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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 2 ―Taboo War―
69/72

神様が伝えるまで

「聞いて、ボクの、物語を」


「聞こえてるよね、届いてるよね、感じてるよね」


「ボクは、元神様序列、っていやそれはもういいかな、ボクはナギ、元神様だ」


「今皆は結構混乱の最中にいるよね」


「だって、ルルシアが死んだって言われてもね」


「信じられないよね、よくわかんないよね」


「戦う必要がもうない、とか言われても、今動かないことで死んでしまうかもしれないって、不安だよね」


「でも、でもね、聞いて欲しいな、ボクの話を」


「落ち着いて聞いて、落ち着いて思考して欲しいな」


「ルルシアはね、本当に死んでしまったけれど、それは何も、絶望の言葉じゃあないんだよ」


「それ自体は悔やむべきことだけど、でも皆は、ルルシアがいなくっても生きていけるはずだから」


「これから先に向けて、ちゃんと前に進むために」


「とにかく、ボクの話をしっかり聞いて欲しいな」


「もちろん、ボクの話は崇高なものでもないし、ありがたい教訓でもなくって」


「どこまで皆に伝えられるのかよくわからないけれど」


「皆の気持ちを落ち着けることが出来るのかよくわからないけれど」


「紡ごう、ボクの言葉を」


「ボクの話、ボクの紡ぐであろう物語はね」


「ボクの物語でありながら、ボクの物語ではない」


「ボクはボクであって、ボクはボクなのだけど、ボクはボクだからこそボクの物語を語ることが出来ない」


「だって、ボクの見てきた世界に、ボクの姿などありはしないから」


「誰だってそうだ、自分の主観で物語るのに、自分の姿は見えないのだ」


「なんだか可笑しな話だよ、だって、家族も友も神様だって、全く知らないどこぞやの誰かの姿だって、ボクの目には映るのにさ」


「誰よりも知っている、誰よりも仲良しで、誰よりも知りたい、そんな自分を見ることすら出来ないんだ」


「ボクはだから、自分の話から物語を始めることが出来ない、彼女に、ツナギに会うところからじゃないと、会ってからじゃないと始められない」


「ツナギって女の子は、まぁここにいるなら知ってるよね、さっきまで、殺害対象になっていた女の子、ボクに願ってくれた女の子」


「一応言っておくけれど、もうこの後ツナギのことを見ても殺そうとしたら駄目だよ」


「皆は、どうかな、誰から物語を始めることが出来る?」


「考えてみて、思い浮かべてみて、自分の物語を始めるに相応しい誰かのことを」


「それで、願って、その誰かと一緒にいることを」


「ね、その願いは、たぶん叶うよ」


「死んでしまって、もう会えないなんてこともあるかもしれない」


「セレスのあるべき姿に戻す力にも限度があるだろうからね、っていうかいつでもどこでも使えるなら使っているだろうしね」


「でもさ、死んでいるか生きているかは、やっぱりすごく、すごーく大切だけど、だからこそきちんと生きているうちに願わないといけないことがあるんだよね」


「皆は今、生きてるんだよ」


「まだ、生きてるの」


「死んだかもしれない、死んだように生きてるのかもしれない」


「でも、それでも皆生きてるんだよ」


「だから願おう、祈ろう、想いを響かせよう」


「神様なんていなくったって」


「自分がどんなにちっぽけだって」


「本当に本当に心からの願いなら、叶わない願いなんてあるわけないんだよ」


「だってさ、こんな世界だよ」


「限られた資源、不公平な才能、荒廃してゆく文明」


「そのどこに、自分のあるべき姿があるっていうんだよ」


「ボクらの生きていく場所なんて、結局は金じゃない、能力じゃない、知識なんかでもない」


「自分じゃない生命」


「ボクたちは、自分以外の誰かに生きるの」


「それは人も神も神擬きも変わらない、関係ない」


「でもね、そうやって簡単に依存するのはいいことではなくって、むしろ害悪だと認識されてしまって」


「ボク達は住むべき場所も見当たらない」


「心の拠り所が存在しない」


「心が帰るべき場所はどこなんだろうね」


「自分で自分を見ることは出来ない」


「でも、他の誰かを拠り所にすることは認められない」


「悲しいね」


「ボク達はそれでも求めてしまうんだよね、心安らぐ場所がこの世界のどこかにあるんじゃないかって」


「そんなもの、あるはずないのに」


「誰か、自分の心の全てを受け入れてくれるんじゃないかって」


「そんな誰かなんて、いるはずもないのに」


「ボクはね、自分のことを、よく知らない」


「ボクが収縮の神として目覚めたのはもうずっとずっと昔のことだけど、ボクには自分の記憶がなかったから」


「ボクの中にはボクがいなかったから」


「だから、無謀にもボク自身を探す、そんな無為な旅を続けてしまった」


「そしてボクは、ツナギに出会った」


「出会ってしまって、出会ってから、ボクはボクの時間をようやく語れる気がしている」


「ツナギは本物の言葉を、ボクにくれた」


「それらは毎度毎度、ボクの構成要素となって、ボクの空っぽだった心に血肉を与えてくれた」


「ボクがボクであることを、ツナギが傍にいるだけで感じることが出来たんだ」


「出来ているって、勘違いしていたんだ」


「ツナギが、ツナギの言葉が、ツナギの世界がボクにとってボクそのものだった」


「ツナギは全く同じ境遇で、自分を探す女の子で、自分に自身が無くって」


「ボクがツナギに居場所を求めたように、ツナギもボクに居場所を求めて」


「ひどい共依存の関係になって、日々を消化していっていた」


「きっと、長くは続かなかったんだよね、どうせ」


「だって、そんなものは、気休めにすぎなくって、本物なんかじゃなかった」


「ねぇ、皆はこの世界が好き?大切?何よりも尊ぶべきもの?例え偽物だったとしても?」


「ボクにはこの世界が偽物には見えないよ、他の誰かにとって偽物であったとしても」


「だけれど、本物だとも思えない、すごく空虚で、すごく荒廃した世界なんだろうな、って」


「ボクがこれだけ長い時間自分を探しても、過去の自分の残滓も見つからないような、えらく文明の残っていない場所なんだなって」


「そんな風に見えているんだけれど」


「皆にはどう映っているのかな、まぁでも、せめて綺麗な世界に映っているといいな」


「あぁそうだよ、本物なんかじゃなくたっていいのさ」


「でも、本物であって欲しいものも、ここにはたくさんある」


「ボクはツナギに言うべきだったんだ」


「本物になりたい、って」


「この世界にはどれだけの本物があるんだろうね」


「この世界にはどれだけの偽物があるんだろうね」


「きっと、一つも本物なんてなくってさ」


「きっと、偽物だらけでさ」


「だから誰もかもが本物を求めて、結局それがなんなのか掴めないままで」


「限りなく本物に近い偽物で満足している、妥協している」


「でも少しずつそれが本物じゃないことを痛感し出して、空虚に身を窶して」


「その原因を、自分が依存した誰かに押し付けて」


「なんでだろうね、なんで間違えちゃうんだろうね」


「たぶん、何度でも話さないといけないんだよね」


「間違えたって感じたときにすぐにでも話し合うべきなんだよね」


「本当に、自分にとっても相手にとっても本物でありたいのなら」


「ボクはツナギとちゃんと話すべきだった」


「ボクはベルとちゃんと話すべきだった」


「家族になりたいっていうのなら、家族の一員でありたいというのなら」


「ボクの不安を、ボクの悩みを、ボクの心を、伝えるべきだった」


「本物になりたいんだもん、言葉にしないと伝わらないよね」


「きっとツナギなんかは、ボクと違ってひっどい天邪鬼だから」


「あぁ、うん、まぁボクも割りと素直じゃないけどさ」


「でもツナギは、言葉にしないと伝わらないけど、言葉にしたら全部を伝えられないとか言いそうだ」


「自分の考えていることを全部言葉になんて出来ないし、言葉にしたことを全部理解してもらうことなんて出来ない、とか」


「どうせ、そんなツナギだから、言葉にしなくっても全部を理解しあいたい、とか思ってるんだろうね」


「言葉にしなくても伝わる関係なんて、そんなの理想論でさ」


「ないとは言わない、けど、それを求めるのは酷だよね」


「実際、今回の騒動ではボクはツナギの声を、言葉になっていなかったツナギの声を聞いたわけだけど」


「普通にそんなことできっこないよ」


「言葉なんてなくても伝わって欲しいこともあるのかもしれない」


「でも、そんな関係を築くためにはやっぱり、沢山沢山話し合わないといけない」


「確かに、自分の思いを全部言葉にすることはできないかもしれない」


「その言葉を全部理解してもらうことはできないかもしれない」


「相手がくれた言葉も全部理解することはできないかもしれない」


「言葉にすればするほどお互いにすれ違っていってしまうのかもしれない」


「それでも一緒にいたいなって」


「それでも、間違ってもいい、傷つけあったっていいって思うから」


「ボクは、何度でも間違えればいいんだと思うんだ」


「だから、伝わらない言葉で伝わるまで話し合えばいいんだと思うんだ」


「それでも、何度繰り返しても伝わらないんだよね」


「それでいいんだよ」


「それが、たぶん、ボクにとっての本物だから」


「皆にとってどうかは、そりゃあわかんないんだけど」


「ボクにとってはそれで十分」


「自分のなかったボクにとっては、そうしたいと思える相手がいること自体がボクの存在意義になるんだから」


「だから、間違えることを恐れないで」


「生きることを恐れないで」


「誰かと共にいたいと願う心を押さえつけないで」


「固定観念に縛られないで」


「皆の願いはそこにあるし、皆の大切なものもそこにはあるんだよ」


「自分を見捨てないで、自分を卑下しないで」


「相手を尊重している風で、相手を護っている風で格好つけないで」


「いいんだよ、ぶつかっていけばいいの」


「何度でも何度でも、必要なら、本気で殴りあったっていい」


「必要なら、本気で殺しあったっていい」


「変な遠慮は要らない」


「だって、想いを伝え合う方法なんて、言葉だけじゃないでしょう」


「どうせ言葉だけじゃ全部なんて伝わらないんだし」


「かといって、殺しあったからといって、全部が伝わるわけでもないんだろうけど」


「言葉だけじゃお互い引っ込みが付かないときもあるよね」


「行動しなきゃ伝わらないような想いもきっとあるんだよね」


「ボクは今回、ツナギと殺しあってさ、正直、嫌な気持ちよりも嬉しい気持ちのほうが勝ってたんだ」


「何も殺しあいたいわけじゃないし、本当に殺してしまったら駄目なんだけどさ」


「でも、言葉を伝えてくれなかったツナギだから、殺しあうことで本当の気持ちをたくさん伝えてくれてさ」


「ボクもツナギも本気だから、だからこそ、言葉以外の気持ちが宿っていたり」


「そういうこともやらなければ、いけないんだよね」


「それでいいんだ」


「本物になりたいなら、それでいいの」


「皆も、そんな誰かがいるんでしょう」


「本物になりたいって願う誰かが」


「願わずにいられない誰かが」


「どんなに自分に嘘をついたって、本物になりたいと願ってしまう誰かが」


「そんな誰かのためになら、本気になってみようよ」


「でも、でもね」


「皆が今いるこの場に、その誰かはいる?」


「いない、よね」


「皆の目の前にいるのは、大切な誰かじゃないよ」


「大切でもない誰かに牙を剥くのは駄目だよ」


「無関係の誰かを殺しても、無関係の誰かに殺されても」


「そこからは何も生まれないよ」


「憎しみの連鎖は生まれるかもしれない」


「悲しみの旋律を奏でることは出来るかもしれない」


「でも、皆そんな理由でここにいるわけじゃあないでしょう」


「皆、ここにいた、司亜人に唆されただけだよね」


「司亜人が扮したルルシアが、この世界の秩序を護るためだとか言ったからここにいるんだよね」


「タブーの生命ってものが危険だから、それを殺すためにこうして戦ってくれたんだよね」


「もういいからさ」


「タブーは、もう大丈夫だよ」


「タブーの闇はもう、この世界からいなくなったから」


「それに、ルルシアもいない」


「皆が戦う理由なんてどこにもないの」


「皆が、大切でもない相手と戦う意味なんてないんだよ」


「その力はもっと大切なもののために使って」


「焦って無駄なことに使わないで」


「きっと、あなたを待っている誰かがいるはずだから」


「その誰かと対話するために使おう」


「だから戦争なんてやめて」


「争いなんてやめて」


「ボクはそんなこと望んでないよ」


「皆、ボクの言うことを聞いてくれるでしょ?」


「だってさ、ボクはこの世界の神様なんだよ?」


「知ってる?この世界は鈴鳴繋の世界なんだよ?」


「知らないよね、知らなくてもいいんだけどさ」


「その鈴鳴繋が望んだ神様がボクなんだってさ」


「だから、この世界を創った神様みたいな繋の神様なんて、まるで全知全能だよね」


「ボクは全知でもなければ全能でもないけれど」


「それでも、この世界で、唯一の神様なんだ」


「ボクは神様序列なんかに縛られてやらない」


「ボクは」


「収縮の神」


「手に収まる程度のものを収縮することが出来た」


「手に触れたものを何でも収縮することが出来た」


「手に触れずとも視界に入るものを収縮することが出来た」


「空間を収縮することが出来た」


「時間を収縮することが出来た」


「次元を収縮することが出来た」


「なら、最後に収縮するものは一つしかないよね」


「さぁ、願って」


「ボクに願って」


「こんな世界だ」


「なんだって出来るといいながら、なんにも出来ないこんな世界だ」


「何がしたい?」


「君の望みは、なに?」


「君の願いは、なに?」


「願おう」


「君たちの願いを、収縮しよう」


「願いを収縮して、集約して」


「新しい世界を創ろう」


「神様なんていなくたって、もう誰だって、自分で自分の願いを叶えられるよ」


「だから、神様に願うのは、これで最後」


「ボクに願うので、おしまい」


「ね、だから願って」


「自分にとって、本当に大事な願いをボクに預けて」


「全部全部、収縮してボクが預かるから」


「きっと皆が、自分の力で願いを叶えたら、返してあげるから」


「収縮の神としての最後の役割がきっとそれなんだと思うんだ」


「ねぇ、ツナギ」


「これがボクの言葉だよ」


「ツナギが欲していた、ボクの言葉」


「どうかな、届いてるかな」


「届いてるよね、最初に確認したくらいだし」


「ツナギはまた、どうせ自分に嘘をついて、聞こえてないなぁ、なんて言うかもしれないけれど」


「ツナギも、最後に願ってよ」


「もう一度、願って欲しい」


「ツナギにもう一度願われたい」


「それが、ボクの願いだから」


「ボクも、ツナギと一緒に前に進みたいよ」


「ツナギと、ベルと一緒に住んでさ、リアンとも遊んでさ、もっと友達を増やしてさ」


「そうやって、変わってゆく世界の中で、変わらずツナギに必要とされたいよ」


「それが出来ないのなら、何度だってツナギを求めて世界を変えてやる」


「ツナギに求められる自分になってやる」


「ツナギがボクを求めることが素直に出来ないって言うなら、そんな間違いを正してやる」


「ボクは、どんなことをしてでもツナギと一緒にいたいよ」


「ツナギに願われていたいよ」


「ツナギの神様でいたいよ」


「結局、ボクがボクを物語れるのは」


「ツナギの神様としてからなんだ」


「いつもいつも自分に正直に生きていくことは難しいかもしれないけどさ」


「それでもツナギには正直にいて欲しいし」


「ボクはツナギに正直にありたいよ」


「だから、一緒にいよう?」


「一緒に暮らそう?」


「互いに願おう?」


「大丈夫さ」


「ボクはいつだってツナギのことを必要としているよ」


「いつだってツナギの本物であり続けるよ」


「だから偽物の自分に怯えないで」


「ありもしない記憶に踊らされないで」


「自分は自分だよ」


「ツナギの居場所はここにあるよ」


「ここにいて欲しいよ」


「誰が誰を必要としているかなんて関係ないんだよ」


「ツナギがいたい場所が、ここであって欲しいんだよボクは」


「それも願うよ」


「収縮するよ」


「これから先、どれだけの年月をかけてでも」


「ほんの僅かな不安だって、ボクは許してあげない、取り除いてやる」


「だから、ずっと一緒にいよう、ツナギ」


「ほら、皆も、そう」


「これだけで、いいの」


「一緒にいよう、って」


「そんな言葉だけでいいんだよ」


「大切な誰かと一緒にいたい、って、そう願うだけでいいんだよ」


「そう言葉にするだけでいいんだよ」


「じゃあ、いいね?」


「大切な誰かは頭に浮かべた?」


「大切な誰かへの願いは、決まった?」


「大切な誰かと本気でぶつかる覚悟は出来た?」


「よし」


「じゃあ、願おうか」


「新しい世界を」


「新しい自分を」


「新しい」


「本物を」

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