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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 2 ―Taboo War―
59/72

神様が太陽を手にするまで

「繋、何か、思い当たることでもあるのか?」

「ある、って反応、です」

「今更、隠すようなことは何もないよ、話す、けど」

「ゆっくり、歩きながらでいいからさ」

「うん、ありがとうナギ」

「うん」


リンドウが話した、リンドウたちの依頼主とやら、黒田一葉(くろだいちよう)から、繋への言葉。

『深淵へ向かえ、鈴鳴繋さん』

その言葉を聞いた繋は、すごく、とは言わないけど暗い表情になっている。

繋が話しづらそうなので、とりあえずは気になることを先にリンドウたちに聞いてしまおうかな。

「で、これはどういうことなの、リンドウ?」

「どういうって?」

邪気の一切ない顔で聞き返してくる。

たぶん本気でボクの質問の意味がわかっていなさそうだ。

察しは悪い方なのかな。

「うーん、誰か大切な人が危機に追いやられている時は結構反射速度が上がるんだけどねぇ……」

「アリスは察しが良すぎるよ能力使わなくても読心出来てるじゃん」

「能力を使ってる、所為で、ね」

あ。

そうなのか。

リンドウとアリスはボク達のいるこの世界とはまた違う法則に縛られていたらしいけれど。

それでもやっぱり、明るさの裏には、色々背負ってるものがあるみたいだ。

「アリスは、大人にならないと、って強迫観念に長い事捉われていたからさ」

リンドウは妹であるアリスの話には正確に補足を加えてきた。

「大人、です?」

「なっ、お兄ちゃん何言い出すの」

ベルが興味深そうに聞き返し、アリスは顔を赤くして年相応の幼い可愛さでリンドウを小突いている。

「能力の話だろ?」

「うん?」

「だから、通信の能力で、アリスは裏で情報の中心になることが多かったから、小さい頃から冷静に冷静にって」

「だーかーらー」

「へぇ、アリスちゃんそうだったの?」

「悲しい話、です」

「やめてってば、別に、小っちゃい頃の話だし」

今でも十分背丈でいえば小さいのだけれど。

いや、そういえば歳を聞いてなかったな。

それを考えても小さいし幼いと思うけどね。

でも、そっか。

だから大人っぽい雰囲気をしてたのか。

ああいう仕草も、その、アリスが辿り着いた、一つの答えなんだろうと思うと。

ベルが言った通り、少しだけ、悲しい話なのかもしれない。

リンドウは、きっとその辺りの事情をよくよく知っているだろうに、いや、知っているからか、けろっとしている。

やっぱりここにいる全員。

傷だらけだ。

「それで、なんだっけ、ナギさん?」

「これがどういうことなのか、黒田一葉が何者なんだって質問だよ」

基本的には雑談にはそれほど参加しないザ・ワンがさすがに繋を思いやってか、珍しく話を進めるために助け船を出してくれた。

そうそうそれそれ。


黒田一葉とやら。

リンドウとアリスがかつていたらしい、世界。

野上結(のがみむすび)の生み出した、彼女の世界。

その世界の在り様を簡単に聞いただけで全てを把握できるほど、この繋の世界も野上結の世界も単純ではないけど。

大きく一つ、違いがある、ってボクは思った。

野上結の世界では、世界を創り出した本人が主人公だった、という所だ。

繋は、世界だけじゃなく、自分に、自分自身に嫌気が差して、理想の自分が理想の世界で暮らしている、そんな世界を創った。

ツナギはだから、繋の理想なわけだ。

自分の都合で誓い合った相手から逃げてしまう、そんなことはしないし、そもそもそんな記憶を持たない自分。

その要件を満たすように創られた鈴鳴繋が、ツナギである。

野上結は理想の世界を創り上げたけれど、理想の自分なんてものは創らなかったそうだ。

その代わり、初めから野上結本人がその世界に、堕ちるという形で世界に介入したらしい。

イメージとしては今の繋のような状態だろうか。

ただ、ルルシアによって願われ、図られて現れた繋とは根本的に世界の中での位置づけが異なっている。

まぁ、繋もルルシア抜きでもこの世界できちんと自分の過ちを清算するつもりではいたみたいだけどね。

野上結は、自身の住まう本物の世界に、何を思ったのだろうか。

しかしながら、ねぇ。

繋も野上結も、どちらも。

正直な感想を申せば。

狂っている。

としか。

言いようがない。

狂っているさ。

なんて物狂いだ。

それくらいはボクにもわかる。

狂った繋が創り出したボクも大概狂ってしまっているのかもしれないけれど。

ボクの元となる人間が、本物の世界にいるのかどうかは教えてくれなかったから。

いるならいるで、いないならいないで、やっぱりボクみたいなのを生み出しちゃう繋の精神状態は良くないものだったのだろう。

さて。

それで、その野上結の世界に、野上結と共に堕ちたのが、今話題にしている黒田一葉。

野上結の彼氏くん。

なんか、頭が良くて、色々と、この偽物の世界が生み出される現象について調べている人らしい。

それで本物の世界において、鈴鳴繋なる人物が野上結と同じように世界を創ったこと、そこで戦争が起きそうであることを知った。

戦争の死者をなるべく出さないで、この戦争を終わらせて欲しいと、リンドウとアリスをここに送り出した、らしい。

ひとまずリンドウの口ぶりから、繋の本物の世界と、この野上結や黒田一葉の本物の世界とは同一のものだってことはわかるんだけど。

色々とわからないことだらけだ。

まず。

「どうやって、繋がこの偽物の世界を創り出したってことを、知ることが出来たの?」

偽物の世界を創る、という行為は別に本物の世界でありふれたものではないと言っていた。

であれば、どうやって知ることが出来たんだ。

繋の反応から、繋が野上結や黒田一葉と面識があるわけでもないみたいだし。

「それは……うん……」

「ん?」

渋られた。

リンドウが、微妙な顔をしている。

じゃ、じゃあ次の質問に行こうじゃないか。

「その、リンドウとアリスが元いた世界から、今ここに送り出したっていうのは?その方法もそうだし、今は黒田一葉って本物の世界にいるんだよね、どうやって連絡取ったの?」

「それは……うん……」

「んん?」

渋られた。

リンドウが、微妙な顔をしている。

じゃ、じゃあ次の質問に行こうじゃないか。

「さっきの質問と被るけど、戦争が起きる、それで、死者が出る、そんなことまで、なんでわかったの?しかも、丁度良いタイミングで現れたのは偶然?」

「それは……うん……」

「んんん??」

渋られた。

リンドウが、微妙な顔をしている。

いやいやいや。

なんだそれ。

なんだその顔。

「えーと、アリス?」

リンドウじゃあ埒が明かないので、アリスに向けて聞いてみる。

「それは……うん……」

渋られた。

アリスが、微妙な顔をしている。

「…………」

「…………」

ボクとベルも微妙な顔をしている。

なんだこの空気。

それともこれがリンドウの隠れた能力なのか。

沈黙に耐えかねてもう一度問い詰めようかと思ったけど、またここでザ・ワンが助けてくれた。

「聞かれても答えられないならそう言えって」

リンドウがややホッとしたように顔の緊張を解いた。

それでも妙に固まった笑顔だけど。

「いやぁ、そうじゃあ、ないんだけど、さ」

「なんだよ」

「信じてくれない、とも思ってないんだけど」

踏ん切りがつかないのか、曖昧な言葉ばっかりだ。

「ね、これはやっぱり言わないのが正解なんだと思うよお兄ちゃんザ・ワンさんに甘えて言えない、ってことにしておこ」

「うーん、悪い、そういう事にしておいてくれないか」

結局溜めた割には言えない、とな。

まぁ無理やり聞き出す気もないから、いいんだけど。

一体何者なんだ黒田一葉。

ついでにそんな人と恋仲にある野上結も。

皆々意味が分からないね。


とかなんとかやっていたら繋がようやく口を開いた。

「ねぇ、私の事忘れてるでしょ」

「忘れるわけないだろ、繋こそ言う心構えは出来たか?」

「もちろん、そのために、私はここにいるんだから、ね」

「そうか」

「ん、ありがとうね、ワンくん」

「いいよ」

繋の気持ちの整理も出来たみたいだ。

今、ボク達は繋を先頭に歩いている。

行く先は繋しか知らない。

先の黒田一葉の言葉通り、『深淵』を目指しているのだろうと思う。

方向としては、とにかく町からはどんどん離れている、のかな。

逆に言えば、タブーに深く入り込んでいる、ということだ。

それこそが『深淵』なのだろうか。

タブーは、繋の心の不可侵域だと言っていたし。

「今、深淵に、向かっています、私の心の、深淵に」

「うん、そうなんだろうね」

「たぶん、そこに、いるんだと思う」

「……いる?」

何が。

深淵にいるものなんて。

ろくなものがいなさそうだ。

繋の心の一番深い所に踏み込むというのなら。

繋の心の闇の最も根本、闇そのものが鎮座しているのだろう。

森をぐんぐんと進んでいくと、急に視界が晴れた。

湖だ。

というか、ここって。

森の中にひっそりと佇む、綺麗に空を反射した、湖面。

そこだけまるで世界が違っているかのように、陽が差していて、今までの暗さがそこにはない。

「ボクと、ツナギが出会って、一緒にご飯を食べた、場所……?」

「うん、そうだよ、私はここで、あなたを助けるの、ナギ」

「ボク……を」

そうだ。

ボクはあの時、ふらふらと彷徨っていて。

それでファングに追われていて。

こんな所で終わるわけにもいかない、なんて思いながら、助けてなんて叫びながら。

逃げていたところをツナギに助けられたんだ。

ここに来るまでの道のりとか、あの時とは少しだけ様子が違うみたいだけど。

そう、ここで、ツナギに助けられた。


ツナギが、ボクを、助けた。


「ここで、この場所で、世界からはみ出したように誰も助けには来ない状況で」


繋が続ける。


「私が、余裕しゃくしゃくで、ナギを助けるの」


繋はいつしか、隣にいるボクにではなく、前に向かって、湖の中心に向かって話しかけている。


「そんなことが出来る私を、願った通りに」


繋の言葉が水に反響する。


「私が考えた、私の理想の世界、理想の自分、そして、理想の理解者」


繋ぎの見る先に、そいつは、いた。


「私の、心の、深淵」


そいつの顔を、ボクは初めて見た、ような気がする。


「理想通りの外見、理想通りの性格、理想通りの声、理想通りの反応、理想通りの力」


だってボクは、そいつの顔を、一度だって自分の目で見たことがないんだから。


「私の劣等感を全て集約した存在、私の闇」


そいつは。


ボクの姿をしていた。


ボクの姿で、湖の中心に立っていた。


「ボク……」

どう見ても、ボクだ。

ボクがそこにいる。

真っ直ぐに、向かい合っている。

「そう」

繋が、まるで子供をあやすように優しい声で答えてくれた。

「ここが、あなたが、深淵なの、ナギ」

ボクはボクから目が離せない。

向こうに立つボクもボクから目を逸らさない。

な、なんだよ、それ。

急に、そんなこと、言われても。

ボクは、どうしたらいいのか、わかんないよ。

「ナギ、大丈夫、です」

ベルからも優しい声。

「落ち着けよ、ナギ」

ザ・ワンも、やっぱり柔らかい口調だ。

な、何が、大丈夫なの、ベル。

いや、ボクは、大丈夫なんだけど。

衝撃は大きい。

でも別に、ショックなわけではない。

今までだって、ツナギに繋、ルルシアに司亜人、と同一人物を見てきてるんだ。

それと比べれば、びっくりはしたものの、ね。

別に自分を見失ったりは、していない。

大丈夫だ。

でも、そうじゃなくて。

この状況はなんだ、って。

それが全くわからない。

ボクが――闇?

「えと、それで、どうしたら、いいの」

それが知りたい。

リンドウとアリスは、それすら知っていたのか、澄ました顔で見ている。

なんだなんだ。

皆、どうして、そこまで、落ち着いていられるの。

「あのね、ナギ」

「……うん、なに、繋」

「大丈夫だよ」

「……何が」

「今からやることは、もう決まっているから」

「……どういう、こと」

「それはね、私とナギにしか出来ない事なの、手伝って、くれる?」

「……何をするのかわからないけど、もちろん、手伝うよ、何をすればいい?」

「皆も言ってるけど、落ち着いて、難しいのは、わかるんだけど、ね」

「……うん、でも、落ち着くだけの情報が欲しいよ」

「そうだね、さっきも言った通り、私の心の闇は、ナギっていう存在そのものなの」

「……そう、なんだ」

「私が自分勝手に理想を押し付けた、妄想の中の理想の存在、完全に私のオリジナル」

「……ってことは、本物の世界に、ボクは」

「うん、いない」

「……そ、か」

それは、嬉しい事なのか、どうなのか。

判断に困る。

「それで、どういうわけか、黒田一葉さんがここに、向かえっていうから、私もさすがに気付いたの」

「……何を」

「たぶん、本当の意味で、私が、この世界から、心残りを失くさないといけないって」

「……それにどんな意味が」

「わからない、わからないけど、この世界は私が創ったんだよ、私が弱いから創っちゃったの」

「それはでも!」

「どんな理由があっても、ね、創ったことはもう事実で、この世界で起きている、起きようとしていることは全部、私が原因なの」

「そんなこと、ない」

「ううん、あるよ、だから、まずは私が全部、私自身の問題を終わらせないといけない」

「……」

「それで、ようやく、始まれるんだよ、私も、そして、あなたも、ね」

「ボ、クも?」

「うん、ナギも、取り戻さなきゃいけないものが、あるでしょ」

「……なんのこと?」

「ナギの記憶だよ」

「記憶って」

だって、記憶は、ないんじゃないか。

繋が創り出した世界なのだから。

ボクにはここに生まれる前なんてものは、ない。

だから、ボクが探していた、取り戻したいと願っていた記憶は。

初めから存在していなかった。

それが答えだったじゃないか。

「お願い、信じて」

「でも」

「お願い」

繋が、ボクの手を取った。

その目に光るものが見える。

あぁ。

もう。

何がなんだか。

全然わかんないんだけど。

いいよ。

ここで何をしようとしているのか。

それがどう、これからの戦いに繋がるのか。

ちゃんとこの目で見てあげようじゃないか。

「繋、顔を上げて」

「ん……」

繋の顔が、たぶん初めてボクの事を、しっかりと捉えた。

「わかった、信じるよ、全部全部、何もかもを」

「……うん、ありがとう、ナギ」

「うん、じゃあ、改めて、どうしたら、いい?」

見れば、まだ湖の中央、湖面に立つもう一人のボクはまだボクの事を見ている。

ボクから目を逸らそうともしない。

「よし、じゃ、闇を倒す前に、一つ」

「うん?」

「いや、やっておかないと、私は不安で不安で仕方ないから、ね」

「えーと、うん、まぁいいや、何?」

すると繋は大胆にもボクに思い切りよく抱き着いてきた。

しかも結構な力で、だ。

「わわっ!?」

「むぎゅーっ!!」

「な、なにしてるの繋!?」

「もう少しこのままで!!」

「えぇ!?」

もうなんか、なんだこれ!?

なになに!?

繋はどうしたのっていうかなにこれそしていい匂いがする頭なでなでしたいあぁどうしよう。

すると、繋が、大声で、これでもかってくらいに、叫んだ。


「ナギ!!」


合わせて、ボクも大きな声で応える。


「なに、繋?」


「私は前に、進みたい!!」


「うん!!」


「私は、私になりたい、理想の自分なんかじゃない、等身大の中でちゃんと強くいられる私でいたい!!」


「うん!!」


「だから、そう、前に進む力を貸して欲しいんじゃない!!」


「うん!!」


「私と一緒に前に進んで欲しいよ、ナギ!!」


「うん!!進もう!!世界の果てまでだって!!」


行けるさ。

ボク達なら。

言い切ったのか、繋がボクの体から離れる。

繋がもう一人のボクの正面に立つ。

湖を挟んでいるけれど、今の繋の気迫を感じたのか、わずかに視線を繋に向けているように思う。

「だから、もう、あなたの役目は、おしまいだよ、私の、心」

そう言って、一歩、湖に踏み出した。

繋はしかし、沈まない。

また一歩、湖面を歩く。

「今まで、私の心を守ってくれて、ありがとう、でももういいんだ、もうこれからは何も守らなくていい」

また一歩、一歩と繋ともう一人のボクとの距離が近づく。

「私の理想なんだよね、これが、こうやって大事な部分は人に見せないのが」

そして、ほぼ触れられる位置になる。

「私は、理想の自分には、なれないよ、汚い部分を、ね、隠しきれないの」

繋がそっと、もう一人のボクに触れた。

「それでいいの、それでいいから、ここでの役目を終わらせる代わりに、力を、ナギの為に貸して欲しいの」

ついには先ほどボクにやったように、抱きしめた。

「ううん、あなたの為に、あなたに力を貸して欲しいんだ、ね?」

そこまで言って、繋ともう一人のボクが。

不意に、湖に沈んだ。

「――っ、繋!!」

ボクは即座に湖に向かっていく。

ボクの体も変に湖面に立つようなことはなく、水の抵抗が体を前に進ませまいとしてくる。

急いで潜ると、底まで沈み行く繋の姿が見えた。

繋!!

もう次々に事が起こりすぎてボクは疲れたよ。

でも、繋の、ツナギの願いは、叶えなきゃならないんだ。

だから、手を伸ばさないといけないんだ。

繋!!

繋になんとか触れることが出来たのは、丁度底に着くか着かないかくらいの所だった。

そういえば、ここには。

そうだ、神のみが行ける、神様序列を教えてくれる大樹アドバルンがある場所に通じている苗木があったはずだ。

それもすぐに見つかった。

ボクのすぐ下にある。

ボクはもう神様じゃないんだけど。

物は試しとさっと触れてみる。

すると、苗木が急にボクの収縮の能力同様に、黄緑に輝いた。

そのまま、水全体が光に包まれる。

目を瞑っていると、水の中にいると言う感覚が抜けていく。

その場のぬかるんだ地面に繋ともども軽く叩きつけられる。

「まったく、ホントなんなのさ」

ボクが現れたり繋も湖面を歩いたり触れたと思えば二人とも底に沈んで木に触れたら水がなくなるし。

最悪だよ。

全く全く。

「ありがと、ナギ、助けてくれるって、信じてた」

「ここまで、計算通りだったの?」

「まさか」

まさか、という顔はでも、悪戯が成功した子供のような笑顔で。

どうにも怪しい。

「ほら、でも、深淵は、消えたよ」

「え……」

確かに、湖から一切の水が無くなっているようだが、もう一人のボクの姿が見えない。

「もう、ナギと一つになったから、ね」

「ボクと、一つ、ね」

なんだろう。

記憶は、別に、戻っていない。

そりゃそうだ。

だって、ないものは戻ることは無いからね。

でも、不思議と、そんな自分が、誰かに願われて生まれたことを理解した、そんな思いが生まれてきていて。

記憶がないことが、全然不安じゃない。

それがなくても、自分自身を保てる、そんな気がする。

「えへへ、これで取り戻したんだよ、ナギ」

でも、まだ実感としては湧いてこない。

それにはもっと、時間が必要なのかもしれないね。

「そう、かも」

「あとは、はい、これ」

そう言って繋が渡してきたのは、ボクが持つにはやや大きい、木製の剣。

あれ。

さっきの苗木のようにも見えるけど、それにしては大きすぎる。

アドバルンなる大樹のようにも見えるけど、それにしては小さすぎる。

「あの時、ナギはこれに触ってアドバルンの景色を見せてくれた、もう一度それをやって欲しいんだよ、そのための、力だよ」

「よく、わかんない」

「さっきの私の心の深淵であるナギが託してくれた、力だと思えばいいよ」

「もう一人のボクが、くれた、力?」

「私の心の闇を、ほんの僅かな濁りも、全部、吹き飛ばして、私の心を守れる、そんな力」

やっぱりよくわからない。

でも、繋が心を守るためなら、ボクが持つわけにはいかないんじゃ。

「さっきの聞いてたでしょ、私はもう、守らなくていいんだよ私の物語はもう、ここで完結したよ、だから、ナギが、自分の為に使ってほしい」

「ボクが、ボクのために」

「そう、はい」

「……」

受け取る。

その剣は結構な重さだった。

けれど、不思議と自由に振り回せる気がする。

色は非常に良い茶色、というか、木の色だ。

そして。

何より。

ボクが残した力だ。

ボクによく馴染む。

ボクの中に力が溢れてくる。

わ、すごい。

今なら、何でも、出来るような気がする。

何でも。

「ナギ」

「なに?」

「いいよ、私の心を全部、オープンにしよう」

「……いいの?」

「いいよ、お願い」

「ん、わかった」


深呼吸一つ入れて。

ボクは、その剣をブンと。

思い切りよく、丁度一周するように、回転切りをした。

力が全方向に飛んでいくように。

どこまでもどこまでも、繋の想いが飛んでいくように。

瞬間。

タブーがボクを中心として波紋状に光り出した。

優しい光だ。

黄色のような。

オレンジ色のような。

温かい光が、世界を包み込む。

そうだ。

これが、この剣の力。

この剣による、ボクの新しい力。

もう一人のボクから受け継いだ、力。

「私の、闇が、どんどん浄化されてる、ね」

「うん、そうだね」

光に反応して、繋の闇、つまり、タブーが全く異なる世界に、創りかえられている。

今まではジャングルのような森林だったのが、色とりどりな花畑が広がっている。

湖の底にいたボクと繋ぎだったけど、その溝も一切なくなり、平らな地面が復活している。

ふわっと、暖かい風が吹く。

花の甘美な香りが漂う。

「ね、名前つけようか、この剣に」

「へ?」

名前?

ツナガレ、的な?

いやあれは必殺技って言ってたっけ。

「別に、いいけど」

でもボクはあんまりそういうの得意じゃないんだよなぁ。

繋に任せてしまおう。

「じゃあね、こうしたいな、『太陽の剣』」

「太陽の、剣」

こうして、振ると、光り輝くから、だろうか。

確かにいい名前だ。

「ちょっと違うよ、ナギ」

あ、ボクの心読まれたぞ。

なんだい。

「ペリドット、どんな鉱石か知ってる?」

「へ、それって、ボクの髪色がペリドットのオリーブグリーンだ、みたいな話のペリドット?」

「そう、あのね、ペリドットはね、太陽の石って呼ばれていてね」

「へぇ」

そうなんだ。

それはまぁ、知らなかった。

ツナギの話を聞いてなかっただけかもしれないけれど。

「負の感情を和らげて、正の感情を引き出してくれる石なんだよ」

「そう、なんだ」

「うん、だから、きっとこの剣は、そんな力が宿ってると思うんだ」

繋が望んだ。

理想の存在。

と同時に、心の闇。

ボク、こと、ナギ。

そんなボクが残してくれた力。

それが、闇を切り裂いて、光を生み出す剣だというのなら。

「ありがたく、使わせてもらうよ、ボク」

これでボクは。

ボクの心は。

ツナギにきっと。

届くだろう。


「ありがとう」


どこに向かってか。

繋が呟いた。

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