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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 2 ―Taboo War―
65/72

神様が君と戦うまで

一体どれだけの時間が流れたのだろう。

たぶん、二秒くらい、かな。

あぁもしかしたら、二時間くらいかもしれない。

どっちでもいいや。

今がいつなのかなんて全然重要じゃない。

あーあ。

このままずっと、時が止まってしまえばいいのに。

誰もが、成長の過程で一度は願ってしまう、決して叶うことのない願い。

本当に叶ってしまったなら、それはきっと空虚だろう。

進まない時なんて、ボクは嫌だ。

人も動物も植物も、成長するから明日が楽しみで、成長するから明日が不安で、成長するために今を生きている。

神様は。

でも、神様は、少しだけ違う。

元より誰かに願われて存在する神様は、成長しない。

生まれた瞬間に、神様として完成されているからだ。

完成されているがゆえに、不完全な存在。

それが、神様なのだろう。

神であるはずなのに人と同じ目線で生きることを余儀なくされているこの世界においてはよほど神という存在は空っぽな生命体に映ることだろう。

自ずから成長することなど何もない。

自ずから死ぬことは無い。

ボク達はだから、長い時間永い時間を、孤独に生きている。

何も変わることなく、だ。

変わっていくのはいつだってボク達以外の何かであって。

神様は依然、何も変わらない。

さて、そんな神様は思ってしまうのだ。

どうして、人の子らは、このままでいたいと願うのだろう。

ずっと変わらずにいることは、こんなにも苦しいことなのに。

神様の姿を、君たちは何にも見ていないのか、と。

だから、人の願いの内、このままでいたい、という願いを叶える神様は、ここにはいない。

だって、それを叶える神様なんて、そんな可哀想な神様自身が、このままでなんて、いたくはないからだ。

そうでなくとも、変わらずにいることなんて、結局出来はしないだろう。

毎日の記憶が積み重なるというのなら、きっと変わらないことにいつか耐えられなくなるだろう。

毎日の記憶が積み重ならないというのなら、彼らは変わらない自分達に気付くことは出来ないだろう。

人は。

人の記憶は。

人の心は。

人の魂は。

人の存在は。

変わらないことに耐えられるように出来ていないのだ。

神と人の違いは、その生命としての在り方ではない。

まず、かく在るべしと願われた生命としての器が違う。

神は神。

人は人。

当たり前だけど、当たり前になってはいけない二つの存在。

神は人を羨み。

人は神を羨む。

互いに互いを知ろうともしないから、いつだって勝手に自分の妄想を押し付けて。

あぁ、あいつはいいなぁ、なんて。

決まり文句(クリシェ)を垂れている。

ボクも全く同じだ。

人は、いいよなぁ、って。

有限の時を過ごせることの素晴らしさを理解もせずに悠々と生きることが出来るだなんてとってもとっても羨ましい。

まったくまったくね。

ボクなんてボクであることも知れない無限を生きなくてはいけなかったのに、ね。

まぁそれに嫌気がさして、無限に幕を下ろそうとしていたけれども。

とにかく、ボクも全然知らなかったんだ。

この感覚。

悲しくて寂しくて胸がぎゅうって締め付けられて、そのくせ幸せで。

なんだよこれ。

あーあ。

もう嫌になっちゃうなぁ。

こんな気持ち、どうせなら知りたくなかったな。

皆、こんな風に想っていたんだね。

ボクは今。

そう。

このままずっと。

ツナギと殺しあえていればいいのにな、って。

願ってしまっているのだ。



ツナギの吐息がボクのそれと被る。

ボクが太陽の剣を真っ直ぐに突き立てようとする。

でもたぶんこの攻撃も止められると思う。

予想通り、ツナギはボクの刃が届く寸前で避けて、隙だらけのボクにツナグナを横から打ち込もうとする。

ツナギのその動きも予想できていたボクはだから、太陽の剣を突き立てようとした勢いを少しも殺すことなく前に転がり抜けることでツナグナを寸でのところで回避する。

一旦距離を置く。

置いてから、自分の息がかなりあがっていることに気付く。

でもそれはツナギも同じだ。

さっきからもうずっと、こんな互いに手の内を完全に把握した状態での戦いが続いている。

少しも気を緩めることが出来ない。

相手の動きは完全にわかるし、自分の動きは完全に読まれている。

だからこそ保たれている均衡は、どちらかが一瞬でも隙を見せれば崩れていくだろう。

そんな命の駆け引きがだ。

楽しくて仕方がない。

こんなのは、やっぱり初めてだ。

だって、ツナギと本気で戦ってるのが、楽しいだなんて。

殺そうとしている相手を殺すつもりで攻撃する時間が、ずっと続けばいいのになんて。

ボクもどうかしちゃったのかなぁと。

思わなくもないけど。

とっても嬉しいし楽しい。

だって、ぶつかる度に。

ツナギの想いが、ガンガン届いてきているようで。

ボクの知らないツナギの世界がいくらでも溢れ出てきていて、それを知れることが、それを本気で伝えてきてくれているという事実が、嬉しい。

「ねぇツナギ、ツナギは、いつまで嘘を吐き続けるのかな?」

「なんのことか、全くわからない、な!」

雷のように閃光がボクの真横を轟き駆け抜ける。

そんな脅しが通じないことくらい、もうお互いわかっているはずだっていうのに。

天邪鬼なツナギの為せる技だよね。

「言ってるでしょ、もう嘘を吐かなくってもいいんだよ、どうして意地を張ってるの?」

「ナギこそ、どうして私の気持ちを信じてはくれないのかな」

「信じて欲しかったら信じれるように努力をしてよわかんないから」

「ナギにわかってもらわなくても、いいよ」

「また嘘だ、ホント嘘ばっかりだね今のツナギはさ、神様相手に嘘がそう通じると思わないでよ?」

「うるっさい、なぁ」

いいぞ。

そうだ、もっと、もっとツナギを怒らせるんだ。

ツナギの本心を、表に出すために。

「ツナギはさ、別に司亜人と一緒にいたいわけじゃあ、ないんじゃないの?」

「いたいよ、一緒にいたいさ」

「だったら別にボクらのことなんて放っておいて、勝手にどっかでいちゃいちゃしてれば良かったんじゃないのわざわざ面倒なことしないでさ」

「言ったでしょ、ナギ達が邪魔なの」

「ザ・ワンとボクがいちゃいちゃするのが邪魔?」

「ナギ!!」

と、ツナギが怒りそうなタイミングを見計らって、太陽の剣を横に二度薙ぐ。

上段と下段をほぼ同時に切り裂く斬撃がツナギ目掛けて飛んでいく。

でもこちらのそういう攻撃はさすがにツナギもわかっているようで、軽くツナグナで防がれる。

ツナグナ、ね。

ツナガレの時は、光が束のように繋がって、どこかとどこかを繋げる力だったわけだけど。

今ツナギが発しているこのツナグナは、完全に一つ一つの光が分離していて、それらは様々な形は取るものの、最終的には何かと何かを断ち切る力となっている。

まさに、文字通り、繋ぐな、切り裂け、といった所だろう。

「ね、だってさ、おかしいって自分でも思ってるんじゃない?今のツナギは何もかも変だよ」

「うる、さい」

「だって露骨にザ・ワンの事意識してるし、ボクには優しいし」

「こんな風に、殺し合いをしている相手を、ナギは、優しいなんて言えるの?」

「言えるよ」

断言しよう。

ツナギからは、本気の本気、殺気を全然感じない。

殺すつもりで攻撃はしてきているんだけど、どことなく、ボクが対処することを前提にしている動きに見える。

「ツナギに殺しはさ、向いてないよ」

「……は?」

「だから、真っ直ぐ自分を探してきたツナギには、殺しは向いていないって」

「まるで、ナギには向いているような言い方だね」

「知らない?もうボクは、沢山の命をこの手で奪っているんだよ?」

「そんなの、私だって」

「ツナギが殺してきたのは、ただのモンスターでしょう?だから良いとか悪いとか、そういう話をしているわけじゃあないけれど」

「でも、今戦争を起こしてるよ、私は」

「それだって、自分で命を奪う事とはだいぶ違いがあるよ、もちろんやっぱり戦争起こしただけだからツナギに罪はない、って話じゃあないけれど、ね」

罪は、ある。

ツナギは払うべき代償を払ってここにいるのかもしれないけれど、それでもやっていいことと悪い事がある。

例えそれが、本物の鈴鳴繋が望んだ世界の在り方が、そういった戦争の激しい世界だったのだとしても、そんなことはボク達には関係ない。

ツナギはちゃんと自分に正直になるべきだと思うし、ツナギは自分の罪をきちんと理解すべきだと思う。

でも、ツナギが孤独に罪滅ぼしをする必要も全然ないと思うし、ツナギの間違いを他の誰かが責めるのも論外だろう。

ボクが言っているのはだね。

自分の罪から目を逸らしてんじゃねえよってこと。

そんな生き方は、ボクが許さないよ。

ボクは君の神様なんだから、嘘は許してあげない。

特に、自分に嘘を吐くことは、絶対に許さない。



さて、そんな感じでボクとツナギが一進一退のギリギリの攻防を続けていると、あちらでも動きがあった。

あちら、とは当然ザ・ワンと司亜人の事だ。

正直、司亜人の能力はボクにはどうにも出来なさそうなのと、思いついた案がとりあえずツナギを引っ張り出す作戦だったので、自然、ザ・ワンに任せてしまったけれど。

どうなのさ。

と、ザ・ワンの姿をちらっと見ると。

服はボロボロに破れ。

肌には切り傷が数多く見られ。

なんかやたらと血が垂れている。

って。

「全然ダメじゃん!?」

「なんだようるせぇな」

「うるせぇなじゃないよなんか策は練ってから戦おうよ」

「その策が浮かばねぇからひとまず真っ直ぐ突っ込んでるんだろ」

「あまりにもお粗末すぎるよ」

「なら役割変われよ」

「それは断っておくけど」

「だったら大人しく繋のことぶっ飛ばしておけよ」

「まぁ、うん、いいけどさ」

なんだ。

いや、完全にボクが振っておいてなんだけどさ。

もっとザ・ワンって頭いいんだと思ってたよ。

色々戦略を練っていくタイプかと。

そんなことないのね。

そんなことない、というか、そういうことがまさに通用しない相手だからこそただ純粋に真正面から体当たりしているのかもしれないね。

でもあんまり放置も出来ないか。

「ツナギをどうにか出来れば司亜人も止められるかな」

「そんなわけないでしょ」

「っと!」

ツナギがボクとザ・ワンの会話に混ざる形で奇襲を仕掛けてきた。

これにはさすがに反応が遅れてしまうが、ボクとは対照的にザ・ワンは読んでいたようで、しっかりと石剣でツナギの攻撃を防いでいる。

「繋の言うように難しいだろうな、あいつはあいつではっきりと意志を持ってるみたいだからな」

「中途半端なツナギとは違う、と」

ボクも軽口でツナギを挑発するのは忘れない。

「あのね、さっきから、会話全然聞こえてるんですけど?」

「聞こえるように話してるんだよ、ツナギ」

「ほんっと性格悪いなぁ、ナギは」

「ツナギには負けるって」

「いいから、繋の攻撃が俺にまで届かないようにくらいは粘れよ」

「ごめんってば」

全くもう。

司亜人との戦いを心配してきてやった女の子に向かってなんたる言い草か。

酷い奴だよ全く。

こんなののどこがいいんだいツナギ。

「こんなののどこがいいんだいツナギ?」

「「うるさい!!」」

おおう。

「やっぱり息ぴったりじゃんかね」

「お前実は俺まで一緒に挑発してるだろ、乗ってやろうか?」

「そんなつもりはないってば、ほら、なんとか司亜人に対抗できる何か、考えてよ」

「考えてるっての」

「じゃあとり……っ!?」

見ている風景が一瞬で変わる。

すぐ隣にいたはずのザ・ワンも、目の前にいたはずのツナギも少し離れた位置に見える。

っと……これは、司亜人か。

「さっきから聞き捨てならないことを君は言うなぁ、ナギ」

「何さ、なかったことにしたい話でもしていたかな?」

「減らず口だけは一丁前だね」

「まぁね」

言葉とは裏腹に、結構ボクはびびっている。

こんな急に司亜人の能力を発動されたらたまったもんじゃない。

今のところは行動をキャンセルされているけれど、もしかしたら、もっと、なんだって『なかったこと』に出来るのかもしれない。

ひょっとすると、ボクの中にある、ツナギの存在だって。

『なかったこと』にされてしまうかも。

なんて思うと、結構恐ろしい存在である。

「いや、それはねぇだろ」

「当たり前のようにボクの脳内を覗くのはやめてよ、え、何、新しい能力にでも目覚めたの?」

「お前といい繋といい分かりやすすぎるんだよ顔に出てるっての顔に」

ザ・ワンの声が擦り切れている。

気のせいではないだろう。

かなり消耗しているようだ。

「そんなこと出来るなら最初からやってるだろ」

「まーそれは確かに」

「それによ」

ザ・ワンは、鋭い眼光を司亜人に飛ばす。

司亜人は依然、ギルドのてっぺんから動く気はないらしい、余裕の表情で、害虫を見下ろしているかのような顔をしている。

「あいつ自身が、忘れられなくてここまで来たんだろ、なかったことになんて、出来なくて」

「なるほどね」

繋に捨てられた司亜人だ。

それについては、完全に繋が、悪いように思う。

別に他に好きな人が出来た、とかそんなのはもちろん構いやしないけどさ。

自分の気持ちに嘘を吐く必要はないとボクだって思うけれど。

でも、それを司亜人に伝える方法はまずかったよね。

いや、そんな程度でこんな偽物の世界にまで追ってくるなんて執念深くて器の小さな男だなぁとも同時に思ってしまうのは。

ボクが女の子だからかな。

そうでもないよね。

たぶん。

とにもかくにも、繋を追ってここまで来て、ツナギの存在を知ってそれを求めた司亜人は今まさに繋を殺そうとしているのだ。

それは確かに、忘れていないことの証明になるはずだ。

忘れてしまえば、なかったことにしてしまえば、それを悲しむ心すら、必要ないからだ。

「じゃあとりあえずは物理的に攻撃に気を付けておけばいいのかな」

「今や俺たちの特性は完全に封じられているからな、そんな所だろう」

「うん、正直司亜人のあれ、打開出来るイメージが全然湧いてこないんだけど、なんとかしてみてよ」

「ひっでぇ言い草だな、なんだ人任せか」

「神任せだね、お願い神様」

「うっせ」

軽口がどんどん増えているのは、それだけボク達が追い詰められていることの証でもあるんだけどね。

話していないと、何かに押しつぶされてしまいそうだ。

そう、今もずっと、司亜人からは恐ろしいほどまでの重圧を感じている。

ずん、ずんと、胸を握りつぶそうとするその圧力は、少しずつ少しずつボク達の身体に重石を乗せていく。

けれど、ザ・ワンが、にやりと、すごくいい笑顔をボクに向けた。

今まできちんとザ・ワンのことを見てこなかったので自信はないけれど、たぶん今までボクに見せた表情の中で一番良いと思う。

「一つだけ良い案が浮かんだ」

「……へぇ?」

でも、でも、だね。

さっきザ・ワンはボクの案に対して、嫌な予感がするみたいなことを言っていたけれど。

それってこういう感じなのかな。

今ボク、ものすごーく、嫌な予感がするんだよ。

「繋、来てくれ」

ザ・ワンが、ツナギではなく、少し離れて状況を見守っていた繋を呼んだ。

繋は怪訝そうな顔でしかしザ・ワンの呼ぶままにこちらに走ってきた。

その繋にツナギから放たれたツナグナが猛襲するが、それはボクがカバーに入る。

問題なく太陽の剣で撃ち落として、繋の安全を確保したまま、防護体制に移る。

「繋をどうする気?」

「なぁ繋」

ザ・ワンはボクの質問を無視した。

なんだい。

「な、何?」

「ちょっと囮頼んだぞ」

「「…………は?」」

今度はボクと繋の声が重なる。

なんて言ったこいつ?

囮。

囮!?

「ちょっ、ザ・ワン!?」

ボクの再度の呼びかけにもザ・ワンは何も応じず、繋の事をお姫様抱っこして、そのまま一気に飛び上がった。

真っ直ぐ司亜人の所へと向かう。

「んなっ!?何やってんのあの神!?」

思わず心の声がそのまま零れる。

相手は繋の命を一番に狙っているんだよ。

それをちゃんと理解出来ているのかあやつは。

あぁもうどうしよう。

あれはさすがに止めなきゃ、駄目だよね?

「させない」

「ちっ!」

ボクもザ・ワンと繋の所まで行こうかと思ったけれど、ツナギがそれを邪魔する。

ツナギが攻撃を仕掛けてくる限りは、ボクは全く身動きが取れない。

互いに拮抗した力、拮抗した読み。

それらの応酬が再び始まるのだろう。

「あぁもう、そっちのことは任せたよ!!」

「おう、任せろ」

ザ・ワンからきちんと返事を貰って、ボクはまた目の前の敵に集中する。

「ホントさ、あんたの夫はどうかしてるよ、ツナギ」

「夫じゃないし、恋人でもないっての」

「そんなのは枝葉末節だよ、どうかしていることが伝わればいいさ」

「あれの心配をしているほどの余裕があるとは思えないけど、ね?」

「残念だけど、ツナギに対しては、余裕があるよ?」

「へぇ」

ツナギの内に、力が溢れてくるのを感じる。

全く、これじゃ仕切り直しみたいなものじゃあないか。

司亜人とザ・ワンの戦いには繋がどうやら何かしらの形で参戦しようとしているけれど、ボクとツナギはさっきからちっとも変わらない。

互い、疲弊はしているけど、それでも譲れない気持ちがここに、あるから。

だから相手が立つ限り、ボクだって負けてはいられない。

殺し合いに、終わりは、ない。

「さて、後半戦と行きますか、ナギ?」

「まだ、前哨戦かもよ、ツナギ?」

「なら、それならまだまだ沢山入れるね、うれしい、なっ!!」

「そうだ、ねっ!!」



全く同じ呼吸で、全く同じ速さで、全く同じ攻撃で。

ボク達は殺し合いを再び始めた。

一進一退の攻防は続く。

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