プロローグ
十五歳で一人暮らしを始めた一年目、ぼくは実に色々な人達と出会った。殺人鬼、ジゴロ、闇医者、ストーカー、やくざ、クラッカー、殺し屋等々。彼らは愉快なほどに個性豊かな人達で、その個性の中に罪を持つというところが共通していた。だからと言って全員、その罪に苛まれそうな生き方を強制されているようには見えない。それどころか、むしろ自分達がやりたいことを自由にやっている。そんな人達ばかりだった。しがない女子高生のぼくは、心のどこかで憧憬じみた感情を彼らに抱いてしまったのかもしれない。
「お前がここに来て何をしようが好きにしろ。それが本当にやりたいことならな。もしお前を動かしているものが誰かの指示や受け売りなら今すぐ捨ててしまえ。自分の好き勝手に、滅茶苦茶に、暴れて乱れてやればいい。ここはそういう場所だ」
殺人鬼はぼくにそう言った。怜悧な印象でいてどこか退廃的な声に鼓膜を撫で回され、その瞬間ぼくは軽い眩暈を覚えた。今でこそようやく慣れ始めたものの、あの殺人鬼は視覚にも聴覚にも伝わる倒錯じみた美しさを持っている。出会って間もない頃、彼が近くにいるときはうっかり失神しないように気を張ることで必死だった。
「じゃあ、あなたが好き勝手にやってることってなんですか」
「人殺し」
一瞬の間も置かずに返ってきた言葉にぼくは閉口した。
「それで? お前が好き勝手にやりたいものはなんだよ」
今度は殺人鬼がぼくに訊ねたが、しばらく考えてみても思いつかなかった。無欲と言えば聞こえはいいかもしれない。それでもぼくは考え込んでいるうちに、好き勝手にやりたいことが見つからない自分自身がとてもつまらない存在のように思えてきた。
「ここで見つけてみろ。どうせなら最高に刺激的で、面白いこと」
沈黙するぼくに彼は言った。異常なほどに鋭く、最早牙と言っていい犬歯を持つ口が近づいて、それだけ別の生き物のようにうねる舌が見えた。
「俺が教えてやるぜ、処女。どうするかはお前が決めろ」
「…………ぼく、は――――」
もしここでぼくが断っていたら、と今でも思う。世の中の常識を無視した殺人鬼と関係を持たなければ、それ以上ぼくの日常は危険なものにならなかったのかもしれない。そうすれば毎日のように殺される人間を間近で見ることもなかっただろうし、ガキ大将がそのまま成長したような彼に振り回されることもなかっただろう。多分、きっと。
それでもぼくは殺人鬼についていくことを自分の意志で選んだ。
ぼくを愛してくれる人に、彼がちょっと似ていたから。