私が序列を語るまで
無事私とナギ、ベルの皆で龍をおいしく頂きまして。
あぁ。
まぁ。
おいしかった、です。
と、もちろん龍を捕まえたことは皆々様に大々的に宣伝した。
ナギの序列を上げるためだ。
ただ、案外真意の洞窟に潜む幻の龍の噂はそこまで広がっていなかったらしい。
思ったほど神様序列は上がらなかった。
まぁ序列20位のナギが充分相手できたモンスターだ。
それほど強力というわけでもないだろう。
しかしそれでも一つは上がり、ナギの序列は19位になっている。
ナギ曰く、ようやく王台に乗ってきた、とのこと。
普通は一体モンスターを狩った程度で序列が上がるなんてことはないのだ。
それはさすがに私も理解してきた。
このことはつまりナギ自身の噂が容易に広まる環境が整いつつある、ということなのだろう。
それは喜ばしいことだ。
急速に序列を上げたこともそう。
ギルドも創らず、付き添い一人とだけで凶悪なモンスターを倒したということもそう。
あ、もちろん最近は付き添いが増えたことも知られてきている。
ただこの神様序列10位台と、20位台との差は歴然としている。
ある上位の神はこんなことを言った。
「20位以下の神には世界の法則を変えられない、10位台からの神にはそれができる」
と。
世界の法則を変える。
捻じ曲げる。
それができる。
できるのかな。
ナギにも。
それから、ひょっとして、私にも。
ちなみに、その神が言うには、さらに上位、序列一桁台はまたさらに規格外となるそうだ。
そもそも序列5位まではそれぞれ1柱しかいない(神様って柱って数えるんだってね)。
以下がその序列5位まで。
神様序列5位。
次元の神、グォール。
次元を司る神。
その力は第5次元以上の次元を自在に操ることができると言われる、ある意味新しい世界を構築することが可能な神。
空間を歪め時間を巻き戻すこと等も当然できるらしい。
彼はその性質上自分の他を必要とせず、上位にしては珍しくギルドを創ってはいない。
単独で気の向くままにどこかに降り立ち辺り一面を破壊し尽す、破壊の神とも言われている。
人の破壊衝動をそのまま具現化したとも言えようか。
神様序列4位。
慈愛の神、セレス。
こちらは前にも少し話したけど。
医療ギルド『マーシー』のリーダーで、この世界の医療技術の最先端を彼女が担っている。
彼女の能力は、全てのものをあるべき姿へと還す力。
現在はその力を人の怪我や病気を治すのに使用しているが。
その気になればこの世界そのものを存在する前の状態に還すこともできるらしい。
その昔、どうやらこの力で暴れていた時期もあるらしく、その時代の事は禁句となっているらしい。
神様序列3位。
個体の神、ザ・ワン。
自分自身への一切の不思議を無にできる神。
その出自が神にしては珍しく有名な神でもある。
とある戦争中、一人の少女がその身を捧げて自らの恋人である男をこの災厄から守りたいと願ったことで生まれた神。
というより、この男が神として生まれ変わった姿と言った方が正しいのだろう。
彼は特殊能力のようなものを他に一切持たない。
だが強いて言えば彼の持つ天性のリーダーシップが神としての力以上に稀有なものかもしれない。
少女に願われ人を守ることを自身の在り方と決めた彼は警護ギルド『ルール』を創っている。
モンスターと戦うハンターのサポートから、町の見回りまで幅広く活動をしている。
神様序列2位。
進化の神、ジャンベル。
他の存在と融合し、進化し続ける神。
いつしか世界そのものと溶け合い、今やこの世界で彼に知覚できない事象は何もないのではないかと言われている。
彼の探究心は強く、興味をもったものとの融合を続けている。
進化し続けているジャンベルがそう遠くないうちに序列1位になるのではないか、とも話が上がっているほどだ。
彼の創ったギルドは、一であり多であるギルド。
彼との融合が条件となる特殊ギルドのため、ギルド名はなく、彼自身が一ギルドであると言える。
融合といっても、現在の彼は無理矢理何かを吸収しようということはしていない。
互いの合意の上で行い、彼は融合個体の記録だけを録る。
一度録ってしまえば、いつでも好きなように好きなだけジャンベルはその存在を生み出すことが出来る。
そのため、興味本位で彼を訪れる者も多いようだ。
そして現在の神様序列1位。
支配の神、ルルシア。
全てを掌握する神。
かつてベルヴェルクが序列1位だった頃は勿論2位だったのだが。
序列5位までは必ず神がランク付けされるらしい。
それより下の位では絶対評価が下るらしく、稀に一桁台は欠番となることもあるらしい。
さて、彼の力は何もかもを支配する力。
その支配力の及ぶ範囲は"世界の在り様"全てらしい。
ただ、ここしばらくは世界の商業を取りまとめる程度にしかその力を用いていない。
食物は原則物々交換。
希少価値のあるものについては金との交換ができ、金はその他贅沢品に用いられる。
そんな流れを作り出したのもこのルルシアだ。
今の時点で、彼の支配を抜け出すことができる神は存在しないとまで言われるその力の全貌は計り知れない。
言葉にしてみてもあまり凄さって伝わらないので、私も今イチどんな力なのかよくわからない神ばっかだけど、ね。
たぶん、序列19位になったナギを今よりもステップアップするためにはこういう上位陣のギルドとの戦いが避けられないと思う。
もちろん、直接戦うという意味ではなく、向こうと獲物が被ることがあるだろうって話ね。
それに、私も。
『私』と『彼』の情報を集めるのにナギの序列が上がることはかなり重要になってくる。
一人一人に聞きまわるのはあまりにも膨大な時間が必要になるからね。
序列の上がったナギに広く伝えてもらうのがきっと効率がいいはずだし。
私もステップアップをしないとだ。
ところで。
私自身にもやっぱり変化がある。
ナギの序列が上がるたびに新しい力が宿ってきていたツナガレが、どう考えても私個人で扱える力の領域を超え始めている。
具体的な話はまだナギにも言ってないから割愛するけれど。
あとは、最近たまに意識がとぶことがある。
前までは、ナギが馬鹿にされた時に自分を少し見失う程度だったんだけど、ね。
普通に昼間とかに、数秒、意識がどこかにいってしまう、そんなことが増えてきた。
これもまだ、ナギには話していない。
話す勇気が湧かない。
私は一体何者なのだろう。
この先ナギの序列がさらにあがったら、私はどうなるのだろう。
本当に『私』を、『彼』を、見つけることができるのだろうか。
不安だ。
私は、私が。
怖い。