじゃないはず……やばい絶望的すぎて泣きそう」


 暁仁の目尻に涙が溜まる。廃ビルでの元気はもうどこにもない。

 あの時かかった魔術は恐らく転移系統の魔術だろう。暁仁を強制的にどこか別の場所に飛ばしたと考えられるが、上空からの景色からして国外に飛ばされた可能性が高い。

 相手を飛ばす転移魔術にしては少々使い辛いような気もするが、魔術の情報が圧倒的に不足している以上考えても無駄である。

 どう足掻いても絶望。そんな暁仁の不運は続く。

 今にも涙を流しそうな暁仁の目は微かに動く黒い影を捉えた。


「うん?」


 目尻に溜まった涙を拭い、辺りを注意深く見渡した。

 再び何かが動き、その姿を見る事が出来た。

 クリーム色の短い毛並みと長い尻尾。熱帯地域に生息する猿を連想させるが、別の何かだ。のこぎりの様な鋭い歯と黒と黄色の大きな目がそれを物語っている。その歯は明らかに果物や草食べる為の者ではなく、その目は自分を獲物として見ていることが暁仁にはわかった。

 そいつ以外に動く気配が多数ある。確実に狩の陣形だ。

 暁仁は背筋にひんやりとしたものを感じ、苦々しい笑みを浮かべる。

 状況は非常にまずい。が、慌てるようなことはしない。冷静に、状況を見て、出来ることを“準備”した。

 猿モドキが移動し、枝木が揺れ木の葉がざわめく音が耳に届く。それは徐々に暁仁に近づき、包囲する形で動きが止まった。

 どうやら一斉に襲い掛かってくるつもりはない様だ。三匹ほど目と鼻の先まで接近している。

 そして、何の前触れもなく猿モドキの一匹が暁仁に向かい飛び掛かる。それに合わせて暁仁が指を――


 バシュン――ッ


 鋭く風を切る音と共に矢が飛んできた。

 矢は猿モドキの毛先をかすめ、驚いた猿モドキが暁仁から距離を取る。

 暁仁も驚き、矢の飛んできた方向に目を向ける。そこには弓を構えた少女が立っていた。

 少女が新たな矢を取り出し弓を引く。猿モドキは動きを止めた。

 時が止まったかの様な錯覚が起きる。その場で動くものはいなかった。少女と猿モドキは勿論、風も草木も暁仁も動かない。動くと場の空気が崩れる気がするからだ。

 しばらく両者が睨みあっていたが、やがて猿モドキの一匹が短く鳴くと一斉に逃げて行った。

 瞬間ため息と共に安堵が洩れる。


「た、助かった……」

「そこのあなたー、大丈夫ー?」


 少女が弓をしまい暁仁に声をかける。


「フ、余計なことを、あの程度俺一人で切り抜けられたさ」


 暁仁の悪い癖が出た。

 腕を組み口角を釣り上げながら言う。宙ぶらり状態では滑稽そのものだ。


「そう、じゃあ私はこれで」

「え? ああちょっと!」

「……なに?」


 去ろうとする少女を引き留める。

 折角通りかかった人だ、これを逃すと次はいつになるか分からない。もしかしたらもう来ないかもしれないし、来る前に猿モドキやそれ以上の脅威に殺されるかもしれない。

 要するにみすみす逃すわけにはいかない。助けてもらわなくてはならないのだから。


「いやなに、ちょっとしたトラブルでな、降りられんのだ。協力してくれないか?」

「……さよなら」

「ああ、待って。ごめんなさい、ガチで降りられないんです! 助けてください、何でもしますから!」

「何でも……?」


 暁仁の本気の懇願に少女は立ち止まり小さく呟く。少し考えるような仕草をした後、徐に暁仁に向かって弓を構えた。


「へ?」


 呆気に取られる暁仁だったが、そんな事お構いなしに矢が放たれた。

 矢は風を切り、暁仁の足元、枝を根元から断ち切り、そのまま空の彼方へと消えた。

 残された暁仁は重力に逆らうすべもなく頭から地面に落ちる。地面とキスするのは今日二度目だ。


「うぐぅいてぇ、鼻が潰れるぅ」


 顔を抑えてうずくまる暁仁。鼻が妙に熱く尋常じゃなく痛い。

 そんな暁仁に少女は近づく。

 人に恥を晒すはしょっちゅうだが、これ以上の醜態は暁仁のプライドが許さない。ただでさえ今日はいいところがないのだ。ここはビシッと決めたい。

 暁仁は立ち上がり、涼しい顏で礼を言う。


「よう、少々乱暴だったが助かったぜ、礼を言う」


 セリフはビシッと決める。が、途中で鼻血が垂れるアクシデントが発生。どうやら今日は本格的に厄日の様だ。

 そんな暁仁の醜態を無視し、少女は笑顔で暁仁の肩を掴む。


「じゃあよろしくね」


 そう言うと暁仁の肩を掴む手に力が入る。逃がさないという意思が痛いほど暁仁に伝わってくる。


「いっ!? な、何のことだ?」

「とぼけないで、言ったでしょ? 『何でもする』って」

「え、いや、確かに言ったが……」


 そこまで言って暁仁は気が付いた。少女は笑顔であるが目が全く笑ってない。これは本気で何でもやらせる気の目だ。

 少女に危機感を覚えた暁仁は肩を掴む手を振り払うと、踵を返し走りだす。


「あ、ちょっと……!」


 少女が慌てた声を出すが知った事ではない。

 助けてもらった恩はあるがそれとこれとは別である。ちょっとした手伝いくらいならやってもいいが、あの目はそれ以上の事を要求しようとしている目だ。

 

「悪いが全力で逃げさせてもらう。さらば名も知らぬ少女よ!」


 暁仁は運動能力には自信がある。毎日修練を積んでいるし、スピードもスタミナも一般高校生より頭一つ飛び抜けているのだ。そこらの少女に追いつけるはずもない。

 逃げ切る自信はあった。しかし、暁仁は忘れている。

 今日は厄日であるという事を……


 シュンッ――


 空気を切る音と共に顔すれすれを何かが通り過ぎた。目の前の木に矢が突き刺さる。

 暁仁の足は自然と速度を落とし、やがて止まる。恐る恐る後ろを振り向くと、すでに少女が第二射を構えていた。少女の作った笑顔が「次は当てる」と語っている。

 暁仁は首をゆっくりと戻す。丁度自分の頭の高さに刺さった矢が「警告は一度だけだぜ?」と言っているような気がした。


「……フッ」


 暁仁は肩をすくめ、やれやれと首を振る。

 どうやら魔術師見習いである暁仁にそんな脅しが通じると思っているらしい。仕方ないので暁仁は奥の手を見せることにした。

 暁仁はゆっくりと、少女に分かるように手を頭の後ろに組み、地面に膝を付く。

 突然の行動に少女は怪訝に首を傾げた。


「……何のつもり?」

「見てわからないのか? なら教えてやるよ。……降伏だ」


 暁仁は堂々宣言した。

暁仁「だめだ、7時半に親父の約束があるんだ!付き合えない」

少女「今日は休め」

暁仁「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ.......... 」

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