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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 1 ―支配の神―
44/72

神様が彼女に願うまで

グォールの次なる攻撃に備える。

とは言ってもボクが気を付けるのは空間に関する何かだけで。

時間移動やら、それ以上のよくわからない五次元とやらの移動はルルシアがどうにか抑え込んでくれるだろう。

じゃないとどうにもならないしね。

ま、空間移動についても基本、ルルシアを頼ってしまっていいだろうし。

その辺は上手く立ち回ろう。

結構思うんだけど、ボク達ってルルシアに連れまわわれて結構色々なモンスターとかを倒してるんだよね。

それで毎回、ルルシアは本気を出していないように見える。

例えば今だってなんか次元の神に特化したグォールを完全には相手出来ないなんて話はあった割に力を封じることは出来てるわけで。

なーーーーんか、怪しい。

いや、最初から怪しいのは怪しいんだけど。

怪しいからこそこうしてベルと二人で動向を探ってるんだっけか。

ツナギは何か知っていたのかな。

ルルシアのこと。

ボクにはなんだかゴールが見えてこないや。

っと、そんなことを考えてたらグォールが動き出した。

よし、頑張ろう。

きっとツナギならこういう時、皮肉交じりに相手に語りかけるんだろうけど。

ボクにそういった口上のセンスはないから無言で力を溜めておく。

集中集中。

序列1位のルルシアの力は信じているけれど。

いざって時の為になるべくボク自身の力で切り抜けるように心がけてはおきたい。

もちろんフォローが既になされている場合はさっきみたいに任せた方が有効打になることもまぁあるけども。

ふぅ。

収縮の力を、ボクを中心に繰り出す。

範囲は。

ボクの。

行動時間。

今のボクに向けて、過去と未来のボクを収縮させる。

今のボクは攻撃されていないからね。

正確に言えば。

明らかにエネルギーを溜めているグォールが攻撃してこないってことは何かしら次元を超えた攻撃を仕掛けているような気がするから。

今現在無事に生きているボクに存在を集中させてみた。

序列5位になった今のボクなら、まぁそんな程度の芸当は出来るのだ。

「ほう、いい読みだ」

なんかルルシアに褒められた。

ってことはボクの襲う通り過去だか未来だかなんだかのボクは攻撃を受けそうになってたのかな。

でもどこからでも攻撃を受けたら勝手に対処してくれそうだけどね、過去だか未来だかのボク。

まぁまぁ。

っていうかルルシア、ボクを褒めてる暇があるならもっと積極的に攻撃をだね。

「っ!!」

頭上に違和感を感じて咄嗟に飛び退く。

ボクが先ほどまでいた場所に大きな穴が空いていた。

危ない危ない。

さっきの攻撃はこれかな。

それとも、また別の時間にでも攻撃を飛ばしたんだろうか。

ボクもようやく序列5位になって多少はいわゆる世界の在り様に手を出せるような力を手に入れたわけだけど。

なんとなく出来ること出来ないことの把握はある。

こう、自分の力で世界に干渉する感覚。

世界の規則を、原理を、自分用に書き換えてしまえる。

ボクにはぼんやりとしか掴めていない感覚で。

いまいち使いこなせていない。

グォールは。

次元の神だからきっと。

世界のルールに手を加えることに何の躊躇いもないのだろうと思う。

再びの違和感がボクを襲う。

「ツナガレ」

「む?」

ボクはルルシアと自分の体を繋げて、ボクの体をルルシアの元へと思い切り移動させる。

と同時にグォールが姿をくらます。

その僅かな隙にルルシアと背中合わせの格好で戦闘について話し合う。

「何か用か?」

なにをとぼけているんだこの神……。

「ねぇ、そろそろ本気で戦おうよ」

「どういう意味だ?」

「そのまんまの意味だよ、ボク今結構苦戦してるんだけど」

「……随分余裕に見えるが?」

「いやいや、逃げまくってるでしょボク全然攻撃成功してないよね?っていうかいつもよりひどくない攻撃参加度が」

いつも余裕の姿勢を崩さない印象だけど、今日はいつにも増してひどい。

『ナギ、私もお願い、です』

ボクの考えを察してかベルからも通信が入る。

「おっけー、ツナガレ」

見えないベルに向かってツナガレが伸びる。

空間を飛び越えて繋げたベルをボクとルルシアの目の前に呼び出す。

いつだかツナギがボクとベルを呼んだ時のように。

ボク達の前に降り立ってすぐ、ベルは不満を口にしてきた。

「なにやってる、です」

うんうん、そう思うよね。

「ナギ、本気だす、です」

「うえっ、ボク!?」

いやそれはルルシアの方でしょ!?

ボクは出来る限り精一杯頑張ってたよ!?

「なんでボク!?」

「いや、むしろ他に叱るべき相手がいない、です」

「すぐ隣にいるルルシアとかさ、全然本気出してないじゃん!?」

「……ナギ、ちょっと冷静になる、です?」

「ん?」

なになに。

何か見落としてるの。

ルルシアがボクに隠れて何か強大な敵と戦っていたり、とか。

「本当にわかってないとか、どれだけ集中してない、です?」

わかっていない。

何が?

っていうか、あれ。

「随分と長い事攻撃がないね?」

さっきグォールが姿を消してから割とお喋りしている。

ような。

気がする……。

って、あれ。

あれれれ??

「……ええと、あれ、今そこに倒れているのって」

間違いないよね。

たぶん、そんな、急に大きなドラゴンがすぐそこに倒れているなんて現象あるわけないよね。

つまり。

「いつの間にかグォールを倒していた……?」

な、何が起きたんだよう。

ボク、グォールの攻撃に備えて次の戦闘準備をするためにルルシアの元にツナガレを飛ばしたはずなんだけどな。

え、え?

「どういうこと、これ?」

「だから、何してるんだって言ってる、です」

「ルルシアが、もう、倒してたってこと?」

「そう、です、見てわからない、です?」

「ええと、今わかったけど、やっぱり、いつの間に?ベルは気付いてたの?」

だってこれ、結構普通に気づかなかったよ。

いや、だから冷静に考えれば、次元を超えた戦いが繰り広げられてたってこと、かな?

「当たり前、です」

なんだか呆れられた声。

ベルがこんな風に話をするなんて珍しい。

つまりボクがよっぽどひどかったということだ。

そんなにひどかったかな。

あー、ひどかったのか。

確かにツナギのこととか、自分の力のこととか、やたらと考えていたような気はする。

それにしたって、そんなに怒られるほどのことはしてないと思うんだけどなぁ。

「第一ナギは、その……」

と、これまた珍しくベルが話を途中で切った。

その目線の先を見れば、ルルシアが倒れるグォールを見下ろすように立ち。

とどめを刺そうとしているところだった。

ボクもそのすぐ傍に歩み寄る。

「頭は冷えたか」

「うん、まだ混乱してるけど、少しだけね」

「なら良い、かなり危ない橋を渡ったぞ今回は」

「きっと、ルルシアがそう言うんなら、そうなんだろうね」

「そう理解を伴わぬままに同意を示すのは汝の悪い癖であろう、ナギ」

そうなのか。

そうかも。

あ、また同意しちゃった。

「ね、グォール、殺すの?」

「無論だ」

「そっか」

「今更だろう」

「そうだね、今更だ」

「汝が殺すか?」

「……殺せと言うなら、殺すよ」

「いつもそうだな、汝は」

「……」

ボクは収縮の力を発動する。

グォールの体がみるみるうちに小さくなっていく。

そして、消え去る。

この世界から。

永遠に。

分子、原子レベルにまで収縮され。

世界に溶けて死んでいった。

ボクの手によって。

終わった瞬間に、グォールに割いていた思考の一切を断ち切る。

終わったものを考えるのはやめる。

「ごくろうだったな」

「ボクの関係ない所であそこまで追い詰めといてよく言うよ」

「気付かなかったのは汝の不注意だろう」

「……聞かないんだね、ボクのこと」

「というと?」

「ボクが、何に悩んでこう、ベルやルルシアの言う、集中力のない状態になっているのかってこと」

「聞かんよ」

即答された。

そうだと思った。

「興味がない、ナギ、汝にはな」

そうかい。

それはいいさ。

なら。

「本物の、鈴鳴繋って、なに」

「それを知って、どうする」

「どうもしない」

「ならば、必要あるまい」

「でも、全然わかんないんだよ、ツナギに何が起きてるのか、ツナギの力なんでボクにあるのか」

「なぜツナガレを汝が保有しているのかはさすがにわかりかねるな」

「ならツナギに何が起きてるのかはわかってるんだよね」

「関係なかろう」

「関係、あるよ!」

関係ある。

あるんだよ。

あるのに。

あるのになんでこんなにも。

ボクは、なんにも知らないんだよ!!

「……ナギ?」

また、いつもの語尾を失くしてベルが心配そうにボクを見ている。

そんな気遣いすら今のボクを苛立たせる。


「何、これは」

「何してるの一体」

「モンスターを殺して」

「神を殺して」

「ボクも手を貸したけど」

「これがなんになるの」

「これが一体本物の鈴鳴繋にどう繋がるの」

「これがツナギとどう繋がるの」

「そもそも本物って何」

「そもそも何を考えてるの」

「ツナギと一切話したこともないくせに、何を知ってるの」

「何で、ボクは何も知らないんだよ」

「何で、ボクはいつまでたっても」

「何にも知らないまま何かを殺し続けなきゃいけないんだよ」

「毎回毎回、揺れる心を鬼にして」

「つまる度にベルに助けられて」

「何度だってこれを繰り返せばいいんだって思ってた」

「でも、もう限界だったよ」

「とっくに限界だったよ」

「神を、殺すなんてさ」

「結局、ツナギが嫌がっていたジャンベルとかと」

「結局、ボクが嫌がっていたセレスとかと」

「おんなじじゃんか」

「おんなじだ」

「こんなことに意味なんてあるの」

「あるなら、一体それはなんなんだよ」

「ボクは力を得た」

「ツナギを探すために力を得たんだ」

「なのに、ベルにすらわかることがわからなくて」

「ツナギにまつわる何もかもを得られなくて」

「もう嫌だよ」

「もう、一人ぼっちは嫌だよ」

「もう、置いてきぼりは嫌だよ」


「甘えるな、です」

「べ……ル?」

そんなボクの気持ちの奔流を、責めたのは以外にもベルだった。


「なら、どうしてそれを私に話してくれない、です」

「なら、その痛みを少しでも私と分け合おうとしてくれない、です」

「私は、ナギとなら、絶対に、ツナギを見つけられるって思ってる、です」

「だから、信じて、前に進める、です」

「たとえルルシアが何かを企んでいたとしても関係ない、です」

「私は本物とか偽物なんてどうでもいい、です」

「ただツナギを、私の知ってるツナギを取り戻すためにここにいる、です」

「それ以外は、何もいらない、です」

「ツナギはナギに、前に進む力を貸してほしいって言ってた、です」

「願っていた、です」

「ツナギに願われた神様がそんなに弱くてどうする、です」

「たった一柱殺したくらい、今の私たちになんだって言うんですか、です」

「殺した罪くらい、一緒に背負ってやるって、何度も言ってる、です」

「ほら、ナギも願う、です」

「ツナギは、ナギに願った、です」

「なら、同じように、不安なら、私に願えばいい、です」

「薄倖の神だから、私には、不幸を肩代わりすることしか、できない、です」

「でも、願えるならなんだって、願って欲しい、です」

「ほら、ナギ、収縮の神、あなたの願いは、なに、です?」


「ボクは……」

こんなにも取り乱して。

何が欲しかったんだっけ。

何をしたかったんだっけ。

本当にボクはボク自身の記憶を取り戻したいんだっけ。

違う気がする。

今のボクは、そんなことよりも、ツナギがいる日常を願っているはずだ。

そうだ、ボクは、ツナギとベルがいる日常が欲しい。

だから、取り戻したいんだ。

でも、そんなことはベルには願えない。

だってそれはボクとベル。

二柱で頑張らないといけないことだから。

だからボクが願うのは。

ボクが、ベルに願うのは。

いつだってボクを陰ながら見守ってくれる、小さくてかわいくて、それでいて勇気のある優しい神様。

薄倖の神。

彼女の神託がボクをいつだって落ち着かせてくれる。

冷静にさせてくれる。

安心させてくれる。

それでいいんだ。

これから先の事はそれでいい。

今の事を純粋に願えばいい。

わからないものはわからないから。

不安なものは不安なままだから。

拭えないものを拭いたいなんて願うことは出来ない。

ねぇ、だから。

力が欲しいんじゃない。

ツナギがいる元の生活が欲しい。

そのために。

願ってもいいよね。

ベル。


「一度しっかり立ち止まる勇気を貸してほしいな、ボクの神様」


ボクは不安定だから。

安定したくて余計に前に前に進もうとしちゃうから。

だから、自分の立ち位置を確認しなくちゃ駄目なんだ。

情緒不安定で、ぐちゃぐちゃで、自分でも感情を抑えられないボクだから。

ツナギがいなくてストッパーが何にもなくなっちゃったボクだから。

教えて欲しい。

前に進む力はもう要らない。

持ってる。

でも、進むだけじゃ、何も手に入らないから。

また焦って、良くない方向に進んでしまうから。

立ち止まる勇気を貸してほしい。

お願い、ボクの神様。


「やっと、元のナギに戻った、です」

そんなボクに、満足気な笑顔を添えて。

ベルはいとも簡単に。

「その願いは、私が叶えてあげる、です」

叶えてくれると誓ってくれた。

それだけで十分だった。

あの時のツナギもこんな気持ちだったのかな。

不思議だ。

ただ、叶えてくれると言ってもらえただけで、今までの不安が全部吹き飛ぶ。

きっとまた、この決意もすぐに揺れちゃうかもしれない。

でも、きっと、そうなんだ。

何がそうなのかはわからないけれど。

わからないまま、ボクは進んでいく。

一歩進んでは、立ち止まりながら。


ベルに願いながら、ね。

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