神様が共に戦う仲間を得るまで
状況を整理しないといけない。
ルルシアがツナギによって倒され。
司亜人、ツナギ、セレスが結託している事を知り。
ルルシアの決死の力で、ルルシアのギルドからここ、タブーへと強制的に連れてこられた。
今この状況。
「正直、かなりまずいな」
そう口火を切ったのは、個体の神、ザ・ワン。
この世界では珍しい、なんだか妙な服装をしている。
紺色の生地に、何か葉っぱのような紋様が装飾され、胸元が微妙に空いている。
足元を見れば、靴、というか、足はむき出しになっている、サンダルのような、木製の台に紐を括り付けたようなものを履いている。
ひょっとすると繋は知っているのかもしれないけれど、少なくともボクはこれらの服装の事をこのザ・ワン以外に見たことが無い。
すっきりと短い髪が凛々しい顔立ちをよく見えるようにしているけれど。
ボクはタイプじゃない。
別に、ツナギの趣味が悪いと言いたいわけではないのだけど。
そういえば、元はムートって名前らしいね。
ツナギにも『ムーくん』とか呼ばれてたし、ベルもそう言っていたし、あと、ルルシアも最期にそう呼んでいた。
それ自体には何も意味はないんだと思うけど、彼は彼なりに、ムートとして、と、ザ・ワンとして、の二つ分、思う所があるのだろうか。
そこまで仲良くないボクは、そこまで突っ込んだことを聞けないけど。
「具体的には、どんなところが?」
そのザ・ワンに対して、繋が話を進めるように尋ねる。
かなりまずい要素は確かに沢山あるから、全員の共通認識として列挙していきたいところではあるよね。
その、繋。
鈴鳴繋。
本物の世界の住人。
この偽物の世界の創造主。
彼女が妄想した世界が、どんな因果か、ここに偽物の世界として存在しているらしい。
ということで、元は彼女の妄想であるこの世界、結構モチーフのような存在が本物の世界にいるようで。
この繋は、体は偽物のツナギで、中身が本物の繋、という、あべこべな存在に、今の所なっている。
反対に今本物の繋の体にはツナギがいて、二人の鈴鳴繋がこの世界に存在している。
ううむ、ややこしい。
とにかくだ。
ぱっと見はまぁ、普通に同一人物なんだけど。
どうやら繋は、ボクの良く知るツナギよりも、少し情感に敏感な印象がある。
人の想いに。
もっと言えば、人の悪意に。
まるで怯えているかのように。
だからこそ、理想の自分を妄想して、こんな世界を創り上げたのかもしれないけど、その辺はきちんとは聞いていない。
繋が話してくれなかったからね。
とにかく繋は格好は完全にツナギと同じように、セミロングの艶のある髪を歩く度になびかせながら緊張した面持ちでボク達に相対している。
「まずは単純に、戦力、です?」
「あぁ、そうだな」
繋の言葉にベルが返答し、それにザ・ワンが肯定する。
ベル。
薄倖の神、ベルヴェルク。
小っちゃくて可愛い体をぴょんぴょんと大きく動かして身振り手振りも交えて話に参加している。
大真面目なのはわかるけど、少しだけほんわかしてしまうね。
状況が状況だけに、若干空気に沿っていないようにも思うけど、逆にその方がボク達は冷静にいられるの、かもしれない。
しかしながら、このボクにとっても大事な大事な家族に、危険な役割をお願いするかもしれない。
それほどまでに、今ボク達は劣勢にある。
ベルが言った通り、戦力差が圧倒的すぎる。
向こうはまず、繋縛の神であるツナギが更に新たに"ツナグナ"なる能力を手に入れている。
そして慈愛の神であるセレスもまた、自身の万物を元の形に戻す力を失ってはいないだろう。
司亜人――本物の世界のルルシア――が、何かしら能力を持っているのかどうか分からないが、本物の繋のことを完全に不必要として、ツナギと共に生きる、と宣言しただけあり、精神的優位な状態ではあるだろう。
対して、ボク達。
まずはザ・ワンだけど、ボクや繋が一緒にいる場では少なくとも個体の神としての力を引き出すことは出来ないみたい。
元々能力便りではなくって生身で近接戦闘をしていたころもあって、実際そこまでの戦力ダウンということはないのだけど、能力がないと、相手と同じ土俵で戦うことが出来ない。
ツナギやセレスを相手に剣が届く位置まで近づけるかはかなり疑問だ。
そして、力を完全に失ったボクは普通の人の女の子程度の力しか、出せない。
戦力としては度外視すべきだろう。
司亜人が何も能力を持っていないとしても、男である司亜人よりも弱いと思う。
繋も基本的にはボクと同じで、ただの女の子程度の力しか出せないようだ。
この世界の創造主なのだから、なんでも出来るのかな、なんて思ったりもしたけれど。
彼女の中では、あくまでこの世界は自分の理想であって。
本物の自分はこの理想の世界の登場人物足り得ない、という思いがあるそうで。
だからこそ、理想の世界でも活躍できる理想の自分、つまりツナギという存在がいるわけなのだ。
だから、この世界の登場人物ではない繋自身にはもう何も出来ることはないらしい。
そして、ベルだ。
ベルも、こうしているうちにはボクよりもか弱い少女なのだけど。
一つだけ、力を発動できるかもしれない条件がある。
条件というか、これこそ状況というか。
ベル自身が、『限定解除』と呼んだ、あの力。
神様序列とは、元々他の生命への影響力、知名度、そんなことで上下するものであった。
ベルはかつて、自身の内に不幸を溜めこみすぎて、その闇の量が看過できない状態にまでなったことで他の神たちの苦渋の決断により、人民の大量虐殺という手段で序列を強制的に下げられている。
だけど、ボク達はそのことを知っている。
ボク達だけ、ベルの事を知っている者しかいない場では、ベルは限定的に序列を引き上げることが出来るらしい。
それがベル特有のものなのか、やろうと思えばどんな神でも出来るのか、それはわからない。
ベルは普段その力を一切使っていないから、ボクや繋の影響を受けているのかどうかもわからない。
受けているとすれば、ザ・ワン同様、ボク達が一緒にいる場では能力を使うことは出来ないのだろう、と思うけど。
でも、今のボク達にすれば、それも大事な戦力である。
その事実が既にボク達が岸壁にぎりぎり立っているような状況であることがわかる。
まともに戦えるのが、強いて言って、ザ・ワンだけなのだ。
これはまずい。
向こうは、セレスの目的はわからないけど、司亜人とツナギの邪魔になる存在を殺す、と言っていた。
少なくとも、ツナギを取り戻そうとするボク達全員の抹殺は企んでいるのだろう。
場合によっては、ツナギやボク達と仲が良かったリアン辺りも狙われてしまう危険性がある。
それは避けたい。
でも、それを考えるにはボク達には。
「それに、情報が足りない」
ボクの考えに呼応するようにザ・ワンが二つ目の問題点としてそれを挙げた。
情報が、そう、少ない。
向こうがどう動いてくるのかが、全く読めない。
「ボク達だけを狙っているのか、それとも世界そのものに干渉してくるのか、どちらにせよ、想定外の事態に即対応するだけの力ない今は、沢山の情報が欲しいね」
「だな……俺のギルドの奴に連絡でも取れたらいいんだが」
「出来ないの?」
「あぁ、一切の連絡手段を断つくらいしないとルルシアの思惑を知ることや裏をかくなんてことは出来ないと思ったからな」
「あんまり関係ないと思うけど……」
それでも、世界の真実に到達したのだから、大したものだ。
ま、すぐには連絡がつかない、ってわけね。
「あとは、情報に合わせて、です、が、時間の猶予も、気になる、です」
「それもあるな」
そうか。
時間。
彼らがそれだけの勢いで襲うつもりなのかもわからないと。
四六時中気を張っているわけにもいかない。
そんなのは精神が持たないし。
でも、今日明日のレベルで来るのか。
それとも神様基準で、何十年何百年レベルで来るのか、それも正直わからない。
結構深刻な問題だ。
「……と、いうか、どうしてここなんだろ」
ふと思ったことをボクが口にする。
この場で最も冷静に事を判断しているであろうザ・ワンが無言で先を促してくる。
「今さっきルルシアがボク達を連れて逃げた時、どうして逃げる先をここにしたのかなって、こんな、タブー、不可侵域なんかに」
「そういや、奴らの目的を知るにはここが最適だと思って、と、そう言ってたな」
「どういう意味なんだろうね、タブーに、司亜人の目的があるとでも?」
タブー。
アンダーワールドのさらに外側。
タブーには、神ですら手に負えないようなモンスターが多く存在している。
さっき確認した通り、ボク達はろくに戦闘力を確保できていない状態である。
それはルルシアもよく知っているはずなので、あえてこの場所を選んだ理由がよくわからない。
そりゃあ、普通にボク達の住んでいる家とかは、まずいのかもしれないけれど。
こんな所じゃあ、それこそツナギ達からは発見されづらくても、普通の情報収集すら出来ないし。
きっと、何か理由があってのことなのだろうと思う。
思うんだけど。
「あー、それは、もしかしたら、その、私の問題、かも」
と、それについて発言したのは、意外にも繋だった。
「んん、どういうこと?何か知っているの?」
この状況に一番混乱しているのは、繋のはずで。
よく必死にボク達に付いて来てくれている、なんて。
勝手に考えていたけど、繋も当事者だもんね。
ちゃんと色々な想いを持って、この場に立ってくれているのだろう。
「その、そもそも、タブーって、この世界だと、凶悪なモンスターの住まう、不可侵域、だよね」
「その認識だな」
「それは……ね、その……」
繋がすごく言いづらそうにしている。
無理矢理にでもすぐに聞き出したいくらいだけど、そんなことをしていい雰囲気でもない。
それに、やっぱり、ちょっぴり、まだ、苦手なんだよね。
繋のこと。
それはまぁ、仕方なし、ということで。
少しの間待っていると、おずおずと繋は話し始めた。
「ここは、この世界は私の心が生んだ、私の理想の世界、つまり、私の妄想であり、私の望みであり、私の心そのものである、と言えると思うんだ」
「うん、そう言ってたね」
「だから、理想の中にも、現実とリンクしている部分があるの、というか、ベースは私の心にないと、私の妄想とは呼べない、わけで」
なるほど。
本当に繋の何も関係しない、ただただ自分でない誰かが自分の知らない世界で自分の知らない誰かと共に自分の知らない行動を起こしている、そんな世界。
それは果たして、鈴鳴繋の理想と呼べるのか。
そんなことはないのだろう。
普通、理想とは。
今現在の自分と呼べる、個としての今までの人生、つまり経験から生まれている基盤は存在しており。
今の自分に足りていない部分を持っている自分がそこにいて。
今の自分が持っていないような繋がりを持っている仲間がいて。
今の自分でも、もしかしたらこんな世界に行くことが出来るのではないか、と心のどこかで否定しきれない、自分なりの常識基準すれすれの世界。
そんなものを指すのだろう。
だから、この偽物の世界は繋からすると、完全に突拍子もないだけの世界、というわけではなく、例えば本物の世界に存在する、所謂キャラクターがこちらの世界にも存在していたりする。
このように繋の世界がこの世界にもきちんと残っている、顕現している、ということらしい。
それがこのタブーという存在とどう繋がるのかと言えば。
「ここは、私の心の不可侵域、だと思ってくれていいかな、恥ずかしながら、ね」
「心の、不可侵域……」
そう話す繋は、今にも泣き出しそうな表情だ。
そんな顔しないでほしい。
「別に不思議なことは無いでしょ、誰だって持ってる自分の心、誰にも触れて欲しくない部分」
「それが、ここだっていうの?」
「そう、私の言葉で言うならば、化け物の巣窟、かな」
なら、タブーに住まう神すら喰らうモンスターは、自分の理想すら喰らう心の闇、とでも表現されるのか。
「この偽物の世界で、最も私に近い部分がだから、ここ、なのかなって」
「理想の世界に侵食するほど、深い闇を抱えてるのはどうかと思うけどな」
「それは女の子にしかわからないよ、ワンくん」
「そうかよ」
「うん、だから、ルルシアさんは、ここに、私の心に、司亜人の行動原理のヒントがあるんじゃないか、って考えたんじゃないかな」
「なるほどね、この際司亜人がどうやってツナギを本物の繋の体に呼び出してこの偽物の世界に二人してやってきたのかは置いておこうか、方法はたぶん今問題じゃない」
「だな、その辺は考えても仕方がない、ここにいる繋だってどうしてこういう状態なのか、よくわからん」
「でも、司亜人の目的は、わかってるはず、です?」
と、ベルの言葉にまたボク達の思考が白紙に戻される。
あぁそうだ、忘れてた。
確かにここが繋の心の闇であったとして、それとルルシアがここに連れてきたこととの間に関係性は見られない。
だって、司亜人の目的はハッキリと。
この偽物の世界で、偽物のツナギと共に生きること。
そう言っていたではないか。
なら、ルルシアはどうして、この場に連れてきたのだろう。
んー、よくわからない。
セレスの目的とかはまぁわかっていないんだけど、それと繋とはあまり繋がっていないように思うしなぁ。
さて、早速思考が詰まってしまった。
それに、ただでさえ、ボク達の取れる選択肢は少ないのだ。
世界のどこでもそうだろうとは思うけど、受動的にしか動くことが出来ない状況では、取れる行動が主に二つに絞られてしまう。
一つは、現状維持に努めて、逃げ回ること。
一つは、現状打破に向けて、立ち向かうこと。
しかし前者の場合は結局何も解決には至っておらず、相手が明確に目的を持ってボク達を狙ってきている場合には敵側に準備する時間を与えてしまいかねない。
後者はじっとしているよりは良いかもしれないけれど、戦力差が歴然としている時に突っ込んでいくのは、微かな希望を自ら捨てに行くことになるかもしれない。
どちらにせよ、こちらから仕掛けるにはリスクが大きすぎるため、期を伺って相手の隙を突くような形でないと、勝ち目は薄い。
そこまで追い込まれているのだ。
だからこそ、やはり今はルルシアが僅かに遺してくれたヒントをしっかりと考えていくことが重要だと思うし。
情報をしっかり集めることが重要なはずなのだ。
しかし今タブーにいる状況下で情報を集めようと思うと、アンダーワールドを通って町まで出なければならない。
それはルルシアが採った判断と矛盾してしまうわけで。
以下、思考が煮詰まっている現在ではぐるぐるとループしてしまっている。
「やっぱり、ルルシアの真意を考えないといけないの、かな」
「それが妥当だが……いつまでもここにいるわけにもいかないしな」
そう、だからと言って、ここはタブーであり。
いつモンスターと遭遇するかもわからないのだ。
その時、ボク達が勝てるという確証は、ない。
思考するにしても、早々に何かを掴まないと、ツナギに会う事も無く死んでしまう。
それは御免被りたい。
と、そこでボク達の耳に、真っ直ぐこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
全員に緊張が走る。
モンスター?
どうする、逃げる?
それとも、一体くらいならこの場で撃退した方が、当てもなく逃げるよりも他のモンスターとの遭遇率は低い?
すぐにそんなことを考えながら、その音に耳を澄ませる。
その音の種類を正確に聞き分けることは難しいけれど、たぶんそう大きなモンスターではないように思う。
人間サイズなのではないだろうか。
しかしサイズなんてものはタブーのモンスター相手には何の判断材料にもならない。
そんなボクの思考を読んだのか、しかしザ・ワンが、落ち着けとばかりにポンと肩を叩いてきた。
思わずびくっと反応してしまい、少し恥ずかしい思いを隠しつつ(隠しきれてないかもだけど)、落ち着いてよーく音のする方向を見てみる。
すると、どうやら本当に人が走ってきているらしい。
どうして、こんなとこに人が?
しかも大きく手を振ってきている。
やっぱりボク達に向かってきているのは間違いないみたいだけど。
「三人、くらいで来ているな……あれ、確かナギの友達だろ?リアンって言ったか」
「え、リアン!?」
「本当、です?」
ザ・ワンはどうやらボクよりも随分視力が良いようで、その姿をリアンのものだと言った。
ボクとベルは一緒にそんなわけないだろ、と驚いたけど、徐々に近づいてくる姿がボク達にも認識できるくらいになって、見間違えようもない、走ってきているのがリアンであるとわかった。
その横に二人ほど、ボクは見たことが無い人もいる。
若い、男女のようだけど。
とりあえずタブーのモンスターでないことに安堵し、そして周りにいるともわからないモンスターを刺激しないように大声は出さずに、こちらに到着するまでしっかりと待つ。
「どうしたの?リアン何でこんな危ない所に」
なるべく声は抑えつつ。
「それは、こっちの台詞だよ、今、大変なことになってるんだよ?」
「大変な、こと?」
「うん今、世界に、三つのギルドを中心にした町に住まう全域にね、招集令が出されたの」
リアンは相当に慌てた感じで捲し立てた。
「招集令?」
「うん、そう、人も、神擬きも、神様も、皆」
よくわからない。
誰が――なんのために?
「ルルシアが、あなたたちを殺すために、だって」
「――っ!!」
やられた!
そう思わずにいられなかった。
そうか、そう来たか。
同じことを思ったらしく、ザ・ワンが舌打ちをしている。
司亜人は今、姿形はまんま、神様序列第1位、支配の神、ルルシアそのものなのだから。
ルルシアとしての発言は全て、正しいものであるとして執り行われるのだろう。
それがしかも、ボク達を殺すため、とはまた直接的な。
「この世界を無にする反逆者として、ナギちゃんとベルちゃんとザ・ワンさん、それに、偽物のツナギちゃんを捕まえて、可能であれば殺害しろ、って」
「なるほど、そう来たか……繋の扱いは偽物、としか言われていないのか?」
「はい、皆によってルルシアは力を消し去られた、そして皆が本物そっくりなコピーをこの世界に生み出そうとしている、と」
「コピー、ねぇ」
「それで世界を嘘で包み込むつもりだ、と」
「疑心暗鬼の世界を作る、とでも言いたいのかなぁ」
しかし、感心していられない。
手としてはかなり厳しいものだ。
もう、ごくごく一部を除いて町に住んでいた、この世界において意思疎通が出来る生命はほぼ、敵となった、と考えた方がいいかもしれない。
どうやら、この世界が偽物であること、とかは話していないようだけど。
それはあれか。
伝える必要もないか、確かに。
「それで、リアンはどうしてここに来れたんだ?」
「私もこのルルシアの発言を聞いて、そんなことない、ちゃんと皆に会わないと、と思ってナギちゃん達の家に行ってみたけど会えなくて、でもそこでこの二人に会って、ここまで連れてきてもらったの」
「それで、この人たちは?」
と、今度は繋がリアンの隣にいる二人に質問を向ける。
繋が知らない、ということは、繋が明確にイメージして創り上げたキャラクターではないのだろう。
近くで見ると、二人ともちょっと不思議な服装をしている。
ザ・ワンのように、暗めの色合いというわけでもなく。
何か編みこんだ模様が前面に出ている、毛布みたいなものを被っている、ような。
なんだろこれ。
これも何か本物の世界には存在する服なのかな。
こう、全体をボクの拙い言葉で表すなら、ごちゃごちゃしている、的な。
うん、まぁよくわからんね。
男の方はそこそこ背丈があり、ザ・ワン同様にはっきりとした目鼻が印象的だ。
上腕からも筋肉質であることがよくわかる、屈強な男、をイメージしたらこんな感じじゃないかな。
右腕になにやら黒い、うねうね?みたいな、腕に沿うように真っ黒に染まっている部分があるのも外見的な特徴だ。
たっだザ・ワンと比べると身に纏う雰囲気はそれほど尖っていない。
むしろ柔らかい感じを与えてくるのは凛々しい中にも表情が豊かなのが伺えるからだろうか。
対称的に、ベルに背丈がそっくりな黒に近い茶色のような髪をしている少女が、その男の隣に並んでいる。
確かに背は小さいけれど、ベルよりは少し大人っぽい感じがあるのかな。
目がくりんとしていて非常に可愛い。
こんな場でなければ彼女も家族になってくれないかと勧誘したいくらいだ。
いや、しないけど。
「あぁ自己紹介しとかないとな、俺の名前はリンドウ、よろしく」
「私はアリス、こちらの妹です、よろしくね」
簡潔に挨拶を済ます二人。
どうやら兄妹らしい。
言われてみれば、似てる、ような気もする。
それで、結局、誰なのだろう。
反応を見るに、ここにいる誰とも面識があるようではないのだけど。
「説明が、んー、難しいんだけどな、いや、というか正直この世界ではどういう扱いになるのかはよく聞いてないから俺にも分からないんだが」
「お兄ちゃん、言い訳から入らなくていいから」
「そうか、そうだな、簡単に言えば、この戦争を止めたくて別の世界から来た余所者だよ俺たちは」
「別の世界?」
なんだか一気に胡散臭くなったぞ。
一歩、リアンを二人から話すように手で後ろに下げる。
ボクの露骨な動作を意にも介さず、苦笑しながらリンドウは続ける。
「正確に言えば、鈴鳴繋さんではない人の創った世界で生まれた偽物の存在で、これから起きることが俺たちの世界にも影響する危険性があるらしいから来させられた、って感じか」
「繋さんの他にも、以前、こうして世界を創ってしまった人がいる、ってことだね」
「……な」
いきなりすぎてついていけない。
繋の他にも、偽物の世界を創り上げた人がいる?
いや、よくわからないのだけど、それは本物の世界ではありふれたことなのだろうか。
「えと、こうやって自分の理想の世界を創ってしまうのは、本物の世界では普通の事なの?」
繋に尋ねると、すぐに首を横に振られた。
「いや、こんなこと出来る人なんて聞いたことないよ」
「俺もよくは知らないな、知ってる限りでは、二人目」
「一葉さんはあんまり多くの事を話してはくれなかったからね、あ、一葉さんっていうのは今回の依頼主なんだけど」
「一葉?知ってるか繋?」
「ううん、知らない」
なんだなんだ。
今になって新しい登場人物が三人も、しかも結構な重要人物として出てこないでよね。
もう頭がこんがらがったよ。
え、ちょっと落ち着こう。
しっかり考えたい。
「まぁ信じろと言うことは出来ないな、証明のしようがない、それに証明する時間もない、だからその判断はそっちに任せる」
「出来れば信じて欲しいけど、強制はできないから、無理なら無理で、こっちは勝手に動くだけ」
どうする。
正直、意味はわからない。
言っていることの真偽とかそういうレベルじゃなく、もう何を言っているのかが全然わからない。
そんな相手を信用?
勿論出来るわけがない。
いきなり出てきて、友達を安全にここまで連れてきたくらいで信用できるような精神状態じゃあない。
ボクは迷うことなくそう思ったし。
「いや正直それは無理があるだろ、情報が欲しいと思ったところに丁度友人を連れてきた相手なんて、司亜人の差し金と考える方が自然だ」
ザ・ワンも同様の結論に至ったらしい。
はっきりと信じることは出来ない、と口にする。
しかし。
「この人達、嘘、ついてない、です」
ベルがはっきりとそう言った。
「ベル、まだボク達この人達とほんの三分程度しか会話してないよ?それでも、そう思うの?」
「思う、じゃなく、わかる、です」
ベルの目を見る。
それは、嘘や妄言に惑わされているものではなかった。
でも、でも。
いいのだろうか。
もうここから先は、一度だって何かを間違えてはいけない、と思う。
何かしらを間違えたら、ツナギに会うことは出来ないし。
ツナギを取り戻すことも出来ないと思う。
確かに現状打つ手が無くなっている所だから、仲間が増えること自体はありがたいのだけど。
これは、いいのかな。
と、悩んでいたけれど、後押しをしたのは、繋だ。
「いい、わかった、協力してほしい、ベルを信じよう」
「繋?いいの?」
「大丈夫、私が、ううん、理想の私が信じたベルを、私が信じないわけにはいかないよ、ね?」
「……その理由はどうかと思うが、事実他に頼れる情報もないしな、どの道詳しい話は聞いておきたい」
「私は、二人が本当のことを言ってる、わかる、です」
そこまで言われたら仕方ない。
断る理由が何もない。
信じない理由が何もない。
そうだ。
今は何も間違えてはいけないかもしれない。
でも、何か間違うくらいに動かないと、何も起きることなく終わってしまう可能性の方がよほど高いんだ。
それでは元も子もない。
よし。
「わかった、そしたら、協力してほしい、ボク達の知ってる情報はちゃんと渡すから、そっちの知ってる情報をボク達にも渡してほしい」
と、ボクが言うと、リンドウとアリスは二人してハハと、笑い出した。
な、なんだよ。
なにさ。
何か可笑しなことでも言った?
「いや、信じれないのは当然わかるけど、そんなに構えなくってもいいって」
笑ったまま、軽くボクの態度を詰ってくる。
いや、確かに褒められた言い方ではなかったと思うけどさ。
「とりあえず先に、こっちの力はちゃんと見せておくよ」
「……力?」
「あぁ、俺たちも実はよく知らされてない事の方が多いんだ、俺たちの力と立場を理解してもらったうえで作戦に組み込んでもらえた方が助かる」
「それには私も同意」
「でも、そんな、危険な立ち回りは」
と、ボクの言葉もろくに聞かずに、リンドウは辺りを見渡し始めた。
そして、周りに何もいないことを確認したのか、よし、と呟くと、少しボク達から距離をとった。
なんだなんだと思う間もなく、リンドウを見ていると、今度はすぐ傍にいたアリスも一息「ふぅっ」と大きく息を吐いた。
そして髪ゴムを取り出すと綺麗な黒と茶が混じった髪を一つに括り、ポニーテールに縛る。
小さな子なんだけど、妙にその仕草に色気があるのは何故だろう。
誰か、そういう大人っぽさの参考にした相手がいるのかもしれない。
と、アリスが綺麗な髪を縛ったことで見えたうなじから、リンドウの腕にもあった黒色の何かが見えた。
「アリス、その、首の所にあるのって」
「あぁこれ、紋章」
「紋章……いや、えと、なにそれ?」
「ま、見てて」
と言うと、何の予兆もなくその後頭部、首から背中にかけてあるらしい黒色の、紋章?がその黒色通り、黒色の光を発しだした。
「わ!?」
なんだこれ。
アリスは髪を縛る時のような腕の形で、既に縛った髪を支えているような格好だ。
何を始めるんだ。
ひょっとして早速ボク達に攻撃するつもりじゃないだろうな、とも少しだけ思うけど。
そのアリスは目を閉じて、何かに集中しているようで。リンドウの方も特に動きはない。
攻撃の意思はないみたいだ。
すると。
『聞こえる?』
声が響いた。
「んん!?」
『聞こえる?私の声』
また声が響く。
耳に聞こえてくるのではなくて、なんか、頭に直接響く感じだ。
周りを見れば、ベルにザ・ワン、繋にも同様の音が聞こえているらしい。
もちろん声の主はアリスだ。
『これが、私の能力、あとはこういうこともできる』
と言って次に起こったのは、映像である。
これは、今いるタブー、そして、私たちの姿だ。
不思議な感覚だけど、今自分が見ている景色が普通にあって、そこになんか違和感なく、アリスが見ているらしい映像も一緒に視えている。
うわ、こんなことが出来るのか。
慣れるまでは気持ち悪そうだ。
次の瞬間、ふっと、音も映像もなくなる。
「同時に何人とも通信するとちょっと疲れるんだけど、私は離れていてもこうして声を伝えられるんだ」
「す、すごいなぁ」
「不思議、です」
自分の番は終わり、とでも言いたげに、アリスが少し離れた位置のリンドウを指差した。
指に合わせてリンドウの方を見る。
リンドウは頷くと、右腕を真っ直ぐ前に突き出した。
すると先ほどのアリスの首のあたり同様に、リンドウの右腕が黒く光りだした。
そしてその光がふっと消えて無くなる。
ん、と感じる程度の、間を経て。
リンドウと私たちのいる場所の中間くらいに立っていた木が。
爆発した。
それはもう、爆発としか言えないような大きな音を立てて。
轟音を立てて決して小さくはない爆風が抜けていく。
嵐のような風が収まると、リンドウはゆっくりとこちらに歩いてくる。
そしてアリスが淡々と語る。
「お兄ちゃんの能力は、ああやって、空間を爆発させる能力、生物を直接爆発させることは出来ないんだけど、こっからの戦闘には必要でしょ?」
「え、あぁ、うん」
目の前で何もないものが確かに爆発した。
確かに見た。
見た者は信じた方がいいだろう。
ただ。
ボクの中に生まれた感情は大きく二つ。
こんな爆発音出して、モンスターが寄ってきたらどうするんだ。
そして。
やっぱりこの二人、味方だとしても信用ならないんじゃないの。
そんな所だった。
ボクはそこまで神としての器が大きくないらしい。
いやでも、誰でもここではそう思うだろう。
思うよね?
そんな不安を残しつつ、ボク達は仲間として。
本当にただの一般人である友人、リアン。
なんだかよくわからない能力者、リンドウ、アリスを加えて動き出したのであった。
ま。
結果から言えば。
リンドウもアリスも裏切るなんてことは無く。
この戦いの中、ボク達の味方として沢山動いてくれるのだ。
その正体は結局、よくわからないままお別れすることになるんだけど、ね。




