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04 初めての友達

 その後は特に問題が起きることなく一限の数学、二限の英語、三限の現代文が終わった。そしてこれから四限目の体育、体力テストが始まる。体育館の二階にある更衣室で着替え、体育教師の流鏑馬(やぶさめ)先生(髪は茶色、常にサングラス、服装はジャージ、右手には竹刀、引退したホストを無理矢理体育教師にさせたかのような三十歳独身)から記録用紙と鉛筆を渡される。先日に行った身体測定の結果が書かれていた。ぼくの身長は現在百五十七センチ、体重は四十九キロ。健康状態に異常なし。

「じゃあ、ここから半分に別れろ。お前らは握力、お前らは長座体前屈。体育館でシャトルラン以外の測定が全部終わったら、次は外に出るからな。何か質問はあるか?」

「せんせぇ。今日の下着はどんなの履いてるんですかぁ?」

「青いプッチ柄のボクサー」

 一人の女子からの質問に答えながら、流鏑馬先生は竹刀で野球の素振りを始める。

「プッチ柄なんてお洒落ですねぇ。放課後にでも見せてくださいよぉ」

「黙れビッチ。お前、生徒指導の()(ざき)を同じように誘った後で強請りかけてたんだろ」

 氷崎とは、三日前に自宅で首吊り死体となって発見された先生の名前だった。朝会で聞いたときには何も知らなかったが、まさかクラスメイトが関わっていたとは。

「ほら、さっさと測定しやがれ」

「はぁい」

 流鏑馬先生にあしらわれたその女子も含め、生徒達は記録用紙と鉛筆を手に体育館の中を移動しては測定し、測定しては移動した。普通の授業よりも出席率がいいのは、喧嘩に明け暮れる不良も自分達の身体能力が気になるからなのかもしれない。やがて全員が一通りの測定を終了し、体育館シューズから外履きの靴に履き替えてグラウンドに出る。

「男子は五十メートル走、女子はハンドボール投げから始めろ」

 出席番号一番のぼくは当然のように一番手。地面にラインパウダーで書かれた円の中に立ち、三回練習した後で本番を二回投げる。円からはみ出ないようにステップを踏んで、上手投げ。他の女子が飛んでいくボールを目で追い、歓声が上がった。二十メートルは超えただろう。体育委員がボールの着地点に走っていき、数字を大声で言ってくれた。

 こうして外で測定するものは五十メートル走とハンドボール投げ、それと立ち幅跳びだけだ。持久走も含まれるかもしれないが、この学校では持久走ではなくシャトルランを別の日に行うらしい。早くも記録し終えたぼくは女子の群れから少しだけ距離を取り、五十メートル走を測定している男子達を眺めた。百太郎くんともう一人の男子がクラウチングスタートで走り始めたところだった。百太郎くんは瞬く間に相手と距離を引き伸ばし、気づけばもうゴールしている。流鏑馬先生が声を張り上げたタイムは六秒。

「流鏑馬ってタイム計るのが正確なんだろ? それで六秒ジャストって……」

「畜生っ。なんであいつは陸上部じゃねえんだよ。あの足、絶対に百メートルでも二百メートルでもいい記録出せそうなのに」

「いや野球部にこそ持って来いじゃろ」

「いやいや普通はサッカー部だって」

「結局はどこにも入らないだろうけどな」

 運動部に所属する男子が数人、嘆いていた。

 それから全ての測定を終えて全員が集合する。個人で記入漏れがないか確認して、体育委員の生徒二人が出席番号順に記録用紙を回収した。

「着替えるときにはちゃんと汗拭いとけよ。それと」

 流鏑馬先生の目がぼくを見下ろす。

「哀逆と昔ヶ原、あそこにあるハンドボールが入った籠とラインカーを倉庫に片付けろ。……なんでと言いたそうな顔してるから理由は言っとく。お前ら二人とも、それぞれ男女別で総合的に記録が一番高いくせに帰宅部ってのが腹立つ。以上」

 理不尽だ。そう思って百太郎くんを見てみると、あちらもぼくに視線を向けていたらしく目が合った。我関せずと言わんばかりにクラスメイトはさっさと立ち去っていき、ぼく達二人だけがグラウンドに残された。

「………………」

「………………」

「倉庫って、あれだよな」

「えっ」

 初めて百太郎くんから話しかけられ、戸惑いが表に出てしまった。しかし気にする様子も返事を待つこともなく、彼はハンドボールが入った籠を押し始める。流鏑馬先生から言われた通りに働くとはかなり意外だ。ぼくもラインカーを粉が出ないように押しながら百太郎くんの後を追った。倉庫の中は想像通りに薄暗く、マット、ロードコーン、スコアボード、野球やサッカーのボールが入った籠、その他諸々がそれなりに整然と並んでいる。床はラインパウダーが零れてそのままになったのか全体的に白く、粉っぽい。

「なあ、哀逆さん。俺ずっと気になってたんだけど」

 ボールの籠を定位置と思しき場所に戻した後で、百太郎くんは倉庫を出る――かと思いきや何故か扉を閉め、こちらに近づいてきた。その視線がぼくの頭から足元までゆっくりと這っていく。舐め回すように見る、という表現がぴったりだ。百太郎くんは背が高い。百八十センチ前後だろうか。そして本当にピアスが多い。両耳ともイヤーロブとヘリックスにホッチキスの針みたいなピアスが三つずつ、そしてヘリックスからイヤーロブにかけてを縦に貫いているストレートバーベルが一つ。合計十四個。

「何が、気になってたって?」

「自分でもわかってるだろ」

 百太郎くんは冷ややかな笑みを浮かべた。

「身体測定の日、俺は休んだけど翌日にクラスメイトの女子から聞いた。哀逆さんの身体、ほぼ全身に縫合痕があるって」

 どん、と両肩を突き飛ばされて背中からマットの上に倒れ込む。百太郎くんはぼくの体操服から露出する左腕に触れた。肘辺りから手首までの間に、四本の縫合痕がある。簡単に線だけで表現するならば、一本真っ直ぐな線を書いてその線に短い横線をいくつも書き足せばいい。しかし実物は結構生々しく、我ながら不気味だと思う。その縫合痕の一本を人差し指の腹で撫で上げ、百太郎くんは「お」と何かに気づく。

「こんなところにもあったのか」

 彼の指はぼくの額に移動した。仰向けに倒れたせいで前髪が乱れ、左側の生え際すぐ下から斜めに走る一本の縫合痕が露わになっていたらしい。そこもなぞるように触れられる。

「制服着てるときは見えなかったけど、初めて体育の授業受けたときには正直驚いたよ。一年の間でそこそこ噂になってるぜ。実は哀逆さんが人造人間だとか、改造実験を受けた過去があるとか、とんでもない事故か事件に巻き込まれたとか」

「どれも違うよ」

 とんでもない事件には入学式の日に巻き込まれたが、あれと縫合痕に関係はない。

「じゃあ病気?」

「違う」

「ふうん」

 膝立ちしていた百太郎くんが、ふとぼくの視界から消える。

「最初はオーバーニーソでも履いてるのかと思ってたけど、これってレッグスリーブだよな。バスケ部でもないのに――いや、バスケ部でもこんな靴下代わりになんかしないだろ」

 その声はマットから下りているぼくの足元から聞こえてきた。不意に右脚のレッグスリーブが膝上から足首まで下ろされる。確か足には、太腿から足の甲までの間に長いものも短いものも十本ずつくらいはあったはずだ。そう思考している間にも太腿を撫でられる。

「哀逆さんって、案外一般人じゃないよな」

「何それ。ぼくは一般人だよ」

「奇遇だな。俺も一般人だぜ」

 そろそろ倉庫の中で百太郎くんと二人きりというシチュエーションから抜け出すべきだろう。ふっ、と息を吐き出してぼくは上体を起こした。同時に外からチャイムの音が聞こえる。四限目終了を知らせるチャイムだ。今から昼休みの時間。

「もう出よう。せっかく授業が早く終わったのに、昼休みがもったいない」

「あ、そう言えば哀逆さん。知ってる?」

 人の話を聞けよ。

「この倉庫、内側から鍵かけられないけど先公が外から鍵かけることもあまりないんだ」

「それがどうかした」

「そのせいか結構需要があるんだとさ。俺はまだ使ったことないけど」

「需要って、何の?」

 ぼくがマットから立ち上がって訊ねると、同じく立ち上がった百太郎くんはきょとんとした表情になった。本当に顔だけはいいのに、と見上げていると彼の口元に笑みが浮かぶ。

「そういう本当にわからないって顔されるの、ちょっと新鮮。何の需要かなんて一つに決まってるだろ。上品に言うなら、男と女が人目を忍んで」

 それ以上、言わせなかった。いくらぼくが処女だからと言って、そういった経験の有無と知識の有無は必ずしも比例するものではない。そこまで聞けば、理解できる。

 ぼくは百太郎くんの顎に掌底打ちをしようとしたのだが、彼が素早く一歩身を引いたことでかわされてしまった。とっさに伸ばした右腕を引き、代わりに右脚を出す。狙いは、後退したことで重心がかかった左脚。外側からではなく、股の内側からアキレス腱辺りをすくうように蹴る。百太郎くんは「おっ」と驚いた表情で仰向けに倒れたが、綺麗に受け身を取った。すかざずぼくは彼の両肩に飛び乗る勢いで両手をつけ、起き上がろうとしていた身体を組み敷く。成功した結果、必然的にぼくが百太郎くんの上に圧しかかっているという――結構危ない体勢になった。

「へえ。哀逆さん、思ってた以上に強いな」

 白い粉で汚れた床に背をつけた状態で、百太郎くんは笑った。

「本気を出したきみには勝てないと思うけど」

「どうだろうな。でも俺、必要なとき以外は女相手に暴力振るいたくないんだよ。だからこれ以上本気でやり合いたいとは思わない。それと哀逆さん、多分誤解してるだろうから言っとくけど――別に俺、襲おうとしてたわけじゃないぜ」

「…………本当?」

「いかにも未経験そうな哀逆さんをからかってやろうかなって思っただけ。誤解させたなら悪かった。でも、そういう早とちりして誤解するところもすげえ素人っぽいな。そもそも俺は強姦する趣味なんてねえよ。今までも全部合意の上だし」

 つまり、ぼくは百太郎に対して相当失礼な早とちりをしてしまったのか。

「そう、だったんだ。ごめん」

 ぼくは両手に込めていた渾身の力を抜き、百太郎くんの上から退いた。百太郎くんは頭や背中についたラインパウダーを手ではたき落としながら立ち上がる。

「じゃあ、いい加減出ようか」

「哀逆さん。俺と友達になろうぜ」

「…………」

 ひょっとして、彼は定期的に人の話を聞くことができなくなるのだろうか。

「何、いきなりだね」

「だって哀逆さんって基本的に一人で過ごしてるだろ。どうせその縫合痕の噂が広まって、周囲から近づきにくいとか思われてるんじゃないのか。それに俺も女の友達なんてセフレ以外だったらいないし。なあ、これってちょうどいいと思わねえ?」

 一体何がちょうどいいと言うのだろう。

 ぼくは片足だけ下げられたレッグスリーブを引き上げ、倉庫の扉を開けた。薄暗い空間に慣れたためか、外に出た途端降り注ぐ春の日差しが少しだけ眩しい。

「閉めるよ」

 扉に手をかけたままぼくが言うと、百太郎くんは「返事は?」と言いたげな顔で倉庫から出てくる。ぼくは扉を閉めて、じっとこちらを見下ろす彼に頷いた。

「いいよ、友達」

「ああ。よろしく」

 にかぁっと嬉しそうに笑った百太郎くんと並んで、ぼくは体育館へ歩き出す。

「さっそく今日は一緒に昼飯食おうぜ。教室じゃなくて、体育館の裏で。この高校、食堂と屋上と中庭は人気あるから今頃もう満席だろ。そのときに色々番号とかアドレスとかも交換しておきたいしな。他には、恋バナとかする?」

「それはない。最後のは、ない」

 恋バナというものは普通、同性同士の間で展開されるものだと思うのはぼくだけだろうか。そもそも百太郎くんのような人相手にする話題としては恐ろしいほど似合わない。

「俺は哀逆さんのこと、どう呼べばいい?」

「別にどうとでも」

 さすがに処女やチェリーガールなんて呼び名は遠慮願いたいが。

「んん……。哀逆さんの名前って何だっけ」

「愛織、だよ」

「めーちゃん」

「は?」

「めーちゃんって呼ぶことにする。いいだろ」

 なんだか山羊か羊みたいだが、随分可愛らしくて妙に恥ずかしい。しかし百太郎くんはすでに自分が決めたぼくの呼び名をすっかり気に入った様子だ。今さらやめてくれと言っても、多分聞いてくれないだろう。別に嫌ではないため、ぼくは何も言わないでおいた。

 結局ぼくと百太郎くんは皆より一足も二足も遅れて着替えを済ませ、教室に戻った。そしてぼくは自分で作ってきた弁当を、百太郎くんは購買部で買ったパンを手に体育館の裏に向かう。途中ですれ違う生徒や教師のほとんどがぎょっとした目で見てきた。ぼくと百太郎くんの組み合わせはそれほど奇妙なのだろうか。

 体育館の裏に辿り着くまでの間、三人の不良らしき男子生徒が「昔ヶ原百太郎、今日こそ往生せえやぁ!」などと声を張り上げながら、ぼくの前を歩く百太郎くんに襲いかかってきた。彼らはナックルダスターや釘バットを持っていたが、全員その物騒なもので攻撃を一発当てるより先に丸腰の百太郎くんに叩きのめされた。

「改めて思ったけど、きみって本当に嫌われてるね」

「主に野郎からはな」

「そのうちひどい目に遭わせてきた女の子からも狙われそう」

「実際、夜道を歩いてるときに包丁で狙われたことあるぜ。返り討ちにしたけど」

 普段は滅多に訪れない体育館の裏に、ぼく達以外の人はいない。校舎からもほどよく距離が置かれているためか、随分と静かだ。ここが犯罪都市であることをうっかり忘れてしまいそうなほどに。建物の陰になったところで腰を下ろし、ぼく達は雑談しながら食事をした。主に話した内容は、百太郎くんの髪色について。

「それって一体全体どうやって染めてるの」

「金髪?」

「じゃなくて、このカラフルな部分」

「ああ。ヘアチョークだ」

「何それ」

「名前の通り、毛髪用のチョーク。髪を洗えば落ちるから、毎日違う色合いにできる」

「へえ。初めて知った」

「教室に戻ったら貸そうか。めーちゃんのその三つ編み、カラフルにしてみれば」

「丁重にお断りさせていただくよ」

「そう言うと思った。でも確かにめーちゃんって黒髪以外、似合わなそうだよな」

 昼食を終え、ぼくは百太郎くんと連絡先の番号やアドレスを交換する。驚くことに彼は携帯端末を三つも持っていた。機種はどれも同じで色はブラック、レッド、ブルー。

「これは同じ学校の女子と同年代の女子専用、これは風俗嬢とか未亡人とか年上の女専用、それでこっちが家族や友達を含む対象外の人専用」

 そう言いながら百太郎くんがぼくの情報を登録したのは、ブルーの携帯端末だった。

「百太郎くんって、ぼくにとっては正直漠然とした不良のイメージしかなかったんだけど……普段からどんな生活してるの? 結構お金持ちみたいだね」

「別に金持ちなんじゃねえよ。自分で稼いでるだけ」

「アルバイトしてるんだ」

 百太郎くんは首を横に振る。

「俺を気に入ってくれる年上の女……ほとんどが風俗嬢だけど、そういう奴らの住居に転がり込んで生活してる。中学のときからな。年下好きで俺みたいな男まで可愛がろうとする女も世の中には結構いるんだぜ。その中でも稼ぎがいい奴は会うたびに金をくれる」

 言いながら彼はレッドの携帯端末を弄り始める。連絡先を一覧できるところでスクロールすると、見事に女性の名前ばかりがずらっと並んでいた。

「高校生の身分で、ジゴロみたいだね」

「あとはスリだな。それで十分稼げる」

「え、スリって」

「なあ、めーちゃん。スカートのポケットに入ってるものは?」

 百太郎くんがぼくの腰辺りを指差す。右側のポケットにはハンカチとポケットティッシュ、左側のポケットにはさっき入れた携帯端末があるはず――だった。

「あれ……。ない、どこに」

「じゃあ今、俺が左手に持ってるのはなんだ」

 百太郎くんの左手には、見覚えがあるシルバーの携帯端末が握られていた。一体いつの間に取られていたのか。全く気づけなかった。慌てて手を伸ばすと、あっさりと返される。そして彼はスラックスのポケットから財布を取り出した。一つじゃない。四つだ。

「これは俺の財布、他の三つはさっき襲いかかってきた三馬鹿が持ってた」

「………………」

「ざっとこんな感じ」

「人の彼女奪ったり捨てたり、ジゴロ生活ならまだわからないでもないけど……。きみがしてることって、もう完全に犯罪じゃないか」

「そうだな」

 全く悪びれる様子もなく、百太郎くんは三つの財布から現金を全て抜き取った。それを残らず自分の財布に入れると、カードやレシートだけになった財布を三つまとめて放り投げる。綺麗な弧を描いたそれらは近くの燃えるごみ専用の箱に入った。

「こういう俺みたいなのが友達って、嫌か?」

「別に、嫌じゃない」

「ふうん」

 嘘ではない。犯罪を遊び感覚で起こす高校生なんて世界中を探せば掃いて捨てるほど出てくるだろう。ましてやここは犯罪都市の杏落市だ。まだぼくが知らないだけで、彼以外にも一年四組の生徒で罪を犯している者がいるかもしれない。

「そろそろ予鈴鳴るよ。ぼくはもう教室に戻るけど、百太郎くんはどうする?」

「まだここにいる。女から連絡来たら早退してそいつのところに行くかも」

「そう。じゃあね」

 軽く手を振り合って、ぼくは一人で校舎に向かった。校舎と体育館の間にある渡り廊下を歩き、もう百太郎くんの姿がすっかり見えなくなったところで、ふうっと息を吐き出す。

 哀逆さん。俺と友達になろうぜ。

 だって哀逆さんって基本的に一人で過ごしてるだろ。どうせその縫合痕の噂が広まって、周囲から近づきにくいとか思われてるんだろうけど。俺も女の友達なんてセフレ以外だったらいないんだよ。なあ、これってちょうどいいと思わねえ?

「思わねえよ」

 百太郎くんの言葉を反芻しているうちに、本音がぽろりと唇を割った。

 あれは特に飾り立てた言葉でも声色でもなく、本当にあっさりとした物言いだった。だから、なのかどうかはわからない。ぼくはあの言葉を聞いて内心鬱陶しいと思ったが、その反面、ちょっとだけ嬉しくて感謝した。

 あんなふうに友達になろうなんて言ってくれたのは、彼が初めてだった。


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