第三話:二度目の接触
「ふぅ。」
俺は結局学校に入ることなくその門を出た。
緑色のペンキで染まった門はギィ…と軋む。
それにしても…
「それは…」
金。
そう、高校に入学するには入学費、授業料、施設費…など金がかかるらしい。
しめてその総額、
「五十万円…」
しかもそれが初年度だけと言うのだから問題だ。
今の俺の手持ちは六十万程。
一年間学校に行くだけで全てが散ることになる。
流石に家出初日で文無しと言うのはまずい。
俺は学校から二キロ程離れた河原にいた。
特に何があるとかと言うわけではなく、ただ歩き続けていたらここに着いていた。
買い物帰りの自動機械が頭の上を通り過ぎる。
ふと、右手の掌を見てみる。
そこには軟鉄で作られた骨格の代用品となる枠組みの回りに人工血管があり、さらにその回りを人工筋肉が犇いて最後に人工皮膚が貼り付けてある。
そのはずなのだった。
「訳わかんねぇ。」
俺はアンドロイドなのか?
さっきは腹が減って食事をした。
研究所では食ったものが体内で燃焼されてエネルギーになると聞いた。
その前は公園でボールが頭にあたって『痛』かった。
研究所では最新の感覚連動装置を使用していると聞いた。
そして今。
右手を草で切ってしまった。
切り口には血が滲んだ。
研究所ではそんなことはなかったからどうなっているのかわからない。
俺は…
「本当に…」
「本当に?」
ん?
横を見ると昼の時の、
「水町時雨?」
「おぉ!名前覚えてくれていたんだ?」
時雨はにぃ、と笑った。
俺にはわからない。
名前を覚えられることはそんなにも嬉しいことなのか。
「で、君はコード2112、でしょ?」
…あまり嬉しくない。
「いや、違う。」
つい言ってしまった。
どうせここは研究所じゃない。
どんな名前でもいいなら好きな呼称を自分につけてみたい。
「ははっ。わかってるよ。いまどきそんなセンスの無い名前のある人なんていないもんね?で、本当の名前は?」
「俺は…」
「奏葉水仙。」
そう。研究所にいたあの研究員の名前。
一番俺に良く接してくれていたことを今もまだ覚えている。
「へえ?水仙君…ね。」
「ああ。」
その日。
俺は人と会話することを覚えた。