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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
NAGI編 1 ―支配の神―
43/72

神様が自身に問いかけるまで

次元を操るとはどういうことなのだろう。

三次元と四次元はなんとなくわかる。

なんとなくだけど。

空間を操ることが出来れば瞬間移動が可能だろう。

時間を操ることが出来ればタイムトラベルが可能だろう。

でも、他の次元っていうものがボクには理解できない。

ボクが特別頭が悪いからなのか、それとも大多数もわからないようなものなのか。

とにかくボクには五次元をどうにかできるよと言われてもどうしようもないし。

なんなら一次元と二次元を操るって感覚もよくわからない。

一次元って……点だっけ?

いや、線だっけ?

で、二次元が確か面、平面なんだよね。

平面を操れると、なんだろ。

っていうかより上位の次元を操れるならわざわざ下位の次元をどうにかこうにかする必要はないのかな。

大は小を兼ねる的な。

でも普通にボクらは知っている。

必ずしも大は小を兼ねてくれないことを。

だってそりゃあ、そうだ。

大きすぎるのは問題がある。

小さなものの代わりを務めることができる程度の大きさでないと、結局意味がないのだ。

対象としている問題に精通すればするほど、大きさをシビアに考えるようになるだろう。

逆によく知らない事柄に関しては、よくわからないから別に大きくてもどうにかなるんじゃないか、なんて無責任なことを考えてしまうのだ。

そう、知らないことだからね。

今のボクもきっとそんな状態で。

次元ってものがよくわかっていないからそう思うだけで。

自身の能力を誰よりも把握している次元の神、グォールはボクには考えもつかない攻撃法を持っているかもしれない。

ここまでかな。

もうボクのない頭で考えてもここらが限界だ。

ツナギならひょっとして、まだまだ考え続けて、ツナガレによる対策を何かしら思いつくのかもしれないけど。

ボクはやっぱりボクで。

ツナガレが使えるようになったからといってもボクはボクなのだ。

何も浮かばない。

ボクには思いつかない攻撃をしてくるかも、って発想に至っているだけでも充分頑張った方だと思う。

相手が何だろうとあまり関係はないから。

「よし、いつでも来い、グォール」

「サポートの用意は万全、です」

気合を入れ直す。

今日の相手は。

本当に強敵だ。

「来るぞ」

隣に立つルルシアの一言をキーにしたかのようなタイミングで。

ボクらの目の前に時空の穴が空く。

辺り一帯に暴風が吹き荒れる。

暗雲が立ち込める。

雨が降り雷が轟く。

目の前をしっかりと見ることも難しくなる。

それだけで木々は宙を飛び交い。

土砂はどこまでも高く舞い上がる。

「随分と派手な登場だなぁ……」

さ、もう四の五の言っていられない。

辺りを破壊しながら現れた次元の神、グォール。

人よりも遥かに大きなドラゴンの姿をした神。

ピリピリと空気を震わす圧倒的なオーラ、そして殺気を放っている。

こちらはこちらでルルシアがいるからか、向こうはすぐにこちらの存在に気付いた。

目が合う。

ボクと、グォールの。

目が合った、ということは。

互いを認識したということだ。

互いを、敵として認識したということだ。

そして目が合った、という考えに至っているということはすなわち、相手が既に攻撃モーションに入っていた場合こちらが後手に回るということだ。

一瞬の差が生死を分けることがある。

そのことは修羅場を潜った者ほどよく知っている。

だから。

目が合った時。

正しい選択肢は様子を見ることではない。

出方を伺う必要など皆無だ。

目が合った瞬間行うべきは。

最短経路での相手への攻撃。

最短最速で相手を殺すことのできる、そんな攻撃が求められる。

だからボクもすぐに唱えた。

今のボクにとっての最速は。

決まっている。

迷うこともなくその言葉が口をついて出てくる。

「ツナガレ」

グォールの顔に目掛けて一直線にツナガレが伸びる。

今でこそ目で追えるが、きっとツナギがこのスピードでツナガレを展開していた頃にははっきりと捉えることは難しかったのではないか。

そう思ってしまうほどのスピードでツナガレが飛んでいく。

しかし飛んで行ったツナガレの先端は、ボクとグォールの丁度中間くらいの位置で爆散する。

グォールも全く同じタイミングで最速の炎弾を口から発射していたようだ。

煙で視界が眩む。

「っていうか、次元を操ることが出来るのに、それとは関係なくドラゴンとしての力で口から炎出せるとかずるいでしょ」

いやぁ、ずるくはないけどね。

そんな文句の一つも言いたいなということで一つ。

と、その僅かな攻防を終え、次の行動に移ろうという時、耳元で通信の音声が流れる。

ベルのものだ。

リアルタイムで情報交換を行えるように、ルルシアとベルとボクの耳には通信器がある。

この便利な機器は案の定ルルシアに仕える記録の神チノーイが作成したものらしい。

戦闘にはあまり向かないらしいが、こんな便利なものをたくさん作れたら、そりゃ知名度やら影響力は上がるよなぁ、と感心してしまう。

それはさておき、なんだろ。

『少し気になったことを話す、です』

「うん、どうしたの?」

『今の、どうしてグォールは能力を使わなかったと思う、です?』

「……確かに」

細かい話をすればボクだって咄嗟にはツナガレを上手く扱うことは出来ていなくて。

目の前で見ていた速さであればいいんだけど、ツナギが使っていなかった速さで動かすことは中々感覚的に難しくて。

例えば時空間だって超えることは出来るはずなんだけど、それを今みたいに考える間もなく打ち出すほどツナガレの感覚を養えてはいない。

だからグォールも咄嗟に出た攻撃が口から放つ炎であってもそれ自体はなんらおかしいとは思わないんだけど。

でもグォールは空間を操れるのだ。

時間だって操れる。

だというのに、今の攻撃は、ただ真っ直ぐ飛んだツナガレとぶつかり、爆発した。

それが意味するところは――。

「っ!」

『ナギ、何かわかった、です?』

あぁなんだ。

別に制約条件が存在するとか、そういうことではなかった。

一瞬の攻防戦できちんと能力を使えなかったわけでもない。

全くすぐに気づかなかったことが恥ずかしい。

「何黙ってんの、ルルシア」

『ふん、気づくのが遅い』

ベルが不思議そうな声をあげる。

『なんでここでルルシア……あ、もしかして、わかったかも、です』

そして、ボクの意図するところを察してくれた。

「ボクなんか、能力を使うまでもないってことね……」

だから能力を温存しておいた。

陽動だと思われるボクには使わず、本命の攻撃を仕掛けてくるであろう、支配の神の攻撃を全力で受け止めるために。

「その判断、後悔しないことを祈るよ」

軽口を叩いて、ボクはもう一度攻撃を仕掛ける。

ルルシアがどう動いているのかは知らないけど、ルルシアなら何をしても問題ないだろう。

上手く対処してくれるはず。

ボクは思い切りぶつかるつもりで全力でグォールの胴体に向けて飛翔する。

そして多方面にツナガレを展開し、光の束がボクからたくさん伸びていく。

今回は集中してツナガレを出したので、空間を軽く貫いてグォールの体を襲う。

ツナガレでどこかの部位を繋いだその瞬間。

自身の体に収縮をかける。

目で認識することが不可能なレベルまで体のサイズを落とす。

今さっきまで目の前に広がり、そして体に巻き付いたツナガレを見た瞬間に敵の姿が消えている。

そんな風に映っているだろう。

動から静の錯乱。

一体、どこに行ったと、考えてしまうその一瞬を逃さない。

ボクは体の大きさを元に戻すと同時にグォールに向けて収縮の力を行使する。

あぁ、そういえばツナギが名前を付けていたからツナガレはそのままツナガレって呼んでいるけれど。

ボクの神様としての力である収縮の力には名前を付けていないなぁ。

必要がないと思っていたし。

っていうか必要ないし。

どうなんだろ。

ツナギのネーミングセンスならそのまま『チヂマレ』とかになるのかな。

ちょっと語感が悪い気がするね。

いや、どっちにしてもボクはこの力に特段名前を付けようとは思ってないから関係ないけど。

とにかく。

今度は静から動へ。

ボクの攻撃が宙を走る。

黄緑色(ツナギは小難しく言いたがっていたけど、黄緑でいいと思う)の光が灯る。

範囲は、この辺り一帯。

空間を完全に遮断して、一点に収縮させるつもりで力を広げていく。

と狙いを定めていたつもりが。

目の前にいたグォールの姿が突如消える。

どこだ、と探るまでもない。

ボクの。

『後ろ、です!』

だよね。

後ろからものすごい熱と圧を感じる。

たぶん、また何か炎の奔流がすぐそこまで迫っているのだろう。

でもボクは慌てない。

そんな瞬間移動やら何やらは想定内だからね。

前までのボクじゃあ手を焼いた、どころか普通にこの時点で焼かれて死んでいたかもしれないけど。

保険は二つかけてる。

どっちで行こうかな、なんて考えるだけの余裕を持って。

やっぱりツナギの力を使っておこう。

ツナガレはとにかく始動から効果が出るまでが早い。

このスピードは中々重宝している。

ツナギはこんな力を上手に扱ってたんだなぁって毎回思っちゃうくらいだ。

「ツナギアワセ」

その一言で、さっきのグォールの瞬間移動で千切れたツナガレが再度繋ぎ合わさる。

通り道にある物全てを貫きながら。

そして瞬間移動によって千切れたツナガレは当然、先ほどまでグォールがいた場所に存在している。

つまり、ボクはグォールの攻撃に対して何もしていない。

逃げることも反撃することも防御することも、何も。

それでいいのだ。

ここが役割分担なのだから。

今は何も、一対一でグォールの相手をする必要はないわけで。

序列で言えば格上となる神を一人で相手にしようと思っていたらさすがにここまで思考に余裕はないと思う。

そんなボクの耳に、ルルシアの声が聞こえる。

「その移動は、我が認めない」

ルルシアの力で、グォールは元の位置に強制的に戻らせられる。

戻らされた位置には、ボクが展開した、ツナギアワセ。

「グオオオオオオオオオオッ!!」

目下に迫る危険に対しグォールは咆哮し、次元を歪めた。

さすがにルルシアもこれを止めることは出来ないのか、あるいは次の行動を予測しての事か、特に止めようという素振りを見せない。

まぁ、まだ戦いは始まったばかりだ。

ボクも落ち着いて着地して、次に備える。

歪んだ次元の彼方にボクのツナギアワセが消えていく。

グォールがこちらを向く。

今度は目が合っても戦闘に移る気配はない。

「こちらの言語を理解はしているのだろう?悪いが我らに命を差し出せ」

ルルシアが挑発する。

グォールは何も答えない。

ただ、その内に何かまたエネルギーが溜まり出しているのが分かる。

「まぁ、やられっぱなしで終わるような神が序列4位なわけがない、か」

出来れば今ので退いてくれればそれが一番だったけどな。

あー駄目だボクの悪い癖だ。

すぐにぶれちゃうね。

ベルにも心配してもらって。

気持ちを固めたのに。

すぐ殺す気が失せちゃう。

でもね、それでいいんだって思うんだ。

ボクはこれで。

ぶれてていいんだ。

だったら、何度だって問いつづけよう。

そして何度だって答えを出し続けよう。

ボクは、殺したくない。

じゃあどうする?

もちろん殺すさ。

ツナギの為なら。

何度だって。

「行こう」


グォールとの戦闘は続く。

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