26 探索屋
包丁を逆手に持って、ぼくは真っ暗な部屋で一台のベッドを見下ろしていた。正しくはベッドじゃなく、そこで眠っている人にじっと視線を落としている。部屋の中は真っ暗でも、とうにぼくの目は慣れていた。肩のすぐ下まで布団をかぶったその人はこちらに背を向け、寝間着としているスウェットの襟から首筋が見えていた。
殺さなければ。
右手に左手を添え、包丁を握り直す。
この人は今のうちに殺しておかなければ。
包丁を持つ両手が震える。心臓の中で太鼓が鳴っているのかと思うほど、激しく脈打っていた。呼吸が苦しい。唇を噛んで、ぎゅっと目を閉じた――そのとき。
「それで俺が殺せると思ってるのか?」
「――――っ!」
目を開けると、いつの間にか彼がこちらに振り返っていた。それに気づいた瞬間ぼくは右腕を掴まれ、抵抗する間もなくベッドに引きずり込まれた。恐怖で涙が出たが、包丁は手放さなかった。その人は無表情でぼくの上に馬乗りになったかと思うと、ぼくの両手を掴んで包丁を自分の首に触れさせる。ひゅ、とぼくの喉から変な音がした。
「……ああ、まだ教えてなかったか。ここに頸動脈っていう太い血管がある。頭に血を送る大切な血管だ。分厚い筋肉組織に覆われているから、本気で力いっぱい突き刺さないと傷をつけられない。こんな家の台所にある切れ味の怪しい包丁で、びくびくしながら突き刺したところで本当に俺を殺せると思ったのか?」
「う……っ、ぁ……」
怖くて、呼吸が苦しくて、涙が止まらなくて、ぼくは何も答えられない。
「どうしたんだ。お前は俺を殺したいんだろう? アドバイスを聞いた今なら、上手くいくかもしれない。やってみろよ」
いつの間にかその人の手は、ぼくが包丁を握る手を強く押さえつけていた。逃がさない、と言っているかのように。
殺さなければ。
この人は今のうちに殺しておかなければいけない、のに。
「…………い、いや……!」
ぼくは殺せない。
「やだ……ぁ、ごめんなさい……ごめ、なさ……っ、ふ、うぅ」
包丁を彼の首から退けようと必死で両手を引っ張る。二人の手から離れた包丁がベッドの外、床に落ちて歪な音が大きく響いた。
目を開けたとき、ぼくは布団の中だった。全て夢だ。最近は見ていなかった悪夢。額に溜まっていた嫌な汗を寝間着の袖で拭おうとして、ぼくは自分の身体を拘束するものに気づいた。それが何なのか理解した瞬間、出そうになった悲鳴を呑み込む。
よだかさんがさながら抱き枕のごとく、ぼくを抱きしめていた。それも上半身裸で。何やら足にシーツとは違う布が当たっている。きっとよだかさんの寝間着だ。なんて可哀想な寝間着なのだろう。綺麗に畳まれてこの部屋に用意されている間は、まさか自分がこんなふうに服である意味を成さずに布団の中で丸められるだなんて想像もしていなかったことだろうに――などと現実逃避を狙って服に感情移入してみたが、これは現実だ。素肌から通じる体温も、腰と首に回された腕の感触も、すぐ近くで聞こえる寝息も、全て。
「あ……っ、ぅ」
腹の奥から何かが喉元までせり上がってくる。これは、まずい。慌ててぼくはよだかさんの腕を引き剥がし、口を押えたままベッドから飛び出てお手洗いに駆け込んだ。身を屈め、ほとんど消化が済んでどろどろになった酸っぱいものを吐き出す。なんだこれは。夢見が悪いってだけで吐いてしまうなんて、人生で初めてじゃないのか。わけがわからない。
「う……うっ、ひぅ……」
一度吐瀉物を流した後は吐き気が治まったものの、嘔吐中に出てきた涙はなかなか止まってくれない。五分以上経ってようやく落ち着いた。時計を見たところ、まだ夜中の一時を過ぎたところだった。洗面所でうがいをしっかりして寝室に戻ると、あの夢の中とよく似た光景に固まってしまう。よだかさんが肩のすぐ下まで布団をかぶって、こちらに背を向けていた。白い首筋が見える。そっと手を伸ばして、ぼくはよだかさんの頸動脈があると思われる場所に触れた。とくんとくん、と規則正しい拍動が指先に伝わった。温かい。この動きも熱も生きている証だ。不死身の身体でも、ちゃんと心臓は動いている。
「眠れないのか」
突然はっきりとした声が聞こえ、ぼくは思わず手を離した。身を反転させたよだかさんがサイドテーブルのランプを点けた。薄らと黄色い照明に少しだけ目が眩む。裸の上半身だけが起きている彼の姿は、あまりに艶めかしくて眩暈がしそうだ。
「さっき、吐いてたのか?」
「……はい。でも、もう平気ですから」
「ふうん」
ぼくがベッドで横になるとよだかさんはランプを点けたまま、乱れていた布団を整えた。
「もしかして俺が抱きついていたから気分が悪くなったのか?」
まさか、あのときよだかさんも起きていたのか。そうぼくが訊ねるよりも早く、彼の方から首をゆるゆると横に振った。
「お前が俺の腕から抜け出したときに目が覚めたんだよ。無意識とは言え、悪かったな」
「ちがっ、違います。そうじゃなくて、ただ嫌な夢を見ただけで……。戸惑いはしましたけど、よだかさんは関係ありません」
嘘だ。本当は、眠っているよだかさんに抱きしめられて、夢の中に出てきたあの人と彼が重なった。だから気持ち悪くなった。あんな夢を見ていなければ、ただよだかさんを引き剥がしてぼくは再び眠っていただろう。
よだかさんは何も言わずに枕の上で頬杖を突いた。ぼくの心を読んだのか、読んでいないのかわからない。このときだけぼくも心が読めたらいいのにと思ってしまった。
「あの、よだかさん」
「なんだ」
「ぼく……人を殺そうとしたことがあるんです」
返事はまたしても無言だった。ぼくは気にせず、独白のように続ける。
「十歳のときでした。そのときの動機は、相手が嫌いだったとか許せなかったとかじゃなくて――殺さなければいけないと思ったから。眠っているところを包丁で刺そうとしました。でも、結局は無理でした。幼いぼくは殺人で捕まることや家族を悲しませることの罪悪感よりも、よくわからない恐怖に負けてその人を殺せなかった」
それ以来しばらくの間、ぼくは今日見たものと同じ悪夢に魘された。当然誰にも相談できないまま我慢しているうちに、いつの間にかその夢を見なくなっていた。
「愛織は殺人に関しても処女ってことか」
「………………」
この殺人鬼、ゲーム脳よりも危険な殺人脳でも持っているのだろうか。
「いいじゃねえか。清いことは尊ぶべきだぜ」
「散々処女のぼくを馬鹿にしてきて今さら何を言いやがる」
「とりあえずそれがお前の初体験ってことだな」
「…………ぼくもよだかさんの初体験、聞いてもいいですか」
すると予想に反してよだかさんはわずかの間を置いてから話し始めた。
「初めては、逆レイプで奪われた」
弧を描く唇は艶やかで、緩く細められた瞳の真紅はランプの光を湛えて輝く。隙のない完璧な美貌を見つめながら、彼の言葉をぼくは反芻した。
逆レイプ。即ち、女が男を強姦すること。
「当時の写真は一枚も残ってねえから見せられなくて残念だな。今のお前より幼い頃……確か、十歳から十二歳までの間だった」
どこか遠く、過去の自分を見るような目でよだかさんは続ける。
「ペドフィリアの女はもちろん、元々そういう趣味持ってない女でも俺を見るなり豹変することがよくあったんだ。それでも大抵の奴らは食事に誘ったり、服を買い与えたり、手を繋いだり、あとは精々抱きしめたりキスをしたり、その程度。ただ、本当に危ない奴もいたからな。哀れな少年よだかはとある干支一回りくらい年上の女に監禁されること三日目の晩、何もわからないまま犯されてしまったのである」
そう言って、楽しげな笑い声が響く。目の前では、相も変わらず美しい顔がぼくを見下ろして微笑んでいた。
「《ぼうやが綺麗なのが悪いのよ》って、自分の行動を正当化する女だった」
「それで、その相手はどうなったんですか?」
「行為が終わってすぐに殺したよ。締めくくりにキスでもしようと思ったのか、仰向けになっている俺に顔を近づけたから喉元噛み千切ってやった」
よだかさんが歯を噛み合わせると、かちん、と小さな音がした。
ぼくが聞こうとしていたのは性行為じゃなくて人殺しに関する初体験だったのだが、それよりもとんでもない過去を聞いてしまった気分だ。
「なあ、愛織」
くしゃくしゃと頭を撫で回され、名前を呼ばれた。
「朝になったら帰ろうぜ。もう依頼内容は聞いたから十分だろ。こんなスイートルームを無料で借りて、ビーチバレーも海水浴もして、温泉も入って、美味い料理も食った。また一日同じことを繰り返す必要ねえよ」
「…………すみません」
「なんで謝ってんだ」
「ぼくが不甲斐ないせいで、よだかさんに気を遣わせてる」
頭を撫でていたよだかさんの左手がするりと下りてきて、ぼくの右頬を軽く抓った。
「部下を気遣うのは上司として当たり前だろ。俺がそんなに薄情な奴に見えるのかよ。最後に朝風呂として温泉入って、朝食が済んだらチェックアウトする。しっかり寝ておけ」
「はい」
よだかさんがランプを消して、再び寝室は真っ暗になった。ほどなくして隣から寝息が聞こえてきて、さらにしばらくすると眠っている彼がまたしてもぼくに抱きついた。今度は正面から抱き合うような形になってしまった。もう吐き気は起きない。ぼくの頭は抱え込まれるようによだかさんの胸に密着し、そこから皮膚や筋肉越しの鼓動が聞こえる。視線を上げ、ぼくは思わず息を呑んだ。貝の剥き身のような、柔らかそうな白い瞼が閉じられて普段よりも睫毛が長く主張している。隙も死角もないくらいに美しい寝顔だ。そして、幼い。請負人として働いていることや、ピンヒールを履いた高身長で大人っぽい印象を抱かせるが、こうして眠る姿はまだ少年のように思える。
「おやすみなさい」
小さく言って、ぼくは目を閉じた。
杏落市に戻った後ぼくはよだかさんに借りていた服代を返し、探索屋の住所が記されたメモを受け取った。正午を少し過ぎていたため一旦食事をして、携帯端末に届いていた百太郎くんからのメッセージに返信を送る。適当に嘘をついて誤魔化そうかと思ったが、結局は仕事のことを伏せてホテル《ウンディーネ》に一泊したとだけ伝えた。処女はどうなったと訊かれ、無事だと返す。それ以外細かいところまで根掘り葉掘り質問しようとしない百太郎くんに感謝した。どうやら今彼も年上の女性と長野県の軽井沢に向かっている最中らしい。この夏休み中に国内旅行を一回、海外旅行を二回予定していると言っていた。きっと琴太郎先輩も同様のスケジュールを持っているのだろう。
「ジゴロってすごい……」
素直な感想を呟き、それを最後の返信にしておいた。ぼくは食べ切れずに余った鯛の粗汁を鍋ごと持って、マンションの部屋を出た。廊下から中庭を眺めたが、誰も穴を掘ってはいない。それを確認して隣の六〇五号室の前に立つ。深呼吸を一つして、インターホンを押すと「はい」と低い声が返ってきた。
「六〇六号室の哀逆です。鯛の粗汁を作り過ぎたので、お裾分けに来ました」
一分ほど待っていると扉が開いた。相変わらず近くで顔を見ようとすると、首が痛くなってしまう長身だ。ピンヒールを履いたよだかさんよりも高い百九十五センチくらい。若干色素が薄いのか、黒に限りなく近い焦げ茶色の短髪。深緑色のTシャツと茶色のカーゴパンツの上からでも、筋肉だけをつけた脂肪を感じさせない痩躯がわかる。どことなく退役軍人を連想させる荒んだ目つきの仏頂面。よく中庭で穴を掘っている変わり者、夢野土竜が出迎えてくれた。
「こんにちは、土竜さん。中に入ってもいいですか?」
「おう」
ぼくが持っていた鍋を手に持ち、土竜さんは廊下を進んでいった。ぼくは傘と一緒に置かれていたシャベルを気にしつつも扉の鍵を閉め、土竜さんの後をついていく。こうして部屋の中に入るのは初めてだ。煙草の匂いが強い廊下を進み、1LDKのうちLDKに相当する部屋に入った――はずだった。ぼくの部屋とのあまりの違いに驚きを隠せない。肌寒いくらいに冷房を効かせた部屋の床にも壁にも天井にも、束ねられたケーブルが何本も固定されている。まるで意思を持った生命体のように機械がこの空間を侵食しているみたいだ。家具らしい家具はほとんどない。液晶テレビは隅の方に追いやられ、それよりも存在感を放っているのは窓の近くに置かれた背の高いパソコンラックだ。U字型に三つ配置され、その中心に黒いワークチェアがある。全てタワー型の白いパソコンで三つあるうちの左右に置かれているのが一般的なサイズ、真ん中に鎮座しているのが一際大きい。そして床には足の踏み場が十ヶ所も見当たらないほどに無数のファイル、新聞、雑誌、その他何かの資料と思われる紙が散乱していた。
「ちょっと待っといてくれ」
さすがは自分のテリトリーと言うべきか、土竜さんは器用に空いたスペースを大股で進み、台所まで辿り着いて鍋を置くことができた。扉の手前で突っ立っているぼくを一瞥し、彼は近くのファイルや新聞を手に取り始める。片付けようとしているらしい。
「男一人じゃけえ、どうしても散らかるんよ」
「あの……手伝いましょうか?」
「じゃあ適当でええけえ、壁の方に寄せといてや。ケーブルにはいらわんようにな」
「はい」
ぼくはケーブルを踏まないように気をつけて部屋の中に入った。ファイルはファイル、新聞は新聞とまとめて壁に寄せる作業を繰り返し、ある程度片付いたところで土竜さんが「もうええよ」と言った。
「来て早々手伝わせて悪かったのう。助かったわ」
「いえ。それにしても、すごいですね。パソコンが三台もあるなんて」
「真ん中のはワークステーションじゃけどな」
土竜さんはカーゴパンツのポケットからシガレットケースとジッポーライターを取り出し、煙草を吸い始めた。左手の中指と薬指とで挟み、その手で顔を覆うような吸い方だ。口に銜えて火を点け、吸い込んだ煙を吐き出す一連の動きが流れるようで格好いい。
「その煙草、なんですか?」
「ラッキーストライク。真面目そうな顔して煙草に興味あるんか?」
「いえ、ちょっと気になっただけです」
ぼくは土竜さんが用意してくれたアームチェアに座り、話を切り出した。
「まさか土竜さんが探索屋だったとは驚きました」
「俺もお前がよだかの助手になっとったとは、あいつから電話もらったときは耳を疑ったわ。悪い冗談じゃなかったんじゃのう」
ほとんど間を置かずにそう返し、土竜さんは笑みを浮かべた。よだかさんがよく見せる笑い方をシニカルと言うなら、彼は笑っているのにどこか暗くて無感情な印象が強い。さしずめニヒルな笑みとでも言うべきか。
「土竜さんに協力してほしいことがあって来ました」
すると土竜さんはワークチェアに深々と座って頷いた。話せ、ということだろうか。
「昨日、ホテル《ウンディーネ》の支配人夫妻から依頼を受けました。内容は、二ヶ月前から行方不明の一人娘を捜索してほしいというものです。その人は貝塚五月雨さんという十八歳の女性で、交際相手と駆け落ちを約束していた日に失踪しました。もちろん支配人夫妻は必死に捜索しましたが、目撃情報すらなかったそうです。土竜さんに協力してほしいのは、五月雨さんが今どこにいるのか調べることです」
ぼくが話し終える前に土竜さんは大きなパソコン――否、ワークステーションに向き合ってキーボードを叩いていた。よく見るとどのキーボードもぼくが学校で見たことのあるキーボードの配列とは違っている。そのうち土竜さんの両手は左右にあるパソコンのキーボードにまで伸びて、まるでピアノ演奏でもしているかのようだ。一人の人間が三台のコンピューターを同時に操っている姿は圧巻としか言えない。
「ええよ。その仕事、引き受ける」
「あ、ありがとうございます。……よだかさんからこういう協力を頼まれて引き受けること、よくあったんですか?」
「たまにな。今年は今回が初めてじゃけえ、愛織が知らんかったんも無理ないわ」
喋っている間も土竜さんの手が止まることはなかった。時折煙草を吸いながらブラインドタッチを続けている。まるで彼も機械の一部になったかのようだ。三つのディスプレイにはぼくの理解できない英数字が次々と羅列していく。
「三日間くれ。それで貝塚五月雨の居場所は大体特定できる。もし誘拐されとるんなら犯人もわかるはずじゃけん待っといてや」
「……三日、ですか」
警察や五人の探偵、三人の便利屋にもわからなかったことでも探索屋はたった三日間で調べられる。どうやらよだかさんが言っていたことは本当らしい。味方にすれば大変心強いが、きっと彼のような立場の人間はどこまでも中立的な存在なのだろう。そして彼を一回協力させるだけでどれだけ莫大な金がかかるか、よだかさんから聞いたときはあまりにも馴染みのない金額だったためぼくは逆に現実味が感じられなかった。
「わかりました。お金はそのときに渡せばいいですか?」
「おう。請負事務所からはいつも手渡しの現金にしとるけえ、それで頼むわ」
「では、よろしくお願いします」
「粗汁の鍋は今夜までに洗って返すけえのう」
そのとき、不意に玄関の方から大きな金属音が聞こえた。扉が開く音がしたかと思うと、どたどたと慌ただしい足音が迫ってくる。部屋に入ってきたのはいかにもやくざな男二人。黒地のTシャツ姿で片方は金の竜、もう片方は金の不動明王が描かれている。露出する太い筋肉質な腕には刺青が見えて、どちらも短刀を持っていた。ぼくがアームチェアに座ったまま固まっていると、唾を散らす勢いで一人が捲し立てた。あまりにも早口で専門用語らしい単語が多かったため、ぼくにはほとんど内容を理解できなかった。
「愛織、ちょっと壁の方に行っとけ。こいつらは俺が狙いじゃけえ」
のんびりとワークチェアから立ち上がった土竜さんの言葉に従う。やくざと思しき二人――断言できないが柩木組ではないだろう――はぼくのことなど眼中にないようで、血走った目で土竜さんを睨みつけている。きっと、人から恨まれることも多い仕事なのだろう。相手は土竜さんほど背は高くないが、痩せている彼よりも力が強そうだ。二人は互いにアイコンタクトを交わし、真っ直ぐ土竜さんに襲いかかった。
「あっ」
ぼくの声と、硬いもの同士がぶつかり合うような音が同時に聞こえた。やくざの手から離れた短刀二本がぼくのすぐ足元に落下する。ぼくの目はぎりぎり、何が起きたのか捉えていた。土竜さんは二人が動き出した瞬間、パソコンラックの横からシャベルを素早く取っていた。玄関に置かれていものと全く同じ黒塗りで側面が鋸のようにぎざぎざとしている――軍用シャベル。そのままバットでも振るうかのような動きで、短刀を弾き飛ばした。直後男二人は顎を立て続けにシャベルで強打され、呻きもなく床に崩れ落ちて動かない。明らかに手慣れた動きだった。穴掘りに使っていたあのシャベル、どうやら護身用の武器も兼ねているらしい。
「この阿呆共。探索屋を恨むんは業界人としていけんのわかっとろうが」
吐き捨てるように言って、土竜さんは一人の頭を踏みつけた。
「大変ですね。探索屋も」
帰り際、ぼくが言うと彼はまたニヒルな笑みを浮かべた。




