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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
私編 2 ―神の宴―
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私が龍を食すまで

「そっちいった、です」

「よっ、と、ツナガレ!」

「あっちいった、です」

「逃がさないよ、空間よ、収縮し、ろ!」

「こっちきた、です」

「「今行く!!」」

モンスターが逃げるのと自分の危機を同じトーンで言わないで!

全く全く。


私がベルに同居しようと話をしてからというもの、ベルも私たちのお仕事についてくるようになった。

ベルはもちろん誰かがどこかで傷つくのを看過できない存在だ。

私たちの狩りについても何かコメントがあるのかも、と思っていたけど。

狩り自体については何も言われなかった。

「あまり無駄な殺生は許さないぞ、です」

くらいは言われたけど、ね。

一応意思疎通が可能な神擬きとただのモンスターとに差は設けているらしい。

まぁ付き添いが一人……一人?

ちょっと神様の正しい数え方よくわからないけど見てくれはかわいい女の子だから人として。

付き添いが一人増えたくらいで私もナギも大して戦闘に問題はなかったけれど。

ベルはその性質上、基本他の人に存在を知られるわけにはいかない。

ベルの事を知る人間がまた増えたら、同じことの繰り返しになってしまう。

そんなこと誰も望んでいない。

だからベルの事は私たちが雇った"ただの戦闘補佐"ということにしている。

これも普通のギルドならハンター一人につき数人は補佐がつくことが一般的であるそう。

だからなんとかナギの序列は上がっても、ベルの序列は上がらないようにはなっている。

ちなみにこの一週間でナギの神様序列はまた急速に上がっており、20位になっている。

セレスと直接邂逅したことがどこからか漏れたそうだ。

よく考えたら最初普通にナース姿で出迎えにきたしね。

誰かが見てたとしても何も不思議じゃあない。

そのナギは既に目視できる空間を思い通りに収縮することができている。

この上にさらに19段階は力があるのだと思うとかなり恐ろしい。

どうなっちゃうのかな。

次元を収縮しそう。

それがどんな状態になるのか全くわかんないけど、ね。

とにもかくにも。

私はいまだ『私』にも『彼』にも近づいていないけれど。

ナギの方は順調に本来のナギに近づきつつあるのだ。


「周辺のモンスターは倒しきった、です」

ようし、お疲れ様。

ベルは戦闘補佐という誤魔化しが必要なので、非常に大きなリュックを背負ってもらっている。

なお大きなリュックに中身は入っていない。

リュック自体が割と重たいので、長時間持つ上に本来の役目を果たさない袋に何かを入れておく必要もあるまい。

ベルの一言で私は脱力する。

ベルにはセンサーのような鋭い感覚があるらしく、ベルが倒しきったというならモンスターはいないのだろう。


今私たちが来ているのは薄暗い洞窟だ。

通称"真意の洞窟"。

この入り組んだ洞窟に幻の龍そしてその秘宝が眠っているとの噂を聞きつけてきたのだ。

まぁ。

噂が立つ時点で幻じゃないんじゃあないかって突っ込みはなしにして。

あと龍が秘宝を守る意味もこれまたないんじゃあないかという突っ込みはなしにして。

ちょいと深くまで潜りにきている。

潜り始めは私たち同様に秘宝を求めるハンターさんたちの姿もあったが、もうほとんど見えない。

暗い洞窟で小さなライトの光3つだけが先を照らしてくれている。

実際戦闘になれば私のツナガレの副次効果、なのかな。

よくわかんないけど。

繋げた中途の光の束は周りを明るくするには洞窟の場合十分なので。

戦闘中は大丈夫なんだけど、ずっと照らしているのも疲れるので。

ここはライトに任せてしまおうと。

そんなことを説明口調で考えているとベルが急に立ち止まった。

「どうしたの、ベル?」

「なにかあった?」

私もナギも次いで立ち止まる。

「この先何かある、です」

「え、本当に!?」

もしかして辿り着いちゃったのか。

幻の龍とやらの居場所に。

いやでもさすがに早すぎないかな。

こんな程度で見つかるなら別に私たちなんかじゃなくても十分見つけられると思う。

でもまぁここは、行くしかないでしょ!

「ようしじゃあ私が一番乗り!」

と思い切りよく足を踏み出す、と。

「あ、たぶん罠だと思う、です」

聞こえたのはベルの忠告と。

ピン、と微かに足元で聞こえた何かに私の足が引っかかる音。

そして急に不自然に揺れだす洞窟。

現れる大岩。

落ちてくる大岩。

溢れでるベルへの思い。

「それは先に言ってよ!?」

「ツナギ、言う前に進んだ、です」

この策士め!

自分の身も危ぶめているあたり策士策に溺れているのかもだけど!

って、言ってる間に本当に岩が転がってきてるし!

逃げろ!!

「ってだからベルも早く逃げてよ!?」

走り出そうともしないベル。

「疲れてもう走れない、です」

「それも先に言ってってばー!?」

思わず叫んでベルを抱きかかえる。

そして走りだしながらどうするかを必死で考える。

ナギをまずは私と繋いでそれでよく見えないけど道の先の空間と私を繋げてそれで。

よしこれならなんとかなるだろう。

まずはナギを―。

「はい、収縮」

「それは速くやってよ!?」

「ツナギ今日はうるさい、です」

ナギが落ち着き払って岩を小さく縮めていく。

呆れた声をベルがあげるけどいやいや。

どう考えても君たちの対応のゆっくりさがおかしいよ。

つーかベルちゃん君はさっきまで普通に歩いてたでしょ。

何をいきなり疲れて動けないとか。

疲れてきたらすぐに教えてよね(ツンデレだ)。

二人とも何、のーっそのーっそしすぎだよ。

この洞窟ではそういう油断が生死を分けるかもしれないんだよ!

どこに幻の龍が潜んでいるのかもわからないのに!


幻の龍を倒した。

龍が保持していた秘宝もゲット。

龍の身柄は洞窟を通るには少し大きかったものの、ナギの収縮の力で難なく地上へと運ぶことができた。

わーなにこれー。

「おいしそう、です」

え、龍食べるの君。

「そうだね、お金に困っているわけでもないし、せっかくだから食べちゃおうか」

え、龍食べるの君たち。

「味付けは『リリィの滴』がいい、です」

「確かに、でも『ゾーイー・ソース』も外せないと思うよ」

「一理ある、です」

「どっちでもおいしそうだねー」

え、本気で食べるの。

食べちゃうの。

もちろん野生のモンスターはたくさん食べてきたけどさ。

こう、龍って、なんていうか、しかも幻だし、その。

おいしいのかな。

……。

じゅるり。

……。

ハッ。

いけないいけない。

気づいたらよだれが。

食べないぞ、私は食べないぞ。

だってなんかすごく洞窟の主みたいな感じで現れた白くて綺麗な龍がだよ。

珍しくないわけないじゃないか。

そこはなんか、ほら、どこぞやに見せびらかそうよ。

「ツナギは何で食べたい?」

「まぁ無難に煮込んでシチューかな……」

「それもいいね」

私も食べる気満々だった!

「全く、意外と食にうるさいよね、ベルは」

「昔はもっといいものばかり食べてた、です」

そうなのか。

まぁ序列1位の頃はそうだったのかな。

「例えば?」

「フェアリーとか、光とか、アルコーンとか、です」

「食べちゃいけないものばっか食べてる!ていうか最後はなに!?」

いや妖精さんも食べちゃダメだろ!

いいや光も食べちゃダメだろつーか食べたらそれ視界真っ暗になりませんかね!?

あと最後は何!?

誰!?

「アルコーンっていうのは、『偽の神』のことだよ」

意外とナギから答えがきた。

偽の神?

なんだか妙な神様だな。

「色々と正体が曖昧な存在で、ただ、神のくせに存在が悪だった、とだけ聞いたことがあるよ」

「へぇ、存在が悪な、神、か」

「というか、悪であるってことは厳密には神とは別な存在なんだと思うけど」

そっか、セレスもそんなことを言っていたけか。

神とは、須らく聖である、とか。

「そんなのがいたんだ」

「ただ、自然に現れなくなったから死んでしまったとか言われてたけど……」

「……食べたの?」

「はい、世界の邪魔だった、です」

「……おいしかった?」

「美味、です」


あれ。

それ共食いじゃん。

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