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世界の歯車が軋む音  作者: 黒白 オセロ
2/7

01 魔術師見習

 町はずれの廃墟ビル。とある理由により放置され、人が立ち入らないように柵の入口には黄色いテープで規則線が張られている。

 そんな廃墟ビルの前に高校生が一人立っていた。


「……ここか」


 黒髪黒目、顔はそこそこで含みのある笑みを浮かべている。市内の高校が指定する紺のブレザーを羽織り、自前の黒いネクタイを締め直す。肩に背負った鞄から学校指定のネクタイがはみ出ていた。

 かっこつけようとしているように見えてかっこつかない残念さがにじみ出ている。


「確認しよう。今回俺がやることはこの廃墟同然のビルからブツを奪取。その際抵抗する戦力は排除して構わない。そうだろう?」


 少年の言葉は誰にも届かない。ここに少年以外の人物は居らず、別に誰かと通信しているわけでもない。完全に少年の独り言である。

 因みに少年の確認した内容も間違いがある。この廃墟ビルに抵抗戦力どころか人っ子一人存在しない。

 それでも少年はあくまで誰かと話している体で続けた。


「オーケー、あくまで隠密行動だな、わかっている。……ナンバーα、これよりミッションを開始する!」


 そう言うと地面を強く蹴る。少年は規則線を越えるべく見事な跳躍を見せた。が、高さが足りずテープ足を取られた。


「えっ?――へぶご!」


 少年は呆けたような声を出し、そのまま地面にヘットバットを決めた。

 短い悲鳴のような呻き声を上げ、少年は動かなくなった。

 しばらくしてゆっくりと立ち上がる。


「ま、まさかこんな所に、トラップを……あ、侮れんな。ここは一つ、慎重に行動した方がよさそうだ」


 誰もいない廃墟で一人茶番を繰り広げ自爆した哀れな少年、深谷しんたに暁仁あきひとが廃墟ビルに向かい歩き出す。

 なぜ高校生である暁仁がこんな廃墟ビルに一人で来たのか。それは彼が残念な頭をしているから、というわけではない。暁仁の所属する組織に依頼されたからである。

 深谷暁仁が所属するのは裏世界の魔術組織。魔術という奇跡を操り、裏世界の闇をコントロールし世界のバランスを保つ為の秘密組織、魔術(magic)協和(puts)連合(federation)、通称MPFだ。暁仁がそこに所属するのは彼の父親がそこの幹部だからだったりする。そして暁仁は魔術師見習いであり、ちょくちょく組織からお使いを頼まれるのだった。

 依頼内容は元魔術教団支部だったビルに隠された魔導具――魔術的作用、呪い、補助がある道具――を回収する、という内容だ。


「内部はもぬけの殻、か。俺の魔力を感知して逃げ出したようだな。フ、たわいない……そうと分かればとっととブツを回収して終わらせよう」


 ビル内部は瓦礫やガラスが散乱し、場所によっては鉄骨が剥き出しになったり床が抜けていたりしていた。

 暁仁はそれらを一瞥すると関係ないとでも言いたげに躊躇なく進んでいく。

 踏み込んだ瞬間、何かが崩れるような音がした。と同時に暁仁が床を蹴り跳躍する。先ほどまで暁仁がいた場所が音お立てて崩れ落ちた。砂埃が舞う中見事着地した。


「フッフッフ、もぬけの殻だからと言ってトラップがないとは思っていないさ。もうこの俺に油断はなゲフッゲフッ!……砂すっご、ゲフッ」


 砂埃に咳き込みながらも前に進む。

 視界が悪くなった分足取りは慎重になったが、進む速度は変わっていない。見習いとは言え魔術師である暁仁にこの程度の視界不良は大した脅威ではないのだ。

 あてもなく動き回っているように見える暁仁だったが、開けた場所に出た時その足を止めた。

 そこには何の変哲もない壁があった。

 しばらくの間暁仁はその壁を見つめ、やがてニッヤリと笑みを浮かべ手を添える。


「―Counterfeiting released―(偽装、解除)」


 暁仁小さく呟くと何の変哲もない壁に四角い穴が開く。


「ククク、これで隠したつもりか? 彼方此方ボロボロで崩れているのにここだけ壁が綺麗すぎるぜ?」


 暁仁が得意そうに笑う。

 四角い穴の中を覘くと封筒が一枚とアクセサリーが二つ入っていた。


「あれ、二つ……?」


 封筒と二つのアクセサリーを手に取り眉を顰める。アクセサリーは紅い宝石の着いたネックレスと内側に何やら文字の彫られた腕輪だ。

 暁仁はその二つを凝視する。


「……こっちだな!」


 そう言ってネックレスを握り、残りをポケットの中にしまった。


「ターゲット回収、これにてミッション完了。この程度、俺にとって造作もない。クク、クフフ、フハハハハハハハハハ!」


 調子に乗って高笑いする。直後背後で物音がした。


「はうわ!?」


 驚きのあまり飛び上がり、ネックレスが手からこぼれ、素っ頓狂な声が口から洩れる。

 すぐさま背後を確認すると黒猫と目が合った。

 黒猫は「ニャー」と一回鳴くと何事もなかった様に歩いて去って行った。


「……は、ははは、ネコか」


 安堵のため息を吐いた直後、暁仁に違和感が生まれる。


(ネコ? なんでこんなところにネコがいるんだ?)


 廃墟に猫がいることは別に不思議ではない。猫は身軽で人の寄り付かない廃墟に住み着くことはよくあるのだ。だが、今この場所は訳が違う。

 瓦礫やガラスは散乱し、ちょっとした衝撃で床や壁は崩れる。いくら猫が身軽だといえこんな危険が多い場所にわざわざ住み着くだろうか?

 暁仁の違和感が疑問に変わった時には手遅れだった。思考したのは精々数秒。だが魔術師にとって数秒のロスは命取りになる。

 暁仁の足元で強烈な光が放たれた。

 光の元は暁仁の落としたネックレスだ。


「ぐっ!」


 暁仁は手で目を庇いそのまま光に飲まれた。

 やがて光は弱まる。暁仁が恐る恐る目を開けると、そこは先ほど居た廃墟ビルではなかった。

 見渡す限り黒、暗闇。自分がどこに立っているのかすらわからない。光で目をやられたのかと思ったが、自分の手や体は見る事が出来る。そして何より目の前に異質な扉が存在していた。


「……クッ、獲物を手に入れた一瞬のすきを狙うとは……敵の中に切れ者がいるようだな。油断したぜ」


 余裕そうなセリフを吐くが、実際は余裕がない。

 恐らくあの猫だ。現れたタイミングやあの場の状況が全てを物語っている。そして先ほどの光はネックレスから放たれていた。つまり魔導具を使った魔術にやられたことになる。見習いの暁仁に魔導具を使った魔術の予備知識ない。あの場で得られた情報もない。

 このままではまずい。暁仁の頬を嫌な汗が流れる。

 いくら考えても知識がない以上解決法は見つからない。なら出来る事をやるしかない。


「いいだろう! この魔術、真正面から打ち破って見せるよう!!」


 一か八か、鬼が出るか蛇が出るか。暁仁は目の前の怪しい扉に触れた。

 ギギギと重い音を響かせながら扉が開く。と同時に暴力的な風が暁仁を扉の外に出そうとする。


「え? おおい、ちょ――」


 抵抗しようにも扉が開くに連れ風も強くなり、やがて暁仁は風に押され扉の外に投げ出された。

 そして暁仁は扉の外の光景を目にした。

 小さな集落のような村、塀で囲まれた街と城、太陽の光を反射する湖、青々と生い茂る木々の森、その先に広がる砂漠、それらを囲むように存在する海。

 そんな世界を体現したかのような景色を暁仁ははるか上空から見ていた。


「いやいや、これはちょっとまっ――てええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ..........」


 暁仁の言葉は誰にも届くこともなく落下した。

 体が落ち、声が落ち、やがて暁仁の意識も落ちた。

裏世界の魔術組織、裏世界の闇をコントロールし世界のバランスを保つ為の秘密組織……厨二の脳内設定感半端ねぇ!!

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