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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 2 ―Taboo War―
62/72

神様が最終決戦に臨むまで

「っだー、もう疲れた一旦休憩するよ」

「ん、お疲れアリス、はい水」

「んん、ありがとお兄ちゃん」

「いやいや」

「え、え、何休憩?」

「うん、さすがにこの大人数を同時に強制通信するのはちょっと疲れたから、休憩」

「いやアリス、そんな簡単でいいの?」

「いいと思うけど……ダメ?」

「かわいいからいいけど」

「かわいいからなんだ……?」



なんとも間の抜けたやりとりを経て。

アリスの首筋に暗く光るものがすぅっと消えていく。

と同時にアリスが大きく伸びをする。

見ればかなりの汗を掻いている。

すぐにフォローに入ったリンドウの様子といい、どうやら本当に多人数相手に通信の能力を行使するのは労力を要するらしい。

だけれども、今この状況でそれは結構リスキーである。

それ、とはもちろん、アリスの能力を解除することである。

アリスはさっきまで通信の能力の応用、なのか、詳しい事はよくわからないけれどとにかくこの戦場にいる全ての者たちの視界を強制的に操っていた。

リンドウが別の世界で起こした爆発の映像を見ているのかもしれないし、あるいはもっと感覚を麻痺させるようなことをしていたのかもしれない。

その辺はでも、アリスの事だからなぁ。

かわいくて、少し話しただけでもわかるその優しさだけど。

こと生き死にに関する話になると、かなり冷酷な一面が垣間見えるからなぁ。

どんな感じに能力を使っているのか見当もつかない。

とまぁ、とにかく、だ。

今この戦場では、本当に数えきれないくらいに多くの生命が殺し合いをしていた。

ボク達を殺さんとする、町に住んでいた人、神擬き、神様。

それに対するは、どうやら繋の味方をしてくれているらしい元タブーのモンスター。

二つの勢力の攻防は、激しいなんてものじゃない。

命を賭した、いや、賭してすらいない者たちが次々に死に。

さらにセレスの能力によって蘇り、何度も、何度も、何度も何度も目の前の敵を殺し続けていた。

精神状態が、まともなままでいられるはずがない。

アリスによって強制的に感覚を錯乱させられていなければ、もうろくに自分と言う存在を保ててはいないだろう。

戦争なんてそんなもんだ。

しかし、そんなギリギリの所でどうにかなっていたものを、こんなにあっさり。

もう疲れたーって。

かわいいなぁもう。

ボクの妹になってくれないかしらん。

「で、どうすんだよこの状況」

「んん、でも俺たちはなんか意地張ってるのを素直になってもらっただけだし」

ザ・ワンの困惑した言葉にも、リンドウはかるーく答える。

「そうだな……おい、ナギ」

「なに?」

ザ・ワンに呼ばれて、一応ボクも会話に参加する。

ちなみに、今セレスとベルは、なんか、なんだ。

抱き合ってその辺に寝っ転がってる。

なんなんでしょ。

いやなんなんだい。

あれれ。

あの展開って、こう、ボクも含めて、なんならザ・ワンすら含めて、この世界の神様皆で気持ちを分かち合ったんじゃなかったっけ。

繋の目の前で申し訳ないけどさ。

繋のせいで、空っぽのまま生まれてしまった神様って概念の、存在の。

根本にある悲しみを。

皆で、理解しあったというのに。

なにさなにさ。

ボクのかわいいベルにあんまり変なことしないでよねセレス。

散々酷いことをしてきたセレスに対して何もないのか、なんて事も考えてなくはないんだけど、そんなことしてるほど暇じゃないしね。

セレスがちょっぴり、たぶんちょっぴりだけなんだと思うけど、ちょっぴりだけ本音を言ってくれて。

結局、慈愛の神だの、何千年に及ぶ黒い歴史だの。

遠回りして、遠回りしすぎていた、セレスとベルの妙な関係は、ただ、心を通わすだけで新しいものとなった。

そんなことは、人も神も関係ない、等しく価値ある生命であると定義されているこの世界だからこそできることなのかもしれないし。

本物の世界ではありふれているのかもしれない。

少なくとも、セレスの想いは本物だった。

ベルを羨ましいと思った心も。

ベルを憎いと思い、壊そうと思った心も。

自分と言う存在の不安定さから、そうせざるを得なかった、という事実も。

全部本物だったのだ。

まぁ、ボク達は別に、裁きを下せるような立場ではない。

強いて言えば警護ギルドを取り纏めていたザ・ワンにはその権利はあるのかもしれないけれど。

ボクもベルも繋もセレスも、等しく咎を背負っている。

だから誰も、セレスを責めようとするような事を、ボク達は誰もしなかった。

その結果、なんかベルと抱き合ってるんだけどさ。

うん。

まぁ。

じゃあ。

二言だけ。

コメントしとこう。

なんだこれ。

地味にエロい。

で、話を元に戻そう。

ザ・ワンに呼ばれたんだった。

「この先は、俺とナギと繋の三人で向かうぞ」

ふむ。

アリスには確かに、ここでもうこれ以上殺し合いをさせないように、なんとか頑張って欲しい。

ということは自然と、アリスに的確なフォローを行えるリンドウもここに残るべきだろう。

戦力としても、いざって時には頼りになる。

それにこれから戦う相手はツナギと司亜人だ。

人選としては、たぶんボクとザ・ワンと繋っていうのは理に適っていると思うな。

戦うことを想定しても、結果を見届ける必要が有るということを想定しても。

ただ一つ気がかりなのは。

「リアンは?ここの方が安全なのかな?」

「あー、戦争が再開しないのであればこっちの方が良いが……そうでないなら家に帰すべきだが」

「そもそも家族は、今どんな状況に?」

リアンはこの中で、唯一本当に、ただのかわいい女の子なので。

とにかく戦闘に参加させるわけにはいかない。

「うーん、私は家を飛び出してきちゃったから、お父さんとお母さんがどうしているか、まではわかんないな」

「少なくともリアンまでが殺害対象になってるってことはないだろ、司亜人はリアンのことを知らない」

「そっか、司亜人は……場合によってはルルシアだって、リアンの事は知らないもんね……」

ルルシアの事だから、この世界のことは何でも知ってそうだけど。

いや、あるいはずっと昔から本物の世界の繋を求めてきたというなら、やっぱりこの世界の住人になんて興味を示していなかったかも。

……ん。

そか、そういう考え方もある、か。

「やっぱり、リアンも一緒に来てくれる?安全を絶対に確保する、とは言えないんだけど」

そんなボクの弱々しい言葉にリアンはいつも通りの笑顔で、これまた簡単に。

「もちろん、皆がいないと、寂しいからね」

なんていい返事をくれた。

胸中に何を思ってるのか、そこまではわからない。

でも、単純に嬉しい。

「ありがとう、リアン」

「うん」

「じゃ決まりだな」

ザ・ワンの一声で、次の行動が決まった。

そんなやりとりをしていたら、少しずつ喧騒が戻ってきた。

たぶんアリスの能力による妨害が無くなり、周りの景色を認識できるようになってきたのだろう。

アリスが「さて、と」と再度伸びをして、ポニーにしている髪をさらりと凪いだ。

髪を流すのが、アリスなりの戦闘準備なのだろう。

思わず髪の動きを目で追ってしまう。

その艶のある仕草が、幼く見えるアリスにしかし大人の魅力を出している。

ふわふわの髪。

もちもちの肌。

それが、どうして。

こうも、戦場にいるのだろう。

戦場に慣れているのだろう。

リンドウとアリスがいた世界がどんなものだったのかはほとんど聞いていないけれど。

一葉とかいう人と結とかいう人の事を話す二人は、楽しそうで悲しそうだった。

そんな世界は、嫌だな。

かわいい女の子がかわいい女の子らしくあれる世界じゃなきゃ。

別にかわいくもなく、ただ殺しの罪を背負っているようなボクとは違う。

「もう少し、もう少しだけ頑張るよ、ノアさん」

アリスは小声で呟いた。

「私は、ここに生きてるからね」

その、ノアさん、が誰なのか。

全く知らないけれどそれを尋ねる暇もなく。

アリスは再び力を発現したらしく、その首の裏からまた、飲み込まれるような黒い光が漏れる。

「もう少しだけ、じっと、してて!!」

その言葉を皮切りに、再び喧騒が止む。

喧騒が止む、って、騒ぐことすら許さないとか何を見せているのかもうわっかんないな。

でも、頑張って、アリス。

すぐに戻ってくるから。

すぐに止めてくるから。

同じくそんなアリスの様子をじっと見ていたリンドウが、ボクに向けて声を掛けてきた。

「ま、初めから俺たちの役割は死者をなるべく出さない事だからな、あとは任せた」

「任されました」

移動するなら、今しかないもんね。

戦いの止んでいる今の内に、行こう。

「行くぞ」

「うん、繋とリアンも、大丈夫?」

「もちろん」

「うん!」

言い合って、皆で真っ直ぐ走り出す。

でもボクは、伝え忘れたことを思い出して、一旦止まる。

「どうした、ナギ」

「ちょっとだけ、ホントにちょっと」

そして、セレスの前に数歩、歩く。

「セレス」

もうずっと、ベルと抱き合ったままなんだけど、きちんと返事はしてくれた。

「なにかしら」

「ごめん」

「……何が、かしら」

本気でわからない、むしろ謝るのはこちらの方じゃあないの、という顔をしているセレス。

全く。

わかってないなぁ。

「勘違いしてた、セレスの事」

「……何のことかわからないけれど、それは、勘違いではないんじゃないかしら」

「まぁいいよ、じゃあ、行ってきます、慈愛の神、セレス様」

「……」

セレスは目を丸くしていたけれど。

ようやく、ボクの知っている、厭味ったらしい、何を考えてるのかよくわからない笑顔を浮かべてくれた。

そうそう。

それでこそセレスだよ。

性格の悪い、慈愛の神様。

「行ってっらっしゃい、それで思い切り怪我して帰ってきなさい、ツナギちゃんと一緒にね」

「それ、怪我は必要?」

「あらぁ、お値段は安く済ませとくわよ」

「そりゃ結構なことで」

言いきって、改めてボクは前へと歩き出す。

「頑張って、です」

ふと届いたベルの言葉には、もう振り返らない。

ベルもたぶん、そういうつもりで零したわけではないんだろう、それ以上は何も聞こえてはこなかった。

もちろん、頑張るよ。

ベルも、一緒に戦ってくれるよね。

ツナギのためだもん。

お願い、神様。

なんて。

そんな陳腐な言葉、今更なくったって、いいよね。

また、一緒に。

ボクと、ベルと。

ツナギとで。

一緒に生きていくための戦いを、始めよう。

今度こそ、行かなくっちゃ。



司亜人とツナギの元に走る。

ザ・ワン以外はろくにスピードが出せないので、中々に遅いものだけどね。

「で、どうするつもりだよ、ナギ」

「何が?」

「なんか、策があるんだろ?それにリアンを連れていくのにもなんか意味が」

「え、いや、策とかはない」

「……おい」

いやいや、怖い目で見ないで。

策っていうようなものじゃあないよ。

いやうん、策じゃあない。

あるのはただ、嘘だ。

「うーん、まぁ、リンドウの言葉を借りるけども、ちょっと意地を張ってる女の子の嘘を解くだけだよ」

「ツナギの、嘘?」

「ほら、ツナギは意地っ張りだからね、どうせ繋もそうなんでしょ」

「え、う、うん、そうだね、意地っ張りかも」

「でしょうなぁ」

「おいナギ、ふざけてる場合じゃ」

「本気だよ、ボクはツナギと違ってこんな時にまでふざけたりしない」

って発言がふざけているのはご愛嬌。

ただ、これ以上は難しいのだ。

言いづらいというか、上手く纏められそうに無いというか、話すと長くなりそうな気がする。

それにツナギのことはツナギに直接聞けばいいのだ。

これからどうせ会うのだから。

「あ、そうだリアンこれ持ってて貰える?正直もうゴミなんだけど」

「へ?うん」

「おいだからナギお前な」

「ま、まぁいいんじゃないかな、ほら急がないと」

「そう言うがな繋、いや、確かにお前はひどかったが」

「ひどかったのは私じゃないでしょ」

「どっちも変わらないんだろ、どうせ」

「ツナギは私が創った私の理想だし、随分とギャップは大きいって」

「理想であれってかなりひどいと思うのは俺だけなのか?」

「ほらザ・ワンこそ繋といちゃいちゃしない」

「してねぇよ何を聞いてたんだよお前は」

「ごめん、私、向こうの世界に好きな人いるから……」

「お前も何本気にしてんだよなんだその反応」

「振られちゃったかぁ、可哀想に」

「リアンお前まで便乗してんじゃ」

「三対一だよザ・ワン」

「そうらしいな雑談の勢力図を確認したところでもう満足か?ちゃんと走れよ」

「了解了解」



ボク達はこんな感じで。

最終決戦に向けて、なよーんとした空気のまま走る。

目的地はツナギと司亜人のいる、ルルシアのギルド、『オール』。

ボクはぎゅっと木剣を握りしめた。

もうこれ以上は。

何一つ零れ落ちないように。

願いを込めて。

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