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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 1 ―支配の神―
51/72

神様が物語る声を寄せるまで

「だからね、本物の世界で私とルルシアさんは恋仲なのだよ」

…………。

うん?

ううん?

あれ、え、えぇ!?

「そうなのか」

「意外、です」

「いやいやいや、そんな簡単に済ませていいの!?その事実!?」

「っても本物の世界のことなんてよく知らねぇしなぁ」

「です」

「そうだよー変なナギ」

「変なのはぜーったいボクじゃなくて皆の方だってば……」


あの後、ルルシアは繋をボクに預けると言った。

自身が本物の世界にいくためにまだこちらでやるべきことがある、とかなんとか言って。

ま、沢山の生命の命を預かっている身なのだ、そういった姿勢はむしろありがたいくらいだけど。

とにかく繋はボク達の家に住むこととなった。

そして、まずは落ち着くためにボクとベルと繋、そしてザ・ワンの四人でボク達の家で状況を整理することとなった。

正確には繋に質問攻めするようなイメージでね。

それで色々とね、きちんと説明を求めていったわけだけど。

いきなりとんでもないことをぶっちゃけてきたよこの子。

何がどう「だからね」なのかだから聞いてみたいところだよ。

え、だってルルシアって、だって、本物の世界に行くこと自体が目的なんじゃなかったっけ?

自身もまた本物になりたい、とか、なんかそう言っていたはずだけど。

んん?

恋人なの?

っていうか本物の世界に行った事も無いのに恋人なの?

「あの、ルルシアと?支配の神と?」

「なわけないでしょ」

「なわけないのかいじゃあなんなのさ」

「本物の世界で、って言ったでしょ」

「うん……え、それが?」

「ナギはなんていうか、色々と抜けてるよね」

「繋にもツナギにも言われたくないよ……」

「だから、本物の世界で、本物の私と、本物のルルシアさんが、恋仲なの」

「……へ?」

「今のはわかったでしょ、この世界の生命は基本的に二種類に大別できるんだよ、本物の私の世界にいるものといないもの、ルルシアさんはいる」

「ちょっと待ってそんなの初耳だって」

「でも、本物の私に対して、偽物の私がいるんだから、それは別に不思議じゃないでしょ?それに、私が創った世界だし」

「や、でも繋が、その……」

「何、神様、言いたいことはちゃんと言ってほしいよ」

言っていいのかな。

ま、繋ならいいか。

「本物の繋が、偽物の世界を創ったのって、なんとなく、本物から逃げる為で、きっと嫌なことがあって、だから嫌の事のない世界を創ったんじゃないかって思ってて」

嘘偽りのないボクの本心をさらっと言ってしまう。

言ってしまえるだけの関係は築いてきたはずだしね。

もちろん築いたのはツナギの方だけど。

それに対して繋は予想通りなんのことはなく同じくさらっと軽く答えてくれた。

「うん、それは事実だ、ごめん」

「……なんで、謝るのさ」

「だって、私がそうやって、逃げてしまうことを、そして私が弱いって事実を、認めたくなかったんでしょ、ナギは」

「うん、そうだね、それはそうだ」

本物の繋には、本物らしく強く生きていて欲しかった。

そう思った、思っていた。

当人を前にした今は、よくわからないけど。

「全くその通りだよ、私はこの偽物の世界に逃げてるの、本物の世界が嫌になってね、それでも、本物の世界で大切にしているものは偽物の中にも欲しいでしょ、だから大切なものはこっちにも存在してる」

「一応聞くけど、ボク達にも、本物がいるのかな?」

「内緒」

「あっそ」

「それで、ルルシアさんは本物もルルシアさんなわけ?」

「違う違う、さすがに私の世界じゃ一人称が我なんて人はいない」

「でも、自分で偽物の世界の中にルルシアを、なんて言うの、創ったんでしょ?」

「そうだけど、思い通りに出来上がったわけじゃないのよ、ここ、結構イメージがそのままの形で具現化してるような世界で」

「じゃ、我なイメージなわけ、本物のルルシアは」

「ふふ、性格とかは全然違うけどね、なーんか私には少しそういうイメージがあるみたいだ、ね」

「……我って性格?」

「と、いうよりはさ、支配の神の方、かな」

支配の神の、方と言われてもね。

支配の神じゃない方を知らないし、イメージとか言われてもやっぱりよくわからない。

っていうか恋人がいる繋、この場合はツナギかな、それもあんまり想像がつかない。

いや、とってもかわいいのは誰よりも知ってるんだけどさ。

そんな誰かと愛を誓い合うようなタイプかなぁと。

そしてツナギが誰かを好きになったとして、それを受け止められるような人がそう簡単に見つかる気もしない。

リアンがツナギとザ・ワンが恋愛対象としていい感じらしい、って言った時はだいぶ驚いたくらい。

やたら失礼なボクのツナギ像でした。

「支配してくるんだよ、私の心を、彼はね」

「……」

「それは、いいこと、です?悪いこと、です?」

「どっちだろうね、でもこうして偽物の世界に呼ばれてるくらいだから、きっと――」

「きっと?」

「よくはない、のかもね」

それは、どうだろう。

ボクは確かに、繋がここに来ることを、逃げ、だと思って、阻もうとしたけど。

繋自身はどんな想いであれ、この偽物の世界を欲して、創り上げたのだから。

そこに本物との繋がりのあるルルシアがいることは。

本物の世界から逃げるための偽物の世界に本物の存在であるルルシアがいることは、何も悪い事ではないとも思う。

前提条件が、何か、間違っているかも、しれないけどね。

だって、それなら、支配されていることがいいことなのかどうかくらい、すぐに答えられるはずだし。

「ひどいと思わない?」

そんなボクなりの理論を頭で思い描いていたら今度は誰に喋るでもなく繋が語り始めた。

もしかすると、ボクの頭の中を覗いていたのかもしれない。

「私の心は彼でいっぱい、何をしててもどこにいてもいつでも、彼は私の心を支配し続ける、そんなのずるいよね」

彼、というのが、誰を指すのか。

本物の世界のルルシア、かな。

「そのせいで、私は弱い人になっちゃった、ううん、彼が強すぎて、劣等感で押しつぶされそう」

誰も、言葉を返せない。

気持ちがわかるからでも、気持ちがわからないからでもなく、ただその独白を、今は聞くべきだと思ったから。

飄々と、本音を隠してきたツナギだったから。

繋とツナギは同じで違うけど、ツナギの本音なんて、聞ける機会は少なかったから。

「おかしいと思う?偽物の世界を創ったの、全部自分から、彼から逃げるためなんだよ」

聞いていたい。

ボクが認めたくなかった、弱い繋を。

というか、結局、本物に対して妙な意識を持っていたのはボクの方で。

実際、本物の繋がこうして話しているのを聞いて、すぐにわかってしまったのだ。

繋は本物だけど、だからといって、ボクらと何も変わらない。

逆か。

ボク達は偽物だけど、たぶん、本物と何も変わらない。

だから繋はこうしてボク達に対して喋っていられるのだろうし、ボク達は繋と喋っていられるのだろう。

本物も偽物も、あるいは本質は同じなのかもしれない。

ただ、本物と偽物という違いがあるだけで。

それが、一体どんな違いなのか、もうなんだかわからなくなってきた。

「ナギは、私は、ここにいるべきじゃない、と思うよね」

話を振られたから、それにはもちろん答える。

「うん、本物は、本物らしく本物であるべきだと思う、思ってた」

「過去形?」

「なんか、今の繋と話してたら、よくわからないよ、何が違うのか、本物も偽物も」

「でも、この世界の私を求めてるんだよね、ごめんね」

「謝られること、ないよ、どの道、ツナギはどこかに、消えちゃったわけだし」

ボクの中にいたはずのツナギは、今はもういない。

それにボクが結果的に、繋をここに呼んでしまったのだから、繋に謝られる筋合いはない。

むしろボクが繋に謝らないといけないくらいだ。

「まぁ、やっぱり、偽物は偽物、本物は本物の世界に、やっぱりいるべきなんだと思う」

「なら、私は早く帰らないと、ね」

「そうだね、繋は、元の世界に帰る方法を知っているの?」

「んー、わかるような、わからないような、たぶん、時期が来ればちゃんと帰れると思うけど、結構適当かな」

「それは、どっちなのさ」

「じゃわかんない」

「……ルルシアがどうやって二人で本物の世界に戻ろうとしているかも?」

「知らない」

「そこは知っておいて欲しいよ……」

なんで知ってるところと知らないところがまちまちなのさ。

「じゃあ、本物の世界に行ってルルシアが何をしたいのかも知らないわけだ」

「え、いやそれは本人が、あーいや、本神が?言ってたでしょ、だからさっき恋仲なんだよねって話をしたんじゃない」

「へ?」

ルルシアが何か言っていた?

そんなのボク知らないぞ。

と思ってベルを見ればベルは露骨に渋い顔を。

ザ・ワンを見ればザ・ワンは露骨に渋い顔を。

改めて繋に目線を戻せば繋は露骨に渋い顔を。

渋い顔しかされてない!?

「え、え!?」

「ルルシア、はっきり言ってた、です」

「聞いてなかったのか?」

「え、本物の世界に行って、なんか、本物になりたい、とかそういうことじゃなくて?」

ハァ―、と大きな息をはいて繋がボクの言葉を遮る。

「だから、本物の世界に来て、本物の世界で本物の鈴鳴繋と想いを通じ合いたいんだってさ」

……。

「言ってたっけ、そんなこと」

「「「言ってた(、です)」」」

あう。

そうだっけか。

いつの間に。

しかし、それって。

「本物の繋、だから、あなたと恋仲になりたいってこと?」

「ま、そういうことだ、ね」

「……あんまり、わかっていないんだけど、いやちょっと待って」

それが何を意味するのか。

繋はさっき本物の世界で本物の繋と本物のルルシアは恋仲にあると言っていた。

それが関係あるということ。

そして、この世界はあくまで本物の繋が創りだしたということ。

そこから導かれるは。

「偽物のルルシアは、本物同様繋が好きで、本物の世界を求めた、ってこと?」

「少しだけ、違うの、かな」

繋はそれだけ言って、その後は複雑な表情を浮かべた。

その先は何故かザ・ワンが紡いでくれた。

「偽物のルルシアは最初、偽物のツナギが好きだったんだろ」

「あぁ、そういうこと」

つまり何か。

偽物のルルシアは偽物のツナギを好きだったけど、本物の存在を知って、本物の繋を求めた、と。

何だか、妙な話だ。

どっちも同じ人なのに。

でも、今ボクが求めているのがツナギであるように。

ルルシアが欲しいのは繋なのだろう。

それは確かに。

「残酷な話だね」

誰にとってか、わからないけど。

「ツナギの記憶に関係あるんだろ、それ」

「あはは、何でもお見通しだなぁムーくん、いや、私はワンくんって呼んだ方がいいのかな」

「どっちでも構わねぇよ、で、どうなんだ」

「そうだね、それはでも、たぶん私から見る偽物の世界の歴史とか、私から見たこの世界での私のことを話さないと、かな」

「そうか」

「ま、それはもう少し皆が落ち着いてからにしようか?」

「落ち着く暇があれば、な」

「だね」

そうか、と思わず納得してしまう。

仮にも今のボクは本物の世界のルールに則っているからわかる。

本物の世界の生命は永くは生きていられない。

そもそも、そうでなくても、だけど、繋はせいぜい二十年くらいしか生きていないはず。

だから、この偽物の世界における歴史が、少なくとも約千年くらいはあるのはおかしいのだ。

一体どういう理屈なのだろう。

それは気になっていたし、もしこの世界にツナギが何百年といたというなら、そのツナギは繋から見たらどう動いているようなのか、わからないもんね。

「それに、俺の過去を話しただろ?」

「聞いたのはツナギだけど、ね」

それを聞いてピクッとボクとベルが反応する。

そんな仲が良くなっていたのか、ツナギとザ・ワン。

なんだい。

ちょっと思わず嫉妬しちゃうよ。

ベルも頬を膨らませている。

ついでに「あの男、知らないトコで何をしてる、です」とか声に出してる。

怖いって。

「どうせ、その頃のルルシアさんの動きが今ようやく繋がった、とかそんなところでしょ?」

「そうだよ、今更だけどな、だからその頃のルルシアは既に本物を求めて動いていた、ような気がする」

「それもまた、歴史がどう映っているのかを話さないと、ってこと、ね」

「あぁ、これでもかなり混乱してるんだ」

「そかそか、もちろんワンくんにも悪い事したなぁと思ってるよ」

「何がだ」

「まず巻き込んでる時点で一つ、あとは、恋愛面でも一つ、貸し二つ分だね」

「あのな、そういうんじゃなかっただろうが」

ピクピクっとボクとベルがこっそり臨戦態勢をとる。

ザ・ワンに対して。

「素直じゃないなぁ、ま、私に素直じゃなくてもいいけど、もしまた私に会うことが出来たら、その時はちゃんと思ってることを話すんだよ?」

「断る、何も話すことはねぇよ」

「ないなら、ないって、ちゃんと言ってあげないと、ね?」

「……その話、少し詳しく、です」

「ですです」

「断る」

「らしいから内緒」

なんだなんだ。

やっぱり話せない何か事情があるのかな。

許し難しだよ。

「ちゃんとこの世界のツナギを取り戻したら、本人に聞けよ」

と、何気なく付け加えたザ・ワンの言葉に隠れた、裏を読み取る。

ボクの所為で、どこにいるのかヒントすらなくなったツナギを。

取り戻すと、そう言ったのだ。

「そうだね、そうする」

ボクも、やっぱり、自分を責められずにはいられないけど。

やるべきことは、なんにも変らないのだ。

変えたくないのだ。

「ボクは、ツナギに会いたい」

「当然私も、です」

「俺も異論ねぇよ」

「なら、私はこの世界の説明だけしたらお役御免かな?」

「悪いけど、そうしてもらえると助かる」

「はいはい、そうだね、それがあるべき姿だもんね」

そうだ。

本物目線の物語が、今は必要だ。

そこにツナギに繋がるヒントがあるかもしれないし。

本物の世界に行く、ルルシアの願いを今度こそ阻止するヒントもあるかもしれない。

だから、その話は細部まで聞きたい。

「それに……もう一つだけ、繋には聞かなくちゃいけないことも、ある、し」

「聞きたいこと?私から見たこの世界の在り様、歴史、ツナギのこと、ルルシアさんのこと、私自身の事、それ以外に何かある?」

「うん、ある」

「何?」

もちろん。

こんな状況じゃなければ、正しく探し求める必要があるんだと思う。

ツナギが自分で見つけるべきなのだろう。

でも、今はそんなことも言っていられない。

私は居間に置いてある小さな棚から、一枚の紙を取り出す。

ツナギにとって、最も大事なもの。

この世界で、生きる意味だと言っていた、大切なもの。

ツナギがツナギらしく前に進んだ理由。

『私』と『彼』の物語。

そしてそこにある『鈴鳴繋』の文字。

ノートに書かれた、日記の一部。

それを、鈴鳴繋の眼前に突きつけた。

ここで、この物語は終わりだ、とでも言うように。

「これ、これを書いたのは、ツナギ?それとも繋?」

『私』とはツナギなのか、繋なのか。

「ここに書かれている『彼』は、この世界のルルシア?それとも本物の世界のルルシア?」

『彼』とは誰なのか。

さぁ、その全てを。

ツナギの求めた理由を。

「嘘をつかずに、話して欲しい」

「私は、書いてないよ」

即答された。

「だからそれを書いたのは、ツナギだね」

その顔は、少しも笑っていない。

「だから『私』は、ツナギ」

なんで、そんなに、辛そうな顔、してるの、繋。

「でも、『彼』は、ルルシアさん、なのかな、どうなんだろうね」

声が、震えてるよ。

「そこまで、私は、知らないな」

嘘だ。

絶対に嘘だ。

誰が聞いたって嘘だとわかる、そんな嘘。

でも、だからこそ。

ボクにはそれ以上、この『私』と『彼』の物語に、踏み込んで欲しくないんだと、そんな繋の想いは十分伝わってきた。

繋が、ツナギを気遣っているんだ。

「そっか、なら、これもやっぱり本人に聞かないと、だね」

「……うん、そだね」


『私』がツナギなら。

『彼』は誰なのか。

ルルシアさん、なのかな、どうなんだろうね、って。

白々しい。

ボクは本当はこれだけで、わかったはずなんだ。

彼が誰なのか。

この想いが、何なのか。

ツナギが何を願っていたのか。

そんなことがわかった、はずなんだ。

ただやっぱりボクは弱くて。

目を背けてしまうのだった。

目を背けていられる時間も、あと少ししかないんだって。

繋の話が、ボクの物語を終わりへと導いてくれていることにも。

気付いていたのに。

でもいいんだそれで。

なにもかもと向き合う必要なんかないんだ。

もうボクはどこまでも自分に絶望したのだから。

せめてこれから先の物語がハッピーエンドになるように。

前に進もう。

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