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NAGI ―神様と共に私を見つけるまで―  作者: 安藤真司
断編二
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断編二

春の風が気持ちいい。

今日はなんだかいい日だ。

太陽もほどよく顔を出しているし。

風も強すぎない程度に吹いている。

今日の格好はどうかな。

ちゃんと可愛いかな。

今日の為に新調した、わけではないけど。

ちゃんと気合はいれてきました。

お洋服だけじゃない。

お化粧もいつもとはちょっと雰囲気を変えてみた。

気付いてくれるかな。

いや、気づかないか。

気付いてくれたことなんて、髪の色を変えた時くらいだったもんね。

あの時は、これでもかこれでもかってイメチェンに励んでたなぁ。

全く、ネイルしてみたりリップ変えてみたりシャンプーもちょっぴり奮発してみたりカラコン入れてみたり髪をばっさり切ったり。

あれだけやって気付かないんだからもう鈍感とか通り越して私に興味ないんじゃないかこいつとか思ったりもしたけど。

ま、結局は向こうから告白してきてくれたので。

よし、と。

ちゃんとアピールの成果がでていてよかった。

なんて思ったりした。

けど後から話を聞いてみれば、口にしなかっただけで全部気づいていたらしい。

いやそれ言えって。

言ってくんなきゃわかんないって。

一体どれだけ時間をかけてコーデしてると思ってるの。

話したことないから知るわけないと思うけどさ。

そういうの、一言でいいから気づきましたアピールはして欲しい。

お説教をしたから、ね。

きっと今日はきちんと言ってくれるはず。

言葉じゃない、上っ面の言葉なんかよりも欲しいものがある時だって、そりゃああるけれど。

それはそういう雰囲気の時に欲しい物であって、別にデート初めにいや無言で迫られてもって感じですし。

やっぱり始まりはテンション高くいきたいからね。

だから頑張って、私を褒めてくれないとだよ。

って、いうか、ね。

時間。

もう五分前だし。

いやいや。

どうしたのかなー。

約束の時間まであと五分だよー?

なんで来てないのかなー?

普通はさ。

女の子が、

「ごめん、待った?」

みたいに言うんでしょ。

そのために私なんか待ち合わせ場所のちょっと手前から小走りで息を本当に切らす程度に整えてきているというのに。

彼女より来るのが遅いだなんて、デートが楽しみじゃないのか―。

って、そんなこと、彼に期待するだけ無駄か。

まぁ、そんな彼だから好きだとも言えなくもない。

あぁ、早く来ないかな。

早く、一緒に歩きたい。

一緒にこの世界を見たい。

今日は彼との初デートなのだ。

彼はなかなかの不思議君だ。

初めて出会ったのは、確か高校三年の初夏。

予備校での受験勉強に疲れて、少しだけ気分転換しようと場所を変えた先が図書館の自習スペースだった。

まだ夏休みにはなっていなかったからか、そこには余裕があって中々良い場所を見つけたーなんて思っていたっけか。

予備校の自習室もそうだけど、こういう場所ってなんとなく定位置みたいなのが決まってくるんだよね。

私の対面、の一つ右。

私から見て右ね。

その席に、彼はいた。

彼もまた勉強道具を広げていたから、すぐに受験生なのかなって感じはしたけれど。

ただ真面目な年下かもしれない。

まだその時は私の中で彼に興味はそんなになかった、かな。

それとも、本当に興味がなかったら、彼の勉強道具まで見たりはしないのかな。

まぁとにかく本当に気になりだすのは、夏休みが始まってからの事だ。

夏休み。

受験生というものは一日十時間以上、机に向かっていなければならないものらしい。

そんなことを予備校で言われた。

私の先輩に話を聞けば、案外六時間くらいでもなんとかなったという先輩と十二時間くらいはやったかなという先輩の二つのタイプがいた。

私は元々そこまで頭がよかったわけではないから後者の先輩の言うことを信じることにした。

やっぱり、勉強というものは日々弛まぬ努力が必要なのだろうということで。

いやはや勉強とは奥が深い。

好き好んでやりたい、というものでは確かにないけれど。

努力が必ず実るというものでもないけれど。

勉強の努力の仕方をスポーツとか芸術とかに置き換えて生徒に話してくる先生がたまにいる。

それ自体が間違いだとは思わないけど、ね。

私は決定的に、本質が異なるものだと思っている。

勉強の努力は、ダイレクトに人生設計に関わってくる。

スポーツとか芸術の努力は、人間形成に関わってくる。

もちろん、スポーツを沢山頑張ってそのままそれを仕事にする人もいれば。

大学で専攻したことをそのまま仕事にしない人もいる。

だから一概に言うことは出来ないんだろう。

でも、普通に一般人な私なんかは思うのだ。

スポーツなんかより、よっぽど勉強で上位を目指す方が現実味があるのではないか、って。

いや、これもまた詭弁だ。

全体で見て上位に入ることが出来てもトップを狙えないことくらいはわかっている。

でも、ねぇ。

思うよね。

勉強は最初のとっかかりはなかなか難しいけど、ある程度進んでくると多少楽しくなってくるから不思議だ。

今の頑張りがそのまま将来を決めるかもしれない、なんて重たいことを考えずとも、知らないことは知っておくべきなのだろう。

世界の全てを知ることなんてできない。

私は文系選択だから、理系のお話は露程も知らないし。

文系だけれど地歴公民の全てを網羅なんてしていない。

でも本当は知っていたい。

例えばいつだか物理の授業で先生が言っていた、永久機関は存在しない、っていうのはどういうことなんだろう。

人や機械の介入なく永遠に動き続けるものはない、なんてことを言っていたけれど。

本当なのかな。

地球とか、勝手にぐるぐる公転してるけど、地球は永久機関じゃないのかな。

よくわからない。

たくさん知りたいなと思いつつも、全部を知ることは出来ないから、こうして専門なんて言葉があるのだろう。

私は結局ありきたりな私立文系。

日本史を選択した。

理由はシンプル。

過去を、歴史を。

自分の過ごす今この場所を、どんな人々の物語が紡いできてくれたのか知りたかったから。

と、まぁ私の話はいいとしてだ。

私の斜め前に対面して座る彼もまた、日本史資料集なるものを広げていたので、どうやら文系らしい。

そしてだ。

夏休みのとある日、彼が赤本をぱらぱらと見ているのを確認した。

年度を見れば最新のものだったので、きっと彼自身が購入したものだろう。

そしてそこは、私が諦めかけていた志望校の同じ学部のものだった。

私は思わずその日、声をかけてしまったんだ。

「そこ、目指してるんですか?」

やってしまった。

とか思ったけれど、意外と彼は普通に答えてくれた。

「チャレンジ校だけどね」

そうなんだ。

「よく見かけるけど、そっちも受験生?」

「うん、私もそこ、目指してるんだ、ちょっと諦めかけてるけど」

「そっか、残念だね」

「へ?」

「熱心に頑張ってるみたいだから、俺も負けずに頑張ろうとか、勝手に思ってたんだけどさ」

そうしてちょっぴり恥ずかしそうにする彼の仕草を、きっと私は忘れない。

初対面の私にああも対応してきたことも不思議だけど。

それ以降、よく一緒に勉強するようになってから不思議君度は増していって。

というかそんな彼の事をよく知ることになって。

例えば、彼は勉強の休憩中にコーヒー牛乳を飲む。

いやそれむしろ後で眠くならないかなって聞いてみたら、

「これがいいのだ」

とのことらしい。

ちょっと意味がわからない。

あと、彼はいつも勉強中、筆箱の前にちっちゃな兎さんのキーホルダーを立てていた。

これもまた、

「受験の神様だから」

とのことらしい。

ちょっと意味がわからない。

受験の神様、受験本番は助けてくれないよ。

さらには彼はいつも赤本を使わない時ですら、机に出していた。

図書館の机といのは大きな机で隣と共有しているので、自分のスペースがきっちりとれるほど広くはない。

だというのに、

「目標があると、モチベーションが上がる」

とのことらしい。

ちょっと意味がわからない。

いや意味はわかるけど机の上に出しておく必要性がわからない。

それを指摘しても、なんだか難しい顔をされたからもういいことにした。

そんな彼と頑張っているうちに不思議と私の成績も右肩上がりになってきたのが、一番の不思議だったのかもしれない。

で。

結果。

彼は受かりました。

私は落ちました。

や、現実って甘くないよね。

試験本番、三十九度を超える高熱を出してしまった私は集中力を欠いて全然ダメダメで。

余裕の不合格。

もう泣きまくったね。

これでもかーっと。

それで。

その日。

合格でも不合格でも会って結果報告をしようって図書館に集まった私と彼。

ずーんと落ち込んだ私を見てすぐに察して、彼は私の手を引いて外へと連れ出した。

一体どこに行くのかと思えば。

何故か。

カラオケ屋に。

「ほら、歌えば、世界は、救われる」

とか。

言い出した。

ちょっと意味がわからない。

でも、なんだか私は救われた。

だからもう、落ちたこととかどうでもよくなって。

思わずマイクを使って。

「これからも私と、会ってほしいな」

って言っちゃった。

ほとんど告白だよねとか今になって思うけど、ね。

そんな感じで私は彼との関係を築いたのだ。

そこまで特徴のある出会いではなかったしロマンチックなことは何もなかった。

でもそれが私らしいなって思ったし。

彼らしいなって思った。

だから私は彼が好きになったし。

きっと、彼は私の事を好きになってくれたんだろう。

私はとっても幸せ者だ。

大学は違ってしまっても、互いに互いの道を歩んでいるけれど。

というか、よくよく話を聞いてみれば中学生の時に引っ越してきて、中高は私立に通っていた彼とは。

小中高大のどれも被ってはいないけれど。

被ってなくったって、同じ方向を向けるもんなんだなとか。

柄にもなく感心しちゃうくらいに、彼が好き。

彼のいるこの世界が大好き。

私は、幸せすぎて夢を見ているのではないかって。

そう思うこともある。

でも、夢でも幸せなら、いいかな、なんて。

きっと今の私が見る夢なら、幸せなものになってくれるだろう。

幸せじゃない世界なんて、要らない。

きっと、幸せな世界であってほしい。

と、そんな私に近づいてくる男の姿が。

遠くからでもよくわかる。

彼だ。

ようやく、彼との初デートが始まる。

これからだ。

今の私もこれからたくさん、幸せを探していくんだ。

いつまで続くかはわからない。

もしかしたら、すぐに終わってしまうのかもしれない。

でも、今はまだ。

今は、まだ、このままでいさせて欲しいな。

幸せな私を、堪能させて欲しいな。

「おーい繋、待たせたか?」

「おっそいよ、結構待った」

彼との時間が。

いつまでも続きますように。

お願い。

神様。

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