神様が戦いに臨むまで
神様序列は大きく変わった。
きっかけがなんなのかは、ボクはよく知らない。
何か大きな流れの中で変動を止めていた序列が、また大きな流れによって動き始めたんだろうと思う。
現在の上位序列を確認しておくことにする。
神様序列1位、支配の神、ルルシア。
神様序列2位、個体の神、ザ・ワン。
神様序列3位、慈愛の神、セレス。
神様序列4位、次元の神、グォール。
神様序列5位、収縮の神、ボクことナギ。
ボクはこの短期間で本当に序列が劇的に伸びている。
だからつまりボクがかき回していると言っても、まぁ、嘘じゃないのか。
ボク自身が大きな流れ、というわけではなくって、大きな流れに乗っかった結果がボクの序列なんだけどね。
ボクとベルがルルシアの元に来てからというもの、ルルシアはよくわからない動きを見せていた。
ルルシアのギルド、ではなく、ルルシアが。
具体的には、やたらとモンスター狩りをしたりだとか。
泊まり込みでタブーの奥へ奥へ攻め込んだり。
訳が分からない。
でもそのおかげで町の治安はより良くなっているそうで。
その功績を大々的にボクに向けてくれたから、ボクの知名度そして影響力が急激に上がったみたい。
もちろんこれはボクから頼んだことだから、それでいいんだけどね。
今、ルルシアのギルドには神が三柱幹部として存在している。
神様序列6位、大空の神、ソラ。
神様序列8位、記録の神、チノーイ。
神様序列9位、擬態の神、ニスク。
彼らは基本、ギルド『オール』の運営を担っているらしいからボクはあまり話をしたことはない。
そしてルルシアの話を聞くに、ルルシアは彼らには個人的な用事を頼んでいないらしい。
個人的な、って言うのは勿論。
ルルシアの願いに関すること、だ。
本物の『鈴鳴繋』を探すこと。
これについては、ボクとベルにしか頼んでいないそうだ。
だからボクとベルとルルシアは三人で戦闘に明け暮れている。
ルルシアは自身の目的の為に。
ボクとベルは、ボク達のツナギを取り戻すために。
ちなみに、ベルは序列を一切上げてはいない。
これはボクとルルシア、双方の意思でもある。
ツナギが守った、ベルの心をボクたちが壊すわけにはいかないからね。
そんなわけでルルシアは相当な時間をボク達を引き連れた謎な行為に充てていて、表舞台にあまり出なくなった。
そして表舞台から姿を消した神がもう一柱。
ザ・ワン。
彼もまた、自身の管理するギルド『ルール』を秘書であるユヘィアらに任せてどこかへと旅立ってしまったらしい。
まぁこんな世界だ。
きっと彼もまたタブーでツナギに繋がるヒントを探してくれているのだろう。
そのうち出くわすこともあるかもしれない。
そんなわけで、世界は大きく動いている。
しかしツナギは目覚めない。
待っていても始まらないなら、自分から動くしかない。
自分から始めるしかないんだ。
そうだよね、ツナギ?
さ、今日は決戦の時だ。
次元の神、グォール。
彼が今日の標的。
彼、というか。
グォールの外見はドラゴンのそれだ。
別に次元を操る神に、外見なんて大した意味もない気がするけれど。
とにかく、ドラゴンな彼。
破壊衝動から生まれた神。
ルルシアの"支配"も能力だけ見たら似たような出自なのかなって。
思うけどね。
そっちはよく知らないからグォールの話をしちゃうと、グォールの次元操作は、そのまま、人が『空間を、時間を操りたい』って願いが基になっている。
更には、時間を巻き戻せないことを知った人々が、時間も何もかもを超越した次元に触れたい、と願ったことも影響しているらしい。
きっと、ボクやベルと同じで。
グォールにはグォールの物語があったはずで。
それを知らずにあーだこーだ言うのはよくないことだ。
だからこのくらいにしておこう。
どうせ今から。
殺すし。
話は至って単純だった。
「この世界に存在する、邪魔な存在を片っ端から消していく」
ルルシアはまずそう言ったはずだ。
それで。
「第一にタブー、次いで、世界を荒らす神」
こんな感じに雑な説明をボクにした。
タブーがどう邪魔なのかはよくわからない。
こちらから攻めなければ何もしてこないタブーの何が邪魔なのだろう。
というかそれが本物を探すことにどう繋がるのかよくわからない。
けれどもう一つはすぐに納得できた。
世界を荒らす神は、邪魔だ。
よく知っている。
以前出くわした、進化の神がそうだ。
進化の神ジャンベルは、神同士を争わせていた。
殺し合わせていた。
さらにツナギに悪いことをしようとした。
邪魔だった。
グォールもそうだ。
存在がどうであれ、時折現れては世界を荒らしていく神。
その破壊の対象は町とかアンダーワールドとか関係なく。
等しく世界を破壊し尽してく。
やっぱりツナギと関係があるのかどうかはわからなかったけど。
すぐにボクは心を入れ替えた。
グォールは邪魔だ。
なら。
殺そう。
朝方。
ボクとベルは一緒に家を出て、ルルシアの指定した場所に集まる。
集まったのは、アンダーワールドの中、町から結構離れた場所にある山の麓だ。
町から離れてるとはいえ、タブーからもそこそこ距離のある場所だ。
今日、この周辺にグォールが降り立つことになっている。
ことになっている。
なっている、とは文字通りの意味で。
これはルルシアの支配の力で。
出現する時空を今日のこの場所にまで絞り込むことが出来たそうだ。
正直ボクも全部を知っているわけではないから難しい所だけど、ルルシアの支配の力は何も万能ではないそうだ。
当人曰く、
「抽象度の高い願いは具体性の高い願いに劣る」
ということらしい。
「何かを支配したい」という願いの中に「時間を操りたい」という願いは含まれている。
この場合、前者から生まれる神は支配の神で、後者から生まれる神は次元の神になるのだが。
支配の神の方は幅の広い願いが故に、一つ一つの願いは弱い。
逆に次元の神は「時」や「空間」など限定的になることから、強く願われることが多い。
結果、願いの純度は後者の方が高くなり、それはそのまま神としての存在レベルに影響を及ぼすらしい。
そのため、いくら序列が高いルルシアであっても、例えばグォールの命の有無を支配するなんてことはできないそうで。
さらには真っ向から勝負を挑んでも難しいのでは、というほどであったりするらしい。
まぁそれほど神様序列上位の差は大きくないのかもしれない。
とにかくルルシアに支配できる精一杯がグォールの出現を支配することくらいだった。
そしてそのグォールを迎え撃つための簡単な作戦会議をしておこうと集まっているわけだ。
作戦会議って言っても、特にやることはないさ。
だって、向こうは次元を操って破壊の限りをこちらにぶつけてくるはず。
こちらは支配と収縮でぶつかりにいくだけ。
難しいことなんて何もない。
それしかできない。
神なんて、それくらいしか、自分の能力をフルに使うことくらいしかできない。
能がない。
そんなもんだ。
何もできない。
何も考えられない。
ボクは思うのだ。
リアンみたいな人を見ていると。
神なんて、人よりもよっぽどちっぽけな存在なんじゃないかって。
だから、戦いも至ってシンプルだ。
力と力のぶつかり合い。
それ以外に、何もない。
作戦というか気持ちの部分で念頭に置いておきたいことがあるとすればやっぱり町に被害を出さないようにしようってくらいかな。
だから場所をなるべく町から離れたトコにしているわけで。
まぁでも、正直自信はないかなぁ。
相手が相手だから全く被害を出さないとかは、ねぇ。
如何せん空間を操られたら、一気に町が目の前に、みたいなことだって起きるだろうし。
嫌になっちゃうな。
でも、ボクらの家にはツナギが寝ているのだ。
そのすぐ傍ではリアンの家がパン屋を営んでいる。
あの場を傷つけさせるわけにはいかない。
でも、それ以外を守る気も、ない。
まぁそれに、まさにそういう被害を収縮できるのがボクの力なわけだし。
今回は圧倒的な三対一。
攻撃に支配の神。
防御に収縮の神。
援護に薄倖の神。
ベルは普通に神様序列32位だからあまり無理はさせられないけど。
いざとなったらまた限定解除で序列を上位に上げることで難を逃れるどころかそのまま倒すこともできると思う。
でもこれも、ツナギが止めた行為だから。
なるべく使わなくてもいいようにね。
「来たか」
ルルシアは既に待ち合わせた場所に来ていた。
いつも通り、全体的に赤い男の外見をしている。
「わかっているな」
「うん」
「もちろん、です」
「ならよい」
それだけだ。
ボク達は別に仲間じゃない。
上下関係にもない。
ただ、互いに利用しあっているだけだ。
そのボクらに言葉なんて多くは要らない。
必要事項で言葉を交わすことなんて滅多にない。
今のだけで、ボク達は今日の心構えを確認している。
「ナギ、ツナギの為、です」
怖い顔をしていたボクに声をかけてくれるベル。
気を遣ってくれているみたいだ。
こんな小さな子に気を遣わせるなんてボクはまだ駄目駄目だね。
って、ボクよりも神様としては年季があるんだっけ。
どうもそうは見えないけどなぁ。
「ありがとう、大丈夫だよ、ちゃんと」
そこまで言って、ベルの顔が余計微妙に歪むのがわかる。
あぁ、ボクの声、震えてる。
ツナギは確か、ボクやベルの為になら罪悪感を消せるなんて言っていたけど。
きっとこんな感じだったんだろうな。
ボクらにはそういう姿を隠し通していたんだろう。
ボクには、そこまで強くはなれないや。
思い切り自分の頬をつねる。
つねったまま、ふがふがと喋る。
「だぃ、ひょう、ぶ」
「さっきより大丈夫に、見えない、です」
「大丈夫、ちゃんと殺せる」
「罪悪感を失くすことはない、です、でも、私たちにも一緒に、背負わせて欲しい、です」
私たち、か。
「そうだよね、ボクには、家族がいるんだもんね」
「はい、です」
そうだ。
ベルがいる。
ツナギがいる。
改めて思うだけで、震えが止まる。
大丈夫。
罪は消えない。
正当化もされない。
でも、家族が一緒に受け止めてくれるなら、ちょっとくらい無理ができる。
ツナギが長らく意識を失ってから。
一つだけ大きな変化があった。
これもまたこの世界における大きな流れの影響なのかもしれないし。
本物の『鈴鳴繋』を探す手がかりになるのかもしれないし。
ツナギが目を覚ますのきっかけになるのかもしれないし。
全く何も関係がないのかもしれないし。
どうしてこんなことが起きているのか全然わかんないんだけど。
はっきりと変化として目に見える。
ツナギがここにいたって。
ツナギがここにいるって。
その証にもなる、ボクの変化。
ベルに向けて意識を集中する。
そして発する。
彼女の。
必殺技の名前を。
「ツナガレ」
私から伸びた光の束が優しくベルを包み込み、そっと持ち上げる。
「わ、びっくりした、です」
「ん、ボクにはベルもツナギもいるからね、何も怖いものなんてないよ」
「わかってくれたなら、いい、です」
そう言って笑いあうボクとベル。
そう。
今のボクには。
ツナギの持つ不思議な力。
ツナガレが使えた。
使えるようになっていた。
本当になんでかはわからないけれど。
気付いたら扱えたのだ。
ちょっとツナギの事を思い出して、その口調を真似て一言呟いたらツナガレの光の束が現れたのだ。
それからボクはツナガレと、元から持っていた収縮の力の両方を使えるようになった。
やっぱりボクの序列が上がるごとに、ツナガレの力も増していった。
これはツナギの時と同じだった。
わからないことだらけだけどボクもベルもそう問題視はしなかった。
せめてその不思議な力でボクとベルを見守っていて。
そう願って。
ボクはもう一度空に向けて呟いた。
「ツナガレ」
空に打ち出されたツナガレは何かと何かを繋ぎ留め。
すぐに役目を果たして空に溶けていった。




