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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 1 ―支配の神―
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神様がその声を聴くまで

目の前に異世界の生命が現れたらどう思うだろう。

まずは信じられるだろうか。

異世界のことを。

そこに存在している生命のことを。

ボクは、どうだろう。

信じられる、かな。

どうだろう。

でもボクにとって、ツナギはほとんど異世界の存在のようなものだった気もする。

だけど、きっとボクでなくたって、実は信じられるんじゃないかなって思うんだ。

誰だって心の奥底では願ってるはず。

自分の今いる世界とは、全然違う世界がどこかに広がっているって。

しかも、そこには自分の分身、というか、その世界での自分がしっかり存在していて。

その世界での自分は、今ここにいる自分とは違ってたくさんの幸せに溢れていて。

今の自分にはないものをたくさん持っていて。

そんな世界があることを誰だって願っているんじゃないかな。

神であるこのボクですら。

一度ならず何度も願ってしまったくらいだ。

記憶もなくってただただ弱いだけのボクじゃない、真の強さを持って神らしく振舞える自分が実は今の自分を外側から見ているんじゃないかって。

そんなことを思ってきた。

だからきっと、異世界なんてものの存在を知れたらむしろ嬉しいんじゃないかな。

たぶん、そこに存在している自分がいたら、羨ましいな、とか思ってしまうんだろうけどね。

さて。

今。

まさに。

自分が、異世界の存在となって、二柱の前に立っているわけだけど。

なんだか気分がいい。

妙な優越感がある。

それは別に自分の方が上だから、ということではなくって。

ただ狭い世界に囚われていた今さっきまでの自分から、解放されたような、そんな気持ちから来る優越感だ。

どうだ、ボクはこんな世界を繋いでるんだぞって。

意味のない優越感を携えて。

ボクは今、神様序列トップ二人に相対している。

今のボクには、神様序列なんて、関係ないけどね。

「な、にを、した、汝は、今……」

ルルシアが憤怒からか困惑からか、ものすごいトーンで話しかけてくる。

ザ・ワンの方はたぶん目に見えるくらいに驚いているみたいで、ひとまずはルルシアの動向を見つつ、ボクに対して何かしようとはしてこない。

そもそも味方だしそれはいいことだ。

慌てて敵に回られても困っちゃう。

誰もが動けない状況で、ててて、と後ろからベルが近づいてきた。

本当はボクもしっかり触れ合って、大丈夫って言ってあげたかったのだけど、ベルはまだこの世界のルールに従ってるから、さすがにルルシアが完全に臨戦態勢を崩していない状況で一線を超えさせるわけにはいかない。

より厳密に言えば、同じ空間にいるだけで十分アウトなのかもしれないけれど、それでもザ・ワンと今のボクで守れる範囲にはいて欲しい。

だから目線に加えて、手で「その場を動かないで」と合図する。

言葉なんか使わなくたって、伝わることは沢山あるみたい。

それだけでちゃんとボクの意図はベルに伝わった。

ベルはその場で踏みとどまり、心配そうにボク達の行方を見ている。

大丈夫。

安心して。

きっと、正しい方に進んでいるよ。

「フン!!」

なんて思っていたら、急にルルシアが何か攻撃を繰り出してきたみたい。

空間を捻じ曲げたのか。

あるいは時間を超越したのか。

それともボクの知らない世界を経由したのか。

でも、効かない。

ザ・ワンの力なんてなくてもね。

「……な、に!?」

自分の力が何も機能しなかったことに驚くルルシア。

ザ・ワンの方を見ているけど、そのザ・ワンの驚いた顔を見て、そして起こった現象を思い返して、何が起きたかをようやく悟ったよう。

そう、今起きたことは、ザ・ワンが能力で無効化したのとは根本的に違っている。

ルルシアの能力が、かき消されたわけではないのだ。

ルルシアの能力が、発動していない。

発動してすぐに無くなった、のと、そもそも発動していない、というのは結構な差があるのだろうか。

あんまりはっきりと違いはわからないようにも思うけど、発動者本人にとっては案外違いが大きいのかもしれない。

でも、とにかく今のボクのルールは、本物の世界のルールでは。


「神様なんていないし、異能の力なんてものもこの世界には存在しないんだよ」


それが、本物の世界。

だからこそ、本物なのだろう。

本物の世界に、願いを叶えてくれる、不条理を条理に変えてしまう力なんてものは要らないのだ。

自分の願いは自分で叶えるしかない。

誰かに願ったって、誰も叶えてはくれない。

稀に誰かが叶えてくれる願いだってあるのかもしれないけれど、それは自分の求めたものとは何かが違う。

自分の本当に欲しいものは自分の手でしか手に入れることが出来ない。

それも願えば誰でも願いを叶えられるわけではない。

願いを叶えるために努力して努力して努力し続けて、それでも手に入らない願いが世界に溢れている。

だから努力し続けられる者なんて限られているし、その一握りの内でも願いを叶えられないことの方が多い。

普通に生きる者は普通に死んでいくし普通に願いは捨てざるを得ない。

誰しもどこかで理想の自分と現実の自分との間にある隔たりに絶望してしまう。

絶望して、妥協してしまう。

妥協して手に入れた願いを、あたかも本来の理想だと自分を偽って生きている。

神様がいればいいのに、なんて言いながら、自分の世界に神様がいないことを誰もが知っている。

神を信じる者も信じない者も、全ては結局死に還る。

不安を抱えて希望を抱いて、それらを誰かと共有したり孤独に内にしまいこんだり。

何も出来ない自分を責めて。

何かが出来る誰かを呪って。

愛する誰かと真にわかりあえることはきっと無くって。

わかりあえたと思えばすれ違って。

自分の言葉はどこか空虚で。

誰も自分の言葉なんてものを持ってはいなくって。

幸せを手につかんだ者の言葉はどこか嘘くさくて。

『努力は必ず報われる』なんて嘘がはびこっている。

嘘だ。

そんなものは大嘘だ。

必ず報われる努力なんて本物じゃない。

そんなものは本物の世界には要らない。

努力も才能も運も、全ては偶然の産物でしかない。

ある努力を続けられる者は、ある才能に秀でた者はそれ以外の生き方を出来ないのだ。

誰かを幸せに出来る者は他の誰も幸せには出来ないし。

誰かを不幸にする者は自身の不幸に気づけない。

どんな生命も長くは生きていられない。

世界をずっと見守るなんてことは出来ない。

偽物の世界を誰もが願う。

そんな幸せがあればいいのに、と。

でも、知っているのだ。

そんな、偽物の世界が本当にあったとしても、今の自分が幸せになることなんて、ありえないと。

だから本物であり続けられるのだ。

良い事なんて多くない。

世界のプラスとマイナスは等量じゃない。

客観視すればマイナスの方がよほど多い。

一部の才能ある者が他の者を騙して悠々と過ごしている。

一部の努力し続けられる者だけが良い報酬を得ている。

その一部の者の為に意味のない争いがいつまでも続いている。

そして関係ない者は関係ないからと誰もが争いから目を逸らしている。

目を逸らさず正面から戦おうにも、そのための力を誰も持っていない。

だから誰も動けない。

目の前の自分の事ですらどうにも出来ないのだ。

知らない誰かの為に動くことなど、それこそ一部の者しか出来ることじゃない。

そんな。

そんな悲しい世界。

でも、だからこそ誰もが本当に、本当の自分と向き合える。

形のない本当の幸せを掴むことが出来る。

誰かの為に生きることが出来る。

自分の為に生きることが出来る。

自分の願いの為に真っ直ぐに進むことが出来る。

それが本物の世界の姿。

偽物と違って、安らぎは得られない。

何もせずとも楽に生きれる世界ではない。

だから得られるものが全部、本物だ。


少しの間、衝撃を受けていたのか、立ったまま何も反応を示さなかったルルシアが肩を震わせた。

そして、初めは小さく、徐々に大きな声で不気味に笑い出した。

「……くっくく、くっははははははは!!!」

その程度の事には動じないけれど、その真意は見えない。

次の言葉を待つ。

「そうか、到達したのか、本物の世界に、ははは!汝が示したのだ、確かにこの世界は偽物で、本物があること、そして、世界同士は繋がっていると!!」

「……それ、俺の能力も封じられてるのか?」

とりあえず、ザ・ワンの疑問には答えておこうか。

「封じてるんじゃなくて、ボクの世界には能力は初めから存在しない、だから能力がなかったことになってる、のが正しいかな」

「はぁ、いまいちよくわからんが……」

「それで、どうする?もうやめる?ルルシア」

「やめる?意味が分からんな……汝が可能性でしかなかった本物の存在をここに確定したというのに?」

「……」

「やはり我の元に戦いに来るように仕向けて正解だったな、当初の目的では、本物の鈴鳴繋を呼ぶために偽物と繋がりの深かった汝らが必要というだけであったが」

先ほどよりもその声色は明るくなっている。

ルルシアなりに何かを感じているってことなのかな。

あるいは今のボクの行為はルルシアの気持ちを強めてしまったのかもしれないけれど、でも引き下がるわけにはいかない。

本物は素晴らしい。

本物だから。

本物の幸せを掴めるのは本物だからだろう。

でも、ボクは偽物で構わない。

今だけはルルシアを制すために本物の力を求めたけれど。

本物の鈴鳴繋は要らない、偽物のツナギがいればそれでいい。

それ以外は必要ない。

「でも、ルルシア、あなたを止めるよ」

「やって、みろ!」

言うと、ルルシアが能力も何もない、生身でボクに向かってきた。

急なことで体が動かず、そのままルルシアの拳を頬に喰らってしまう。

でも当然、それによって天変地異が起きたりボクがどこまでも吹っ飛ばされたりなんてしない。

ほんの少しの距離だって飛んだりしない。

数歩分だけ後ろに倒れるだけだ。

でもやっぱり。

痛いな。

すぐにボクも立ち上がって、ルルシアに殴り掛かる。

今のルールじゃそれが正しい勝負の決め方だ。

これしか方法がない、わけではないだろう。

でも、自分のわがままを通すために、こういう事が必要な時もある。

多少強引な手を使ってでも、相手を打ち負かす必要がある時が。

ルルシアもそれを直感でわかったのか、ボクの攻撃を避けようともしない。

互いに殴りあう。

それは攻撃のし合いではなくて、意地の張り合いでしかない。

それで十分なのだ。

ルルシアは本物を。

ボクは偽物を。

互いに譲れないものを求めているのだから。

「なら、戦うしか、ないもんね!」

「我とて、退けぬわ!」

ベルもザ・ワンもボクらの戦いに何も手出しをしてこない。

もしかしたら圧倒されているだけなのかもしれないし何が何だか理解が追いついていないのかもしれない。

でも今はそれがありがたい。

今は、一対一だからこそ成り立つ戦いだからね。

何度も殴って、何度も殴られて。

数分なんて持たないうちにボクらはボロボロになっていた。

体が言う事を聞かない。

上手く動かない。

でも、何度だって立ち上がらなきゃいけない。

世界で唯一、それを求めた戦いだから。

今負けたら、二度と手に入らない気がするから。

「た、お、れ、ろぉ!!」

もう何度ルルシアを殴ったかわからない。

でも、もうその拳に力は、入っていない。

でも、その長く短い戦いの果てに。

ボクもルルシアも力なく倒れてしまった。

それはどうやら、同時だったらしい。


そして、その時。

ボクらの戦いが終わるのを、まるで見計らっていたかのように。

大きく。

ドクン、と。

はっきりと、大きく。

聞こえた。

聞こえて、しまった。

終わる音を。

あるいは。

始まる音を。

そして。

ここにいるはずがない、彼女の声を。


「……初めまして、私の神様」


ここにいて欲しくないと願った、彼女の声を。

聞いてしまった。

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