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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 1 ―支配の神―
50/72

神様が鼓動を失うまで

かわいい女の子。

髪がさらさらっと綺麗で。

見せる表情がいつも素敵で。

誰よりも強い芯があって。

ボクなんかに願ってくれた。

そんな女の子。


そんな女の子の姿をした、ボクの知らない女の子が、そこに立っていた。

どこからどう見てもよく知っている姿なのに。

纏っている空気は全く、全然知らないものだ。

起き上がることもろくに出来ない、痛む体を無理やり押し上げて、立つことまでは出来ないけれど、なんとか寝ている状態から座り込むまでは体勢を変える。

それはルルシアも同じようで、這いつくばりながらも上を向いていた。

そんなボク達の様子を悲しげに、微笑みながら見つめるのは。

ツナギの姿をした、たぶん、その。

「本物の、世界の、鈴鳴、繋?」

ボクから零れた言葉によって、全員がその事実を認識する。

そうだ、ここにいるのは。

「そ、私は鈴鳴繋、皆の言葉を借りれば、本物、になるのかな」

本物だ。

どうして、こんなタイミングで。

「は、はは!我は、我は、ついに成し遂げたぞ、成し遂げたのだ!!ここに、この偽物の世界に!!鈴鳴繋が!!」

ルルシアがひねり出すような声で、しかし強く、その気持ちが真っ直ぐに伝わる声で喜びを表している。

「うん、久しぶり……じゃないのか、初めまして、ルルシアさん」

繋の声はやけに優しく聞こえる。

「我は、我は……」

「もう、我、じゃないでしょ、私がせっかく直してあげたのに、やっぱり私の中でそのイメージが強いのかなぁ?」

……?

何を言っているのか全然わからないな。

これ、は、これがルルシアの思惑通りなのかな。

よくわからない。

なんとなく、何かが、違うような気がするけど……。

っていうか、普通に気になるのが。

「……今の状況、わかってる、の?」

なんか焦ることもなく挨拶をされたし、それにボクが願われたのはツナギであって、繋じゃない。

それを知っているのは、どういうことなんだろうか。

「うん、わかってるよ、全部ね、私が願った偽物なんだから」

答えになっているようで、なっていない。

でも、なんだか十分に伝わってきた。

「そっか」

「でも、まさか、この世界に連れてこられるとは思わなかったな」

連れてこられたんだ。

誰に?

「まぁ、この世界に私の偽物が現れた時点で、ここまで決まっていたようなもの、なのかもね」

ちょっとボクの状況把握が追いついていない。

勝手に色々納得しないで欲しいよ。

なんかそういう所があるよね、ツナギって。

あ、いや、繋って。

や、文字にしたらどっちも「つなぎ」なんだけどさ。

イメージってあるでしょ、読み方のというかなんというか。

そんな違いがボクの中にぼんやりとあって。

ボクのよく知る方はツナギって感じで。

ろくに知らないけれど、今目の前にいるのは繋って感じがしてたから。

一応ボクの中では使い分けているんだよね。

それはさておき。

聞きたいことが山ほどある――。

「それで、私にどうしてほしいのかな、ルルシアさん?」

あーもう!

そういう所があるよね!

「ちょっと待って!全然わかんないよ!今いるあなたは、本物の世界の繋なんだよね、どうしてここにいるのかよくわかっていないし、他にも色々聞きたいことが」

「それはルルシアさんに聞いてよ、私にもよくわかっていないんだから」

「じゃ繋にとって、この世界はどういう概念なの?偽物の世界っていうのは何?」

「それはナギさんが知ってのとおりだよ、繋がっているようで、零れ落ちているようで、あるようでない、そんなぼんやりとした存在だね」

「全然説明になってないし、えと、じゃあ状況わかってるって言ってたけどルルシアに質問もしてたよね、そこまで理解してるの?」

「私が理解してるところまでだよ、少し落ち着いてナギ」

ナギ、と言われて思わずドキっとしてしまう。

繋はその隙にするっと私の横を抜けてルルシアの元に歩み寄る。

かろうじて起き上がっているルルシアにそっと手を添え、相変わらず笑みを浮かべたままだ。

「ね、どうなの?」

「我は、本物の世界に、行くのだ」

「そか、私の世界に来て、どうしたいの?」

「我、は、欲しい」

「何が欲しいの?」

「本物、本物の、繋が、欲しい」

「そっか、私が欲しいんだ」

「あぁ、だがこの世界この器ではない、本物の世界本物の器の、本物の鈴鳴繋が、欲しい」

「それは、本物の世界に行ったとしても、手に入らないかもしれないよ?」

「その結果に終わったとて、そこで得られたものは本物であろう」

「嬉しいことを、言ってくれるよね、それとも、私が言わせてるのかも、だけど、ね」

「だから、繋と共に、本物の世界に赴くことが、我の願いだ」

「熱いね」

「返事が軽いよ!?」

声を出すことだって節々が痛くてたまらないのに、さっきから繋のせいで突っ込みっぱなしで中々辛い。

でも、なんでだろう。

ここにいるのは繋であって。

ここに来て欲しくないってボクは思っていたはずで。

ボクには偽物のツナギだけが必要なのだって考えていたのに。

いざ話してみれば、すごく安心している自分がいるんだ。

やっぱり本物も偽物もない。

元々同じ存在なのだから、繋もツナギもないのかも、ね。

もちろん、それでもやっぱりツナギを追い求めたいのだけど。

すると、ベルがゆっくりと歩いてきた。

ベルもまた、ツナギに救われて、ツナギをボクと一緒に追い求めてきたわけで。

この本物に対する反応はどうなのだろう。

そんなことを思っていたら、ベルは思い切りよく繋に飛びついた。

ぎゅうっと、大事な人を離すまいとしている。

「ツナギ、じゃないけど、ツナギ、会いたかった、です」

「うん、ツナギじゃないけど、さびしい思いをさせてごめんね、ベル」

繋も普通に返事をして、ベルを抱き返している。

ちなみに、ザ・ワンはしばらく動いていない。

様子見の姿勢を貫いている。

ちなみにもうボクは頭が混乱しすぎて何が何やら。

やっぱり肝心な、この繋が、どこまで状況を理解しているのかがわからない。

逆に今本物の世界の繋はどうなってしまっているのか。

ここに来るまでの記憶はどのくらいあるのか。

そもそも偽物の世界は本物の繋から見てどういうものなのか。

そして今何がしたいのか。

わからない。

しかも教えてくれないと来た。

ここに本物がいる時点で既にボクとしては作戦失敗なわけだけど、なんでこんなに緩い空気になってしまっているのかもよくわからないし。

いやその原因は繋にあるんだけどさ。

むむむむ。

「さて、と」

ベルを抱きながら、繋がボクに目線を合わせてくる。

その目からは、何を考えているのか、何も伝わってはこない。

「ナギは、どうしたい?私に、どうして欲しい?」

ルルシアにしたものと、同じ質問。

ボクもここで、嘘をつくわけにはいかない、と思う。

ツナギのために。

「ボクの……たぶん、中にいると思う、ツナギを、その体に戻したい」

「じゃ、私は邪魔?」

「うん、邪魔」

「ひどいな、本物だよ?」

「ボクは偽物のツナギがいい」

「そかそか、ま、ナギはそう願うしかないもの、ね」

「そうだね、それ以外の選択肢なんてボクにはある気がしないよ」

「もしかしたら、私とルルシアさんが本物の世界に行ったらこの体から私が抜けて偽物の私が復活するかもよ?」

「……それは、ない、と、思う」

「へぇ、なんで?」

「わからない、けど、なんとなく」

「そんな曖昧な理由で否定されてもね、まぁ、たぶんそんなことは起きないと私も思うし、たぶん偽物の私をこの体に呼び戻すのは結構難しいと思うよ」

「そんなこと」

「わかってないよね、今私がどういう状況かもわかっていない、自分がどういう状況なのかもわかっていないナギには、何もわかっていないはずだよ」

「今の、ボク……?」

何か、したっけ。

確かに今の繋の状況はよくわかっていないし、ツナギが本当にボクの中にいるんかどうかもよくわかっていない。

ルルシアが本物の世界に行く、っていうのもよくわかっていないし呼び戻す方法なんてそんなものわかってるわけがない。

でも、自分のことくらい、正確にはわからなくたって、やばいかどうかくらいは、わかってるつもりだけどな。

「いじめたいわけじゃないから、ね、教えてあげるけど、ナギ今本物の世界のルールで動いてるでしょ」

「そうだけど」

「それって能力が無くなるってことだよね、周りだけじゃなく、自分すら」

「……は」

「本物の世界のルールに則ることは、偽物の世界の神々の異能に対しても絶対的平等を与えるのかもしれないけれど、それだけなんだよ、優位になんて働かない、どころか」

そこで一瞬間を置いて、繋は続ける。

「その他の事が何も出来なくなる、自分の手は目に見える範囲しか伸びないし、体は宙を舞えないし、その辺に住まうどの生命よりもあっけなく死んでしまう」

繋は平淡に喋る。

まるで感情がないかのように。

あるいは、感情など、込めるまでもない事実確認をするように。

「今のナギは、私の神様ではあるかもしれないけれど、存在としてはただの人間となんら変わりないんだよ」

繋はそう言った。

「にん、げん」

「どういうこと、です?」

ベルが心配そうにツナギを見上げる。

それでも繋の傍を離れる気がないあたり、さすがにかわいいけれど、今はそんなことを気にしていられるほどボクにも余裕がない。

ボク、収縮の神、ナギは今、この偽物の世界において人間になった、ということ、らしい。

それは別に驚くようなことじゃない。

だって、本物の世界のルールを持ってくるって言って、元の世界にこうして神がいないのであれば、それは必然的に人間の姿にならざるを得ないだろうから。

でも、それをわざわざ今このタイミングで言う、ということは。

と、繋が話したいであろう、ゴールは。

なるほど、きっと。

「少なくとも、今のボクにはツナギを元に戻す不思議を起こすことも出来ないし、今の私の中にツナギがいるという不思議も、本物のルールにおいてはありえない、ってこと、かな?」

「ご名答」

「……そっか、もしかして、だけどさ」

「うん、なに?」

「ボクがこの本物の世界の規則をここに持ち込んだことと、今繋がここにいるのって、関係がある?」

「うん、ルルシアさん的には図らずも、かな、本来ルルシアさんがやろうとしていたことを、別の角度からナギがやっちゃった、みたいな感じ、かな」

「ルルシア、が」

ルルシアがやろうとしていたことを、ボクがやってしまった。

それはつまりボクの願いを否定したのが、ボク自身、ってことになるのか。

しかも、ボクの中から既にツナギが消えているときた。

自分がどんな存在になろうが今更どうでもいいけれど、結構心がえぐられている。

頭ばかりが冷静になってきて、次々に自分の失態に気付いてしまう。

際限なく自己嫌悪に陥っていく。

その裏付けをとるかのように、繋が丁寧に、そういうことだけは丁寧に、流れるように解説していく。

「ルルシアも本来は、この世界の私経由で、本物の世界の私を呼び出そうとしていた、っていうか厳密にはこの世界の出来事を逐一私が知っている、ってことを知ってたから私が来るようにことあるごとに仕向けようともしてたね」

「繋がる力を持つこの世界の私なら、きっと本物の世界とも繋がれるはず、っていうのと、本物の世界の私に直結している偽物の私なら、そうでなくても繋がれるはずだと踏んでいた」

「けれど、そのための準備を整えるべく、この世界の私をひとまずスリープ状態にさせようとしたら、不思議なことが起きてしまった、予想外の事が起きてしまった」

「ナギ、あなたの中にツナギの力が宿ってしまったこと、これがルルシアさんの誤算、ま、誰にとっても計算外だったし、それは仕方ないように思うけど」

「空っぽになってしまった私の体からでは本物は呼べない、そこでナギ、あなたから本物の世界を呼び出すことにした、そのために色々と考えもした」

「具体的には、仲間としてどうにかするか、敵としてどうにかするか、そんなどうでもいいことを真剣に考えていたルルシアさんだけど、思いのほかツナギとナギの繋がりが深いものだとしったルルシアさんは仕方なく強硬手段に出た」

「敵として、ナギを真っ向から倒して、本物の私をここに呼び出すって方法に、ね」

「でも、ナギが結局その役割を全部果たしてしまった、意図してか意図せずか、本物の世界のルールとして、私を」

「呼び出したのは私ではなくて世界のルールだったけれど、それはナギの中にいたはずのツナギ、そして本物の私をそれぞれ経由してルール自体を持ちこんだ、持ちこむことが出来てしまった」

「だから私は本物の世界のルールも理解したまま、この偽物の世界のルールも把握したままここにいることが出来ている」

「そんなわけで、今ナギはね、本来ルルシアさんが想定していたものよりも遥かに大きな概念を引っ張り出してきてしまったんだよ」

「今はまだナギの周辺にしかこの本物の世界のルールは適用されていないみたいだけど、今後どうなるんだろうね」

「この偽物の世界のルールに紛れ消えていくのか、それとも本物のルールによってこの世界が侵食されていくのか、それは私にもわからないかな」

「どう、わかった?」

とってつけたかのような最後の言葉に、誰も反応しない。

ボクもベルもザ・ワンも、ルルシアですら。

反応出来なかった。

「簡単に言ってしまえばナギは、自分の内にいた偽物のツナギを使って、本物の世界のルールごと私をこの世界に呼び出した、ってこと」

それはまるで。

ボクの願いとは真逆の事を自分で行っていたということに他ならず。

知らなかったとはいえ。

そこまで考えることが出来なかったとはいえ。

ルルシアを倒すためだったとはいえ。

「ツナギ……」

ボクがそう零すと、ベルが繋から離れてボクの方に今度はぎゅうっと抱き着いてきた。

その力はかなり強い。

「大丈夫、です、また、一から探せばいいだけの話、です」

その慰めがつらい。

わかっている。

自分の所為だからといって。

出来ることが変わるわけではない。

自分の内にツナギがいた頃と、ボクからすれば実はさして状況は変わっていない。

どの道無事にルルシアを倒していたって、その後またどれだけかかるかわからないツナギの捜索に旅立つところだったのだ。

それは何も変わっていない。

だけど。

だけど。

「おい、ナギ、すごい顔してるぞ……?」

傍観を貫いているザ・ワンも気を遣う声をかけてくる。

その言葉一つ一つが余計に重荷となってボクの心にのしかかる。

だって。

だって、さ。


かわいい女の子。

髪がさらさらっと綺麗で。

見せる表情がいつも素敵で。

誰よりも強い芯があって。

ボクなんかに願ってくれた。

そんな女の子。

そんな女の子に会いたいとずっと願ってきたのに。


「二度と、ツ、ツナギに会えないかもしれない、それも、ボクの、せい、で」


なんで、こうもうまくいかないのかな。

ねぇ。

神様。

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