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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 2 ―Taboo War―
64/72

神様が奪うまで

司亜人は能力を持っていた。

この世界に起きる事象を、『なかったこと』にする力だ。

それは果たして。

「ザ・ワンの能力と何が違うの?」

ボクの問いにザ・ワンはおいおいといった表情だ。

いやでも、大体一緒じゃんね。

ついでに言えばボクと繋がいることともあんまり区別がつかないし。

ザ・ワンの神としての能力は、無効化のはず。

個体の神、あんまり詳しいことはボクは聞いていないんだけど。

いつだか家でツナギがあれこれ恥ずかしがりながら話してくれたことがある。

実際の所、どのくらい仲が良かったのか知らないのだけど、ね。

知らされていないんだけど、少なくともあれこれと喋ることが出来るくらいには仲良しさんだったものね。

ってそんなことはどうでもよくってだ。

ザ・ワンは世界のどんな変化も打ち消して、一切の影響を受けない。

そんな力だった。

それでボクと繋も今、この世界での能力は無効化できる。

でもそれは無効化とは全く別種のもので、元々本物の世界の存在である繋に、本物の世界の存在となったボクには、そもそも『不思議』なんてものがない。

ないものは事象として起きようがない。

ただそういう感じなんだけど。

司亜人の力はどう違うのかね。

「起きていることは俺と同じだと思っていい、が、全然違うだろうなやっぱ」

「どの辺が?」

「俺のは、ただ俺がそういう影響を受けないってだけ、なんだがあいつのはどうやら自分に影響があるかないかは関係なく『なかったこと』に出来るらしい」

「範囲というか、対象が広い、ってこと?」

「それもあるが、それは今問題ないだろ、どうせあいつら狙いで攻撃するし」

「確かに」

あれ、なら何が問題なんだっけ。

互いに無効化能力を持ってるから単なる殴り合いになるってことだっけか。

それはでも、特に問題ないよね。

……む?

今の違和感は一体。

って、そうだ、無効化同士?

「さっき、ザ・ワンの攻撃、『なかったこと』にされてなかった?」

「異能を受け付けないはずの、お前もな、ナギ」

「……あ」

ボクもザ・ワンも本来、不思議な力は一切効かないはずだった。

なのに、ボクもザ・ワンも止められている。

司亜人の力が、ボク達に通用している。

「なるほど、どういう原理かわっかんないけど、早速ピンチなんだね今」

「そういうことだ、一応確認しておくが、本物の世界ではありふれた力である、みたいなことはないよな?」

ザ・ワンが繋に話を振る。

繋がううん、と首を横に振る。

ボクが腕を振る。

振りっぱなしの三枠でズッコケ道を二秒ほどお送りして。

よくよく考えてみれば司亜人が能力者だって事実自体が不思議なのだね。

言われなかったら分からなかったよ。

なんでだろうね。

どうして力なんか持っているんだろうか。

いやでもそれは気にしても仕方ないか。

状況は何も変わらないし。

今後の方策を聞いてみる。

「で、何か良い打開策はある?ザ・ワン」

「ねぇな、お前は」

「ないね」

「だろうな」

「だろうね」

確認するまでもなく、もうお手上げだ。

理解できない力に対抗していかなければならないなんてさすがに辛いなぁ。

しかも、こちらの動きはなかったことにされるんだもんね。

どうしようかな。

具体的な考えは、確かにないけれど。

こちらの行動が『なかったこと』にされてしまうと言うのなら。

「なかったことに出来ないことをしたらいいかな」

「ん?」

ちらっとザ・ワンを見る。

ボクが発言するたびに相変わらずな怪訝な顔つきになるザ・ワン。

いやいや、そんな腫物に触る時みたいな顔しないでよ。

今はふざけてる場合じゃないでしょうが。

「ねぇ」

「断る」

「はやっ!?」

なんでボクの提案聞く前に断ったの!?

ひどいよ全く全く。

普通にこの状況をどうにか出来る案だってば。

「ね、打開策なんだけど」

「お前のその嫌味な笑顔どうにか出来ないのか不安しか残らねぇんだが」

「嫌味な笑顔ってなにさボクの笑顔はいつでも一面に花が舞うほどかわいいってツナギが言ってたよ」

「あいつの感性に合わせていたらこの世界は間違いなく崩壊の一路を辿るだろうよ」

「とにかく、今ボク達かなりまずいって認識はあるかい?」

「お前よりはよほどな」

「うん、だからそのための案をボクが思いついたのです」

「……なかったことに、司亜人が出来ないようなこと、なぁ」

ふむう。

この反応は、なんとなくボクの考えてることわかってるんじゃないかね。

わかっててそうじゃない可能性を考慮しているか、祈ってるかしてるんじゃないですかい。

神様のくせに誰に祈るんだ、なんて愚問はもうしないけれども。

ボクだってベルには祈ったわけだしね。

と、いうか、むしろ嫌がるのはボク側なんじゃないかなぁと思うのだけど。

いや、普通にやりたくはないっての。

「違う違う、司亜人の事なんてボク達は何も知らないでしょ、繋に何かいい考えがあるなら実践してみてもいいけどさ」

「ごめん、私には何も」

「だよね、うん、だからほら、ザ・ワン、早くしないと、追手が来ないという保証もないし、アリスたちが無事と言う確証もないんだから」

「あぁもうわかったよ聞くよお前の案、で俺は何をすればいいんだ」

ようやく聞く気になってくれたか。

今の無駄な時間を返して欲しいくらいだよ。

でも司亜人もツナギもちゃんと待っててくれてるし。

待ってる、というか、いつでも殺せるのでなるべく苦痛を与えたい、とかそんな感じなんだろうけど。

少なくとも繋に対する恨みは大きそうだしね。

ボクやザ・ワンに対して司亜人がどう思っているのかは正直わからないし。

さて。

ようやくザ・ワンがボクの話を聞いてくれる段取りになったのでさっさとやってしまおう。

もちろん、司亜人が『なかったこと』に出来ないことなんてわかるわけがない。

強いて言えば繋、あるいはツナギの事はなかったことに出来ないかもしれないけど、それでは今の状況は打破できない。

っていうかそんなん言われてもどうも出来ない。

もうホント出来ないことだらけだよ。

でも。

まぁ。

こればかりは『なかったこと』になんか出来ないでしょ?

ねっ?

ツナギ?


「んっ……」

「なっ……」


柔らかい、けれどなんだかゴツゴツしたような感触。

緊張からなのか、大体男性というものはそんな感じなのか。

うむ、よくわからない。

けれど思いの外、熱い。

ボクの顔も火照っているような気がするし。

僅かに触れた唇が溶けて無くなりそうだ。

いやいや。

そりゃあ恥ずかしくないわけないでしょ。

ボクだって、キスなんて初めてだよ。

したくてしたわけじゃあないし別にザ・ワンに気があるわけでもないって。

でも、一応ボクも女の子なわけで。

もういっそ今のボクは神様ですらないので本当に文字通りただの女の子なわけで。

そりゃあ、初めてのキスはなんとやらですよ。

ま、そんなボクの初めてを奪った(むしろボクが奪ったけれども)ザ・ワンが苦々しい苦悶の表情をって失礼だな本当に。

「な、なにしやがる!?」

「だから、なかったことになんて出来ないでしょ?ね?」

あえてボクは声を大きく張る。

ギルドのてっぺんで待ち構えていたであろう、ツナギにも聞こえる声で。

「ごめんねツナギ、彼の唇」

もう一息ためて、と。

「奪っちゃった」

なるべく嫌味ったらしく。

とにかく魔性っぽく。

今だけは小悪魔のように。

語尾にハートを付けるくらいの勢いで。

ツナギを煽る。

どうだい。

司亜人の隣になんているけれど。

好きな神が目の前で、しかもボクにキスされる姿は。

いっそ『なかったこと』にしたいかもしれないけれど。

意識しすぎてもう『なかったこと』になんて、出来ないでしょう?

と、瞬間。

「調子に乗らないで」

の一言を付け足して、ツナギがこちらに飛び降りてきた。

ふん、理由はどうあれ、ボクときちんと戦ってくれると言うなら挑発は成功でしょ。

「ツナグナ」

重力に従ってるんだか従っていないんだかよくわからないような急な速さで宙を舞いながらツナギが光の針を雨の如く大量に地面に突き刺してきた。

「はっ!!」

ボクは大きく太陽の剣を振るって、自分と繋に直撃しそうだった光を弾いた。

予想通り、繋の闇であったボクから生まれたこの力は、ちゃんとツナギの闇であると思われるツナグナに対抗出来た。

やっぱりね。

ツナグナは、どこか、嫌なイメージから生まれた力だと思ったから。

闇を光に変えれるこの力はダイレクトに届くと信じてた。

ツナギがやや驚きつつ、地面に着く。

結構な高さから落ちたはずだけど無傷だ。

それはもう今更驚くようなことじゃないか。

「ナギは、本物の世界の生命、ただの人になったんじゃなかったっけ?」

「そうだよ?」

「それなのにその力はずるいんじゃないかな」

「そうかもね、でもこれは本物も偽物も関係ないよ、だって、ボク自身なんだから」

「繋自身じゃなくって?」

「繋の闇で、ボク自身だよ、太陽の剣は」

「なんでもいいけど、ね、大人しく死んでくれないかな」

「断るよ、好きな相手のキスシーン見て嫉妬に駆られちゃう可愛いツナギを取り戻しに来たんだから」

「私は司亜人の事が好きなんだよ、勘違いして欲しくないなぁ」

「ならどうしてここまで降りてきたのかなぁ、向こうでその司亜人に守ってもらってれば良かったんじゃない?それこそ大人しくさ」

「だから、勘違いを正しに来たんだよ、私は生憎と、黙って守られるのは性分じゃないからさ」

「そっかそっか、そうだったね、ツナギは繋が望んだ理想の自分だもんね、まずは気持ちからってこと?いやぁ、ツナギは強いねぇ」

「そんなあからさまな挑発に乗るとでも思ってるのかな、ナギ」

「思ってるよツナギ、今のツナギなら、ね」

ぴりぴりとした空間がボクとツナギの間に生まれる。

その間に繋はボク達から距離を取ってくれたみたいだ。

少し離れた影から見守っている。

実際あんまりその距離は関係ないようにも思うけれど、すぐ近くにいられるよりは安心して戦える。

しかしまぁ。

簡単に釣れたなぁ。

ツナギは。

うん、確信を得た。

改めて、ではあるけど、ツナギはどうせ、ザ・ワンの事がまだ好きなんだ。

っていうか、好きだったんだね、それで、まだ好きなんだね。

ボクは何にも聞かされてないからなぁその辺りに関しても。

いいけどさ。

神様としてはちょっぴり不満だよ。

ま、ツナギのその想いを利用するにしても、ツナギの対処如何によっては微妙な作戦だったわけですが。

普通に『なかったこと』にされる可能性も大いにあったし。

なんなら、ボクとザ・ワンのキスを司亜人に頼んで『なかったこと』にすることが、ツナギがザ・ワンの事意識していると言っているようなものである、という事実に気付いて無視される可能性もあった。

でも、全く可愛くて馬鹿で面倒くさいツナギはこうしてボクに挑んできた。

わかりやすくていいや。

「戦おう、ツナギ」

「……?」

「ボク達は出会ってからずっと、沢山の事を喋ってきたよね、隠し事といえるほどの隠し事もなく」

実は結構ツナギはボクに隠し事していたとかいう不思議な事実からは目を逸らしておこう。

「でも、想いをぶつけあったことは、ない」

「……そうだね」

「ずっと仲が良い関係ってのも悪くはないけどさ」

にやり、とボクも笑顔でスイッチを入れる。

ギアを入れる。

戦闘モードに。

本格的に、ツナギを。

殺すくらいのつもりで。

木製の刃をツナギに向ける。

「対立しなきゃ、殺し合わなきゃ伝わらない想いも、ここにはあるよ」

そう、言い切る。

ボク達は、そうだ。

遠回りをしすぎなんだよね、いつもいつも。

自分の記憶を求めるのに、あちこち行ったって仕方がないさ。

自分は今ここにいるんだから。

自分探しなんてする意味がない。

ここにいる自分自身に全て答えがあるはずだ。

ツナギの想いだって、一体どんな旅路を経て今ボクに向かい合っているのか、全然ボクにはわからないんだ。

たぶん言葉にされても、わからない。

伝わらない。

だったら、ぶつかりあってみるしかないよね。

雨降って地固まる、なんて言葉じゃ生ぬるい。

大洪水で跡形もない大地に残るは雑草、みたいないやもう何言ってるのか全然わかんなくなったけど。

ずっと一緒にいて、一度もろくにぶつかり合わなかったボクらだ。

一度くらい、本気で戦ってみないとわからないことがたくさんあるさ。

「なるほど、そういうことか」

口元を必死に拭っていたザ・ワン(やっぱりあとでぶっとばそう)がようやくボクの真意に気付いたそうで、彼なりに仕切り直しの運びとなった。

どうやらボクの考えはわかっていなかったらしい。

そうかい。

わかっている風だったけれどね。

意外とそうでもなかったのかな。

って、考えていることがすぐに伝わるほどの時間は共有していないか。

それはそれでいい。

ザ・ワンと思考が繋がるのはなんか嫌なんで。

なんかね。

いやいい神様だとは思うけど。

なんかよくわかんない格好してるし。

頼りにはなるけど恋仲にはなりたくないや。

そこはツナギに任せるさ。

さて、ツナギを引っ張り出すことには成功したけれど。

どうしようか。

あの司亜人はツナギの想いを『なかったこと』にはしないだろうと踏んでいた所までは読めた。

でも、その先、当の司亜人をどうにかする方法は全く思い浮かばない。

確かにボクの願いとしてはツナギを取り返すことだから司亜人の事はどうでもいいんだけどさ、そんなことを言っていられるはずもない。

たぶんツナギも司亜人も両方どうにかしないと、ツナギは戻ってこないだろうし、司亜人は諦めないだろう。

それでは困る。

それじゃあボク達の負けなんだ。

だからどの道、ボク達にも通用する司亜人の能力はどうにかしなければならないわけだけど。

今ボクはツナギを引きつけているわけで。

その絶望的な役回りをザ・ワンに押し付けちゃっているんだけど大丈夫かな。

ツナギをさっさとぶっ飛ばしてそっちを手伝いたい気持ちもあるにはある。

ただ、ツナギがそう簡単にやられてくれるとも思わないし。

何か、ザ・ワンにいい考えがあればいい、けどさっきないって言ってたよね。

せめてじゃあ当たって砕けてを、ボクが手助けできるような時間まで粘って欲しい。

きっと体はボクと同じくこの世界の基準から言えば虚弱なただの人のはずの司亜人だ。

あの能力によってザ・ワンの動きを『なかったこと』には出来ても、倒すことは出来ないんじゃなかろうか。

それならば、気持ちの問題で、ザ・ワンには何度でも攻撃に出てもらえればいい。

それはかなりの精神力が必要な気がするけどザ・ワンならきっと問題なかろう。

やってくれるさ。

なんて、勝手に信じて。

ボクは目の前に集中する。

よし。

パン、と両の頬をはたく。

自分に気合を入れる。

その頬の軽い衝撃に一瞬、目を閉じる。

目を開ける。

目の前に、溢れんばかりの光が、全くバラバラに、散弾のようにボクい襲い掛かる。

ボクは太陽の剣の腹を前方に突き出してギリギリ直撃の難を逃れる。

でも端々から零れた閃光がボクの腕や足や脇腹を若干抉っていく。

「つっ!!」

僅かな傷だけれど、それでも全身に走る激痛をボクは無視して全力で次なる応戦に備える。

どうせツナギのことだ、すぐに次が来る。

ボクの予想通り、すぐに背後で殺気を感じた。

ツナギがいることを視認すらせずに、ボクはさっきギルドの頂上に上ろうとした時と同じ要領で太陽の剣を地面に叩きつけてその勢いで跳躍する。

元ボクが立っていた場所に光が横殴りに走る。

そのままボクは下にいるツナギに太陽の剣を振りかざす。

ツナギはまたバラバラになっており、一切組みあうことのない光を無理やり束ねて一つの剣を模倣し、それを上段に向けて構え、ボクの落下の勢いを乗せた斬撃を耐えた。

互いの力が激しく発光する。

ツナギの力は黄色に。

ボクの力は黄緑色に。

それぞれ発行し、まるで火花か何かのようにバチバチと力の残滓が散ってゆく。

手に加わる力が、想いが、重たい。

「そうだね、うん、そういうこともあるよね」

ツナギがおもむろに口を開いた。

「殺し合わなきゃ、わからないことも、あるよね」

……へぇ。

いいじゃん、さすがはツナギよくわかってるじゃないか。

「受けて立つよ、ナギ」

「よしきた」

さぁ。

ツナギ。

「「殺し合おうか」」



いざ尋常に。

なんてね。

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