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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 1 ―支配の神―
53/72

神様が君に出逢うまで

「なぁ、結局、なんだ、よくわからなかったのだが」

「なに?」

「こいつ、繋が全部悪くね?」

「うん、そうだね」

「自分で言うのもなんだけど、間違いないね」

「……だよな?」

「うん、それが?」

「いや、全部繋が悪いのに何でいい感じによしルルシアと戦おうみたいな空気になっているのかがよくわからん」

「ザ・ワン、ツナギが好きだから彼氏事情を詳しく知りたい、です?」

「なわけあるか」

「そんなんツナギに嫉妬してって」

「だから違うっての」

「でも、ルルシア、どうする、です?」

「あぁ、戦うわけじゃないからね、解放だよ解放」

「解放、です?」

「悪いのは完全に私で、ルルシアさんは私の被害者だから、罰は私が受ければいいの」

「具体的には?」

「私に縛られてるこの世界のルルシアさんを、私から解き放つ、だから解放」

「だから、具体的には?」

「ザ・ワンはツナギが好きだから、繋には手厳しい、です」

「うるせぇなどこが薄倖の神なんだベルは」

「説得が中心になるかな?」

「説得が通じるものなのか、あいつは」

「通じるよ、私の元恋人なんだから」

「それだよそれ、つーか最初は普通に恋仲だったとか言ってやがったのにお前が振ってんじゃねぇかしかもひでぇ理由で」

「だから言ってるでしょ私が全面的に悪かったって」

「だから全然悪びれてくれよ少しは」

「もう十分自分を責めたから、いいかな」

「いいことあるかよ」

「でも、自分と向き合うことでもあるんだよ、この世界はあくまで、自分で創ったものだから」

「……そうだな、繋がせめてちゃんとしてくんねーと、あいつがこっちでちゃんと出来ないからな」

「やっぱりツナギ基準なのね、それはそれでいいけど、ね」

「さて、じゃあ呼ぼうか」

「……呼ぶ?」

「え、呼んだら来てくれるでしょ、今のルルシアは繋を求めてるんだし」

「いや無理だろ」

「それは無理だよナギ」

「……あれ、えと、あーそっかもう、何、ルルシアは私たちのルールで動いてるんだっけ」

「たぶん、ね」

「そしたら、また行かなきゃ駄目、なのかな」

「まぁルルシアさんも待ってるだろうし」

「でもさっき別れたばっかりでまたすぐ行くのもなんか、こう、あれじゃない?」

「しかも私たちはこれでもう今日自分からルルシアの所に行くの三回目、です」

「そういえばそうだよね、わー、なんか余計行きづらくなった」

「ほら、あんまり待たせてもしょうがないし」

「遅かれ早かれ行くしかねぇだろ」

「「えー(、です)」」

「ほーら」



ザ・ワンが言った通りだ。

繋の話で、なんとなくこの世界がどう創られたかはわかった。

でもそれは、やっぱり、繋が、どうしようもなく悪い。

酷い。

勝手に会えなくなった相手に理想を押し付けて、別れを告げた。

そんな繋がどう考えても悪い。

魔性の女、とかそういう陳腐な格付けで終わらせてはいけないと思う。

しかも、勝手に振っておいて勝手に自己嫌悪に陥って、勝手に偽物の世界を偽物の規則を創り上げた。

そんな自分勝手な繋がここにいることは、よくないことだ。

だから、繋はちゃんと返すべきだ。

本物の世界に。

それに、繋は全部清算すべきだ。

なかったことにするわけではない、なかったことにしてはいけない。

でも、前には進むべきだ。

そのために必要なことは、偽物の世界との、断絶。

だから繋は、ルルシアをこのまま放ってはおけない。

ルルシアには、本物を諦めてもらうしかない。

勿論、そのために行うことは、たった一言、言ってやればいいのだ。

自分が生み出した理想の相手。

そんな相手が自分に好意を寄せている。

その好意を、はっきりと断ってしまえばいいのだ。

むしろ、それしかないだろう。

「や、ルルシアさん、また会えたね」

「繋の方から来たのに、何を言うか」

「まぁね」

「心の準備は、済んだか」

「もちろんだよ、だから来たんだし、ね」

もう、全部話は聞いた。

きっと細かい部分は色々と割愛しているだろうけど、聞かなければならない話は全て。

だから、ボク達も心の準備は整えてきた。

ずっとずっと繋に、ツナギに、振り回されっぱなしだけど。

そうだ。

ここで、終わらせよう。

終わらせないといけない。

繋は本物なのだから。

その先の、ツナギに繋がる物語はボク達が紡げばいい。

それで、おしまい。

繋は本物の世界に戻って、偽物に縛られずに、この人とか言う人と仲良くなればいい。

ルルシアは本物の世界への熱を冷まして、この世界で何かを探せばいい。

ボク達は本物の世界を忘れて、この偽物の世界でツナギを探せばいい。

それで、いいんだ。

皆が、何かを得られなくていい。

皆が幸せになんてなれなくてもいい。

正しくなくても、もちろん構わない。

「ここから先は、もうあなたの話すターンだよ」

私たちの出番は、たぶんない。

「頑張れ、です」

ベルもまた、私と同じ気持ちでこれから起こることを待ち構えているだろう。

「任せた」

ザ・ワンの胸のうちまでは、ボクにはわからない。

でも嫌な気持ちではないだろうと思う。

「任された」

繋は軽快に応えて、ルルシアに向かい合った。

その姿はまるで臨戦態勢だ。

戦いはしないけど、ね。

「よし、じゃ、終わらせよっか」

「あぁ、我は、本物の世界に、行く」

「ごめん、それは無理だ」

「……無理?」

「うん、私はそれを、拒むよ」

「ふん、しかし我は、本物の世界に、行くぞ?」

「行かせないよ」

「ほう、どうやって止めるつもりだ、今や我らはただの人程度の力しか出すことは出来ない、であれば男女の力の差は歴然だが?」

「こうして止める」

繋は自分の胸に手を当てる。

目を閉じる。

深呼吸をする。

ぼんやりと、繋の周りに光が飛び交う。

一瞬ボクも目を疑う。

でも知ってる光な気がする。

繋はこの世界の創造者なのだから、このくらいは出来て当たり前、って考えていいのかな。

ちょっと光ってるだけだしね。

よくは、わからないけど。

そして光に包まれた繋の服が、ボクの見覚えのないものに変容していく。

「おぉ、それが、本物の世界の、衣服か……」

ルルシアが零す。

なるほど、本物の世界ではあんなものを着ているのか。

うーん、動きやすそうだ。

でも、あんまり多きはこの世界と変わらないような気がする。

それはそうか、ここは繋が創った世界なのだから。

完全に服が変わりきると、繋は今までにない笑顔でルルシアに向かい合った。

「ごめん、ごめんね、ルルシアさん」

でも、その笑顔は傷を負ったものだ。

傷を負った者の笑顔だ。

「な、にを謝るのだ」

ルルシアの声は、もう繋には届かない。

「ごめん、勝手に好きになって、勝手に好きじゃなくなって、勝手に偽物の理想を創りだして」

独白は、その場にいる全員の心にすっと通るようだった。

「それは、我ではない、我ではない本物の世界の、我で」

「この世界は私の弱い心が生み出した、理想郷って皮を被った、醜い世界」

「やめろ、やめるんだ、それ以上は」

「だから私は前に進むんだ、この世界にいつまでも囚われてはいられない」

「だめ、だ」

「私だけじゃない、あなたも、そうだよ、本物なんて、ないよ」

「……いや、ある、我には我の、本物が」

「私はあなたの本物じゃないよ、ルルシアさん」

「我は、これから本物の世界に行くんだ」

「ううん、あなたにとって、ここは本物であるべきなの、あなたにとって、じゃない、この世界に生まれこの世界に生きる全てにとって、この世界は本物なんだよ」

「違う!現に!繋はここにいる!」

「いない」

ゾッ、と繋からまた別のオーラが放たれる。

それはまるで、駄々をこねる子供を叱りつけるような、或いは惨めに希望に縋る誰かを見下しているかのような。

大分印象としては違うものがあるけれど、それらを兼ね備えた雰囲気で繋は続ける。

「いないよ、私はここにいない、ここにいるのは、ツナギであって私じゃないの」

「い、ない、繋は、本物はここに、いない、のか」

「うん、私なんていないし本物なんてないの、あなたの見ている世界、それだけが本物」

「本物の、この世界に繋は、いない」

「そう、だからごめんね、私の暴走した想いがこの世界を在ってはならない姿に変えてしまった」

「偽物として、認識される、世界」

「そう、自分たちが偽物であると、錯覚してしまう世界」

「我は、だから本物を求めたんだ」

「そうだね、でも、初めから本物なんてないんだよ、私にとってもそう」

「でも、我は、そのために、幾千という時を、ずっと」

「私が創り上げた世界だけど、この世界の歴史も、想いも、全部私とは無関係なんだよ」

「だが!我は知っている!本物の繋が自分を責めるその一心でこの世界は改変された!」

「されたかもしれない、あなたは私を知って私に向かって歩いてきたかもしれない」

「そうだ、だから我は――」

「あなたには、もっと素敵な人がいると思うよ!!」

ルルシアが声を失くす。

これこそ、繋がこの世界と決別するための言葉。

自分で望んだ、理想の相手。

自分が創り上げた、虚像。

好きだった相手に対して。

間接的な何かで簡単に伝えてしまった、かつての自分。

そのせいで自分を嫌って、さらに理想を創ってしまったかつての自分。

全部、前に進むために、ここに置いていかなければならないんだ。

そのための言葉が。

相手を、突き放す、言葉。

「今、なん、て」

「もう一度言うよ、ルルシアさん」

繋の目に、涙が浮かび始めた。

複雑な思いをかなぐり捨てて、前に進もうとしている。

やっぱり、繋はツナギだなぁ。

ボクなんかよりも、ずっと、ずぅっと、強い。

ボクの憧れ。

ボクに再度願った、可愛い女の子。

「あなたには、私なんかよりもっと素敵な人がいると思うよ!!」

そして続けて。

「だからあなたとは付き合えません!!」

さらに続けて。

「もう二度と、私の前に現れないで下さい!!」

……。

言い切った。

言い切った繋は、顔をぐしゃぐしゃにして、でも、目を背けなかった。

ずっと、真っ直ぐ、ルルシアを見ていた。

そして、繋の言葉を受けた当のルルシアは、膝を突き、地面にうなだれた。

その目からは、繋以上に涙が零れ落ちている。

「……ならば、仕方、ない、のか、千年に渡る我の片想い、は、ここに終わるのか……」

「そう、だよ、今、盛大に私に、振られちゃったんだよ、あなたは」

「は、はは、そうか……そうか……」

だけど、不思議と良い顔をしている、と思う。

そうだ。

神だろうがなんだろうが、何年間続けた想いだろうが、はっきりと伝えることが大事で。

はっきりと伝えないことは、良くないことだ。

はっきりと、伝えた言葉ならば、きっと、届くはずなんだ。

だからこんなにあっさりと繋はルルシアを説得できた。

もしかしたらルルシアもわかっていたのかもしれない、繋がどんな結論を出すか。

とにかく、これで、本物と偽物の物語は、おしまいだ。

無事。

何事も、ありまくったけれど。

全部全部、終わった。

「後は、繋をしっかり本物の世界に送り返せば、こっちはこっちのことだけを、そっちはそっちのことだけを考えればいい、ってわけだ」

「解決、です」

ベルが繋に抱き着く。

「あはは、ちょっと痛いよ、ベル」

ザ・ワンがルルシアに近づく。

「いいのか?」

「わからんよ、ムート、お前にはわかるのか?」

「さぁ、わかりません、ルルシア様」

「なら、仕方あるまい」

「……ですね」



こうして、鈴鳴繋は。

本物の世界での出来事から自分の理想を描いた偽物の世界に降り立ち。

その世界で、自分の傷と向き合い。

そして、全部、解決した。

自分の力で。

そして、自分を、否、自分の影を追っていたルルシアの問題も、きちんと終わらせた。

本物は本物。

偽物は偽物。

いや、偽物なんてないのだ。

この世界は、ボクにとっては本物なのだ。

だからこそ、本物なんてものに囚われていては駄目なのだ。

だから、混じりあうことのない二つの世界。

元の姿に戻した。

本物は本物の世界にいればいい。

ボク達はボク達の世界だけにいればいい。

それが、本来あるべき姿だから。

これでようやく、鈴鳴繋の、偽物と嘘と贖罪の物語は終わり。

この世界でやるべきことをやった繋はこのまま元の世界に帰っていくのだろう。

ボクは、最後に、繋になんて言おう。

なんて言ってお別れしよう。

かな。

なんて。

暢気な。

ことを。

考えて。

いたら。

一筋の。

光が。

彼。

神様。

支配の神。

ルルシア。

彼の胸を。

そう。

一閃。

いや。

この。

場合は。

一線。

なのか。

わからない。

でも。

光が。

貫いた。

彼の胸を。

鋭く。

迷いなく。

ボクも。

繋も。

ザ・ワンも。

ベルも。

当のルルシアも。

誰も彼も。

ボクらは。

動けなかった。

どうしようも。

なかった。

それほど。

その閃光は。

あっという間に。

刹那の内に。

ボクらを。

この世界を。

偽物を。

蹂躙した。

偽物は。

偽物らしく。

脆く。

儚く。

消えて。

然るべきだと。

そう言いたいかのように。

突如。

現れて。

消えた。

胸を貫かれた。

ルルシアは。

力なく。

その場に伏す。

それを見て。

見てから。

全員が。

拳に力を入れた。

戦いを。

行う。

その準備を。

整えた。

光の。

射出元を。

見た。

遠くはなかった。

すぐ近くに。

それはいた。

それらはいた。

ここは。

狭い部屋だ。

顔も。

表情も。

全て。

はっきり見えた。

見て。

また思考が。

停止する。

なんで?

なんで?

なんで?

それだけが。

こだまする。

目の前の光景が。

理解できない。

理解できる。

でも。

なぜ。

なんで。

なん、で。

ここ、に。

いる、の。


ボク達の目の前に急に現れ、ルルシアに背後から攻撃を仕掛けてきたのは、三人。

ルルシアはその胸をとても苦しそうに抑え、掠れた声しか喉から出ていない。

早く助けないと。

そして、そんなルルシアを見て、ルルシアから流れる大量の血を見て、繋は口元を手で押さえ、恐怖の表情を浮かべている。

ベルと、ザ・ワンはほとんど同じだ。

相手に対して戦う姿勢を向け、そして固まっている。

無論、ボクもそうだ。

頭が、目で見たものを信じることが出来ていない。

そのせいで、何も動くことが出来ない。

視界に映るのは、三人。

いや、三、柱、かもしれない。

まずは、スタイルの良い、邪悪な笑みを浮かべた、ボクもよく知る神様。

慈愛の神。

セレス。

次に、なんだか、よく知っている、のかどうかいまいち判断がつかないけど、でもよく見知った顔。

誰かは知らない。

でも、顔は。

ルルシアと全く同じ顔をした男。

そして。

最後に。

たぶん、見るに。

彼女が、光を出して、ルルシアを今こうさせている元凶だろう。

「これで、あと、邪魔者は、三体」

ボクの目の前で。

何の罪悪感もなく笑っている彼女は。

「ツナ、ギ?」

「久しぶりだね、ナギ」

久しぶりに会う、可愛い笑顔で。

言った。


「ごめん、死んで欲しいな、私の為に、ね」

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